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『おらが街の病院』を目指しユニークなアイデアで地域住民との繋がりを紡ぐ地域密着の病院経営とは

千葉県

医療法人弘仁会 板倉病院

梶原 崇弘 理事長

関東

東京から電車で30分ほどの千葉県船橋市という立地にあり、良好な経営状態を維持しながら、様々な施策を打ち続ける板倉病院様。近隣病院、職員、そして地域住民に愛され続ける理由を梶原 崇弘理事長にお聞きしました。

育った地域に対してできる全てのことを。地域密着の病院の使命

板倉病院は、祖父・板倉岩雄が1939年に開院し令和元年には80周年を迎えた、船橋で最も歴史のある病院です。私は代々の院長としては三代目で、地域密着の病院として身の丈にあったできる限りのことを行おうと常に考え病院経営に努めております。

船橋市には地元愛の強い方が多く、地域をよりよくしていこうという想いを持った仲間が医療領域に関わらずたくさんおります。だからこそ、子供の頃から育ったこの地域をさらに活性化していくことを使命と考え、医療領域に関わらず尽力していきたいと考えています。

『おらが街の病院』を目指し継続する地域住民との関わり

当院は、地域住民に『おらが街の病院』と呼ばれることを目指し、地域住民との関わりを積極的に取っていることが特徴です。病院は体調が悪く、不安や不機嫌な状態で訪れるという特性上、待ち時間や対応のありかたなどが、患者さん自身や病院職員にとってもストレスになっている現実があります。こうした事態を防ぐために、疾患の有無に関わらず、平時の健康な時から、地域住民の方々に病院を知ってもらうための活動を行ってきました。日頃から「よく知っている病院」として、職員の業務への理解や共感を持っていただきやすいですし、不調を感じた時にもすぐに来院いただくことが可能です。

地域が病院を作り、病院が地域を作るような関係を築くことを目指し、医療領域に関わらず地域住民と関わるための活動を広く行っております。具体的な取り組みとしては、当院内でお子さんに食事を提供する「こども食堂」や、地域住民との災害訓練、お子さんを対象とした病院見学体験などの取り組みを定期的に行っております。

新型コロナの感染拡大前にはなりますが、ご好評をいただいた取り組みとして『利き酒大会』があります。院内に酒屋さんをお呼びして、少ないお酒で楽しく飲むために、お酒とおつまみをどのように選ぶべきかを考えるイベントを開催しました。病院で飲酒をするという背徳感を味わいつつ、適切な食事の仕方を学び、健診や予防医療の意識を楽しく学んでいただくことを趣旨としています。

こちらのイベントでは通常の勉強会にはご参加いただけないような、そこまで健康への意識が高くない方も含め、地域住民の方に来院いただくことができました。また、変わった切り口のイベントを行うことによって参加者の方から当院のファンを広げていただくこともできております。

新型コロナウイルスの感染拡大により、来院いただく機会自体は減ってしまっていますが、上記のような取り組みにて地域住民と築いた信頼やネットワークは現在も機能しております。イベントなどで接点を持った地域住民の方が、当院の体制に安心と信頼をされ、ご友人へご紹介いただき、結果来院に繋がっているケースも多く見られ、外来の患者数はコロナ禍前と比較しても減少することはありませんでした。

地域住民の方々との取り組みは、父が院長を行っていた時期から『シームレスな医療体制』をテーマに行っておりました。私が院長に着任し、すでにあった土台をさらによくするためにアクセルを踏んだ形となっております。

最近では地域の皆様に、当院のサポーターになっていただく施策を考えています。具体的には、当院のサポーターになっても良いという方に、サポーター用の名刺をお配りするというものです。名刺にはサポーターであることを表す記載とお名前に加え、職業を表すようなデザインをあしらいます。例えば居酒屋の店主さんの名刺であれば、赤提灯のデザイン。八百屋さんであれば野菜のデザインというような形です。

もし、お配りした名刺を居酒屋の店主さんが、常連のお客さんとの話のネタに入れていただければ、常連のお客さんの当院の認知や予防医療への関心を高めることができるかもしれません。

店主) 『そういえばこんな名刺を作ってもらったよ。』
常連さん)『へぇ、居酒屋だから赤提灯なのか。面白いね。』
店主) 『そうだろう?君も、相応の年齢だし健診でもした方がいいんじゃない?』
常連さん)『確かに、そうかもしれないな。でもどこで受けようか、、』
店主) 『そこは、板倉病院だろう。サポーターが勧めているんだから』

といった具合です。もし健診を勧められたおかげで、常連さんの病気の早期発見や治療に繋がれば、常連さんと店主さん、貢献できた当院と全員にとって良いことになり得ます。変わった活動かもしれませんが、こうした活動を通じて地域の皆様との信頼関係を作っていくことが重要だと考えております。

Win-Winの関係であることを重視し、進める地域医療連携

病院経営に関しては良好です。病床稼働率も高く外来も機能していますし採用も順調です。一方で、病床稼働率が高いからこそ、機会損失のリスクは常にあります。限られたキャパシティでの病室コントロールをいかに行うかには常に関心があります。

病床コントロールには地域医療連携が重要になります。船橋市は人口が64万人おり、現在も増加傾向にある一方で、市内の二次救急病院は9つしか存在しないため、患者様のパイを取り合うのではなく互いを補完しあうような関係を築けております。院長同士でグループラインの情報交換を行えるほど関係自体は良好で、情報交換や患者様の紹介など、密なコミュニケーションを取ることができています。

三次救急との連携においては、当院にて一次と二次の救急を可能な限り受け入れ、必要であれば三次救急にお願いするという役割分担と信頼関係が築けております。当院にて対応できない患者様の受け入れ先が見つからないことがないため、安心感を持って年間で2200件ほどの救急搬送を受け入れることができております。
診療所、クリニック間の連携においては、地域密着病院の使命である、高次医療機関と地域医療をつなぐハブ空港の役割を果たしております。紹介、逆紹介を推進するために、現在「C@RNA Connect-カルナコネクト-」という画像連携システムの提供を開始いたしました。これはクリニックや診療所から、直接当院のCTやMRIをインターネットで予約し、利用いただけるシステムです。24時間365日、空き状況の確認や、検査予約検査完了の確認、画像の閲覧、画像診断報告書のダウンロードといった機能が利用いただけます。

患者様の画像診断のニーズが高まっている現在、その重要性を認識してご利用いただけるクリニックとより良い関係を築くため、カルナコネクトは無料でご利用いただけるように開放しております。クリニックからすると、インフラ整備をすることなく画像診断を行うことができますし、当院としては機材の稼働率を上げて検査代をいただきながら、今後のクリニックからの紹介経路を開拓することもできます。

病院経営においては、今後も地域医療連携の重要性は高まっていくでしょう。お互いの利になるWin-Winの関係性を築きながら今後も連携を深めていきたいと思っております。

病院が担う役割と業務を明確にすることによって、実現した良好な労働環境

当院は医師の働き方に関してはかなり良好でして、ほとんどの医師が17時の定時通りに業務を終了できております。このような働き方ができている理由は、やることとやらないことの業務や役割の線引きを明確にしている点にあります。

例えば、当院では夜間の緊急手術は行わないようにしています。こちらは三次救急との連携が強化できているからこそ実現できているのですが、夜間の緊急手術を行わないため、帰宅した医師が夜中に呼び出されることもありません。

また、医療機関向け専用スマートフォン「日病モバイル」を国内で初めて導入し、患者様のナースコールや委員会の情報共有を改善したり、Ai問診ツールを導入し、外来の患者様の待ち時間の改善や職員の業務効率化を行ったりと、積極的にITツールの導入を進めております。

職員の業務を効率化することで、患者様のストレスや不安を軽減することに成功しており、病院経営の良好化にも繋がっております。

業務効率化や、働きやすさを追求することになったきっかけは、自身のがん研究センター時代での経験にあります。私ががん研究センターに勤務していた時は、年間で数日しか家に帰らないような生活をしていました。自分の意思で選択していた生活でしたが、これは人に強要することはできないなという想いを持ちました。

特にネームバリューがあるわけではない一般的な民間病院で優秀な人材を獲得していくためには、職員の私生活がままならないような労働時間を前提とするような体制をとるべきではないと考え、職員の働きやすさを追求することを決意しました。

正直なところ、今でこそ当院の経営状況は良好ですが、私が院長に着任した際は経営状況がかなり悪化しておりました。当時はマンパワーも少なく、職員のモチベーションも今ほど高くなかったため、そのような体制の中で最大限できることにフォーカスし、尽力したことで、現在では人材を確保するための当院の特徴とすることができております。

言動の一致を徹底し、広く意見を募ることで職員がより輝ける環境作りを

新型コロナウイルスの感染拡大によって、当院では病棟の5階のフロアを全てコロナの病棟に変えて経営を行っておりました。当初はワンフロア全てではなく一部をコロナ患者様のために開放していたのですが、現場の看護部から『せっかくならワンフロアを全て開放してはどうか』との意見を受け、現状の体制としました。当時は、感染症に関するリスクも明確になっていない中で、私自身職員を守るためスモールスタートを想定していたのですが、現場からそのような声をもらえたことをとても嬉しく思いました。

このように、日々職員に恵まれていると感じているのですが、かつては離職の多い病院だったこともあります。離職率の低下や職員のモチベーション向上のため様々な施策を行ったのですが、最も大きかったのは新たに就任した看護部長の人柄による貢献だと思っております。職員からの信頼の篤い彼女がいてくれることによって、私のメッセージがより院内に伝わりやすくなっていると感じます。

私自身は、病院として発信するメッセージと行動を一致させ職員に安心感と信頼関係を築くことを心掛けました。

当院では『職員を絶対に守る』というメッセージを発信しているのですが、行動でもそのことを示すため、マスク不足の際は病院の在庫を全て使い切ってもよいという気持ちで職員とその家族用のマスクを毎日配っておりました。また、ワンフロアの全てをコロナ病床に開放した際に国からいただいた補助金に関して、全額を職員への給与に充てました。

貢献に見合った評価と報酬を得ることができるという前提が、働く環境にはとても大切だと思っています。ありがちなことではありますが、私自らが現場に赴き成果を出した職員に対し、称賛と感謝を送ることを日々行っております。職員の一人ひとりの顔と名前を覚えて『あなたがしてくれている仕事を認識して感謝しています』というメッセージを繰り返し発信することで、素晴らしい職員が集まる現状の体制が生まれたのだと考えています。

合わせて、さらに現場から意見を発信しやすい労働環境を作っていくということも重要です。現状では、定期的に広く改善のアイデアを募集する機会を設けており、上がってきた全てのアイデアを検討した上でレスポンスを院内の壁紙新聞などに掲載するようにしております。出したアイデアが検討されていることを見える化することで『発言は無駄ではない』と思っていただけた職員も少なくないようで、これらの施策を実施することで、現場の小さな業務効率化のアイデアやコスト削減のアイデアを吸い上げることができるようになってきています。

ポストコロナにおいてさらに拡大させる連携の輪

ポストコロナにおいて、病院が患者様をただ診るという構造から変わらなければならないと考えております。医療の質は当然のこと、新たな付加価値を地域住民に感じていただくことが大切です。地域連携という言葉はよく使われていますが、職員の顔が見えるだけでなく、人柄まで知っていただくような関係を実現してこそ、本来の地域連携、地域の活性化につながるのではないでしょうか。そうした地域に根差した、「おらが町の病院」を今後も目指していきたいと考えています。
新型コロナウイルスが収束した後、再び人はリアルな場での集いを欲するようになるでしょう。そのような流れの中で医療の枠に囚われず、連携の輪を広げて地域をより活性化していくことが、当院の目指すべき姿です。