患者さんに均質かつ良質な医療を提供する……。そのビジョンを達成するために国立病院が行った『ソフトとハードの両面からの働き方改革』とは?宮城県医師会・宮城県医師会女性医師支援センタ-イクボス大賞を受賞された仙台医療センターの橋本 省院長に医療経営の真髄をお聞きしました。
均質かつ良質な医療提供に必要なことは現場への理念の浸透
当院では2008年から品質マネジメントシステム ISO 9001の認定を受けております。品質管理の世界共通ルールである ISO 9001の認定を取得する過程において全病院職員が関わっておりますので、医療の効率化や均質の理念が職員一人一人に浸透しており、それに基づいた行動をしてくれています。
もともと近い理念を下地として持っていたとは思いますが、認定を取得することによって、さらに一人一人の認識が定まったのではないかと思っております。その結果、病院全体として無駄なことはしない、安全安心な医療を患者さんに提供するということを病院の職員全員で取り組むことが出来ています。
均質的な医療の提供のための施策とは
昨今、「働き方改革」がよく取り上げられますが、当然病院にとっても大きな問題です。当院では働き方改革が始まった頃に全医長にお願いして、主治医制の廃止を進めました。主治医制ですと特定の患者さんの状態を他の医師が把握することが困難だったりと、均質性が失われてしまう可能性があります。そのため、主治医制ではなくグループ診療をメインに切り替えました。
従業員のスキルの均質化も大切ですので、全ての診療科で業務や対応におけるマニュアルを用意しております。そのため、職員として新たに迎い入れる方の教育を効率化することができております。
医療従事者の満足度を高めるためのソフトとハード両面からのサポート
私が病院経営で特に力を入れているのは、ES(エンプロイーサティスファクション)についてです。良質な医療の提供のためには職員が働きやすい環境であることが非常に重要です。病院は特に女性が多い職場ですので、病院で働く女性たちへハードとソフトの両面から働きやすい環境を提供できるかどうかが大切です。
改築に伴い、当院では『レディースゾーン』という女性専用のエリアを設立しました。女性専用の当直室、仮眠室などの設備も同様に用意し、女性職員が少しでも快適に働くことができる環境を整えることに努めております。
病院の職員として働いている女性ができるだけ長く働いて欲しいと思っていますが、女性には出産・育児というライフイベントがあります。素晴らしいことですが、大きなライフイベントですので特に女性医師にとっては離職の原因にもなり得ます。働く環境が原因で優秀な女性職員が長いあいだ職場を離れてしまうことは、本人にも病院にとっても望ましいことではありません。
そうならないために病院には保育所が必要と考え、病院を設計する際には保育所を中心に行いました。育児経験者の意見も聞き、保育園にはやはり日当たりと土の園庭が必要だということで敷地の中で最も日当たりが良い場所に建てる事にしました。それに付随する形として、管理区域のレディースゾーンに隣接する形で病児保育や搾乳室などを配置しています。少々極端な考えかもしれませんが、その甲斐あって、優秀な女性職員を採用できております。
働く職員のことを考え、当たり前のことを当たり前に。その意識が評価されるポイントに
ハード面での支援は、病院の改築の際に行なったことではありますが、ソフト面での支援に関しては昔から行なっておりました。短時間正規雇用やフレキシブル制、女性のライフイベントに適応した育休や当直免除なども昔から当然のように行っております。もっとも、当直免除などは国立病院機構として規定にも入っていますので、特別なことをやっているという意識はなく当たり前のことをやっているという認識です。
部下の育児参加に理解を示し、積極的に支援する上司を『育ボス』などと言うようですが、宮城県医師会・宮城県医師会女性医師支援センタ-イクボス大賞にて第一回目の大賞を受賞できたことは、そういった取り組みが認められたのかなと思っております。
さらに均質で良質な医療の提供のために、ICT化へのチャレンジ
これから注力して行きたいと考えているものの中にICT化の促進があります。新しく病院を開くときにICT化を進めるための機材としてiPhoneを取り入れました。PHSの代替としてという意味合いもありますが、ナースコールが看護師の所持するiPhoneに表示されれば、他の業務中でナースステーションに居ない時でも、対応することができます。また電子カルテの入力もなかなか大変ですので、iPhoneの音声入力を用いて業務効率化ができないかと考えています。
病院は高度な個人情報が集約されているため、堅牢なセキュリティが必要とされます。セキュリティレベルを保ったままでICT化を進めていくことが今後の課題であり、私個人としてはいち早く実現して行きたいと考えております。
当院の理念である『最善の医療を尽くして社会に貢献する』ためには患者さんだけでなく職員にも優しい病院であることが必要です。そのためにも他職種の方達と協業することでタスクシフトを行うなど、医師が医師にしかできない仕事に注力できる医療環境を提供できるよう今後も努めてまいります。
(※ICTとは「Information and Communicaion Technology」の略)