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国立循環器病研究センター(大阪府)

大阪府

国立研究開発法人国立循環器病研究センター

小林順二郎 病院長

近畿

 『質の高い医療の提供』という目的のためには、ハード面とソフト面の充実はもちろん、所属する人材の能力やモチベーションも大切です。しかし、医療の現場では日々の業務に忙殺されてしまいがち。理想を実現するための施策を思うように打つことができずもどかしく感じている病院経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。理想の実現と、現実的な病院経営のバランスをどのように取ればよいのかを国立研究開発法人国立循環器病研究センター病院長の小林順二郎先生にお話を伺いました。

安全と質の高い医療の提供。基本方針に基づく病院経営とは?

当院では病院経営において「高度医療提供」、「最先端研究推進」、「リーダー的人材育成」、「高い倫理性と安全性の実現」、「やりがいのある職場環境づくり」を基本方針としております。

来院される患者さんは紹介経由の方が多く、基本的には初めて医師を訪れる患者さんではなく、地域の医院などから診療情報を頂いた上で予約して頂いております。それにより、医療手続きなどが簡略することができ、結果的に地域の医院からの紹介数も増加しています。具体的な紹介数は全体の85%ほどです。さらに症状が安定した患者さんへは逆紹介(地域の医院・診療所などの医療機関に紹介)することにしており、その比率は65%ほどです。紹介いただけることはとてもありがたく、高い医療サービスの提供を行なっていると評価いただいているのかと考えています。

また、入院していただく患者さんのエリア分析を行なっており分析の結果、患者さんとなりうる可能性が高いと判断した地域には市民公開講座などを開くというマーケティング活動も行なっております。実際、2019年2月などでは摂津市立コミュニティプラザ3階コンベンションホールにて、循環器救急をテーマに心筋梗塞の怖さや、その前兆などや最新治療方法などをご説明するとともに、患者さんの費用負担などの苦労の部分などもご説明しています。

全従業員がやりがいを感じることができる職場環境。ハードとソフトの面からの職員支援

医療従事者である従業員がやりがいを感じる職場環境を作る為にも、求めているものを提供しようと考えております。例えば手術室の更衣室ロッカーなどという小さなことから、敷地内に保育所を作るなどというハードの側面から、海外研修、メンタルヘルスケアなどのソフトの側面を共に取り入れております。

特に当院の特徴として看護師の教育制度が整っていることがあります。目指すべき看護師というものを技術面やメンタル面において定義しており、それを目指すための教育と評価を行なっております。特定の教育研修を終え、循環器病の看護分野において熟練した知識や技術を持つスタッフを国立循環器病研究センター専門看護師(CVEN)と呼び、試験と面接をパスしてCVENとなったスタッフにはインセンティブを与えています。

さらに、全職員がパフォーマンスを発揮できるようにするため、部門間の風通しをよくするための施策も行なっております。例えば、現場から意見を上げることができやすい環境を作る為に定期的に医長クラスまで参加できる定例会を開き、現場の意見をしっかりと掬える体制を整えています。

タスクシフティングにより過重労働を避け、より質の高い医療を提供する。

過重労働という点に関して細心の注意を払っています。医療従事者に多いのですが患者さんのためにと思って、つい働き過ぎてしまう人がいます。現在では、残業時間が45時間を超えるスタッフはパラパラいる程度ですが、過労死ラインであると考えられている80時間を超えるスタッフは一人もいません、かつては160時間を超えるスタッフがいたこともあったと聞いていますが、そういった過重労働を防ぐためにもタスクシフティングを進んで取り入れています。

例えば医師の仕事の一部を看護師に譲渡したり、看護師の仕事の一部を臨床工学技士に譲渡するなど、柔軟に対応しています。最適な業務量を配分することによって、医療従事者のモチベーションを保ち、ポジティブに働くことができる体制を作っています。当然、手術による止むを得ない残業などに対する勤務手当などは行なっています。

病院だけで完結しない。日本の医療を見据えた今後の展望

基本方針に則った病院経営を行うことによって、一定の成果を感じているもののまだまだ改善できる点はあると考えています。例えば、他病院と共有する情報システムがまだ対応できておらず、遅れているなという感覚があります。来年度には情報共有システムを整えることによって一部画像を共有したり、カルテを他の病院でも見られるようにすることを考えています。

もちろん、個人情報の漏洩などには細心の注意を払いますが、情報を共有することによる恩恵は大きいと考えています。例えば、さらに患者さんをより他の病院に紹介しやすくなる体制が整いますし、紹介をして終わりではなくその後の患者さんの経緯などを理解することにより、一病院だけではなく日本の医療現場全体で提供できる医療の質を高めて行くことができるのではないかと考えています。

当院では、様々な研究も行なっているので研究所から生まれたイノベーションを臨床の場に活かしていきたいと考えています。カテーテルでの大動脈弁置換術など、深めて行くことによって患者さんのためになる技術がたくさんあります。日本の医療のためには医療施設だけではなく企業との連携をより密に取ることが大切です。今後は当院でできることを広げつつ、そういった活動にも力を入れていきたいと考えています。