病院の役割変化から見るユビーAI問診導入の経緯
施設完結型から地域完結型医療へとなり、急性期医療の集約が進んでいます。それにより、病院の役割が変化し、地域の身近な病院と高度専門医療を担う急性期病院に機能分化しています。急性期病院が医師の卒前卒後教育の主たる場所となっているため、プライマリ・ケア教育が十分行われにくくなっていると考えています。
当センターは地域の身近な医療の大学病院として、健康問題を持って最初に受ける医師の診療を学ぶ場所となっています。一般的に大学病院では、すでに医師の診察を受けその診断に基づいて専門診療科での診療を行うため、専門領域ごとに細分化されています。細分化された場所で経験を積むだけでは、地域で求められる幅広い診療を実践できるようになりにくいことが問題となっています。兵庫医科大学でも、地域医療の実習や研修を充実するために、より多くの医学生と研修医を受け入れることが必要となってきました。限られた指導体制の中で、これに対応するためにユビーAI問診の導入に踏み切りました。
初期研修終了時点での到達目標は、一般的な頻度の高い健康問題を一人で診察できるレベルです。1年目研修医は上級医とともに診療し、2年目研修医は一人で診療しますが、診療終えるまでに上級医の指導を受けます。医学生の臨床実習は、初期研修医のサポートしながら医師となる準備をします。将来の専門に関わらずすべての医師がこの研修を受けることで幅広く一般的な健康問題の診療ができるようになることを目指しています。
医学生の実習では、患者の問診を担当しますが、限られた期間で多くの症例を経験できるようにユビーAI問診を導入しました。現在総合診療科の初診患者の問診は学生がまず担当し、その後に研修医が診察します。指導医は、3~4人の研修医の指導を担当します。問診を担当した学生はその後の診察を見学し、指導医と振り返りをおこなうことで問診の腕を磨いていきます。今後プライマリ・ケアで重要となる整形外科でも導入の予定です。
初期研修終了時点で基本的なプライマリ・ケア能力を習得することで、地域偏在に対応できる医師が増えると考えています。またユビーAI問診には幅広い問診に対応できることから、AI学習が進化していけば地域で求められる幅広い診療において医師の業務を支援するツールになっていくことを期待しています。
法制度から見る導入の経緯
前述した背景の中で、来年度から外来研修の義務化されました。若手医師の育成についてどのように対応すべきか、我々の病院でも課題となっていました。外来研修の義務化には、2つの観点での課題があります。1つ目は、専門にとらわれない問診の教育をいかに実現するのか。2つ目は、若手医師の指導体制の整備での教育コストの負担の問題です。
1. 専門にとらわれない教育の実現
専門科に分かれて研修をすると医師は専門外の部分に関してはほとんど診療を経験することはありません。紹介患者の診療では、ある程度の診断がついており、専門領域の質の高い診療が求められます。義務化された外来研修は専門分化した外来ではなく、総合診療科や一般内科、一般小児科で行うことが求められています。当センターは、180床という病院の特性を生かして、地域医療に特化し、質の高い外来研修の提供を目指しています。実習学生との屋根瓦研修体制の中で、このユビーAI問診の利用を始めています。利用はじめてまだ期間は浅いですが、限られたスペースで問診、診察、振り返り学習に活用しています。
2. 若手医師の教育の負担軽減
ただでさえ医師の業務量が多いなかで、学生や研修医に対してつきっきりにすることは、病院経営者の立場からすると、難しいことです。特に地域の病院の診療報酬は、診療の維持継続に見合う報酬となっており、指導医の人件費をいかにねん出するかが問題となります。現時点でこのユビーAI問診を使うことで、学生でも一定レベルの問診をとることができ、追加問診や関連病名を考える実習ができています。研修医はさらに診療計画を立て、上級医の指導の下これを実践し、診療終了後に指導医とともに振り返りをする形で研修を深めています。少ない指導医でも学生、研修医の指導を行えるのは、このユビーAI問診があるからできると考えています。
導入しての成果は?
一番効果があったのは、医師の業務効率化です。医師18人に導入しての結果を聞いたところ、「現状より、業務量が減った」と感じた医師は95%以上でした。実際に午後の時間までもつれ込んでいた診療が、午前で終わるようになりました。教育コスト以外の面でも、医師の効率化を実現することができました。所感だけでなく、実際の調査結果を見ても当初の狙い以上の効果がでたと思っています。
導入の先に
プライマリ・ケアのできている大学の施設として、横断的に診療ができる医者を育てる必要があると考えています。将来専門医となっても、専門科以外もまずは診ることができる医者が育てば、患者がどこにいったらいいのか分からないといった状況を回避でき、適切な医療を患者に届けることができます。プライマリ・ケアができる医者が増えることで、適切な医療へのアクセスがよい、患者が安心して生活できる地域を作っていきたいと思っています。
ユビーAI問診の導入を皮切りに、我々は患者の医療へのアクセスを最適化することで、医療業界に貢献をしていきたいと思っています。
兵庫医科大学 ささやま医療センター
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