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物理面と意識面の両輪から院内を改革。常に挑戦を続ける、患者様ファーストの病院経営とは

熊本県

熊本セントラル病院

井上 雅文 病院長

九州

熊本地震の被害に遭い、新病院を開業するに至った熊本セントラル病院様。「患者様ファースト」を目標に物理面と意識面の両輪から院内改革を行いました。地域医療連携にも積極的に参加し地域の医療機関同士での棲み分けが必要だと考える井上雅文院長にお話を伺いました。

熊本地震を乗り越え、さらなる安全性を患者様へ。生まれ変わった病院

2016年4月の熊本地震により当院は大きな被害を被りました。その後、震災による建物の損壊を復旧するべく震災直後から新病院建設に向けて準備を行い、2020年10月に新病院を開業する事ができました。

新病院建設・移転には多大な投資を必要としましたが、当院の『For the Patient』という理念のもと耐震設備を強化するなどとして、安心安全な新病院にすることが地域住民、職員の期待に添うことと考え、病院を建て直す事に踏み切りました。
2018年9月から社会医療法人になったこと、新病院を建設・移転したことにより、社会貢献への積極的な姿勢を示すことで医師をはじめ医療従事者、職員の求人増に繋がっているものと考えています。

旧病院からの職員も、地震によって損壊した建物では不安も多かったと思いますが、今は生き生きと働いてくれているように感じています。
新築には多大なコストがかかりましたが、一方で病院経営における課題の糸口を掴むことができました。

役割を分担することによってリソースを最大化、強める地域医療連携

世間では、今後20から30年にかけて、団塊の世代の方々が亡くなり、人口の3割が減少すると言われています。しかし、当院の位置する医療圏は、企業誘致が増加する等もあり、若い世代の人口が増加している傾向にあります。

小学校などの教育機関も続々と新築され、30年後も人口は増加し続けると言われています。
さらに熊本市内へ向かう為の幹線道路の途中に当院があるので、阿蘇方面の住民の方も来院されています。このように病院経営という立場からみても好立地にあると言えます。

こういった状況を受け、移転後は地域住民関係団体との信頼関係を醸成すべく地域医療連携をさらに強化しました。2017年4月には地域の医師会に入会して地域病院との関わりを深めてきましたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって訪問が出来ない中でも、逆紹介を行うなどして地域の医師の方々と親交を深めています。

再診の患者様を他院に紹介することに関してはさまざまな意見もありましたが、地域の病院と連携して役割を分担をした方が患者様と医療機関双方にメリットがあると考えました。

当院の機能を最大化するためには、逆紹介等を増やすなどして、入院と検査、新患の患者様の診察を主体にする事が必要と考え行動した結果、新患の来院数を大幅に増加することができました。

さらに、逆紹介を積極的に行うことで近隣の医療機関との信頼関係が構築され、紹介数を増加させる事が可能になり、一方で再診患者様の来院数が減少した結果、医師の負担軽減にも繋がりました。また副次的な効果として、人の密集を防ぐ事が可能となり感染拡大の防止にもなったと考えています。

物理面と意識面の両輪から目指す院内改革

当院は、看護業務の負担が高いという点から看護補助者の人手が不足している時期がありました。そこで、尿瓶洗浄や汚物の処理などを焼却で済ませる事ができるディスポーザブルパルプシステムの『マセレーター』という機材を導入する事に決めました。

こちらの機材を導入することによって排泄物の臭いが部屋に残るということも無くなり、ケアを受ける患者様の精神的な負担も減らす事ができました。さらに尿瓶洗浄などの業務自体が不要となり、業務負担が軽減したことにより、看護補助者の求職数を増加させることにも繋がりました。

これは一例ですが、このような経験から必要な所に費用を使う事で、病院側の医療に対する熱意や業務効率化への真摯な姿勢が、患者様だけではなく職員にも伝わることを実感しました。こういったことが長期的な病院経営の安定化にも繋がると思っています。

病院経営を安定させるためには、機材などの物理面と合わせて職員の意識面での水準の高さが不可欠です。そのため、当時院内に蔓延していた縦割りで自分の仕事しかしない古い考え方や、改革を嫌う保守的な風潮を改革するための意識改善に力を入れる事にしました。

手始めとして、会議体の変更を行いました。以前は理事会の決定をトップダウンで伝達する体制であったため、現場の意見が届きにくく小さな意見が見過ごされるという傾向がありました。

これらの課題を解決するために、現在では各部の部長が現場の意見をまとめ、それを持ち寄り病院の運営に関しての議論を行なうボトムアップ制を取り入れています。この取り組みにより、以前の保守的な風潮が薄れ職員の主体性を引き出すことが出来始めています。

今後は、さらに職員一人一人が自ら考え行動ができる状態を作り出し、現場ごとに最適な判断を下せるような文化を醸成していきたいと考えております。その事によって、経営層はより経営に関しての意思決定に時間を使うことができますし、現場で働く職員のモチベーション向上にも繋がると考えています。

地域住民だけではなく職員にも必要とされる病院へ

当院の医療圏は地方に位置するということもあり、患者様の治療は当然のこと、退院してからのケアも積極的に行うことを方針としております。訪問看護やリハビリの事業を展開していく事で、地域のニーズにも応えることができるのではないかと考えています。

以前は急性期と慢性期のどちらを中心とするかの選択にて迷っている時期もありましたが、地域性を考えると患者様の満足度を最大化するためにはケアミックスの医療の提供が不可欠だと考えており、様々な施策を行っております。

例えば、当院の健診センターでは、今まで産業医活動を主に行っていたのですが、徐々に人間ドックを中心に行う事にしております。当院の健診センターにて検査を受けていただき、仮に問題が発見された場合には、そのまま当院にて治療を受けることができるため、患者様には安心して検診、治療を受けていただくことができています。

また保育園も運営し、現在は60人の園児をお預かりしております。安心して働いていただけるよう職員のお子様や地域のお子様をお預かりしています。産休明けの復帰率がほぼ100%で継続しています。

看護師だけでなく、事務職員や女性医師も当院の保育園を利用しています。職員が安心して働く事のできる環境を整備できたのは非常に良かったと思っています。

多角的な面から着実に進める、地に足のついた働き方改革

当院では、診断書の文書作成や電子カルテへの入力などの事務作業を行う医師事務作業補助者を、15年程前から導入しております。過去に医師不足の時期があり、少しでも常勤の医師の負担を減らしたいという理由で導入を始めました。医師に医療事務職員が付くことで、医師の生産性が上がり、残業時間も削減する結果になりました。

現在では医師事務作業補助者の導入は働き方改革によりかなり一般的になっていますが、単純に医師事務作業補助者を導入したからといって医師の生産性が上がるというわけではなく、導入したものの有効に活用できていないというお声もよく聞きます。

当院でも、職員と医師が上手く連携を取る事ができず、職員が退職してしまうケースを医師事務作業補助者の導入初期に聞いていました。そのため、先ずは私の下で、3ヶ月から半年の研修を受けていただく事にしました。私の受け持つ整形外科では内科などと比較すると決まったパターンの業務が多いため、指導がしやすいといった利点があるため、このような研修を実施しました。

その結果、医師事務作業補助者の導入は概ね成功しております。医師事務作業補助者がいる事で、医師とのダブルチェックにて書類作成などのミスが軽減されましたし、医師が診ることのできる患者数が倍増したケースもあり、当院にて医師事務作業補助者は必要不可欠になっています。

その他、働き方改革に関連する当院の試みとしては、時間外労働の多い医師の原因究明のために、業務の把握とともにカウンセリングによる精神面での把握を行っています。さらに、患者様のご家族に対する医療的な説明などに関しても可能な限り医師の勤務時間内に来院して頂けるよう周知をしたりなど、小さな業務の効率化を意識的に行うことで時間外労働を出来るだけ削減する様に心がけています。

時間外労働の削減のためには、体制だけではなく雰囲気づくりも大切です。なんとなく上司が帰らないと部下が帰りづらいという雰囲気は当院でも未だに存在していますので、勤務時間が過ぎた職員には意識的に声かけをして帰宅を促し雰囲気づくりを実施しております。

一方で、当直医における夜間配置の最適化など、根本的な医師不足のような一朝一夕では解決できない課題もあるため、少しずつでも環境を改善していく試みが大切だと考えています。

地域医療における役割を明確にし、未曾有の災害にも耐えうる強い病院へ

当院は『くまもとメディカルネットワーク』という熊本県のネットワークを利用し、患者様の情報を地域の医療機関と共有しています。こちらを利用することにより、紹介状がない患者様にも、退院時にかかりつけ医に診療情報を提供しています。

このようなネットワークを利用することにより、地域の患者様を独占するのではなく、地域医療においての役割分担をし医療機関同士でお互いに協力していく事が必要だと考えています。

熊本地震では未曾有の事態を経験しました。それ以来当院では、社会医療法人を取得し災害拠点病院に向けての機能を整備しはじめております。熊本は阿蘇山の噴火の可能性など、被災の可能性が決して低くはない地域となっております。

だからこそ、5年以内に人材の育成(災害派遣医療チームDMAT)や設備関係(集中治療室等)を整備していく予定を立てています。かなりの投資になりますが、それが地域に求められている当院の役割と考え、患者様ファーストの病院経営をより強めていきたいと考えております。