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地域連携施策を地道に続け、入院患者数も増加。大切なのはクリニックとの密な連携で信頼を得ること

兵庫県

明石市立市民病院

阪倉 長平 院長

近畿

地域連携に注力し、近隣のクリニックや地域の患者さんの信頼を得る。それを地道に積み重ねることで、救急車の受け入れ数や新規入院患者数を伸ばしてきた明石市立市民病院さま。若い医師を受け入れる環境づくりや、子育て中の職員のための時短制度など、就任以来取り組んでこられた経営施策について、阪倉 長平院長にお聞きしました。

穏やかな職員が多く、患者さんやご家族に優しく寄り添っている

当院の特徴は、穏やかな人柄の職員が多く、患者さんに寄り添い温かく包み込むような雰囲気があることです。医師・看護師から事務の方まで自然と優しい対応ができている人が多いと思います。特別難しい手術や高度な医療をたくさんおこなっている病院というわけではありませんが、優しく丁寧に患者さんやご家族に寄り添う病院だと自負しております。

机上の論理よりも現場主義。職員と一緒に問題を一つひとつ解決することが大切

院長として大切にしているのは、現場主義の考え方です。管理職になっても病棟や外来、手術場などへ足を運び、毎朝患者さんや職員の動きを見て、問題がないか確認し、何かあれば改善をおこなう。当たり前のことですが日々それを心がけています。

こうした現場主義の考えは、2014年まで大学病院で約20年間基礎研究や臨床研究に長く従事してきた経験が影響しています。大学病院の先生方に「研究をやめてはいけない。研究や実験、後進の指導などは、自分の手を動かしておこなうことが大切で、それをやめてしまったら絶対にできなくなる」と教えられました。実際にその通りで、手を動かすことをやめて文献やインターネットの知識だけで研究しようとしても必ず狂ってきます。

病院経営も同じで、何かがあったときに机上の論理だけで解決しようとするのではなく、問題が起きた現場に行って、職員と一緒に「こうしてみましょう」と話して解決しようとすることが大切だと思っています。

就任当初の課題は医師集め。若い医師を受け入れられる環境づくりに努めた

病院として収益を上げていくには、規模に見合った救急受け入れ台数や新規入院患者数を保てる体制を整えることが必要です。そのためには十分な数の医師を集めなければなりません。しかし、私が当院に来た頃は、大学と病院の各診療科や人事の連携が上手く取れておらず、医師集めが難しい状態でした。そこで、大学から研修医や若手の医師を紹介してもらえるように、各診療科に大学とのやりとりを再開するようお願いしました。

とは言え、ただお願いすれば大学が医師を出してくれるわけではありません。大学の信頼を得るには、若い医師が訓練できるような環境を整える必要があります。例えば、外科なら胃がんや大腸がんなどの手術が年間100症例はないと若い医師の訓練が十分にできないので、それだけの症例数を実現してほしいと言われました。

当時の症例数は25例ほどだったのですが、私が外科の執刀をおこなっていたこともあり、さまざまなクリニックを回ったり、手術された患者さんが満足して退院いただけるよう丁寧にケアしたりといったことを地道に積み重ね、年間100例以上まで増やしていきました。それでやっと若い外科の先生が2~3名きてくれたんです。

就任当時に比べて医師数は55人から約70人まで増加

それからだんだん外科医が増え、6~7人くらい揃ってくると、今度は救急医療ができるようになります。同様の取り組みを内科でもやり、外科系と内科系の2本立ての救急医療できるようになり、救急車の受け入れ台数も以前は2,000件以下だったのが、2017年度には3,400件程度まで増やすことができました。

また、指導医をそろえ、医学生の5・6年生が当院で学外実習や臨床実習ができるクリニカルクラークシップの体制もつくりました。これは2015年頃から続けていて、その時の学生さんが去年くらいから当院に来てくれるようになったんです。こうした体制づくりができると、新しい学生さんや研修医、若手医師も確保しやすくなると思います。

こうした取り組みを続けてきたことで、私が来た当初は55人ほどだった医師数が現在では65~70人になりました。また、古い固定した人材ではなく、若くて意欲のある医師の割合が増えたので、提供できる医療のレベルも、病院の収益に関しても上がってきたと思います。

地域クリニックと連携し信頼を得るための取り組みを続け、入院患者数も伸びた

新規入院患者数は、私の着任時は年間5,000人以下でした。それが一昨年には7,300~7,400人まで増えています。昨年から今年にかけてはコロナ禍で下がりましたが、それでも約6,100人です。

これについては、地域連携に力を入れてきたことが大きいと考えています。患者数を増やすためには、ここでなければ受けられない手術があるとか、同じ手術でもクオリティが高いといった信用が必要です。そうした実績について地域の連携フォーラムで発表したり、クリニックの先生と密に連絡をとって信頼いただいたりすることが大事だと考え、取り組んでいます。

新規入院患者を増やすには、ホームページや広告が大事だと言う方もいらっしゃいますが、私はそれよりもクリニックの先生の評価や患者さんの口コミの方が大切だと思います。当院は土日でも夜中でも緊急患者にしっかり対応したり、術後の報告をきっちりしたり、再発されて亡くなられるような場合でも最期まで真摯に対応したりといったことを続けてきた結果、患者さんに信頼いただき、数を増やせてきたのではないかと思います。

子育て中の女性職員には週3日半の時短制度を導入

職員の働く環境については、さまざまな勤務形態をつくるなどの取り組みをおこなっています。例えば、医師・看護師・事務職員ともに、小さなお子さんがいらっしゃる女性職員は、週3日半の時短制度を導入しています。朝に出勤して昼の14~15時には退勤できる形です。こちらは今後も継続していきますし、男性医師でもそうした形で勤務されている方もいます。

次に残業時間ですが、超過しても月に医師で1~2人、事務系職員で1~2人程度なので、かなり抑えられている方だと思います。救急の受け入れがある中でここまで残業の時間を抑えられている理由は、循環器内科でタスクシフトがおこなわれていることが挙げられます。循環器内科は救急や夜間帯の対応が多いのですが、当直明けの医師は午前8~9時頃には交替して帰宅できています。ただ、このタスクシフトが他の診療科にも広がるかは未定です。他に残業が減っている理由として、コロナで救急車の受け入れ自体が減っていることもあると思います。

1病棟20床の感染症専用病床を運用し、1年間で約550人のコロナ入院患者に対応

新型コロナに関しては、2020年2月より発熱外来、同年4月より1病棟20床の感染症専用病床を運用開始し、1年間で約550人のコロナ入院患者さんに対応しています。当初は中等症と軽症だけを診る予定だったのですが、重症患者さんも当院で診ざるを得なくなり、人工呼吸管理の患者さんやコロナ人工透析の患者さんなども15人程度対応しました。そうした入院診療の他に、地元保健所と連携した検査や疑似患者さんの診察などもおこなっています。

今後はツールの導入、より密な地域連携、新たな診療機能をつくることに取り組みたい

今後については、ポストコロナを見据えて、遠隔治療や『AI問診ユビー』などのツールの導入も必要になってくると思います。それから、近隣のクリニックや医療機関との関係を今以上に密にして、何かあれば漏らさず患者さんを当院で受け入れられるよう、地域連携を強固にすることも重要です。
それに加えて、この病院でないとできない手術や診療があるかという部分を見直して、新たな診療機能をいくつか作ることが必要だと思っています。そのためには当院医師の再教育が必要ですし、核となる指導医もいなくてはいけません。将来的には大学と連携してそうした取り組みも進めていければと考えています。
こうした課題にも取り組みながら、これからも市民病院として患者さんやご家族に寄り添い、地域に貢献していきたいと思います。