診療部長内科医師・神本昌宗先生へのインタビュー
ユビーAI問診を検討するに至った課題感と、導入に動かれた背景
多くの病院で抱えている問題かもしれませんが、当院の救急外来は患者さんが多く、受付からお呼びするまでに1時間半~2時間程度がかかっておりました。待ち時間が長いことにより、患者さんの満足度が下がることが一番の課題でした。
また、医師の精神的な負担と肉体的な負担も大きく、休みが取れないこともあったため、そちらも合わせて改善したいと考えておりました。
ユビーAI問診導入により、患者さんが待っているだけの時間を、より多くの情報を提供してくれる時間に変わるのではないか。という期待から、導入に向けて検討をスタートしました。
ユビーAI問診導入前は、クラークや看護師数名が事前問診という形でチェックリストを使いながら問診を行っておりました。
ただし、チェックリストも症状によって複数種類があるわけではなく、医師はその情報を参考程度にしか利用しておりませんでした。
ですので、どれだけチェックリストを使っていたとしても診察時に聞く内容を減らすことが出来ず、時間を掛けて行っておりましたが、掛けた時間以上のものは得られておらず、1人1人の診察時間削減が難しい状況でした。
ユビーAI問診を導入することで、問診情報の充実による診察時間の削減だけでなく、医師全体の診療精度やスキルアップにも繋がると考えていました。
元々、カルテの記載方法は統一しておらず、丁寧に記載する先生もいれば、最低限の情報のみ記載する先生もいるような状況でした。
情報量が少なかった場合、どのような症状でどのような判断をされたのかなど、看護師・クラークとの情報共有にもコストが増えてしまいます。医師に寄って記載方法も異なるため、確認が必要になる場合も有り、その後の処置にかかる時間が増えてしまいます。
ユビーAI問診は問診完了時点である程度の情報がまとまっているため、カルテ問題の解決、引いては診療精度・技術の向上にも繋がると期待して導入を決めました。
導入後の効果は?
同じ業務量でも得られる情報が大幅に増加
実感値ではありますが、既に1人数分程度の待ち時間削減に繋がってます。
当院に来る患者さんはご高齢の方も多いため、初めての場合タブレット操作がわからない方も多いです。その場合は看護師・クラークが横に座って教える場合もありますが、紙の問診票でも一定数サポートが必要な方がいらっしゃいましたので、業務量が削減されたというよりも、同じ業務量で得られる情報が大幅に増えています。
その結果、医師が参考にできる情報量も増えるため、今までは必要な情報のヒアリングに使っていた時間を、患者さんと向き合う時間に使うことが出来るようになっています。
まだまだ待ち時間は削減していく必要がありますが、患者さんと向き合う時間が増えたことにより、患者さん自身の感じ方にもポジティブな変化が生まれると考えております。
今まで聞きづらかった質問の解決にも
ユビーの問診は、アレルギーや既往歴なども質問内容に含まれているため診察時の聞き漏らしもなくなっています。
今まで大きな問題が起こったわけではないのですが、漏れが無くなることにより事故につながるリスクが削減されたと実感出来ています。
それだけでなく、疑われる病気によっては、女性特有の話や性事情に関する質問などをする必要があるのですが、正直聞きにくい内容でした。その点についてもユビーAI問診が事前に聞いてくれているため、非常に助かっています。
こういう聞かなければならない内容の漏れがなくなるというのは安心感の醸成にもなるため、患者さんのメンタル的なフォローにも繋がっているのではないでしょうか。
経験の浅い医師の学習にも使えるツール
研修医が診察する際や専門外の病気の診療時には、ユビーAI問診の情報を参考に、学習にも活かせるのではないかと感じています。
実際、どんな医師でも100%の病気を把握しているということはないため、専門外の病名との関連性を提示する点などはAI・ITで強くサポートしていける部分かと思います。
もちろん最後は医師自身の診断が重要になってきますので、医師自身もAIを活用しながらスキルアップしていかなければなりません。
当院だけでなく、地域全体で医療レベルの底上げを
現在、当院で一番の問題になっているポイントは過重労働です。私でもかなり長時間働いていますので、若いメンバーはもっと長い時間働いているというのが現状です。もちろん若い頃に経験を積むことは大事なのですが、医師が経験を積むべき業務と効率化すべき日常業務があると考えております。
過重労働が続いてしまうと、院内全体での質の低下がリスクとして考えられます。目の前のささいなことが後回しになってしまい、徐々にそれが連鎖して大きな問題として出てきてしまう可能性があります。
そうならないためにも、入力作業など医師がやらなくても済む部分については削っていく必要があります。
ユビーAI問診で医師の電子カルテの記載作業が減るだけでも非常にありがたいのですが、今後はさらにスキャン機能も活用して、紹介状・お薬手帳の情報も残るようにしていきたいと思っています。
当院の課題は少しずつ解決に向けて動くことが出来ていますが、地域連携という面で見ると、まだまだ専門スキル・施設どちらの問題もあり、紹介できる医院が少ないのが現状です。
紹介出来ない状態が続いてしまうと、病態的に難しい患者さんは当院で治療を続ける以外の選択肢が提示できません。その結果新しい患者さんの受け入れが難しくなり、医療を提供できない方が出てくる可能性もあります。
このような状況を打破するために、地域全体でスキルレベルの底上げが重要になってきます。実現すればより強固な地域医療を作り上げることが出来ると思いますので、今後はそこにも注力していきたいと思っています。
人口減少を見据えた病院経営の考え方
医療従事者の業務効率化やスキルに関しての話をさせていただきましたが、来院してくれる患者さんがいなければそのスキルを活かす場面もなくなってしまいます。
とはいえ、少子高齢化の流れを変えることは難しく、時代に合わせて病院のあり方も変化することが大事だと考えています。
当院は急性期病院ですが、リハビリテーションや訪問医療など、これまではサポートできていなかった一歩先まで支えていけるような準備を進めています。
ただし、医師が十二分にいなければ満足な医療も提供できないため、再雇用制度のようなものを導入し、負担が少ない部分を定年後の医師に賄ってもらっています。
その制度で医師不足が補えているからといって、若い医師の採用をおざなりにしてよいわけではありません。地方病院は都市部と比較しても医師が少なく、若い医師も裁量を持って働きやすい環境だと思います。若い医師は、「現場で学びたい」「技術を磨きたい」という思いを持っている人が多いです。当院も、現場の医師の学習を全力でサポートしていくつもりです。AI問診もそのサポートの1つだと考えていますし、そのような思いにこたえられる病院だと発信していくことで、人も集まるのだと考えています。
今までやってきたことを変えることは、とても怖いです。ただ、先の読めない時代だからこそ、前を向いて様々なことにチャレンジし続けることの重要性が高まってきているように感じています。
竹田 秀 理事長からのコメント
従来は、医師が患者さんの症状などを一から聴き取り、カルテに記載・入力する方法やいわゆる紙の問診表を使用し、患者さんが記入した内容に沿って、医師や看護師又は事務員が文章化し電子カルテに掲載するなど手間がかかっていた。
こうした従来の方法では、医師がカルテ作成や問診にある程度の時間を費やす必要があるほか、問診内容にばらつきが生じる可能性も指摘されている。患者一人ひとりの診療時間に制約があるなかで、いかに問診にかかる時間短縮と問診の精度を高めることができるかが課題であったと考えられる。
本サービスを利用することで紙の問診票を手書きで記入するのに比べて、患者さんの手間もむしろ軽減され、対面の質問よりも、医師や病院職員の業務負担やそれに伴うストレスが軽減することが期待できる。問診業務が効率化されることで、患者さん一人あたりの問診時間が大幅に短縮されるため、待ち時間の短縮も期待でき、また、医師がより診療に専念できるようになることで、診療の質の向上につながることも期待できると考え導入を決めた。
当財団では2020年3月からタブレットを用いたAI問診システムを病院、クリニックの内科及び救急室において7台から開始し、その後順次診療科を広げているところである。該当の診療科では1日当り約40名の初診の患者さんの受診があり6割の方に当システムでの問診入力を行って頂いている。導入後の効果として約20%から30%の診療時間の短縮を図ることができている。
医師によっては問診データを電子カルテに入力する手間がかからないで済むこと、患者の状態に応じた適切な問診データが得られることのメリットが大きい。これまで専ら医師が行っていた問診業務を看護師や事務員が行うことにより、問診業務を簡略化できるようになり、いわゆるタスクシフトを進めることができ、現場の生産性向上につながっている。その結果、医療の質の向上にもつながり、患者にとっても大きなメリットがあると考えられる。
AIやICTの驚異的な進展がこれからのヘルスケアサービスや医療・病院のマネジメントにどのような影響を与え、我々はどのような価値観を持って共存していくのか、また、スタッフの働き方改革と医療の質の向上といった意識改革を推進していきたい。
写真は 竹田 秀 理事長
一般財団法人 竹田健康財団 竹田綜合病院
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