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実績ある透析治療で地域からの信頼も篤い。10年後のスタンダードを目指し、新技術や情報を採り入れていきたい

広島県

医療法人辰川会 山陽病院

辰川 匡史 理事長

中国・四国

広島県福山市にて、外科・内科・泌尿器科・整形外科・リハビリテーション科・人工透析の医療を提供する医療法人辰川会山陽病院。特に透析治療や腎疾患では、地域の患者さんや近隣病院から長年厚い信頼を寄せられています。辰川 匡史理事長に、大切にされている考えや働きやすい環境づくりのための取り組み、今後の課題などについてお話いただきました。

●年功序列などの古い慣習を取り去り、伸び伸び働ける職場づくりを

グループの理念として「ともに歩む、ともに生きる」を掲げております。地域密着の医療・介護を目標にしています。

経営上大切にしているのは、伸び伸びと働ける職場環境づくりです。当院は約80床の小規模の病院ですが、小規模の病院にありがちな「医師の方が偉い」といった職種のヒエラルキーや、年功序列などの昔ながらの慣習がありました。5年前に私が理事長に就任してからは、そうした風潮をできるだけ取り去るように取り組んできました。

他人の顔色をうかがって仕事するのではなく、お互いをリスペクトし、言いたいことはちゃんと言う、賛成できない意見に対し感情的に言い返さない。そうした文化を根付かせ、みんなが伸び伸びと働き、しっかり仕事すれば若くても職位が上がる、環境づくりを心がけています。

●患者さんへの情報共有の重要性と、中小規模病院だからこその看取りの問題

これは医療界全体にいえることですが、患者さんと医療者の間での情報の非対称性という問題があります。患者さんに十分な医療知識がなく、意思決定の時間も限られていると満足のゆく決断は難しい。そのため患者さんの選択の自由が狭められる、といったことがあったんです。それを変えるために、できるだけ患者さんに分かりやすく情報を伝える、患者さんの迷いも許容するよう意識しています。

そしてここには看取りの問題も関わってきます。当院のような中小規模の病院は、すでに大病院で手術や治療などの手を尽くした方や、そもそも手術適応にない方を診ることも多く、死に直面せざるを得ない部分があります。そのため当院では入院当初から急変のリスクがある場合、しっかりとご本人やご家族とお話し、意思確認をしています。リビングウィル(生前意思表明)の重要性を十分にご理解いただけるよう、説明の仕方を標準化し、わかりやすくしています。伝え方が難しい部分ですが、ここをしっかり話していないと後でトラブルになることもあるため、この点での情報共有は特に重視しています。

●経営と財務にコンサルタントを入れ経営は安定。未来志向で投資も行いやすい

経営面では、経営と財務の両方にコンサルタントを入れており、経営は安定しています。透析治療が牽引することで、法人グループ全体で利益を確保し、また病院経営が安定しているので、未来志向で投資を行いやすい環境にあります。

そのため、より良くなるための投資は惜しみません。常にアンテナを張って情報を取り入れ、良いと思ったものは積極的に採用するようにしています。スタッフは新しいシステムや機器に対応できるよう、知識や手順などアップデートする必要がありますが、その度に新しい発見や成長があります。今後も皆が専門職として本領を発揮できる環境を整えていきたいです。

「透析なら山陽病院」から「腎臓なら山陽病院」と言われるようにしたい

地域医療連携ですが、当然ながら腎疾患や透析治療の受け入れを積極的に行っています。近辺の基幹病院は維持透析をあまり行っていないこともあり、腎疾患・透析に関しては地域で最大手機関としての責任があります。

当院は備後地方で最も早期から民間で透析をしてきたこともあり、「透析なら山陽病院」と、近隣の病院さんにも患者さんにも認知いただけていると感じています。ただ、透析になるギリギリまで悪化してから「うちでは診られないから山陽病院に行ってね」という紹介も未だに多いので、その前段階で紹介いただくのが今後の課題ですね。透析は腎臓疾患の最終段階ですから、その前段階の内科的な予防や、生活習慣の改善などの啓発も行っていきたいです。そうして「透析なら山陽病院」から「腎臓なら山陽病院」と言われるのが、今後の目標だと考えています。

●1つめの課題は広報。デジタルも使って自院の魅力や人材をもっとアピールしたい

今後の課題は、広報と教育です。病院の冊子を作るなど、通常の広報活動はできていますが、取り組みが足りないと感じています。

病院受付にデジタルサイネージを設置していますが、コンテンツも少ないので増やしていきたいです。例えば、栄養士考案の健康メニューについてのクイズやワンポイントアドバイスなど、待ち合いの患者さんに見てもらうなども良いのではないでしょうか。他にも、フェイスブックのアカウントからニュースを流していますが、その他のSNS広報にももっと力を入れたいですし、将来的には一般向けの動画配信などもしていきたいですね。

当院は、優秀な栄養士がおり、心理職が他職種と連携し独自の取り組みをしてくれていたりと、良い部分がたくさんあります。しかし、そうした魅力を上手にアピールしきっていないので、広報に注力しもっと広めていきたいです。

●2つめの課題は教育。スタッフにインプットとアウトプットをもっと促したい

教育面では、頑張って成長しているスタッフにしっかりインセンティブを付けたいと考えています。ただ、「頑張り」とは主観に過ぎませんから、どう頑張ればいいか、何を頑張ればいいかが明確でない人もいるので、どう伝えるかが課題です。
一番重要なのはインプットとアウトプットの継続です。例えば、職種ごとの地域の協会に入るとか、学会発表などを普段から奨励したり。
その際の出張費、交通費はほぼ制限なく出すようにしています。職員には「あちこちから引っ張りだこになるくらいの人じゃないと、僕たちも給料を上げられないよ。だから色んなインプットとアウトプットをして、もっとモテてください」と伝えているのですが、伝わる人と伝わらない人がいる印象です。また、コロナ禍でそうした活動がやりにくくなったという影響もあると思います。自発的にインプットやアウトプットをおこなえるよう、どのように導いていくかが今後の課題ですね。

●有給休暇所得率75%!タスクシフトとツールの積極導入で働きやすい環境を実現

今後、医師働き方改革が施行されますが、現在、当院の医師は長時間過重労働はないので問題なく対応できる見通しです。冒頭に「職員が伸び伸び働けるように」という話をさせていただきましたが、当院はほとんど残業もなく、有給休暇所得率も約75%を達成しています。産休育休の制度も充実しているので、子育てしながら働いているスタッフもたくさんいます。

その成果もあって、採用面でも、当院で働いている看護師が友達を紹介してくれて採用するなど好循環ができています。以前は紹介会社を使っていたのですが、その割合は減ってきましたね。友人紹介で採用した場合は、本人と紹介者にお祝い金を渡す制度もあります。

働きやすい環境が実現できている理由として、以前から積極的なタスクシフトに取り組んできたことが挙げられます。サマリーの下書きはドクターアシスタントが書き、医師は確認してサインする形にしていますし、レセプトのチェックも9割がたは医事課が担当しています。紹介状の手紙もドクターアシスタントが下書きして、医師は最終チェックするくらいですね。その分医師にはしっかりカルテを書いてもらうようお願いしています。また、ユビーをはじめとしたICTツールも業務効率化に一役買っています。今後もICTツールを積極的に活用し、より働きやすい環境づくりに取り組んでいきたいです。

●目指すのは「10年後のスタンダード」。職員の受け入れ力でさらなる進化を

今後も、「手軽に使っていただける病院であること」と「腎疾患に関して、地域で一番何でもできる病院であること」を目指したいです。それから、普段なかなか病院に来ない勤労世代の方ももっと取り込みたいですね。そのためには例えば、スマートフォンのアプリや身体活動計など、非医療保険の電子機器を使って生活習慣病の予防や外来に役立てるなどの方法を提案しています。
病院全体としては、「10年後のスタンダードを目指そう」と職員に話しています。10年後も今の診療領域と変わらないかもしれませんが、ICTを利用し、より正確で効率的になっているはずです。
我々は高度な医療を受け持つわけではありませんが、10年後に普通とされている医療を今提供できれば、それはすごく新しいですよね。当院は新しいことも積極的に入れる文化ができていますし、職員の対応力もついてきました。しっかり新しい情報のアンテナを張ってどんどん進化していきたいです。