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大学病院や行政と連携しドクターヘリと防災ヘリを活用。岐阜県内の広範囲で循環器医療をカバーしていきたい

岐阜県

岐阜ハートセンター

松尾 仁司 院長

中部

岐阜県初の循環器専門病院として、2009年に開業した岐阜ハートセンター。大学病院や行政とも連携しながらドクターヘリ・防災ヘリを有効活用し、県内の広範囲において、循環器に特化した高度に専門的な医療の提供を実現しています。院長の松尾 仁司先生に、病院として大切にされている想いや今後の取り組みについて伺いました。

●循環器救急に対応する専門病院として、目の前の患者様と真摯に向き合う

当院では理念として、「4つのS」を掲げています。1つ目は“Safety”、やさしさを医療の中心に考えた何よりも安全な医療の提供をおこなうこと。2つ目は“Speciality and Science”、確かな技術の提供と情報発信に努めること。3つ目は“Spirit”、心温まるケアを実感していただけるような接遇に努めること。そして4つ目が“System”、24時間365日絶対にお断りしない体制づくりに努めることです。
4つのSを大切にしている背景には、当院が循環器専門病院であることが挙げられます。循環器の救急疾患は、時間との戦いです。急性期の治療によって患者様の命を救えるかどうかが決まってしまうため、病院側の事情で治療を先送りすることはできません。岐阜県に初めてできた循環器の専門病院として、循環器疾患を持つ地域の患者様を一人でも多く救命することが当院の使命です。
加えて経営上、黒字体質を維持していくことも重要だと考えます。赤字になってしまえば、理念を大切にしながら病院運営をおこなっていくことが難しくなるからです。もちろん、収益を上げること自体を目標にしているわけではありません。スタッフ一人一人がやりがいを持って理念を実践していった結果として、経営上も病院が成り立っていくことが必要だと感じています。

●臨床研究への積極的な取り組みをアピールし、優秀な医師の確保を

当院は、一般病院としては数少ない臨床研究に力を入れている病院です。4つのSの1つ“Speciality and Science”を実践するため海外の病院などとも共同で臨床研究をおこない、エビデンスに基づいた診療ガイドラインの策定を進めています。
一般病院でありながら臨床研究を積極的におこなうもう1つの理由は、病院のブランディング化です。24時間断らない医療の体制づくりとして、また働き方改革の一環として、医師の確保は大変重要なテーマです。そこで、数多くの臨床研究に参加すること、そして研究結果のデータを学会等で発表することにより、当院の魅力を県内外の医師にアピールしています。その結果、当院で働きたいという向上心の高い医師たちが、東京などから集まってくれています。
今後、働く人が集まる病院とそうでない病院との二極化が進んでいくでしょう。そして、生き残っていくのは働き手が集まる病院です。そのような意味で、医師やその他の医療従事者にとって魅力ある病院であり続けなければならないと強く思っています。

●医師事務作業補助者へのタスクシフトやITツールの導入で、医師の働き方改革を実現

当院では24時間断らない医療を実践する傍ら臨床研究も積極的におこなっているため、医師の業務負担は必然的に大きくなります。そこで、医師の働き方改革を実現する取り組みとしてワークライフバランス委員会を設置しました。委員会を中心に、ペーパーワークをできるだけ医師事務作業補助者に代行してもらうような体制づくりを進めています。
また、特に診療以外の業務効率化を図る意味で、ITツールの導入にも高い関心があります。1年ほど前にユビーAI問診を導入したのもその一環です。業務効率化を実現できるITツールに関しては、医師が診療・治療、また臨床研究等にしっかりと集中できるよう今後もリサーチを進めていければと思っています。

●病床管理を担うチームを設置し、ベッドコントロールと医師のフォローに

病院を運営していく上で現状課題に感じているのは、病床コントロールです。当院で扱う循環器疾患の大きな特徴として、冬に患者様が急増し、比較的過ごしやすい春・夏・秋には患者様が減少することが挙げられます。当院は循環器に特化した専門単科病院ですから、患者様が減るシーズンの空床をどのように埋めていくかが大きな課題です。
その解決策として、2020年にベッドコントロールチームを立ち上げました。チームが毎日の病床管理を担い、空床が目立つときには主治医と相談して、退院のタイミングを遅らせるなどの対応をおこなっています。これはもちろん、患者様を不用意に病院へ留めようとするものではありません。患者様が退院できる状態になったときに、本当にこの病院で今できることを全部やった上での退院なのか、主治医だけでなくチームとしても判断する二重のチェック体制を築いたということです。チームの立ち上げによってある程度病床数を管理できるようになりましたし、医師のフォローができるようになった点でもしっかりと機能していると感じています。

●開業医に向けたWebでの勉強会を実施し、病診連携と紹介患者の増加につなげる

当地域において一人でも多くの患者様を救命するため、病診連携は極めて大切だと思っています。そのために、開業医の先生方と密なコミュニケーションを取らなければいけません。そこで当院が実施しているのが、カフェテリアミーティングというWebでの勉強会です。
例えば現在当院で力を入れている構造的心疾患(SHD)に対してのカテーテル治療など、さまざまな分野におけるホットトピックスを取り上げ、当院でおこなっている治療の紹介も含めて月に2回ほど実施しています。透析患者様に対してのカテーテル治療など岐阜県内では当院しか認可されていない治療もありますし、当院の特徴を知ってもらう機会として大変有益な場です。また、知識や技術をブラッシュアップできる形で実施していますので、頻繁におこなっている勉強会ながら毎回30~40人ほどの開業医の方が集まってくださり、ご好評いただいています。循環器疾患を疑う症状があった場合に、開業医の先生方が当院に相談・紹介しやすい環境も、勉強会のおかげでつくれているのではないでしょうか。

●隔離病床を設置し、コロナ以後も変わらない医療の提供を実現

当院では、コロナ対応病床は持っておりません。というのも、当院は専門病院ですので、コロナ感染者を受け持つことで循環器救急への対応範囲が狭まれば、かえって地域の患者様の利益を損なうと考えているためです。
もちろん、院内での感染対策はしっかりとおこなっています。例えば当院に救急搬送された心筋梗塞の患者様が、コロナ感染者の可能性もあります。そういった状況に対応できるよう、CCUと一般病棟に1床ずつ、計2床の隔離病床をつくりました。また、コロナ対応チームを設置し、コロナ陽性の患者様が来院された場合のシミュレーションや病院内のシステムの構築などを進めてもらっています。おかげで、コロナの影響により手術や治療を延期するといったことは、ほとんど起こらずに病院運営を継続することができています。

●「24時間断らない医療」のための体制を強化し、地域の人々に信頼される病院へ

今後の展望としては、現在進めているヘリコプターを活用した医療体制づくりをさらに推進・強化していきたいと考えています。岐阜県北部の飛騨地区には、心臓血管外科を持つ病院がありません。そこで、岐阜大学病院のドクターヘリと県の防災ヘリを活用し、遠方の患者様を当院へ搬送して、岐阜県内において可能な限り広範囲の循環器疾患をカバーできるように努めています。
ヘリコプターが出動できない場合は救急車で対応することになりますが、例えば飛騨地区の高山から患者様を救急車で搬送するとなると、当院まで2時間半~3時間ほどもかかってしまうのです。ヘリコプターであれば15~30分ですから、時間との勝負である循環器救急において、ヘリコプターの活用は欠かせません。需要が増えていることもあり、いつでも要請に応えられるよう院内の体制づくりを進めているところです。
当院が目指しているのは、「心臓の病気といえば岐阜ハートセンター」と言っていただけるような、地域の人々に信頼される病院。そのためにやるべきことは、目の前の患者様一人一人に対して、しっかりと責務を果たしていくことだと思います。当院のスタッフ個々人が一人でも多くの患者様を救うために全力で取り組む姿勢を忘れない、そういった風土や体質をつくっていくことも非常に大切なことだと感じます。