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目の前の患者さんと真摯に向き合うこと、地域のニーズに応えていくことが病院の利益にもつながる

東京都

調布東山病院

小川 聡子 理事長

関東

急性期医療を軸に、地域のニーズに応じてその都度、透析やドック・健診、在宅医療などを展開してきた東京都調布市の調布東山病院。安定的に病院運営を維持し、40年間にわたり地域医療を支えられてきました。理事長の小川 聡子先生に、病院を経営する上で大切にされていることや、今後のビジョンをお伺いしました。

●自分で考え行動し、「今助けてほしい」に全力で応える

病院経営で大切にしているのは、まず医療の質を維持すること、そして地域の方々の「今助けてほしい」に応えるために、急性期医療に注力して取り組むことです。質の高い急性期医療を提供し続けるために、スター選手のような医師やスタッフに頼る形ではなく、職員一人ひとりが自分で考えて行動することを目指し、病院全体で医療の質を上げる努力をしています。
具体例を挙げると、当院では「専門医は自分の科しか診ない」という体制はとっていません。現状、神経内科以外の科はすべて専門医が在籍していますが、各科の専門医が教え合いながら、お互いに専門外の疾患も診るようにしています。そのため、入職してすぐの先生はすごく大変だと思います。けれどもやはり、経験しないと他の疾患も診られるようにはなっていかないんですよね。ですから、困ったときや分からないときに、入職10年以上のベテランのスタッフや病棟の軸となっているスタッフに、すぐに相談できるような体制、風土づくりを意識しています。
また、「自分で考えて、自分で行動する」という風土づくりのために、幹部が手本となることにも努めています。毎週火曜日の午前中に部長会をおこない、部門の垣根を超えて現場の問題を共有し合い、一致して方針を決定し、速やかに現場にGoサインを出します。現場は、意思決定の方向性が一致し、動いていいという実感を持てることは安心です。2013年から毎週実施しているため、部長会を通して意思決定がスムーズになっていることや、部門間の壁がなくなってきていることも当院の特徴ですね。

●管理職研修、給与制度の見直しを経て、新たに「ひと成長型人事制度」をスタート

当院は2011年に新築移転し、同年12月より新病院としてスタートしました。新病院になってから特に力を入れているのが、管理職の人材育成です。当院には以前、管理職になることを敬遠されるという課題がありました。人事制度の仕組みが体系化できておらず、病院に長く勤務している人や多く残業をしている人の方が、より責任が重い管理職よりも給与が高くなる状況になっていたためです。
そこでまずは、コンサルタント会社の力を借り、2013年から管理職の研修合宿をスタートしました。この合宿を通し、管理職の定義や役割を言語化し、やるべきことを明確にしました。
同時に給与制度の見直しもおこないました。具体的には、残業手当が付かなくても部下より給与が低くならないように管理職の等級を上げ、在籍期間による給与のアップにも上限を設けたんです。このとき、職員の誰も現状より給与が下がるようなことがないようにも、気をつけましたね。
現在は、新しい給与制度のもと「ひと成長型人事制度」という新たな人事システムをつくって運用しています。この制度では、各管理職は自部署のスタッフ一人ひとりと対話し、コミュニケーションシートを提出しないと、評価が出せない仕組みになっているんです。管理職とスタッフ全員の対話を促し、各部署の方針づくりなどにも取り組んでもらうことが目的です。

●新たに予防医療や訪問診療にも注力。地域ニーズに応えることが利益につながる

もう1つ、新病院移転のタイミングで取り組み始めたことに「経営の多角化」があります。
当院は40年間、急性期医療を軸としてやってきました。しかし一方で、今後も急性期医療を続けるには、従来の部門だけでは経営の維持自体が難しくなっていくことも分かっていました。旧病院時代には透析医療の拡大(外来維持透析クリニック3施設)で利益を広げましたが、年々その利益率も下がってきていたため、新たに利益を生み出せる部門をつくる必要があったんです。
そこで新病院移転後、旧病院で行っていた市民検診を拡充したドック・健診センターを設立し、今まで以上に予防医療にも注力することにしたんです。最初は大変でしたがトライ&エラーを重ねた結果、現在はドック・健診センターの収入が透析センターの収入を上回っています。
さらに、30年以上前から当院が携わってきた訪問診療・訪問看護を、1つの事業体として拡大しようという動きを進めています。在宅医療は患者さんのためになることはもちろん、ドクターの経験面でも大きな意義があると考えます。なぜなら、在宅医療の経験があるドクターは、患者さんが自宅に戻られた後の生活を考えて、入院中のマネジメントを考えられるようになるからです。急性期の入院中においてもそうしたマネジメントができれば、患者さんも明るい未来を想像できますよね。
ただ、こういった利益につながる部門は、突然ぽっと新たに作るということではありません。生活支援型急性期という当院のポジションで、長年ブレずに実践してきたことの延長として、地域の方々に必要とされていることをやる、これが重要です。透析も予防医療も在宅医療も地域ニーズの延長にあり、それに真摯に応じることで利益につなげていければと考えています。

●目の前の患者さんにきちんと応えることで、地域の医療連携が密になる

当院では現在、二次救急に力を入れています。そのため、医師の当直の負担を減らすべく、杏林大学や東京慈恵会医科大学など近隣の大学病院に声をかけて、医師を派遣してもらえる医局の数を増やしました。特に最近では在宅医療のニーズが増えてきており、在宅医療の非常勤医として、各医局から医師を派遣してもらう機会も多くなっています。
医育機関の医局の先生方に在宅医療を手伝っていただくことは、「自分が治療した患者さんがその後地域でどうなっているのか」を知れるという面でも、大きな意義があります。もっと言えば、大病院と当院のような中小規模院の役割の違いを肌感覚で理解してもらえる。地域医療連携においては、こうしてお互いの役割の違いを認識し、本当の意味での機能分化を進めていくことも大切だと考えています。
それから、患者さんの「今すぐ助けてほしい」にきちんと応えていくことを徹底するのが重要です。例えば、「身寄りがなくて面倒を見てくれる人がいない」などの事情がある場合、「うちでは診られません」と言ってしまう医師もいます。しかし、その患者さんには、抱える問題を解決しようと必死に頑張ってくれている地域のケアマネージャーさんや訪問看護の看護師さん、かかりつけの先生方がいるわけです。であれば、少なくとも医療の面では我々がきちんと責任をもたないと、地域の患者さんも、普段その患者さんの生活を助けてくれている医療従事者も支えられません。
まず、目の前の患者さんに徹底して応える。その上で初めて、地域の医療機関や施設の方々に「医療の面は我々が責任をもって担うから、生活のサポートはよろしくね」というお願いができるのではないでしょうか。

●教育病院としての機能強化と主治医制の廃止により、人材の充実を

続いて採用面です。当院は83床の小さな病院ですし、コロナ禍もあって採用には苦労しています。当院の柱となるのはやはり急性期なので、30〜40代のベテランスタッフを中心に、人材派遣会社などの力も借りて必要な人材を増やしています。
しかしそれだけに頼っていては、今後当院の人材が先細りしてしまうため、教育病院としての機能を強化して若い世代に来てもらう必要があります。この3〜4年で、医師に関しては、武蔵野赤十字病院などから半年間、地域医療を学ぶために専攻医が来てくれるようになりました。今後、これを近隣の大学病院へも広げていけるよう働きかけているところです。
また、人材確保だけでなく医師の働き方改革にも関連する話ですが、当院では、担当患者さんの急変以外で休みに医師が病院へ呼ばれることのないように徹底しています。まだまだ主治医制を採用している病院も多いと思いますが、主治医制をやめられるかどうかは、結局は医師のマインドセットの問題なんです。自分が休みのときに他の医師が診ることになったとしても、滞りなく治療が進むように、普段から患者さんやご家族とコミュニケーションをしっかりとっておく。逆に他の医師が休みのときは、自分が準主治医としてその医師の担当患者さんを責任もって診る。普段からそれぞれが責任を持って患者さんに向き合っていれば、「休みは完全にオフ」という状態は実現できるんです。

●周囲を巻き込む実践と行動を通して、数十年後も失われない持続可能性を

当院は2022年に創業40年を迎えますが、この先の50周年、さらにその先に向けて目指していきたいのは「持続可能性」です。40年ともなると創業時のメンバーはほとんどいなくなるため、当法人「東山会」が大切にしている想いや譲れないものを、未来の世代に伝えてくれる人材を今から育てなければなりません。しかし、ただ語るだけで想いをつないでいくのは難しいものです。理念に基づいた行動を自ら実践し、現場に理念を語り、行動指針を語り、関わる人をどんどん増やしていく能動的な動きがないと、風土として根付いていきません。
そこで、3年前に「未来プロジェクト」として発足し、現在は「東山WAY」と名称を変えた組織のメンバーたちが、朝の10分掃除を一緒にやってくれているんです。掃除は、感謝や謙虚、報・連・相、準備、計画といった、当法人が大切にしたいことをまず自分たちが体現できます。なおかつ周りも巻き込みやすく、掃除を通して気づきの視点も広がっていきますよね。こうした日常の行動から、彼らが当法人・当院の本質的な理念を理解して伝えていくキーマンになってくれることを目指しています。

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