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高齢化がすすむ沖縄では、地域ニーズにあわせた医療サービスの提供が求められる

沖縄県

社会医療法人 仁愛会 浦添総合病院

福本 泰三 病院長

九州

高齢化がすすむ沖縄に所在する浦添総合病院。医療を必要とする高齢者が増加し続け、医療を取り巻く状況も大きく変化するなか、急性期病院である同院は日々奮闘を続けています。同院の福本泰三病院長に沖縄県の医療における課題や現状、同院の展望などについて詳しく伺いました。

沖縄の地域ニーズにあわせた医療サービスの提供が必要

浦添総合病院は創業時から一貫した明確な理念がある一方、時代の流れで周辺の時勢が動いています。そうしたなかで、その理念を僕らがどう実現していくかに尽きると思うのです。

具体的には、地域ニーズを満たす医療サービスの提供という理念をどう具現化するかが重要だと考えています。最近であれば、コロナとコロナ以外の疾患それぞれにおいて急性期の患者さんをしっかりみようと決心している状況です。

たとえば、臨床指標をみると当院に入院されている患者さんのうち、約6割が救急入院となっています。一方の予定入院率は40%です。沖縄県内の病院は予定入院率が過半数であることが多いので、この点は沖縄県内でも当院の際立った特徴であると考えます。実際、当院ではより急性期に近い病態を優先的にみているのです。

近隣には周産期・母子医療センターが3つありますので、今は僕らがその機能を担う必要がないと考えています。また、当院は総合病院という名前になっていて、創業時は小児科も産婦人科もありました。しかし、現在はその機能は他院にゆだね、当院は成人向けの地域救急救命センターとしての役割を果たしたいと考えている状況です。

厚労省の調査では、当院に小児科や産婦人科がない点について指摘されたことはあります。その際は、僕らの立ち位置や地域内での棲み分けについて説明させていただきました。

沖縄という離島の特殊な医療事情のなかで、僕らの役割を際立たせたいとも考えております。たとえば、コロナ診療に関しては東京や大阪なら地続きという地の利があるので、患者さんは隣県の病院へ運んでみてもらうといったことも可能です。ヨーロッパでもフランスからドイツへ、ユーレイルを使って患者さんを輸送したという事例がありました。

一方で、離島である沖縄では、そういった協力を期待することはできません。各院それぞれが担う役割をかなり高いレベルで果たしていかないと、県民の健康が守れないのです。

そうしたなかで、浦添総合病院が沖縄本島で果たすべき役割はコロナ診療についても非コロナ診療についても急性期医療です。急性期の患者さんは特に、簡単に飛行機で遠くへ運ぶこともできません。沖縄本島のなかで医療を完結しなければならないわけです。そういった意味で、地域のニーズを満たす医療サービスの提供という理念に沿ってできることをしてきた、というのが当院の実情です。

沖縄県の医療体制に足りないものとは

コロナ禍のなか、いろいろなところで様々な情報が出ていますが、沖縄県全体としてはうまく第5波まで乗り切れたとは思います。県内では国立病院をはじめ、県立病院・民間病院がスクラムを組んで患者さんを受け入れてきました。ただし、必ずしも最適な対応ができていたとは言えません。

たとえば当院では、先ほどもお話したように、重症のコロナ患者さんと残りの非コロナの高次救急にあたる部分を中心にみようと考えていました。しかし、県内では重症度の低い患者さん向けの医療提供体制が一気に悪化し、当院も病院運営には苦慮しました。具体的には、当院にある334ある病床のうち、重症のコロナ患者を重点的に診るために、約1/3を休止しました。

結果的にどうにか乗り切ったとは言え、救急車に乗って待っているのに当院も含めどこへも運べないということが起こる寸前だったのです。急性期医療の役割を果たすべき浦添総合病院としては、これは大きな問題であることは言うまでもありません。

こういった状況をみると、非常に強いリーダーシップをもって、県内の病院を動かせる人が必要だと感じますね。沖縄県内では病院同士のコミュニティがあって、会議は集まって行います。お互い仲はすごく良くて、実際に連携しています。しかし、会議でも大きなリーダーシップや最後の一声がなく、物事がなかなか決まらない点もあります。
役割分担という点で言うと沖縄県ではコロナ禍でなくても、回復期病床が常にいっぱいの状況です。そうしたなかで、急性期病院である当院でも、他院に転院できない回復期の患者さんを長期間にわたって引き受けている実状があります。

しかし当院の入院病床機能ではリハビリが十分にできず、他院に比べ回復が遅れてしまうということもあるのです。高診療密度病院でありながらcaremix構造を抱えております。沖縄ではpost acute careを得意とする医療体制の整備が急務だと思っています。

「信頼と人間性豊かな医療」をいかに構築するか

われわれは「信頼と人間性豊かな医療」をどう構築するかという点も重要だと考えています。当院ではコロナ重症病棟に患者さんの家族が入れるようにし、コロナ患者さんと面会していただいたということがありました。この件については当院の職員がいくつか取材を受け、マスコミでもニュースになりクローズアップされています。

今でこそワクチンや重症化しない薬もありますが、当時はそういったものもない頃でした。コロナ患者さんにご家族を会わせるのはリスクが伴うのは否めないので、当院としても難しい判断であったことは間違いないです。ただ、患者さんに会いたいと考えるご家族に対し、今回のような判断をするためにはお互いの信頼がないとできません。こういった問題を解決するためにも、信頼と人間性豊かな医療が必要になるのです。

高齢化がすすむ沖縄ではより高品質な情報共有の仕組みが求められる

回復リハビリテーション病床の回復機能の精度や、地域包括ケアベッド病床の整備状況などが今はまだまだ発展途上の状況です。リハビリを終え、生活に戻る人などを区分けして、どんな回復機能ルートを通って、普通の生活に戻っていくかということが最適化できていません。

地域連携パスはあるものの、ちゃんと生活に戻ったアウトカムとしてはみられない状況なのです。介護系のもの、それから医療系で使われた資源がどれだけあるのかなどもわかりません。

たとえば、転倒して大腿骨近位部を骨折された患者さんが当院に入院していただいたとします。その際、自宅に帰るまでどんなケアを受けて、どれくらいの社会資源が投入されて、どんなアウトカムになったかまで責任をもってみられる体制になっていません。

このあたりを作っていく作業はこれから出てくると思うのですが、すごく注目していますね。どんなケアをどう束ね、効率よく安価で一番いい答えをだすのかという仕組みが、これからの沖縄には求められると考えています。

沖縄は今後、全体の人口は減る予測がありますが、高齢者はすごく増えてきて20〜30年は高齢者特有の疾患が増え続けるでしょう。そうしたなかで我々は、サービス提供側の少ない人的資源と少ない医療や介護の資源をどう使うかとなったとき、ケアの連続性を統合するような情報共有の仕組みが求められると思うのです。

それから複数ある病院の地域連携室の機能を集約し1つにまとめたいですね。たとえば今は回復系の病院へ患者さんが転院することになった際に、当院の相談員が患者さんの情報を相手方の病院へ電話して、先方の相談員へ伝えます。次にその相談員が担当の先生へ「どうですか」と相談し、3日間後ぐらいに「なんとかなりそうです。」みたいな仕組みになっているのです。

周辺からvirtualに一か所に集約された地域連携室へいろんな病院や施設の人がweb上で集まることで、情報共有してこの問題が一気に解消できるようになればいいと思うのです。同じ端末を一緒に覗きながら「明日どうぞ。空いています。」といったように、迅速に情報を共有したいですね。

僕は、アメリカで「アカウンタブル・ケア・オーガニゼーション(ACO)」という仕組みをみてきたのですが、ものすごいルールが明確でした。たとえば超急性期病院に入って手術して、4日後にはもう転院できる状況になっているのです。24時間以内に、転院などが明確に決定されていました。

少し無理をしているところはあるかもしれないですが、すごく計画がしっかりしていてアウトカムもきちんと出ています。いくつもいい流れのグループがあって、グループごとに競い合って、いいところにはインセンティブがどんどん出るという状況なのです。こんな風に日本も今後変わっていくのではないでしょうか。

カスタマーサティスファクション向上のため「ルールと実態の可視化」を進める

当院では今、毎週「外来診療改善ワーキンググループ」というのを開催しています。外来において現在、サービスが行き届かない点が複数あるのは否めません。たとえば、駐車場が空いていないという話からサービス改善し、カスタマーサティスファクション向上を目指すべきだと考えています。

駐車場の話で言うと確かに混む時間があります。その理由を調べてみると、医師の働き方に必ず直結するのです。たとえば、金曜日はこういう手術があって外来対応ができないという医師が複数いたら、外来や検査など対応可能な数が減ります。その結果、金曜日に病院へ来られる患者さんが減り、その分が火曜日の10時に外来数がすごく増えるといったことがあるわけです。

だからそういった実態を可視化することで、改めて対応策をルール化し改善につなげることができると考えています。今後は、そういった作業をしていきたいですね。

患者さんも職員も集まる「マグネットホスピタル」を目指したい

中長期的な視野でどのような病院にしたいかという点では、患者さんも職員もどんどん集まるマグネットホスピタルを目指したいですね。今でも当院には多くの患者さんが集まっています。

とはいえ、まだまだ地域のニーズに応えきれていないのが実情です。当院としても辛い現実ですが、病床がいっぱいであるなどの理由でお断りしているケースもあるのです。しょうがないことではあるのですが、本当は沖縄県中で僕らがみるべき患者は全員みたいというのが本心です。

そういった意味では、今回お話した課題の解決も必要ですし、職員も足りていません。たとえば現在の当院は、通常より看護師さんが20人ほど少ない状況です。だからその20人分の仕事をタスクシフティングで解決していきたいと考えています。