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DXで地域密着型の新しい医療のカタチを目指す総合病院の実践

石川県

医療法人社団和楽仁 芳珠記念病院

仲井 培雄 理事長

中部

芳珠記念病院は、石川県能美市に位置し多数の診療科を備えた地域の中核として知られる総合病院で、医療法人社団名と同じ「和楽仁(仲よく楽しく人と社会を健康に)」をモットーに、和やかで楽しく良い医療の提供を目指しています。病院を経営する上で大切にしていること、今後力を入れていきたいことなどを、理事長の仲井培雄先生に詳しくお伺いしました。

人と社会を健康にできるチーム医療を提供する病院としての責務

芳珠記念病院の医療法人名「和楽仁」は、私の父が和やかで楽しい良い医療を提供する意味でつけました。「和楽仁」は「仲よく楽しく人と社会を健康に」という、芳珠記念病院のモットーでもあります。これは仲良く楽しく地域社会と人を健康にする、つまり町づくりも意識した運営方針です。
その運営を支えている芳珠記念病院の特徴は、他の病院よりも多職種協働が進んでいるところだと考えています。多職種協働とは、さまざまな病気の患者さんに対して、いろいろな職種のスタッフが診療の補助や療養上のお世話を行う医療体制です。当院の組織は院長の下に診療局、看護局、医療技術局、事務局がラインアンドスタッフで構成されていますが、現場ではスタッフの横のつながりを重視したマトリックス組織で運用しています。
具体的に説明すると、指示を出すのは医師の仕事ですが、細部まで指示をすることはありません。事前に出されている指示から逸脱しない範囲で現場のスタッフが判断します。例えば、リハビリを行う指示を出す場合は、リハビリの処方や単位などを指示しますが、リハビリの訓練は、疾患の回復度や栄養状態、認知症の程度などに合わせて、現場の裁量により最適なものが選ばれる仕組みです。このようにお互いの職種を活かせるチーム医療の文化を醸成し、良い医療の提供を行っています。

チーム医療の土台を固め、新しいアイディアを生み出す研修スタイル

横の連携を強めてチーム医療の土台を固めるため、当院では2004年から「みらい創造研修会」を開催しています。年に2回開催していて、10月の会はこれまでの振り返り、2月の会は来期の目標立案が主な目的です。系列の病院と社会福祉法人を総称した「ほうじゅグループ」から副主任以上の職員が合計100人程集まり、懇親を深めたり他職種のことを理解したりできる場として活用しています。現在は、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり「みらい創造研修会」で職員が集まることができなくなったため、ウェブ会議での実施に切り替えました。
当院では多職種協働のように連携を伴う場合は「多(た)職種」、ある専門職と対比する場合は「他(ほか)職種」と使い分けています。「みらい創造研修会」では、多職種間での相互理解を促進して改革プロセスの共有を図りますが、この研修は医者の参加も多く、ユニークな研修のひとつだと自負しています。研修の内容は10人のチームを10チーム程度作り、チームごとに話をして意見を出し合い、グループ発表などを行うものです。ここでいいアイデアが出たときは、事業計画に採用します。
実際に「みらい創造研修会」で出たアイデアを事業計画に取り入れた事例はいくつもありますが、それらは現場の意見を基にした改善案であるため、働き方の改善も可能です。例えば、ADL(日常生活動作)への対応についてリハビリと看護師の間のやり取りを増やすアイデアなど、現場ならではの細やかな気づきから出た改善案も採用されています。
ほかにも、off-JTの「院内キャンパス和楽仁塾」や短期達成型のプロジェクトといったチーム医療の文化を醸成する取り組みを行っています。これらの取り組みによってチーム医療をスムーズに機能させる基盤をつくり、実際の現場に活かしています。

病院MOT改革によって改善される医療と経営の質

私が理事長になった2004年頃、病院の経営方針が定められず悩んでいたときに、日本能率協会の社長から、当時北陸先端科学技術大学院大学の教授に就任された近藤修司先生が講師の「おもしろサイエンス」というセミナーに参加して、MOT改革と出会いました。近藤先生からは、現在も病院経営についてアドバイスをいただいています。私は病院MOT改革(MOT:Management of Technology)と呼んでいる内容で、近藤先生が最も関係している研修が「院内キャンパス和楽仁塾」です。2006年から行われている研修で、これまでに100名程の職員が病院MOT改革について学びました。
研修では、塾生が主体となって自分の組織の改革案を提出します。一例ですが、病棟の看護師の場合、所属する病棟を題材にして次に必要な改革について提案書を作成します。その際に自身のこれまでの経験から病棟の歴史を振り返り、地域の状況や顧客などの関連するパートナーについてよく考えて調べなければなりません。調べた内容から現状を分析し、今後目指すべき理想を掲げて計画を立てていきます。病院でも同様の方法で事業計画を立案しているため、改善計画とのすり合わせをしやすいといったメリットもあります。改善案の実践を推進するために、実際に改革を実践する場合にメンターやサポーターをつける制度も作られました。
こうした病院MOT改革には人間力と技術力が重要です。人間力は物語を作る能力、技術力は物事を理解して実践する能力で、塾では人間力の向上を目的としています。人間力を高めると、現在の状況から改革を実践する際のストーリーを導き出すことができ、数年後の理想に向かって成長を伴った現実的な計画を作成する力が磨かれます。

全人的医療を提供する理想的な総合病院を目指した先代の理事長

芳珠記念病院の前身は、先代の理事長が経営していた小松市の中心部にある単科の外科病院でした。肥満・糖尿病・高脂血症・高血圧が併発している状態を死の四重奏と呼んでいた1970年代、脳卒中や心筋梗塞の患者を手術する機会が多くありました。しかし、外科手術自体が成功してもサポートが不十分で亡くなる人が多かったため、先代の理事長は全人的医療を提供するために総合病院の開設を決意しました。その後、病院の誘致を検討していた当時の辰口町長と意気投合して開院に至りました。
病院は充分な利益を出すことがとても難しい業種ですが、芳珠記念病院は石川県の白山の麓にあるため、通院面でのデメリットも抱えています。立地的に利益が出にくいところが課題のひとつです。特に新型コロナウイルスの感染拡大時は、受診控えによる患者の激減といった問題も発生しました。感染状況により日本全体で手術や入院患者が減少するため、通常時から利益を増やすための施策を取り入れる必要があります。

顧客満足度の向上を目的としたDX化や働き方改革などによる医療効率化

今後、医療の質と経営の質を担歩するために、働き方改革やDXは必須です。実際に実施している施策のひとつが看護師が対面するドライブスルー発熱外来です。患者の元に看護師が出向いてPCR検査や血圧測定などを行い、医師はiPadでFaceTimeを利用したオンラインでの診療を行います。当局からの許可も得ています。
最近は、CS(顧客満足度)を上げるためにES(従業員満足度)の維持を意識しています。ESの向上を伴う業務効率化を目的として取り入れているDXの一端としては「眠りスキャン」が挙げられます。眠りスキャンは新型コロナウイルス患者や疑いのある患者にも使用できます。眠りスキャンによって、眠りのパターン認識だけではなく、頻脈や脈の低下、脈の停止、呼吸、体動などを自動的に把握できるため、直接確認しなくても容態の変化に気づけるようになりました。
これは、介護医療院の看取りにも応用しています。心電図モニターを使用した場合、一晩中モニター音が鳴り続けます。亡くなる人に失礼ではという意見や、周りの人が眠れないとの意見もあります。また、現場の職員の立場からすると、最後の看取りの心理的ストレスが軽減するとも期待しています。

一方で、当院は特定行為研修の実施施設の指定を受けて十数人の看護師を育てたり、医師事務作業補助者を採用したりするなどの方法で職員の負担を減らしています。試験的に、iPhoneにアミボイスを入れた音声入力機能をリハビリ職員や看護師が使う施策も取り入れています。現在職員が行っている記録業務を音声入力に切り替えて、業務負担を減らせるようにしていく予定です。

マルチモビディティ患者のQOL向上に貢献する

当院では、複合的な病状を診察できる総合診療科も必要です。人口が減少している地域では複数の疾患を持ち、医師ですら治療方針に悩むマルチモビディティ患者が増えるといわれています。
例えば、がんになった患者が糖尿病や脳梗塞、骨粗しょう症といった病気を持っていた場合、手術によりがんが治ったとしても体調の回復は限定的です。本来の健康を取り戻すためにはすべての病気を改善しないといけないため、例えば病気治療を優先して薬を大量に服用するのか、QOLに合わせて薬の量を調節すべきかを決定する必要があります。一方で、マルチモビディティ患者には高齢者が多く、医療費が高額になるため、患者の生活まで考えた対応が求められます。
在宅治療に切り替えるときも、介護保険の指示書を作成する医師によって内容が変わります。病気やケガの治療は内科や外科、整形外科医が担当するので指示を出せますが、専門性の高い医師の中で治療後の生活支援まで包括的に対応するには、ソーシャルワーカーやケアマネジャー等との協働が不可欠です。マルチモビディティ患者の治療には、どのように介入すると治るのかといった明確なエビデンスがありません。そのため、患者の望むQOLの向上が大切です。総合診療医やそのマインドを持つ医師は、そういった患者に柔軟に対応できます。

新しい取り組みによって誰もが笑顔になれる未来の医療を目指す

当院には入退院支援室や地域連携室がありますが、それに加えてグループの法人施設として地域医療連携を支える「在宅復帰支援センター」を設置しました。センターは連携担当の事務職員、入退院支援看護師、ソーシャルワーカー、ケアマネ、訪問看護・リハビリで構成されています。入退院支援室との連携もあり、「ときどき入院、ほぼ在宅」を実現しました。
しかし、当院では在宅患者への訪問時に、病院で使っている電子カルテと異なる電子カルテを使用しているため、診療情報を共有できず手間がかかっている状態です。訪問看護の電子カルテを併設介護事業所と統一したためですが、業務効率改善のためにも情報を共有できる仕組みがあればいいと思っています。
石川県はすべての2次救急病院がID-Linkでつながっているため、病院間の情報連携がしっかりしています。新型コロナウイルスで連携が必要なときにも、このシステムが活躍しました。診療所からのデータは紙ベースが多いですが、こちらからのデータはID-Linkで確認してもらえるため、業務の効率化が推進されていくと考えています。