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公益に資する医療提供のため、行った選択と集中。続く経営不振を脱却した職員全員参加の病院経営とは

北海道

士別市立病院

長島 仁 病院長

北海道

急性期が中心の医療体制から、慢性期を中心とした医療体制へ大胆に変革を行うことによって経営の回復を行った士別市立病院。地域住民のため、利益の出づらい領域での医療提供をも維持する必要があるという難易度の高い病院経営の中でも黒字経営を維持し続ける長島 仁院長に病院経営の根幹となっている市立病院としての存在意義についてのお考えを伺いしました。

市立病院であることの意義、公益に資する医療提供への使命感

当院は私が院長になった6年前に急性期を中心とした病院運営から、慢性期療養を中心へと方針変更しました。具体的には急性期病床を半分にして、慢性期病床を3倍にしました。かつては近隣病院の名寄市立総合病院と同規模で同領域の急性期医療を提供していました。しかし、当地域の人口減少や、医師の減少により経営状態が非常に悪化したことによって、上記の方針転換を行なったという背景があります。その結果、60年ほど経営不振だった当院は、その後6年連続で黒字経営を達成しています。市からいただく補助金も、最も多い時に比べると5億円以上削減することができました。

このような激しい改革を行う際の原動力として、最も大きかったのは市立病院としての使命感です。当院は一部税金を財源に運営させていただく病院ですので、公益に資することができなければ存在意義がないのだという強い使命感を持ち、職員に対しても『意識改革』ではなく『意識覚醒』を呼びかけ、一丸となって激しい改革を実行することができました。現在も市立病院であるからこそ、公益に資する医療提供を行わなければならないという使命感を最も大切にしています。

全員参加の野球のような病院経営。職員が当事者意識を持って経営に気を配る理由とは

当院は他院に比べて、職員の経営に関する参加意識が強いように思われます。一般の職員であっても経営状況に関して気にかけている方が多く、職種を問わず業務の効率化を自ら模索する文化があります。このような文化は、地方の小規模病院のなかで苦労を分かち合ったことにより醸成することができたのだと思っています。

急性期を中心に据えていた時期は、循環器科、消化器科、外科、整形外科を4つの柱として経営を最大化していくという方針でした。長く継続していたその方針から慢性期を中心に据えるという方針転換の極端さから、職員の一人ひとりが当時の経営状態の深刻さを意識したのだと思います。

職員に芽生えた危機意識をさらに深く浸透させることが職員が一丸となるためには重要だと考え、私自身多くの時間をかけて職員に経営の状況を共有しました。共有した経営に関する危機意識と現場の感覚を擦り合わせるには長い時間を要しましたが、結果として現在のような文化の醸成に至りました。また、方針の転換によって、経営が黒字化したことから職員が方針の正しさを実感できたことも、職員が経営視点を持つ良いきっかけになったと思います。

職員の経営視点をさらに高めるためには、職員の日々の努力が経営数字に紐づいている事を実感していただくことも大切です。そのために、マネジメントメンバーには必ず経営状況の共有を行う際に、地域住民からの方針転換に関する理解の声などを共有し感謝を告げております。また、私自ら朝と夕方に院内の病床を巡回し現場の職員に飲み物などを差し入れるとともに尽力を労う事を大切にしています。

近隣病院と医療領域を切り分け、連携することにより目指す地域医療の維持

慢性期医療中心の病院経営に方針を変更したことによって、当院で受けきれなくなった急性期の患者様は近隣の名寄市立総合病院にて対応をいただいております。かつて両院の連携はさほどなかったのですが、名寄市立総合病院と話し合いを重ね両院の住み分けを定めることによって良好な関係性を築くことができました。しかし、さらなる病院間の連携の強化が必要と考えています。

人口減少が進む限り医療における総需要の低下はさらに進むことが予測されます。新型コロナウィルス感染拡大の前に厚生労働省が公的病院の25%にあたる全国424の病院について「再編統合について特に議論が必要」とする分析をまとめ、病院名を公表しました。

当院はリストに入っていなかったのですが、北海道の北部に存在する病院のほとんどはリストの中に挙げられていました。これらは政府の認識として、地方公立病院の重要性が低下していると捉えることもできます。しかし、どのような地方であれ、医療を求める声がなくなることはないため、病院間連携によって地域医療を維持していくことが必要です。

寒冷地域における地方医療の現実と課題

士別市は札幌市と同等の面積があり、東京23区の2倍近い面積です。そのような地域に病床を有しているのは当院だけで、地域医療システムの中核となっています。だからこそ、近隣病院との連携により急性期診療の機能を補完しながらも慢性期診療のレベルをさらに高めて行かなければと思っています。

療養病棟の中で地域包括ケア病床があるのは道内でも数が少なく、療養病床における入院診療が当院の柱になっております。経営面だけを考えると注力領域をさらに伸ばしていくことが正しいとは思いますが、地方の現実を鑑みるとそう断言することもできません。

例えば、当院では夜間の救急外来を維持しているのですが、実際に1日に受診される患者様は平均3件ほどであり、収益には非常に繋がりにくい外来となっています。近隣病院には救急救命センターがあり小児科も含め24時間対応が可能であることも踏まえれば、止めてしまうことが経営における正解であるとも思えます。

しかし、当院が夜間の外来を廃止してしまうと、地域住民は夜間に具合が悪くなった際には車で遠い方は、40キロの距離を移動し近隣病院へいく必要があります。北海道という寒冷地域であるため、冬季は移動が困難であり高齢者が多い地域の傾向を考えると、いかに採算が合わなくても、やらなければならないことが数多くあるというのが地方の医療の現実です。

地域の医療を全医療機関で支える。役割の切り分けと情報共有を徹底したスムーズな地域医療連携

採算が合わなくてもやらなければならないことが数多くあるという制限の中で利益の最大化を行うためには、やはり地域医療連携は非常に重要な要素となります。そのため日々地域の医療機関との連携を強化する施策を実施しています。

急性期の部分を担っていただいている名寄市立総合病院との連携にはITツールの活用を行なっております。『ポラリスネットワーク』という当院を含めた4病院間でスタートした医療情報ネットワークシステムにて互いの情報を共有し、患者を搬送する際などに活用しています。急性期の治療を終えて当院に患者様がお戻りになられる際にも役立てています。今後は当院が名寄市立総合病院と同一の電子カルテを導入することによって、電子カルテ上のデータをクラウドのように共有していきたいと考えています。

また、当院で設置していない科にて対応するべき症状が見られる患者様に対しては、医療圏をまたいで隣の市にある名寄市立総合病院へ搬送しても良いという体制を救急隊と定めています。さらに連携パスによって、治療を名寄市立総合病院にて行い、療養を当院にて行うというスケジュールを即座に組むことが可能です。このような連携によって、当院の転院患者様の8割が名寄市立総合病院からとなっています。

地域医療連携に関しては、クリニックとの連携も重要です。士別市内には市が委託している診療所が3つあり、それらの診療所とも患者の紹介を含めて密な連携をとっています。また、耳鼻科や眼科、整形外科など内科以外の開業が増えているため、内科的な疾患様の紹介はいただきますが、逆に当院で補えない外来の疾患に関しては、足りない部分を診療所へ補完いただくため積極的にクリニックへ紹介するなど、分け隔てなく全医療機関との医療連携を行ない地域医療に貢献しています。

さらなる選択と集中が迫られるなか、士別市立病院が目指す在り方とは

士別市の医療の中核として当院が機能し続けることができるよう、慢性期診療の質と量を職員一丸となって高めていきたいと考えています。また、黒字経営であるということは、職員の頑張りを見える化するための最も大きな指標ですので、当期純利益を出すことが重要と思っています。

高齢化と人口減少が深刻化する中において、医療の総需要はさらに減少することが予想されます。そのような中で、当院は今後さらなる医療領域の集中と選択の決断に迫られることになるかと思います。地域の方々に不便な思いをさせないよう、地域医療連携をより強化しつつも冷静に担当する医療領域の優先順位をつけていく必要があります。

また、寒冷地域である士別市は高齢者が多く、移動手段のない方が多くいます。当院や近隣病院への来院のハードルを少しでも下げるために、公的な移動手段が必要だと考えています。健全な病院経営を行うことによって地域に医療で貢献することは当然のことですが、今後は医療機関への搬送サービスを実現することによって、公益に資する医療機関として在り続けたいと考えています。

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