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地域の連携を基盤に、0歳から100歳までを網羅する真の地域包括ケアシステムの構築を目指す

群馬県

医療法人大誠会 内田病院

田中 志子 理事長

関東

身体拘束ゼロのケアマニュアル「大誠会スタイル」を確立されている、大誠会内田病院。「0歳から100歳まで」をコンセプトに、高齢者向け慢性期病院でありながら、地域のあらゆる人々の生活を支える病院経営を行われています。病院独自の取組みについて、理事長の田中 志子先生にお話を伺いました。

●各フロアで独立した収支管理をおこない、職員の当事者意識を醸成

病院経営で重視しているのは、職員と一緒に数字を見ることです。当院では、運営しているすべての施設で、ひとつのフロアを一事業拠点と見なし、それぞれで収支管理をしています。月次収支、経常利益などすべての数字は、各フロアの部長、マネージャー、サブマネージャーに伝えられ、同時に私のもとにも届く仕組みです。

予算組みも現場に任せていますので、経営会議は、各フロアの予算、数値目標、ケア目標など月次の状況をヒアリングし、アドバイスや労いをするコミュニケーションの場となっています。約11年かけてこのシステムを確立してきましたので、数字に関する当事者意識は多くの職員に浸透してきていると感じます。

数字を見せる理由は、空床を減らし、稼働率を上げることの意味を理解してほしいからです。私は、加算や稼働率向上による差益はすべて職員の賞与に回すと決めています。そのため稼働が上がれば職員の業務は忙しくなるのですが、そのことと収益が連動していることを職員に意識してほしいんですね。また、数字を見ることで、社会資源としての自分たちのリソースを最大限に活用するという考え方も、職員に根付きます。こうした考えを職員に広く浸透させることで、「ベッドが空いているのに、入院が必要な患者さんが入れない」という状況を少しでも減らしていきたいと考えています。

●20年にわたる「身体拘束ゼロ」の取り組みは、国内外からの反響が大きい

当院の特色は、なんといっても「身体拘束ゼロ」です。これまで20年にわたってそれを継続していることは誇りですし、その研究成果を発表することも当院独自の活動だと自負しています。HPでもケアマニュアルを公開しており、新型コロナウイルスの感染拡大以前は、年間200件ほどの見学がありました。そのため、院内に研修部門を立ち上げて、見学に加えて実践もしていただく演習コースを作ったほどです。ケアに関する書籍も増刷を繰り返していますし、中国と韓国でも翻訳されており、反響の大きさを感じています。

当院には「身体拘束をしたくないから、ここで働きたい」と、県外から転入してきた職員が何人もいます。職員の精神的な負担軽減に効果的であるものの、看護師の人数は普通の病院と同じですので、認知症の人を拘束なしで骨折させずにケアすることの負担は、また別物ですね。ただし、入院後2週間ほどの関わりを強化するとかなり状態が落ち着くことがわかっていますので、その点はメリハリをつけて対応しています。また、病棟には看護師以外にもケアコンシェルジュとして、リハビリ、歯科衛生士など多種多様な介護職スタッフを配置しています。そのため見守りの人数は大勢いる状態ですね。

●地域の住民とともに歩む「かかりつけ医」としての歴史

もう1つの特色は、高齢者中心の慢性期病院でありながら「0歳から100歳まで」をコンセプトに、子どもから大人まで、障がいのある方も健常な方も含めて、就労・生活支援に取り組んでいることです。これは、先代の「いかに地域の方に必要だと思っていただける病院になるか」という思いに基づいたものです。先代である父は、もともと地域の開業医で、当院の開業にあたっても「かかりつけ病院になろう」と取り組んでいました。私も、それが当然私たちの役割だと思って育ってきたのです。

慢性期病院ですので、患者さんやご家族と10~20年にわたってお付き合いがあり、4世代にわたって関わる方も大勢いらっしゃいます。世代を超えて患者さんを診ることは、地域密着ならではのやりがいですね。地域の方の信頼を維持するために、感染や事故などの情報開示は徹底していますし、当院の活動や思いを積極的に開示することは常に心がけています。

●高齢者向け慢性期病院が「小児リハビリ」を立ち上げた思い 

当グループでは「いきいき未来のもり」という複合施設を運営しています。保育園、デイサービス、学童保育、さらに放課後等デイサービス(障がい児学童)と、児童発達支援事業(未就学障がい児の療育訓練)を、すべて同じ建物に集約しています。
当地域は小児専門医が少なく、リハビリが必要なお子さんは、片道1時間近くかけて前橋市や高崎市に通わなければならず、月に1~2回しかリハビリを受けられない状況だったんです。そうした状況を変えたいと考え、当院でも小児リハビリを立ち上げました。
日頃から当院の保育園で障がいのあるお子さんの様子を見ていたので、「関わったら良くなりそう」と思う子には早くアプローチしてあげたいと考えていたんです。現在、当院の小児リハビリには約80名が登録しています。保育士、看護師、リハビリテーション職員が定期的にカンファレンスをおこない、日々の保育の中でリハビリに取り組んでいますので、入園時は障がいクラスでも、卒園時は健常クラスで卒園するという子がとても多いんですよ。
リハビリを立ちあげて4~5年になり、0歳から入園していた子が今年初めて小学校に上がります。入学に際しては、学校の先生にその子の特性や、支援が必要なポイントを紹介状として渡し、リハビリの職員が、学校の様子やリハ室での様子について先生と情報共有する仕組みもつくっています。

●コロナ禍の影響で若手職員の離職率が高い。コミュニケーションの場を確保したい

当院はコロナに関しては後方支援という立場ですが、職員は常に緊張感をもって節度ある行動をしてくれています。喫緊の課題は、コロナ禍以降に入職した2~3年目の職員の離職率が非常に高いことですね。
もともと職員同士の仲が良く、地域のイベントや院内の催しによっても団結力が高められていたのですが、この数年はそれらが全て中止になってしまいました。さらに、業務の会話以外はちょっとした雑談も憚られるような状況ですし、フロアを移動しての活動も極力避けているため、多職種・多部署の共働ができず、交流が疎かになってしまいました。こうした状況が離職率にも関係しているのではないか、と思います。そのため、今年度は安全を確保した上で職員のコミュニケーションの場を少しずつ再開していこうと考えています。引き続き十分な感染対策をしながら、飲食と会話の区分を徹底した上で、お花見、ボーリング大会、地域のかるた大会などを実施予定です。

●従来から地域内の急慢連携はできていたが、コロナ禍はますます連携強化が進んだ

次に、地域医療連携についてです。山に囲まれた当地域は越境しての活動が難しいため、従来も地域内の急慢連携ができていましたが、コロナによってさらに協力して取り組む機会が増えました。私は、地域医師会の理事を務めており、以前から開業医の先生方とは連携していますが、さらに今回医師会がPCRセンターや発熱外来を作った際には、理事として参加したことで、ますます他の先生方との連携が強固になりました。
当地域でコロナ対応をする先生は、開業医も中小の病院もほとんどPCR検査の機械を持っておられるので、当日中の結果確認が可能です。そのため、当院の保育園で関係者を一斉に検査しなければいけなかったときも、医師会と開業医の先生の機械をお借りして、3~4台を同時に回して検査対応することができました。これは本当にありがたく、あらためて良い地域だと感じました。

●陽性者の対応は院内で完結させると決め、「持ち込まない・広げない」を徹底

コロナに関して、当院は「陽性者の対応を院内で完結させる」と決めて行動しています。なぜなら、重い認知症のためにマスク着用や隔離が難しい患者さんが多く、他の病院での受け入れが困難だからです。そのため院内では、ウイルスを持ち込まない・広げないことを徹底し、職員にも行動履歴の報告や外出後の抗原検査の実施などをお願いしています。
ハード面では、かなり早い段階からゾーニングに取り組み、病院・施設すべてにオリジナルの建具、仮設の壁を作って、密閉できる環境を整えました。さらに、管理課職員が仮設の水道まで設置してくれました。
他には、地域の保健所、急性期の感染対策の拠点病院の先生方と合同で、当院を使って高齢者施設感染シミュレーション研修も実施しました。施設の方、慢性期専門の病院の方をお呼びして、タイベックスーツの脱着や、要介護者が感染した時のケア方法を共有するという内容です。タイベックスーツを着てどのようにケアをするか、施設でもここまで対応できるのではないか、という点を地域の方と具体的に共有できたのは非常に有意義でした。

●少子化への対応。テクノロジーを積極的に導入して業務効率化をはかる

続いて、テクノロジーの導入についてです。高齢化とともに少子化も進んでいる地域ですので、将来的な人材不足も見込まれます。そのため、院内の仕事をいかにテクノロジーで効率化するかも非常に重要です。
体位交換ベッド、リフター、また認知症でナースコールが押せない方に対応したセンサーマットなど、必要な機材は積極的に導入しています。職員の業務に関しても同様で、日々の行動記録・報告用にはアプリを独自開発して、入力の負担が最低限になる仕組みを作りました。タブレットを使った記録のデータ化、移動時間低減のために施設・病院間での会議をオンラインで実施するなど、各所で効率化を進めていますし、さらに取り組めることがあると考えています。

●0歳から100歳までを網羅する、真の地域包括ケアシステム構築を目指して

今後は、より良い地域包括ケアシステムの構築を目指していきたいです。厚労省の示す地域包括ケアシステムは高齢者を主としていますが、当院では障がいの有無にかかわらず、0歳から100歳まで全世代が含まれると考えています。地域の生活者として、必要な時に医療、福祉、介護にきちんと手に届き、それがワンストップで、次々に必要なサービスにつながっていくことが理想ですね。各世代での満足や充足感が、真の地域包括ケアシステムだと考えます。
各世代への取り組みとして、まず高齢者対象の地域包括ケアシステムの活動は全て網羅している状態です。子育て世代への貢献としては、19名の院内保育園だったものを、現在の90名の保育園へと拡大したことが挙げられます。また、障がいのある子たちが働く世代になったときに、働く場所・住む場所を提供できる段階にもきています。
「0歳から100歳まで」という言葉の通り、私たちは医療、福祉、介護だけでなく、地域で生活するすべての人のよりどころ、ベースキャンプになりたいと考えています。地域の方から、何か困ったときに声を掛けてもらえる存在でありたいです。「病院だけど、そこまでやるの?」といわれるような活動を今後も継続していきたいですね。

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