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地域の役割を全うするために在宅医療も盛り上げる。研修を通じた地域間医療連携とは?

滋賀県

長浜赤十字病院

楠井 隆 病院長

近畿

地域の重要な医療拠点として、救急、災害、小児、周産期医療の4事業に取り組みながら、精神科救急入院料病棟の開設等、幅広く患者様のニーズに対応されていらっしゃる長浜赤十字病院。医師一人、一病院だけでできることの限界を理解し、チーム医療、医療間連携に力を注ぐ楠井 隆 病院長にお話しを伺いしました。

患者様やスタッフのより良い生活を実現するために、医療の効率と質を追求し地域内の役割を全うする

当院は急性期医療機関として地域全体の医療体制への役割を果たしたいと考えております。全国的に医師数が不足している中で、滋賀県の北エリアは都心と比べて医師の獲得は容易ではありません。だからこそ、少しでも働いてくださる医師や他の職員にとって働きやすく、充実したキャリアを築ける病院でありたいと思っています。

患者様についても、ここ十数年来ガイドラインが整備されてきて効率よく質の高い医療提供が可能な状況になりつつある一方で個別化が進む今日において、家庭環境など個々の患者様の生活に関わる事情に関してもできる限り寄り添えるような体制を整えたいと思っています。

個人の限界を理解し徹底する、診療科を超えた院内連携

全国的にも高齢化が進み、2025年には団塊の世代がみな後期高齢者になります。高齢になれば複数の疾患を抱えていたり、生活上の問題を抱えておられることも少なくありません。そのような状況では、意思決定支援や生活支援といった面でも医療機関等が連携して地域医療が一丸となることが非常に重要です。同じことは病院内でも言えます。救急に限らず、一人の医師が全ての分野を診ることは困難ですので、医師同士が協力し合って体制を支えていく必要があります。他の職種の視点での意見も非常に重要です。

当院ではそのような協力関係を築くことができているという特徴があります。特に要請しなくても複数の領域にまたがりそうな病態の患者様がいると、手が空いている医師が様子を見に来たりと、縦割りの病院組織では実施しづらい体制を作ることができております。医師以外の方の意見も大いに尊重されます。

研修を通じた医療機関との連携により、死角のない医療提供を目指す

前述したように、院外の連携も高齢化社会においては非常に重要です。当院では市立長浜病院と協力して急性期医療を提供していますが、医療圏として後送病院があまりないという特徴があります。また比較的田舎でもあるため、患者様の在宅医療のニーズや在宅看取り率が高いという傾向がありました。急性期医療である当院としても在宅医療の体制が整っていないと、平均在院日数が伸び放題になり診療の効率が低下するため、在宅医療の取り組みを盛り上げていく必要性がありました。そのため、リハビリ方法や栄養情報などあらゆる情報を介護施設や行政と共有し、在宅医療をサポートしております。滋賀県全体で運用している医療情報ネットワークである「びわ湖あさがおネット」による病診・病病、介護事業者等との情報連携や地域連携パスの運用についても地域を挙げて県内をリードしている状況です。

さらに初期研修医には実務として訪問診療に携わらないとしても、在宅医療に積極的に関わってもらい、連携の必要性を現場で感じていただける体制を整えています。リハビリにしても病院の中にいると、椅子とベッドという洋式の生活が当たり前だと思ってしまいます。一方で在宅の現場においては、布団や座敷といった和式の環境もあります。そういった実態を見ていただき実生活に沿った医療的な指示ができる医師になってほしいと思っております。

長浜市でも北部においては、開業しても採算を取ることが難しいエリアもあり病医院が少なく、放置しておくと無医村になってしまう可能性もあります。だからこそ総合診療を熱心に対応して下さっているクリニックには、研修先として当院の医師を派遣しております。在宅医療では24時間365日のケアが必要ですので、複数の医師が対応することが理想的です。しかし診療所で複数の医師を在籍させることは難しく、開業医の院長医師ひとりで対応することも物理的に困難です。そのため、今後は当院から医師を派遣することによって複数の医師がいる状態を整えて在宅医療が可能な体制を強化していければと考えております。また、医師を派遣するばかりではなく、総合診療の研修プログラムとして当院では近隣の医師の受け入れの実施を予定しております。総合診療の研修プログラムの中では診療所ベースで行う研修と、一般内科、小児科、救急といった病院で行う研修があるのですが、こちらを当院にての受け入れを行い、より連携を深めていきます。

業務の所要時間を把握・管理することによって業務効率化だけではなくスキルアップを実感するための取り組み

働き方改革は時間外勤務を減らすということに意識が向きがちですが、本来はワークライフバランスの問題であり、職員が「ライフ」を充実できることが重要だと思います。だからこそ、院内では男女問わない家事や子供の学校行事への参加、家族を巻き込んでのレジャーを推奨しています。一方で、当然業務の効率化も必要ですので、例えば宴会の予定がある日など17時に終わる日をモデルにして時間内に業務が終了するようお願いしています。そのためには、個々の業務に関して所要時間を把握・管理する必要があります。今まではただ伝えるだけでしたが、年度が変わったタイミングから、具体的に業務完了までの時間を宣言してから業務に当たっていただきたいと思っております。

医療はチームでおこなうものなので、一人ではできません。そうなると自らの業務に他の人を巻き込むことになります。だからこそ、複数の職員が関わるような状況では、積極的に所要時間を宣言してもらうようにしてもらいます。予測の精度はスキルの向上とともに向上します。この取り組みにより、業務効率化とともにスキル向上を実感いただけるのではと思っています。また、『緊急対応』『積み残し』『会議』といった粒度で業務を分類し、積み残しについてはタスクシフトを検討するなど、業務の仕分けを行なっております。緊急対応以外の業務をいかにスリム化できるか、効率化できるかを検討するためのデータを取得しております。医師以外の職員についても、時間外が多い者については原因を分析し、直接的な患者様対応以外の工程はITツールの導入で解決できないかを検討していく予定です。

教育支援による医療向上で圏内の重症患者を支える。全うするべき役割と責任

現在も研修などにより、提供する医療の担保は行なっておりますが、外傷医療に関しては滋賀県の中でもしっかり診られる救急病院は少ないため、特に力を入れていきたいと思っております。外傷医療には後遺症が残る場合もあります。後遺症については、本人だけでなく家族や周囲の方も非常にショックが大きい。ここをケアすることも病院の役割だと考えており、精神科的な面でのケアやサポートも行っております。また、整形外科領域の中でも外傷医療は最新の医療機器を使うわけではなく、患者様へ個別での対応が不可欠です。これらの理由から、大学病院などでも注力しているところは少ないからこそ、当院で外傷医療を注力していきたいと思っています。

赤十字という病院の特性もありますが、災害時も含めていざというときにしっかりした医療を提供したいと常々考えています。コロナ禍においても、一般の救急を含めた急性期診療と両立して受け入れを行うことができたので、コロナ以外の急性期診療も含め、重症な患者様を診ていきたいと考えております。災害医療においても外傷医療は親和性が高いため、強味が発揮できるはずです。一方で、医師数が少ない地域の病院においては、医療業務ができる看護師を教育していくことも重要です。職歴の浅い人材であっても職種の代表であるという気概を持っていただくことが必要です。さらに、認定看護師等の資格を取ると、看護師自身が判断して仕事ができる領域が広がりますし、そのような人材は病院としての財産にもなるため、教育と支援に注力いたします。

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