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2病院を統合し700床規模の高度急性期病院に。高度専門医療の提供と若い医療従事者の育成がミッション

兵庫県

製鉄記念広畑病院

木下 芳一 院長

近畿

姫路地域の基幹病院である社会医療法人製鉄記念広畑病院さまと、循環器系疾患と脳血管疾患の高度専門医療に特化した兵庫県立姫路循環器病センターさま。この2病院は、2022年5月1日に「兵庫県立はりま姫路総合医療センター(仮称)」として統合されます。新病院が目指す高度急性期、高度専門医療の提供と、若い医療従事者の育成という2つのミッションを中心に、2病院を束ねる木下 芳一院長にお話いただきました。

地域の方々に最良の医療を提供することと、若い医療従事者の育成が我々のミッション

我々が大切にしていることは、地域住民の皆さんに最良の医療を提供し、同時にその医療のレベルを少しでも高くしていくこと、そしてその地域で仕事をする若い医療従事者に十分な研修を行っていくことです。

現在私は、製鉄記念広畑病院と姫路循環器病センターという2つの病院の院長を務めているのですが、2022年の5月1日にはこの2つの病院が統合し「兵庫県立はりま姫路総合医療センター(仮称)」という新病院が開院します。新病院でも、地域の皆さんに必要な高度急性期、高度専門医療を提供することと、姫路地域で仕事をする若い医療従事者を育成することの2つが我々に与えられたミッションだと考えています。

タイプの異なる2病院を統合し、700床規模の高度急性期病院に

2つの病院の統合についてまずご説明します。姫路循環器病センターは、脳血管疾患と循環器疾患に特化した救急医療と高度専門医療をおこなう病院です。高度な専門医療を提供して、かかりつけ医として患者さんの日常の医療に対応していただけるクリニック等と一緒に患者さんの診療を行う専門医療に特化した病院になります。

製鉄記念広畑病院は地域の基幹病院です。発熱のような一般的な症状で受診する患者さんから救命救急センターを受診する患者さんまであらゆる疾患の患者さんの診療を行っております。もちろん救急車も24時間体制で受け入れますし、3次救命救急センターを有しており駐機しているドクターヘリで搬送されてくる患者さんもいらっしゃいます。

このようにタイプの異なる2病院を統合し、700床規模という大型の高度急性期病院を開院し地域に貢献できればと考えています。

製鉄記念広畑病院では徹底したコスト削減の努力を

経営面については、姫路循環器病センターはいくつかの困難な問題を抱えています。循環器系の疾患の診療では医療材料費率が高くなりやすいのですが、現状では薬剤費も含めますと50%に近い状況にあります。これでは医療材料費と人件費だけで医業収益の大部分を消費してしまうことになります。県立病院ですのでコストにかかわらず必要な政策医療をきちっと実施していることが求められておりますので、一面的な評価は避けるべきだと思いますが、医療を安定して継続的に提供し続けることを考えると改善するべき点は多いと思っています。

一方、製鉄記念広畑病院は民間病院ですので経営の体質自体が違います。医療材料比率も20%程度に抑えられています。医療材料費率が低く抑えられている理由としては、注射器や針、ガーゼといったさまざまな消耗品をできるだけ安いものに替えたり、値引きの大きなものを探したりと常に見直しをおこなっていることが大きいと思います。年間の購入予定金額が10万円やすくなるようなら、医療材料の変更が検討されます。医療機器や薬剤の購入についても、価格だけでなく値引き率や保険点数、どこで使われるかなどを細かくシミュレートして計算し、可能な限りのコスト削減を目指しています。

統合後は事務も一緒になるため、厳しいコスト削減に経験の豊富な民間病院のスタッフと、県立病院のシステムをどう上手くなじませていくかが重要だと考えています。

若い医療従事者を増やすため、積極的な育成プログラムに取り組む

冒頭で、地域で仕事をする若い医療従事者の育成も我々のミッションだとお話しました。姫路市を中心とする播磨姫路医療圏は住民人口が80万人以上あるにもかかわらず、人口に比べて医師が少ないことが問題だと考えられています。姫路の地に、医師や看護師を定着させるには、しっかりとした生涯学習ができる若い医療者のための教育の場が必要です。新病院がそうした場になるべく、今から取り組みを開始しています。

医師の育成には、まず研修医を確保することが大切です。研修医となる人材に興味をもってもらうためには、医学生の実習から大学とともに大きくかかわっていくことが必要です。製鉄記念広畑病院では多くの大学の医学部の学生、看護学校・看護大学の学生、薬学部の学生の実習を積極的に受け入れています。コロナ禍でも実習を行う学生の受け入れはできるだけ継続したいと考え、実習予定の学生さんに初日の朝にPCR検査を行い、1時間半後には結果を出し、陰性が確認されたら実習スタートという風に感染予防を徹底した上で実習を可能な限り継続しています。実習の他にも、初期研修医や専門医養成プログラムの定員の増員や、若い医療者を育てることに熱意を燃やしているスタッフを招聘して総合内科や総合外科の設置などにも取り組んでいます。

今後の課題は働き方改革への対応、時間外労働を減らす取り組みをどうするか

今後の課題としては、2024年から始まる働き方改革への対応が挙げられます。現在、両病院とも24時間体制で患者さんを受け入れる救急救命センターを持っており、たくさんの救急患者さんを受け入れているため、救急医療にかかわる医師の年間の時間外労働時間が1,500時間前後になることも少なくありません。医師に認められている標準的な年間時間外労働時間は960時間以下ですので、この基準に収まらない医師が多く出てくる可能性があると思っております。

総医師数が多くない地域ですので、医師の数をむやみに増やさずに医師の仕事を他職種にタスクシフトし、医療事務作業補助者の増員や特定医療行為ができる研修をうけた看護師さんを増やしていくなどの取り組みが必要だと考えています。

救命救急医療の現実を考えると、救命科医師を全国的に増やすことも必要

医師の働き方改革を推進しておられる厚生労働省によると、救命救急センターで救急の患者さんが搬送されるのを待っている時間は全部時間外労働だと解釈されます。このため製鉄記念広畑病院では救命救急センターに勤務する医師にはすでにシフト勤務制を導入しています。シフト勤務制を導入していても年間の時間外労働時間が960時間を超えてしまいます。

この部門でのタスクシフトには限界も見えておりますので、救命救急医療にかかわる医師の育成も重要な課題だと感じております。

今後のICT化・DXに期待するのは診断から治療への連携があるAI

次に医療のICT化やDXに関してですが、画像診断をサポートするAIを搭載したCTやMRI、内視鏡などが実用化されつつありますので、画像診断の仕事は医療安全上の改善とともに、負担が軽くなっていくとは思います。しかし、手術など経験や技術が必要な部分ではなかなかICT化やDXで問題を解決していくのが難しいのが現状です。

例えば、AIを搭載したCTを使えば骨折かどうかの診断をしてくれますが、医師はその後にどんな手順で手術を行えば安全で確実な治療ができるかを計画しなければなりません。今後はそうした治療計画にも関与してくれるAIなど、診断から治療への連携を支援するためにDXが使用されるようになるとより便利になるのではないかと思います。

また、Ubieさんが提供されているタッチパネル型のAI問診なども、もっと進化してもらえるとありがたいなと考えています。外来患者さんには高齢の方が多いので、タッチパネルで質問に答えていくのが難しい方もおられます。バーチャルの看護師さんが画面に現れて、細かいニュアンスも含めた対話を患者さんとおこない、その情報を系統的な文章としてカルテに医学用語で書き起こしてくれるというような形まで技術が進んでくれたら、より有用なのではないでしょうか。

新病院の研究部門で新技術を開発し、より良い医療に役立てたい

新病院では製鉄記念広畑病院のように医療材料比率を抑え、コスト削減を進めたいと考えていますが、適切な価格での医療材料の購入だけではなく、より安価な医療材料の開発にもかかわっていきたいと考えております。新病院の別棟に、兵庫県立大学の先端医工学研究センター、獨協大学の医学研究センターが入ります。はりま姫路総合医療センター(仮称)ではこれらの研究グループと共同の臨床研究を通じて、もっとコストが抑えられる医療材料や技術の開発を行っていきたいと考えています。

すでに製鉄記念広畑病院と兵庫県立大学の先端医工学研究センター、地元企業の共同研究の結果、AIを活用してCT画像から骨折を自動検出する技術も生まれています。このような新しい技術や医療材料の開発による収益も新病院には期待されています。今後日本で増えていく疾患群は「脳血管障害」「心不全」「骨折」と考えられておりますので、それらに関連した技術は特に注力していくつもりです。

こうした技術研究を、地域住民の皆さんへの最良の医療の提供に、そして地域の若い医療従事者の育成に繋げていくことが新病院である、はりま姫路総合医療センター(仮称)の役割であると考えています。