高知県高知市にて、脳神経外科を中心に、内科・消化器内科・循環器内科・小児科・眼科・ペインクリニック・緩和ケア・放射線科の診療をおこなう、医療法人治久会もみのき病院。急性期から在宅まで一貫して患者さんを診るための地域医療連携の取り組みや、職員が働きやすい環境づくりについて、森木 章人病院長にお話を伺いました。
●脳神経外科治療とリハビリに注力し、患者さんに寄り添った診療をおこなっている
もみのき病院は、1990年に開設された内田脳神経外科の関連病院として、1998年に開院しました。同じ内田グループ内には老健施設や回復期リハビリ病院などがあり、当院は急性期病院という位置づけです。その経緯から脳神経外科疾患の診療や治療に力を入れており、またガンマ線を用いて開頭せずに脳の病巣を破壊する「ガンマナイフ治療装置」を開院時から備えています。
2019年には、脳卒中の患者さんを常時受け入れて急性期治療をおこなう「一次脳卒中センター」に認定されました。また、脳卒中は急性期の治療だけでなく、日常生活に復帰するまでのリハビリも大変重要ですので、リハビリに力を入れているのも強みです。もみのき病院だけで50人あまり、内田グループ全体では154人ものリハビリ職員が、急性期から回復期リハビリ、在宅訪問リハビリまで、患者さんに寄り添った治療をおこなっています。
その他、小児科では発達障害のお子さんのリハビリを扱っており、また18時から19時半までの夜間診療も週3日ですが行っています。脳神経外科を中心とした急性期医療と、他の病院ではあまりされていない当院独自医療で、地域医療の隙間を埋めるような取り組みをおこなっていることが特徴です。
●「高知あんしんネット」で地域の病院・施設と連携して一貫した医療を提供
地域の病院・診療所との連携にも力を入れています。もみのき病院がある高知県では、地域の医療・介護施設や薬局などが連携する「高知あんしんネット」という仕組みがあります。もともと高知中央医療圏には、脳卒中の患者さんを急性期から回復期、在宅まで一貫して支えるための「脳卒中地域連携パス」というものがあったのですが、連携地域を高知県全体に広げ、ICT化したのが「高知あんしんネット」です。
高知あんしんネットに入っていただいている患者さんの情報は電子カルテ上で確認できるので、複数の病院・診療所で同じ検査を何度もやる必要がありませんし、他の病院で出された薬の内容も確認できます。当院で急性期の治療をした患者さんがリハビリ病院に行き、在宅に戻り、また外来に来られて……という流れを継続して診られる、地域完結型の医療ができるという点でも、患者さんにとって非常に大きなメリットです。
また、ガンマナイフ治療装置やMRIなど、当院の高度医療機器を病病連携や病診連携で有効活用していただく取り組みも積極的におこなっています。脳卒中や心不全などの症例検討会や講演会で定期的に発表や意見交換をおこなったり、『ガンマナイフニュース』という機関紙を毎月発行して四国内の主な病院にお送りしています。そうして少しずつ当院の立ち位置を広めていけたらと考えています。
●市民講座やスポーツ大会を開催して地域コミュニティにも貢献。PRにもつなげる
地域の方へのPRとしては、これはもみのき病院だけではなく内田グループ全体の取り組みですが、健康大学や脳卒中セミナー、脳卒中市民講座を積極的に企画運営しています。他には、地方紙に健康に関する記事を出したり、ホームページを通じて情報提供したりしていますね。
さらに、職員の福利厚生の一環でランニングやテニスなどのクラブ活動をやっていまして、一般の方も対象に「もみのき杯」というテニス大会や、ゲートボール大会を毎年開催しています。テニス大会は県内外から約200人、ゲートボール大会にも約100人の方が参加されています。スポーツドリンクや、もみのき病院の脳ドック券などを景品としてご用意しており、こうしたイベントを通じて、地域の身近な存在として当院のことを知っていただきたいですね。
●課題は医師の高齢化。大学病院や医療系専門学校との連携で新しい人材確保へ
直近の課題としては、医師の高齢化が挙げられます。現在、常勤医師12名の平均年齢が54歳で、病院の将来を考えたときに一番の問題となると考えています。医師は地元の大学出身の方が多いため、大学の医局とのつながりが重要です。当院は、後期研修の方がトレーニングできる大学病院の関連施設となっているため、若い先生に大学ではできない経験を積んでもらっています。
職員の離職率はそれほど高くないのですが、せっかく育った有能な方が辞められると病院にとっては痛手ですから、職場環境の改善やキャリアパスの策定など工夫を重ねています。例えば、看護師やリハビリスタッフには、グループ内の他の病院・施設を回ってもらって、急性期から回復期、維持期、在宅までを経験してもらっています。また、看護学校やリハビリの専門学校、医療事務学校などと連携を取って、研修に来ていただいたりしています。こうした取り組みを継続し当院の特色を知ってもらうことで、より良い人材を集めたいです。
●アプリを使ったスケジュール共有や職員同士の交流で、効率とモチベーションをアップ
当院は三次救急ではないため、夜間に何度も呼ばれて手術をおこなうことはあまりないのですが、過重労働対策や検診、メンタルヘルス対策などのために、院内に産業医を中心とした安全衛生委員会を設置しています。また、医師の負担を軽減するため、介護保険の主治医意見書や入院証明書などの書類関係は、医師事務作業補助者の方に手伝っていただくようになりました。
働きやすい職場にするためには、医者だけではなく、リハビリスタッフや看護師、医療事務の方を含めた仕事の分担や情報共有が非常に大切です。医師のスケジュールをTimeTreeというカレンダーアプリで管理・共有したり、講演会や会議などの情報を医局のLINEを使って共有したりしています。その他、学会や講演会などに多職種で積極的に参加し、スタッフ同士の距離が近くなる環境づくりをしています。
●ユビーAI問診導入で外来診療が素早く丁寧にできるようになり、待ち時間が短縮
病院運営の効率化を進める取り組みとして、医療DXに興味を持っています。当院では、脳神経外科と内科・小児科の発熱外来でユビーAI問診を導入しました。今まで受付から会計終了まで、脳神経外科の初診の方で平均2時間25分かかっていたのが、AI問診の活用によって2時間11分に短縮されました。
また、AI問診ならカルテへの転記が簡単にできるため、患者さんと目を合わせてゆっくり診察できるようにもなりましたね。時間短縮以外に、こうした患者さんとのコミュニケーション面でも効果を感じています。看護師のレベルにかかわらず問診内容が安定していますし、デジタル機器に不慣れな医師でも活用できています。また、AI問診の導入によって、外来の看護師の人数を13人から11人に減らすことができました。このように人件費削減にも効果を感じていますので、これからもICTを使った業務の効率化を推進していきたいですね。
●現場職員の意見を積極的に採用。職員の発案でコロナワクチンの接種も
どうすれば病院がもっと良くなるかを考える上で、実際に現場で働く職員の方の意見を大切にしています。4~5年前から、各部署の代表の方と管理職のメンバーで「もみのき病院の未来を考える会」というのを月一回実施しているのです。主な方向性については管理職がトップダウンで決めますが、具体的な方法論については、ボトムアップで、現場で働いている方にもアイディアを出してもらっています。
最近の事例としては、コロナウィルスが感染拡大した時期に、職員の発案でワクチン接種をおこなうようになりました。週末を中心に1日約300人、2021年の4月から10月終わりまでで約7,000回のワクチン接種をおこないました。その他、もみのき病院のイメージキャラクター「もみくん」を用いた説明用の小冊子を作ったり、日常的な面でも現場のアイディアを採用しています。今後も、こうした現場からのアイディアをできるだけ良い形で拾い上げていきたいと考えています。
●MRI活用など独自性を伸ばし、地域の特性に目を向けて市民に寄り添う病院に
今後の取り組みとしては、やはり当院にしかできないことを伸ばしていきたいです。脳卒中や循環器病疾患の予防と治療、ガンマナイフ治療を通じた地域医療連携の普及はもちろんですが、MRIなどの診断機器をもっと活用していきたいと考えています。実は当院とすぐ隣の内田脳神経外科とで合わせてMRIが5台(3テスラ2台、1.5テスラ3台)あり、大学病院や国公立病院では1カ月の検査待ちが発生するところを、来院当日に診断・治療がおこなえるというメリットがあるんです。これは大きな強みなので、今後も伸ばしていきたいと考えています。
患者さん向けサービスのさらなる充実にも取り組みます。アンケート、待ち時間や口コミについての調査、GoogleアナリティクスやGoogleサーチコンソールを用いたホームページの分析などをおこない、現状の把握と改善に努めています。
また、これは高知県を含む東海から西日本地域の話になりますが、30年以内に70~80%の確率で南海トラフ巨大地震がやってくると言われています。当院は救護病院ではありますが、スタッフのDMAT(災害派遣医療チーム)資格取得、BCP(事業継続計画)作成、定期的な災害訓練の実施など、災害医療の取り組みも積極的に行っています。災害医療から地域特性に目を向けた医療まで、幅広い視点でこれからも医療を提供してまいります。