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150年にわたり福島県の医療に尽力。近年は周産期医療の再開や在宅診療センターの設立など、地域のニーズに応える                                       のアイキャッチ画像

150年にわたり福島県の医療に尽力。近年は周産期医療の再開や在宅診療センターの設立など、地域のニーズに応える                                       

福島県

公立岩瀬病院

土屋 貴男 院長

東北

福島県中部の須賀川地区に位置する公立岩瀬病院。280床前後の中規模病院ながら周産期医療、がん診療、在宅医療、救急医療、災害医療などを幅広く担い、150年もの長きにわたって高度な医療を地域に提供し続けてきました。土屋 貴男院長に、病院を経営する上で大切にしていることや地域の患者さまへの想い、今後病院として実現していきたいことなどを伺いました。

●地域のニーズに応えるため産科医療を再開。周産期医療を一手に引き受ける

明治5年の設立当初より当院は、地域の患者さまへ貢献することに対して非常に強い想いを抱いています。医療というものはその大部分が、地域に根差した事業です。当院の理念にも「患者さん中心の医療を実践し、地域の皆さんに信頼される病院をめざします」とあるとおり、地域の方々に必要とされる病院運営を常にこころがけることが、当院が一番大切にしていることです。
長い歴史の中で患者さまのニーズは変化しており、今一番求められていると感じるのは産科医療・小児新生児医療です。時代の流れの中で産科医不足の時期があり、当院では産科医療を一時中断していました。しかし、近隣の国立病院である福島病院が2017年3月に周産期母子医療センターを閉鎖することになり、地域の方々のニーズに応えるべく同年4月に産科医療を再開するために周産期センターとNICUを増設しました。現在では須賀川地区のみならず福島県全体における周産期医療を率いていく病院としての役割も担っています。

●消化器関連の疾患に強く、腹腔鏡手術数は県内随一。医療スタッフの質も高く維持

当院は中規模病院でありながら、産科婦人科以外にもさまざまな診療科をカバーしています。中でも消化器内科・外科では質の高い医療を提供しており、腹腔鏡手術の数は県内有数です。さまざまな消化器疾患のうち、近年では特にがん治療にも積極的に取り組んでいます。がんは手術だけでなく、その後の抗がん剤治療や患者さんの心のケア、緩和ケアなどが必要で、長い年月にわたって患者さまと関わっていくことが多い病気です。だからこそ、地域医療を担う当院のような病院がしっかりと診療・治療を担っていくことで、地域の方々の利益につながっていくと考えています。

当院の強みとして消化器関連で質の高い医療を提供できている背景には、関連大学と非常に強い連携を取り、優秀な医師を集めていることが挙げられます。加えてハード面や医療機器の整備にも力を入れており、看護師など医師以外の医療スタッフの質が高いことから、医師にとって魅力ある病院となっていることも一因でしょう。
働く職員のモチベーションが高く、強い責任感を持って日々仕事にあたってくれる点も当院の大きな強みの一つです。当院は教育機関としての歴史も長く、開設当初は当時わが国でも珍しい西洋医学校が併設されていた時代もあり、現在も長い歴史を持つ附属高等看護学院を併設しています。当院の医師、看護師、コメディカルスタッフが定期的に看護学院で講義を行うと共に、さらに臨床研修指定病院でもあるため研修医教育にも病院全体で力を入れています。また、福島県立医科大学を始め、近隣の薬学部や医療系学部からの学生の研修も頻繁に受け入れています。そのような歴史の中で、当院の職員には、常に模範たる医療者でなければならないとの意識づけが自ずとできていったのだと感じます。教える立場に立つために学び、その学びが職員自身のレベルアップにもつながっていく。そのようにして、職員全体のレベルが一定の高い水準に保たれているのです。

●医師を確保するため、負担軽減策として医療秘書や認定看護師を充実させている

おかげ様で当院には優秀な医師が集まってきていますが、病院全体で見ると医師数は依然不足しています。福島県はもともと、人口10万人あたりの医師数が全国でもかなり少ないほうでした。その上さらに、東日本大震災や原発事故の影響で、医師数の充足に苦労する状況が続きました。最近では一時期よりもかなり医師の確保は進んできましたが、全国平均と比較するとまだまだ足りない状況です。
医師不足を解消するための施策として、自治体と協力しながら関連大学との連携をさらに強化していくことや、リクルートにも力を入れています。同時に、現在勤務してくれている先生方の負担が少しでも軽くなるよう、積極的にタスクシフト・タスクシェアをおこなっています。当院は比較的早い段階から医療秘書を積極的に採用しており、診断書やサマリーの作成といった事務作業、患者さんなどへの連絡業務等については、多くの部分をシフトできています。
また、看護師のスキルアップにも力を入れています。現在は、特定行為研修修了した看護師が3名、認定看護師が8名在籍しています。看護師が行える処置が増え、医師の負担が減っているのはもちろん、医療の質や患者サービスの向上につながったことも大きな成果でした。

●グループ診療の導入やITツールの活用により、時間外の対応時間を削減

2024年より施行されます医師の働き方改革に関しては、当院はモデル病院の指定を受けており、いち早くさまざまな施策に取り組んできました。例えば、時間外労働の短縮を実現するためのグループ診療を推進しています。患者さんやそのご家族から十分なインフォームドコンセントが得られていれば、看取りの際にも必ずしも主治医を呼ばず、担当医に任せる体制にしています。グループ診療の導入により、医師一人にかかる負担を減らす狙いがあります。また病状説明に関しても、できるだけ勤務時間内で行っていただけるように病院として患者さまにアナウンスしています。もちろん緊急時は別ですが、急を要する場合でない限り、時間外の説明を求めるようなことはお控えいただくようにお願いしています。できるところから少しずつではありますが、特に医師に関して、時間外の対応を極力減らす取り組みを進めているところです。
また、職員全体の勤務状況を把握するため、各自記入してもらった勤務時間表と、入退室を管理しているICカードのデータとを突き合わせたリサーチもおこないました。その結果、回診や処置等の業務負担が多い科、医師を補充すべき科などが数字として視覚的に把握でき、今後の取り組みを考える上で大いに役立っています。
その他、ユビーのAI問診を活用するなどITツールの導入も進めています。職員の業務時間の短縮に効果が期待できるのであれば、今後DX化の推進も検討していきたいですね。

●在宅診療センターを立ち上げ、自宅で最期を迎えたい患者さまのニーズにも対応

地域医療連携に関しては、2021年4月に在宅診療センターを立ち上げ、訪問診療・在宅医療に積極的に取り組む体制を整えました。
コロナ禍において、患者さまが入院された場合に面会ができない、ご家族と最期の時間を過ごせないといったことが起こっています。そのためご自宅で最期を迎えたいといったニーズは増えてきており、センターの立ち上げによって、よりさまざまなニーズに沿う医療の提供が実現できるようになりました。
訪問看護ステーションは以前から併設しておりました。
当時は主に訪問看護が中心でした。そのため訪問診療が必要な場合は、地域の開業医の先生方にお願いする必要がありました。しかし、医師の高齢化や訪問診療の担い手不足にともない、開業医の先生方だけでは訪問診療への対応が難しい状況になってきました。そこで、当院が開業医の先生方をサポートすることにしたのです。当院が訪問診療に直接関わるようになったことで、患者さまの入退院や退院後のケアなどもシームレスにおこなえるようになっています。地域の先生方や医師会などからも、在宅医療へ積極的に携わってくれてよかったというお声をいただいていますね。

●データから健康な人の情報を抽出し、地域の方々の健康長寿に役立てる

訪問診療を通して、地域の患者さまのもとへ直接伺う体制は今後もさらに強化していきたいと思っています。同時に、力を入れていきたいと思っているのが地域の健康教育ですね。
現在、福島県立医科大学と須賀川市と共同で、健康長寿推進事業を進めています。地域の方々の特性などと個々人が実際に受けていただく健康診断等のデータをもとに、元気に長生きされている方の情報を拾い上げる試みを行っています。このデータを活用すれば、患者さまに対して「この傾向がある方はこの疾患になりやすいので、○○検査を受けてください」といった警鐘を鳴らすことができます。要するに、予防医療の推進、さらには、地域住民の健康寿命の延長につながるわけです。地域の皆さまがいかに長く、健康を保ってご自宅で過ごせるか、そういった予防医療の分野も担い、さらに地域に貢献できる病院を目指します。

●救急医療・災害医療も強化し、100年後も必要とされ選ばれ続ける病院へ

在宅医療や予防医療への取り組みとともに、今後は救急医療や災害医療の分野も強化していきたいと考えています。救急については現状、二次救急指定病院として可能な限り地域のニーズに応えられるようにはなっています。今後はさらに、救急に対応できる診療科を増やしていくことが課題になってくるでしょう。
災害医療についてはDMAT(災害派遣医療)チームを創設し、2021年には地域災害拠点病院に指定されました。東日本大震災なども経験しており、福島空港に一番近い当院ですから、有事に対応できる病院として今後も地域にあり続けたいと思います。

当院はこれまでも地域の皆さまのニーズにできるだけ応えられるよう、中規模病院でありながら、さまざまな機能の拡大に努めてきました。しかしながら、ある程度の機能を維持するには、病院としてそれなりの規模がなければなりません。その意味で、医師数の確保というのは今後も大きな課題となってくるでしょう。2021年で開設150年目を迎える今は、200年、250年と、この先も地域に必要とされる病院であるための礎をつくる時期です。患者さまに選ばれる病院であり続けるために、医療の質をさらに向上させながらも、常に患者さまに寄り添うこころを忘れない医療を提供出来る病院を目指した運営をしていきたいと考えております。