1982年の開設以来、「人を支え、人を育て、人と共に歩く」ことを使命に掲げ、脳神経疾患を中心に総合的な医療を提供する泉病院様。予防からリハビリまでと一気通貫した医療を地域に提供されている長谷部誠院長に病院経営に関するお考えを伺いました。
予防からリハビリテーションまで。患者様に寄り添い総合的な医療を提供
当院では脳の病気だけでなく、目眩や痺れなどの一般的な症状にも対応できる敷居の低さや、経済的に余裕のない方の受け入れに対してご好評いただいております。多くの方に来院いただくため、医療費の支払いが困難な方を対象に無料低額診療制という国の制度を推奨しており、医療費を減額、もしくは無料で医療を提供しています。例えば、高齢かつ独居生活を送られている方が脳梗塞を発症された際に、無料低額診療をお勧めし、入院して治療を行った後に、無事に老人保健施設に入居できたような事例もあります。このケースでは、唯一の収入源である年金が、生活保護基準額よりも大幅に少なかったことから、この制度をお勧めすることになりました*。
また、脳神経の病気にはなかなか治らない神経難病などがありますので、継続的な治療を受けていただきやすい体制を整えております。パーキンソン病の患者様のケースを例にご説明します。パーキンソン病は体が硬くなって動けなくなっていくという難病ですが、この難病は薬だけでは対応できないので、リハビリが大切になってきます。
通常は介護保険の範囲内で週一、二回などのリハビリ通院が一般的ですが、これでは十分とは言えません。当院では、リハビリをサポートするセラピストが多く在籍していますので、パーキンソン病の方にも入院いただき集中的なリハビリを含めた治療をしています。入院をしていただくため医療保険の範囲内で短期集中の治療を行うことが可能です。
より良い医療を提供するために必要なものは近隣病院からの信頼と地域住民との触れ合い
病院を経営していく中で、地域住民や近隣の病院との繋がりはとても重要だと思っております。患者様は神経系の症状を訴えて来院される方が多いのですが、新患の4分の1ほどの患者様は近隣の病院から紹介をいただいております。
近隣の病院から安心感を持って患者様を紹介いただくために、診断結果のスピードを大切にしております。MRIなどは基本的には予約を前提としている病院が多いと思いますが、当院では予約なしで来院いただき、必要であればMRIを撮影しその日のうちに結果をお伝えできるようにしています。
さらに地域住民との繋がりを持つために、『友の会』という病院のサポーターの方と共に『アウトリーチ』と呼んでいる活動をおこなっています。『アウトリーチ』とは病院に来ることができない方のために、こちらから訪れて交流を図る活動です。現状は新型コロナウィルスの感染拡大のために活動が縮小しておりますが、今後も地域住民と共に地域の健康づくりを行なっていきたいと思っております。
担当患者数を調整し、医師と患者の負担を軽減
人材不足という背景もあるのですが、最も業務負担が多いのはやはり外来です。外来の負担軽減のために、医師のタスクシフティングを推進していますが、患者数が多いとどうしても業務過多になってしまいます。さらに医師によって外来の患者数の偏りが出てしまうため、バランスを調整することが必要です。
これまでは、回復した後も再診の際は主治医だった担当医に通い続ける体制となっておりました。この体制を変更し、来院患者様の再分担を行うようにしました。例えば脳卒中に罹患された患者様ですと、回復後の症状は高血圧や糖尿病などが主となります。その場合は内科に通院していただくという流れを作っています。このようなオペレーションを組むことによって、業務負担のバランスを調整しています。
医師が担当する患者数のバランスを調整したことによって、患者様の診察までの待ち時間を短くすることができております。患者様に実施した調査でも、ほとんど不満をいただくことはありませんでした。診察までの待ち時間は今後も短くしていきたいですが、診察時間が短いと患者様が思われないように時間配分の調整は必要かと思っています。
医師にとって働きやすい現場を作るため、勤務体制を刷新
当院では医師の業務日程のバランスをとるためにも、主治医制を随分前から取りやめ二人主治医制を取っています。主治医制の病院ですと時間外の呼び出しが特定の医師に集中してしまう傾向があるのですが、当院では10年以上前から土日は当番制、夜勤は当直にて対応するオペレーションをとっております。このオペレーションを運用するため、当直医は非正規の医師にもサポートいただいていますが、脳神経の専門家ではないため判断を迷うことがあります。その際の相談相手として拘束医は必ず専門性を持った医師を配置することで、主治医への時間外の呼び出しを防いでおります。また、対応した処置に関して主治医が後から口を出さないことを約束事としています。
また、先だって勤怠システムを刷新したことに伴い、勤務体制そのものを見直し時間外労働に関する改善を行いました。医師の超過勤務を課題と感じていましたので、超過勤務をきちんと把握し管理することを徹底しました。難しかった点は、個人にとって捉え方が分かれている業務があることでした。例えば学会の準備やその指導など、自己研鑽と業務のどちらとも取れる作業がありました。このような作業にもそれぞれに対して具体的な線引きを行い、超過勤務の定義を定めた上で職員とのすり合わせを行いました。反発も想定していたのですが、関係者を集めた会議の中でそれぞれの項目に関する定義付けを行なったため、大きな反発はありませんでした。
患者と家族により安心できる医療の提供を目指す
近頃の新型コロナウィルスの感染拡大によって、ご家族に入院患者様との面会を禁止せざるをえなくなりました。その結果、面会がいかにご家族の安心に繋がっていたのかを再認識しました。テレビ電話形式で面会がオンラインでできるような取り組みを行い患者様やご家族からお喜びいただきましたが、まだ入院されている全ての患者様に提供できているわけではありません。
感染が収束した後も、オンライン診療など医療におけるIT活用の必要性は広がっていくと思います。しかし当院の施設は開院から39年と古く、ネット環境が整っているとは言えません。そのため、2年ほどを目処に施設の建て替えを検討しています。建て替えに伴い、ITツールの導入などを行う予定ですが、まずは入院している患者様全員がテレビ電話での面会が容易にできるようにフリーWi-Fiの提供などを行なっていきたいと考えています。
*無料定額治療の事例【ケース概要】70歳代女性、独居、長男(他県在住、不動産業自営)長女(県内在住)年金額 3万円、一戸建て自宅あり
【経過】A子さんは、介護保険の申請利用もなく、民生委員さんの訪問がたよりの独居生活でした。土建業の夫は他界し二人の子供とも疎遠だった。脳梗塞発病後2日目に、動かないからだを引きずって、長男さんに電話をかけ、泉病院を受診し入院となった。入院後長男さんが医療相談室に来室され、無料低額診療を勧めた。年金振込通知証によると42,150円の年金から、介護保険料5,100円、国保料6,800円が差し引かれ残り30,250円の金額が振り込まれていた。これは、自宅があり家賃が掛からないとしても「生活保護基準額」より数万円も低い金額だった。介護認定は要介護5に認定され、入院から4ケ月経過した頃、利用料金は約6万円の老人保健施設に入所となった。一方で生活保護は申請しないことになっている。