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目指すべきは『職員の満足度』。専門性を高めながら地域に寄り添う病院経営とは。

北海道

独立行政法人 国立病院機構 旭川医療センター

木村 隆 院長

北海道

地域住民にとってなくてはならない病院として専門医療と退院後の支援を行う旭川医療センター様。職員が一丸となって進めていく目標として掲げたのは『職員の満足度』でした。利害関係のあるなしに関わらず、職員の快い挨拶が飛び交う病院の経営について、木村 隆院長にお聞きしました。

気持ちのいい挨拶の飛び交う、心理的安全性の高い病院

当院は旧陸軍第七師団衛戍病院として創設され、戦後は結核療養所に転換し国立療養所となった経緯があり、呼吸器科の老舗として近隣住民様にはご認知いただいております。また脳神経内科が設置されたこともあり、医療圏での中心的な医療施設としての認知をいただくに至りました。

加えてリウマチや肝胆膵などの消化器系など市内病院ではあまり行われていない専門性を持っているという点も特徴の一つかと考えております。

そのような当院の魅力の一つとして、職員がきちんと挨拶ができる文化があります。患者様はもちろん、実習中の学生や、業者様など利害関係者の有無に関わらず、廊下ですれ違う際に職員から気持ちよく挨拶をしてもらえるとよく言われております。

挨拶の文化が醸成された理由として、職員間の距離の近さがあります。外的な要因ではありますが、本部の国立病院機構が決定する人事異動により、職員が道内の病院へ転勤するということがよくあります。その転勤先で顔見知りになった職員同士が改めて当院に転勤するということもよくあることから、世代や役職に関わらず、関係性がしっかりとできている職員が多いことから、現在の状況につながっていると考えています。

職員同士が挨拶を行うという習慣があるからこそ、新しく入職した職員や、職員以外の方々への挨拶も自然に行うことができています。結果として、職員にとって安心して働けるような環境につながったのは有難いことですね。

病院一同が邁進できる目標として設定した『職員の満足度』

当院では、『職員の満足度』を向上させることを大切にしております。私自身も全ての職員が何かしらの数値目標を自分ごとと捉えて、目標達成に向けて一丸となって行動することが、当院をさらに地域になくてはならない病院となるために必要なことだと考えています。

一方で、全ての職員が自分ごとと感じられる具体的な目標設定は困難です。病院では様々な職種の職員が働いており、当然ながら業務領域は異なります。医師を例にとると、診察や治療に関わる、病床使用率の改善に向けて試行錯誤をすることは可能ですが、合わせてリハビリや検査関連の目標数値を設定したところで、具体的なアクションは難しいでしょう。
だからこそ、少し抽象的ではありますが、金銭的報酬ややりがいなどを内包し、かつ職員全員が自分ごととして捉えることのできる『職員の満足度』を共通の目的として定めました。これにより病院が一丸となって目標へ邁進できる良い機会になるのではないかと考えております。

福利厚生面においては、当院は国立病院機構ですので、有給休暇が非常に取りやすく育休や産休などのバックアップ体制も整っています。そのため、特にやりがいという面においてさらに職員のモチベーションを高めるために、管理職の人間が職員を大切にしているということを伝えるよう心がけてきました。

取り組みの一例として、現在各職場の課題点や問題点から、職員の状況に至るまでをヒアリングを行なっています。そのヒアリングから、課題や問題への改善はもちろん、本人の意向に沿わない転勤などが極力発生しないように調整を行っています。今後はさらに、私自身がより定期的に各職場を訪れることで、職員との物理的な距離をも縮めていきたいと考えています。

医師不足の課題を解決するために、専門医としてのキャリアを築ける育成環境を整える

病院経営に関する最大の課題は、医師の確保が非常に難しい点にあります。特に、30代後半から40代という中堅層の医師が現状不足していることに課題を感じています。

中堅層の医師は、次の時代における病院経営の中心になる層ですので、長期的に考えると、これらの層が不足していることは深刻な問題です。また、当院には現在若い医師を牽引してくような医師が中堅層にはおらず、50代の医師がそのような役割を担っているのですが、彼ら、彼女らが今後、より経営に近い役割を担う場合に並行して若い医師のマネジメントを行えるのかという課題があります。

そのため、大学との連携を強めつつ、並行して一般からの医師の採用を強化していきたいと考えています。当院では、地域住民から専門病院として認知いただいているため、専門領域の症例をもつ患者様がたくさん来院されます。研修のカリキュラムを整えておりますし、実際に症例数が多い環境で学ぶことができますので、専門医としてのキャリアを築く上では、非常に良い環境と言えると思います。このような強みをよりアピールしつつ、医師の採用を強化していきたいと考えております。

メディカルクラークの病棟配置とクリニカルパスの徹底により、より効率的な労働環境を目指す

『職員の満足度』に大きく関わってくるという意味においても、現在の最大の関心は働き方改革です。

勤務体制としては、着替える時間などは勤務時間に加えるなどのような最低限のことは実施していますが、さらに医師や職員の働き方を改善していきたいと考えております。特に医師は自宅待機や、学会や勉強会における講師の準備など、働き方が変則的ですので、それらをどこまで勤務時間に計上するべきか、具体的に検討しなければなりません。

なお、労働時間の削減に関してタスクシフトに興味があります。医師のタスクシフトももちろん大切ですが、第一段階として当院では看護師のタスクシフトにチャレンジしたいですね。当院は地域柄高齢の患者様が多いため、介護業務が看護師の負担となっています。まずは看護師の業務負荷を軽減していかなければ、医師の業務を看護師に引き継ぐことは現実的ではありません。だからこそ、看護助手などを多く採用するなどをして看護師のタスクをシフトしていきたい。まだ実現には至っていませんが、近いうちに着手したいことのひとつです。

医師の時間外労働に関しては、メディカルアシスタントを多く配置しているのですが、平均すると4-60時間ほど時間外勤務が発生しておりますので、それらを削減するためにいくつかの取り組みを行なっています。

一つ目は、メディカルクラークの病棟配置の再検討です。すでに診断書の代行などは実施いただいておりますが、今後様々な病棟に配置することで、様々な病棟で発生する書類の補助入力をしていただけるよう体制を整えています。

二つ目は、クリニカルパスの徹底です。電子カルテを扱う診療情報管理室に依頼して、可能な限りクリニカルパスを実施できるようにしております。これにより即日入院になった患者様でもメディカルクラークにパスを運用してもらえれば、患者様の情報をすぐに看護師や検査官に伝えることができます。結果として他の部門の超過勤務を削減することが可能ですし、医師にとっても外来が終了した際に全ての検査データが出揃っているという状況を作れれば、超過勤務の削減につながるのではと期待しています。

専門病院による知見を活かして行う地域医療連携

地域連携に関して、当院では退院した後のケアも一気通貫で提供していきたいと考え、1月から訪問看護を開始しました。当院から退院された患者様にとって、当院が訪問看護へ行くことにはとても安心感があり、在宅ケアを行なっていく中での信頼感に繋がると考えております。

まだ、正式に開始はできておりませんが、旭川という寒冷地域という地域性や慢性的な疾患が多いという当院の患者様の傾向から在宅診療のニーズを感じております。そのため、実績を積み、近い将来で正式に訪問看護ステーションの設立を検討しています。

また、すでに実施している施策として、定期的に患者様や地域住民向けの勉強会を院の内外を問わず実施しております。さらに地域住民をお招きして当院の特徴や強みなどの紹介を定期的に行なって、当院の認知をいただくことによって来院のハードルを下げる取り組みを実施しています。

福祉施設との連携としては『医療と福祉のための連携座談会』という場を10年ほど前から年に3、4回ほど実施し、老健施設やグループホームの要望に応じた情報交換や勉強会を行なっております。本活動を継続する中で、介護施設のニーズが非常に明確になり、直接コミュニケーションを取ることによってスピーディーな病院への搬送や、老健施設へのご入居などの対応が可能になりました。

近隣医療機関との連携としては、月に一度、地域の開業医の医師の先生方を当院にお招きし、ご紹介いただいた患者様の経過や症例を、実際の写真などのデータを共有しながら学会形式で発表しています。当院での専門的な検査や治療内容を共有することで、開業医の先生方にとっても、気づきや学びの機会になっているという嬉しいお声もいただきました。この会によって、近隣病院との信頼関係の醸成につながれば嬉しいですね。

現在は新型コロナウイルスの流行によって、オンラインでの実施に移行しておりますが、地域医療連携を強めるためにも、これらの取り組みをさらに推進していきたいと考えております。

専門性を伸ばしつつ、感染症への対応に強い病院を目指す

新型コロナウイルスの感染拡大や、長期にわたる感染対策により、病院内の雰囲気が少し暗くなってしまいました。万一の感染リスクを避けるため、コロナ陽性患者に対応する職員を意図的に絞っており、該当する職員には大変なストレスを与えてしまっています。また、自粛のレベルを一般の方に比べると非常に高い水準で職員に実施いただいていることや、受診控えによる外来数や入院患者数の低下が要因かと思います。いち早く職員がストレスを受けずに働くことができ、休暇を満喫できるようにしなければと考えております。

一方で、新型コロナウイルスの感染拡大において、当院の今後の目指すべき姿がより明確に見えてきました。当院は以前から呼吸器に専門性を持っており、構造的にも設備的にも20床あった結核病床をそのまま感染症の病床として利用することができたため、医療圏内で最も早くコロナウイルスの陽性患者様を受け入れることができました。

しかし、結核病床の20床が埋まってからは、簡易の陰圧室を新たに設置するなど大変苦労しました。それにより、感染対策を徹底した病床を多く持っているということは、今後も発生しうる未曽有の感染症へ対応する大きな強みになることが分かりました。

今後は、そのような観点からも結核病棟を維持しつつも、さらに感染症にスムーズに対応することができる病院を目指すことによって、強みを伸ばしていくことができればと考えております。