「いつでもどこでもだれでもが安心して医療を受けられる地域社会」の創造に貢献することを最大の目標とする松原徳洲会病院様。救急を断らないという方針を強く持ち、地域内で期待される役割を果されています。一方で、新型コロナウィルスの感染拡大や、さらに進む高齢化社会においての地域医療連携に課題を感じておられるとのこと。病院の理念や目指す姿、今後の取り組みなどについて、院長の吉田 毅先生にお話を伺いました。
原体験から生まれた理念を継承し、地域に必要とされる病院であるために役割を果たす
当院の「いつでもどこでもだれでもが安心して医療を受けられる地域社会」という理念は当院が所属する医療グループである徳洲会の理念です。この理念は、鹿児島県の離島、徳之島で育った創設者の徳田虎雄が夜間に発病した幼い弟を医師に診てもらえず、亡くしてしまったという幼少時の原体験から生まれました。原体験から生まれた理念を現在でも継承し、社会的弱者であっても当たり前に高度な医療を受けることができる世の中を作ることを目指しています。
12万人ほどの人口の松原市は大阪市と堺市に挟まれており、大阪の中心に位置しております。大規模な医療機関へのアクセスは悪くありませんが、市民病院は存在しないため救急医療施設が充実しているとは言い切れず、急患の際の選択肢は多くありません。当院では、循環器系ではハートセンターや大動脈センターを設置し、心臓血管病領域の南大阪地域における中核病院として24時間体制で急性期医療を行っております。現在189床の規模にて出来ることは限られていますが、市内での市民病院的な立ち位置としての役割も期待いただいておりますので、救急医療を中心に責任を持って地域内での役割を果たすべく尽力しております。
より多くの患者様を救うため、施設の改善と医師の業務効率化を目指す
病院経営に関しては、理念を体現するための病院施設の設備改善と、職員が働きやすい現場作りを重視しております。救急の患者様をより多く受け入れるために病床を増やすプロジェクトを行なうと同時に、労働時間を短縮することを目標に体制作りとタスクシフトを進めております。理想的には、人と人との関わりが発生する業務以外は極力効率化していきたいと思っています。
実際に行なっている医師のタスクシフティングの施策として、コメディカルの導入やアシスタントの導入や認定看護師や特定看護師の教育を進めることで医師の業務負担の軽減を目指しています。しかし、どうしても24時間365日にて救急対応をするためには医師の拘束時間を担保する必要があるため、非常勤の医師にご協力いただきチーム医療制を取っております。
一方で医師の技量は皆等しいわけではないため、体制を変更しただけで解決する問題ではありません。新人でもエキスパートでも同じ医師とひとまとめに技能差を考慮せずに働き方改革を進めると歪みが生まれてしまうため、チームをいかに作っていくか?ということが非常に大切だと考えています。
また、機械でもできることに関しては積極的にタスクシフティングを推進すべきだと思っています。しかし、こちらもただ導入するだけでは安心はできません。業務効率化のツールを導入することによって労働時間の削減を期待しても、導入にあたり新たな負荷が増えてしまっては本末転倒です。トータルで業務時間をいかに削減できるのかを注意深く考えていく必要があります。このようにして削減できた時間を、より患者様に向き合う時間に充てていきたいです。
職員の意識改革のために必要なリーダーの仕事とは、覚悟を持って言い続けること
新型コロナウィルスの感染拡大によって病院受診が抑制されたことが原因か、一般の通院患者の来院は外来では2割ほど減少しましたが、重症化してから来院される方の数が増えました。それに伴い、病院内の業務も劇的に変わりました。
その中で、最も力を入れたのは院内感染の防止です。医療の提供を止めないためにも医療者側の安全を守ることを注力しました。業務中はもちろんのこと、病院外での生活にも注意して濃厚接触者にならないように徹底することを呼びかけました。また、スタッフの健康管理と感染時のルールを設けて感染を最小限に留めることを徹底しました。
感染症への対策意識を職員に高め続けることが困難だという話をよく聞きますが、当院では新型コロナウィルス感染拡大以前から日常的に結核などの感染症に対する意識を向上するために、折に触れて感染症対策の意識づけを徹底しておりました。
持論ではありますが、人の意識を改革するためには同じ事を100回でも1000回でも言い続けることがリーダーの仕事だと思っています。周知する側が同じことを飽きずに言い続けることは大変ですが、その覚悟がないと人の意識を変えることは出来ないと周知し続けた結果、職員には感染防止の意識を高くもって業務にあたっていただけました。
院内感染は感染防止の意識を持っていても起こりうるため、当院でクラスターが発生しなかったことに関して職員に感謝しています。
当時はマスクをはじめ、多くの医療用品が品薄になっていましたが、地域の企業様を含めて様々な方々が、感染防護具購入のための寄付や備蓄していたマスクの寄付をくださり、感謝すると共に医療機関としての責任を実感いたしました。
ポストコロナを見据え、さらなる地域医療連携を進める
現在、新型コロナウィルスは徐々に収束しているように見えますが、完全に感染拡大前に戻ることはないのではと考えております。経営面では感染拡大前に頻繁に来院いただいていた患者様も、以前の頻度で来院いただけると楽観視は出来ません。感染規模が収束した後に経営が傾く病院が多数でてくることが予想されるため、これからが正念場です。
今後、必要とされる病院でないと経営的困難が予想されるため、本当の意味での適正な医療を提供しなければと思っています。そのためには今までとは異なった患者様へのアプローチをしていく必要があるかと考えています。というのも、現状、心肺停止など重症化した状態で救急にて搬送されてくる患者様が増えています。当院は地域柄なのか、重症化しないと通院しないという方が多かったのですが、感染拡大への懸念により拍車がかかった印象があります。
本来治療の緊急性がある方が自宅療養を選択し、手がつけられないほど重症化された状況で来院いただいても、手遅れになってしまう可能性があります。このような方の情報は当院としては知り得ないため、今後のアプローチとしては体調に異変を感じたら、早めに来院いただくような啓発活動をしていくことが大切です。
また、90歳以上の高齢者が増えており、さらに高齢化社会が進む中で、患者様の人生観や価値観、希望に沿った、将来の医療及びケアを具体化するACP(アドバンス・ケア・プランニング)が必要かと考えています。現在、救急搬送をされる高齢者が増えており、その際にどのような治療を希望されるかが不明瞭になってしまうケースも同様に増えています。
例えば、親族の方が救急を呼び、救急隊が駆けつけたところ、本人は処置を望んでいないというようなケースもあります。もちろん基本的には本人の意思を尊重しますが、認知症などを患っており、本人の意思が分からないという場合などもあります。
最期の時を考えることは難しいですが、本人の意思が不明瞭な際、治療に関して誰が意思決定をするのかが決まっていないと医療機関にとっても患者様にとっても不幸なケースが生まれるためACPの啓蒙活動をより積極的に行なっていきます。
ACPの啓蒙活動は患者様だけではなく、近隣の病院や介護施設へも行っていく必要があります。予め、いざという時の本人の意思を明確にせずに救急車を呼ぶ施設様もあるのですが、老衰などでは当院でも処置が困難な場合があります。
当院のように救急を断らないという方針を強く持っている救急病院ですと、一晩で救急の方が3人から4人も搬送されることもありますので、本人の意思が不明瞭な高齢者の搬送が増えると、必然的に明確な手当てが必要な救急の患者様に手が回らないということも増えてくるかもしれません。
「いつでもどこでもだれでもが安心して医療を受けられる地域社会」を実現するために、当院では地域医療チームや、ケースワーカーが中心になって、様々な病院や介護施設の方を招いてディスカッションをする場を設けています。問題は山積みですが、より多く医療福祉施設とコンセンサスを取りながら今後も連携を強化していくつもりです。