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回復期・慢性期・緩和・リハビリなどの機能を揃え、地域に根差したスーパーマーケット型のような病院を目指す

岐阜県

医療法人清光会 岐阜清流病院

名和 隆英 理事長

中部

大規模なリハビリテーションセンターをはじめ、緩和ケアやデイケアセンターなど多くの機能を持つ岐阜清流病院。地域のクリニックや開業医との密な連携や、近隣急性期病院からの転院受け入れなど、地域医療を支える病院として活躍されています。今回、名和 隆英理事長に病院が大切にされている思いをはじめ、さまざまなお話を伺いました。

●地域の皆様が足を運びやすい、スーパーマーケットのような病院でありたい

大規模病院がたくさんの機能をもったデパートのような病院だとすると、当院は地域に根差した、誰もが足を運びやすいスーパーマーケットのような病院でありたいと考えています。と言うのも、当院の約5km圏内に岐阜大学病院と岐阜市民病院があり、地域の急性期医療の大半はその2つの病院がカバーしています。そのため地域における当院の主な役割は、大病院が積極的には受けられないような高齢者の救急医療と、大病院から患者さんがお家に帰っていただく間の回復期医療、その2つにあります。それに加えて、リハビリテーションと緩和医療も当院が担う大事な役割です。
そうした地域における立ち位置を踏まえ、一般病棟、回復期医療、慢性期医療、緩和ケア、リハビリテーションセンターなど、当院が持つ機能をフルに活かして、地域に貢献したいと考えています。

●職員一人ひとりが、自分が病院の顔であることを意識して患者さんに接してほしい

地域の皆様に足を運んでもらいやすい病院になるため、職員には「自分が病院の顔であることを意識して患者さんに接してほしい」と繰り返し伝えています。医療はサービス業ですので、最終的には良いサービスをすることが一番ですが、良いサービスにもさまざまな形があります。接遇はもちろん大事ですが、ただ接遇ができれば良いというものでもありません。
やはり、「我々は患者さんのことを考えていますよ」「そのためにできる限りのことを精一杯やっていますよ」ということを、いかに目の前の患者さんやご家族に分かっていただくかが大切ではないでしょうか。実際に患者さんと接する職員一人ひとりの対応が病院のすべてを表していると思いますので、そうした意識は今後、より浸透させていきたい。

●働きやすい環境づくりのためにある託児所や「心の相談室」

経営における課題は人材の確保です。それも、ただ数を集めれば良いという訳ではなく、良い人材を集めて長く残ってもらうことが重要ですので、職員の働きやすさは非常に重要だと考えています。当院くらいの規模ですと、新卒の方、第一線の救急病院から移ってこられた方、一度リタイアされて戻ってこられた方など、さまざまな職員が集まります。そのため、それぞれに合わせた働き方のスタイルを提供することが大切です。
働きやすい環境づくりの1つが、託児所の設置です。病院敷地内に託児所を併設し、職員の子どもを預けられるようにしています。利用者も多いですし、病院職員が託児所のイベントに参加することもあります。私もクリスマスにサンタクロースになってプレゼントを配りましたよ(笑)。

もう1つの取組みが、こまめな面談と「心の相談室」の設置です。面談は直属の上司だけでなく、さらに上の部長面談も含め、最低でも半年に1回はおこなっています。何か問題があった場合や、直接上長などに話しにくい場合は人事に設置した「心の相談室」の専門職員が話を聴きます。病院内では話しにくいという場合は、法人契約しているホテルで休日に話を伺うなど、職員のメンタルケアにできる限り配慮しています。

●資格取得や学術会議参加へのサポート、新卒職員における3か月間の教育制度

働きやすい環境づくりと並行しておこなっているのが、教育への投資です。医師はもちろん、リハビリ技師や認定看護師、コメディカルなども含め、それぞれの専門分野に関する資格取得や学術会議などへの参加については、その費用を病院が100%負担し、公休扱いで参加できるようにしています。もちろん、申請をしていただいて病院が了承をしたものに限りますが、スキルアップする事に対しては、できるだけサポートしたいと考えています。
また、学術会議などに参加することで同じ職種の方とつながりができますし、病院にいるだけでは気付くことのない外の世界を知ることもできます。その経験はお金に換えられませんから、多くの職員に積極的に参加してほしいと思っています。

それから、新卒職員は入職後3カ月間、現場から完全に離れてかなり濃密に実技や接遇の教育を受けてもらっています。特にコロナ禍以降、実習がしっかりできていないまま入ってこられる看護師さんも多いので、できるだけ新卒職員が戸惑いを払拭できるようにこのような制度を実施しています。また、長く現場を離れていて復帰された中途採用の方にも、実技の教育やフォローアップをおこなっています。

●看護師のタスクシフトと記録作業の標準化が今後の課題

医師の働き方改革と、それに関連したタスクシフトについてですが、当院の医師で遅くまで残っている人は少ないため、問題はないと捉えています。ただ、大学病院などから当直に来ていただいている医師が、働き方改革によって、労働時間に加算されるようなので、そこがかなり厳しくなるという不安はあります。

タスクシフトについては、医師はすでに事務職員にかなりの作業のパスができているので問題ないと考えていますが、当院でタスクシフトが必要なのは看護師ですね。例えば、簡単な掃除など誰がやってもいい業務を看護師がしているケースがあります。看護師は専門職なので、「看護師でなくていい仕事」はタスクシフトして、できるだけ減らしていきたいです。

また、看護師はどうしても記録という仕事があるので事務的な能力も必要になるのですが、個人個人、得手不得手があり、その標準化に苦労しています。看護師のタスクシフトと記録作業の標準化は今後の課題ですね。

●地域医療連携では、近隣のクリニックや開業医を1件ずつ回って関係を構築

当院は新規患者さんが全体の約1割、救急が約2割、ご紹介と転院の受け入れが約7割を占めています。その背景から、近隣のクリニックさんや開業医さんからのご紹介は当院の生命線と考え、地域医療連携に関して特に力を入れています。
以前は私自身が1週間に約1件ずつ、近隣のクリニックさんや開業医さんを回り、当院へのご要望やご意見などを伺って関係を築いていたのですが、コロナ禍により、できなくなってしまいました。当院主催の勉強会も同様に止まっており、早く活動を再開して直接お話をしたいと思っています。ただ、多少なりとも関係を構築できたこともあって、コロナ禍以降も気軽にお電話をいただいており、患者さんをご紹介いただいています。

●転院受け入れの際は、患者さんに安心してもらえるよう理事長自ら説明に伺う

地域医療連携でもう1つ力を入れているのが、急性期病院からの転院受け入れです。冒頭でもお話した通り、当地域には岐阜大学病院と岐阜市民病院という2つの急性期病院があり、当院はそちらから回復期に入った患者さんを受け入れしています。
転院に関しては、転院前の患者さんのお話を聞くことが非常に大切ですので、岐阜大学病院と岐阜市民病院に週1回、私が直接訪問して、転院患者さんやご家族とお話をさせていただいています。と言うのも、転院される患者さんの中には「見捨てられたのでは」と不安に思われる方が多いようです。そこで「しっかりリハビリをしてご自宅に帰れるようにしましょうね」とご挨拶し、ご要望を聞いたりご説明させていただいたりすることで、安心し転院してもらえます。

患者さんやご家族に安心感をもっていただけることに加え、転院元の病院にも安心していただけますし、転院に関する作業のスピードアップにもつながります。紹介した医療機関においては、転院元はもちろんの事、転院された患者さんが元気になられたか、ご家族も満足されたかを非常に気にされますので、転院前からお話を伺い、転院後もしっかりと報告することで、より病院間の信頼も深まります。転院患者さんのフォローアップは、地域における当院の役割を考えても非常に重要ですので、今後もしっかりと継続していきます。

●今後はリハビリの強化と在宅診療ドクターとの病診連携に取組んでいきたい

今後についてですが、最も重要だと考えているのはリハビリです。地域からも非常に期待されている項目であり「リハビリではこの地域で一番」と言われるようにならないと生き残れないだろうと考えています。そのためにリハビリ専門医を増やしたいのですが、岐阜県にはリハビリを教える大学がないため人材確保が非常に難しい状況にあります。

もう1つ、今後取り組みたいのが在宅診療をされているドクターとの病診連携です。コロナ禍によって緩和病棟に長期間入られる患者さんが少なくなり、ギリギリまで自宅で生活されて、本当に難しい状態になってから緩和ケアに来られるというケースが増えました。これは、コロナで面会ができなくなったからだと思います。コロナが落ち着けばある程度は元に戻ると思うのですが、こうした傾向から今後、在宅診療のドクターとの病診連携はますます重要になると考えています。

最後に、より長期的な話ですが、ポストコロナでは病院の機能分化が進んでいくのではないでしょうか。地方の人口がどんどん減っていけば、病院の統廃合や救急体制の移譲が今後数十年の間に必ず起こります。当院もそれを見据えて、回復期の機能を高めていくこと、さきほどお話したリハビリの強化、そして急性期病院からの転院受け入れのさらなる強化など、それらの機能をより充実させていきたいと考えています。