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患者さんにとって最良の医療を提供し続けるために。今後は機能的集約を軸とした地域医療構想を実現したい

佐賀県

佐賀県医療センター好生館

佐藤 清治 館長

九州

かつては県立病院であり、佐賀県を代表する中核病院として、地域の医療を支えている佐賀医療センター好生館。新型コロナウイルス感染症が拡大し始めた際も、いち早く地域の医療機関や行政と連携を取り、患者さんにとって最良の医療を提供し続けてきました。佐藤 清治館長に、病院を運営していく上で大切にされている理念や精神、今後目指すべき病院の姿などをお伺いしました。

●歴史ある地域の中核病院として、通常の医療から政策医療までを一手に担う

当館が創始されたのは1834(天保5)年です。1896年に佐賀県立病院好生館となり、初代館長から数えて私で15代目となります。医学寮を併設した病院としては、当館は日本で最も古い病院の1つだと思っています。当初より地域の中核病院として、通常の医療から政策医療まで、すべての医療を手がけてきました。江戸時代から脈々と受け継がれている歴史と伝統が、当館の最も大きな特徴です。
2010年に地方独立行政法人へ移行してからは、法人の経営面を理事長が、病院の運営面を館長が担う体制になりました。病院として掲げている理念は「県民のこころに添った最良の医療を提供する」ですが、運営上の理念として私が日頃から思っていることは、「忘己利他(もうこりた)」です。我を忘れて他者(=患者・家族)に尽くす、という意味ですね。
そういう精神を普段から持っていないと、日頃の救急医療も、今回の新型コロナウイルス感染症のような有事の際も、きちんとした対応ができません。ですから、やるべきときには自分を忘れてでも患者さんのために、という精神で当館の職員には日頃から医療にあたって欲しいという想いがあります。

●行政や近隣の医療機関と連携し、第1波から迅速に新型コロナウイルスに対応

病院運営に関しては、直近ではやはり新型コロナウイルス感染症への対応が一番大きな課題でした。当館は第一種・第二種感染症指定医療機関で、第一種感染症に対応できる病院としては県内唯一です。そのため、佐賀県中部医療圏の感染者は当館が中心となって引き受けています。
まず、元々あった8床の感染症病床を使用し、感染症専門医と呼吸器内科医で対応。しかし、第2波以降感染者が急増したため、新型コロナウイルス専用病床は51床まで拡大しました。ピーク時には84床まで広げています。また、第2波以降は重症度によって軽症チーム・中等症チーム・重症チームに分け、軽症患者は一般の外科・内科医チーム、中等症患者は呼吸器内科医チーム、重症患者は救急とICUで対応するようにしました。
状況に合わせて館内でも柔軟に対応していきましたが、当時、館内の対応よりも重要と感じていたのが県内の連携です。県内中核医療機関の病院長と連携をとり始めた頃、いち早く新型コロナウイルスに対応すべく、2020年4月3日に県主導で行政と医療の連携組織「プロジェクトM」が立ち上がりました。それからは、連携組織に協力する形で進め、プロジェクトMと呼吸器内科医および感染症専門医が中心となって情報を発信し共有されたので、早い段階から県内統一の治療方針が確立しました。行政の非常に迅速な対応で上手く連携も取れ、当時県内では自宅療養者を出すことなく、すべての感染者を病院またはホテルなどの適切な施設で受け入れることができました。

●コロナ禍を期にLINEアカウントで動画配信を開始。患者紹介率は90%以上に

ここ数年は特に地域医療連携と広報の強化に力を入れており、コロナ禍以前はソーシャルワーカーなどが地域の医療機関を訪問する際、各診療科の部長に同行してもらいました。1診療科につき1ヶ月で30施設程度伺っていたのですが、約20施設の訪問を終えたタイミングで新型コロナウイルス感染症の流行が始まりました。
現在は、訪問を動画配信という形に切り替えています。各診療科に紹介してもらいやすくなるような内容の動画を作成し、医療関係者向けの公式LINEで配信しているんです。公式LINEのQRコードをHP上で公開したり、QRコードを添付したチラシを積極的に配布したりして、広報活動にも力を入れています。結果、医療関係者だけで559名が登録(2022年2月21日現在)されている状況で、患者さんの紹介率も90%以上を維持しています。また、地域住民向けのLINEアカウントも別に作成しています。こちらはニーズに合った3分くらいの短い動画を各診療科ごとに配信しており、評判も良く2772人(2022年2月21日現在)の住民の方にご登録いただいています。
加えて、佐賀県診療情報地域連携システム、通称「ピカピカリンク」上で2010年より、当館の患者さんの診療情報を地域の医療機関に向けて開示しています。特に2015年からは、カルテに記入する詳細な情報までをすべて閲覧できるようにしました。それ以降、アクセス数がかなり伸びましたね。当館の診療情報を把握した上で患者さんの診察ができるため、地域の先生方と患者さんとの距離感も近くなり、ピカピカリンクを利用している医療機関からは非常に高い評価をいただいています。こちらは直接紹介数の増加に影響しているわけではありませんが、診療情報の共有により連携の質が向上したと感じています。

●年休取得率100%、看護師の離職率は5%。労働環境の改善にも力を入れる

当館は2017年に労働基準監督署から是正勧告を受けており、以降は医師を含めた全職員の負担軽減、労働環境の改善に力を入れてきました。まず職員を増員し、複数の部門で交代制勤務を導入しました。医師に関しては、現状450床に対して190名くらいが在籍しているので、病床数に対する医師数は決して少なくありません。ただ、診療科単位で考えると医師数に偏りがあり、半分ほどの診療科では医師数が不足している状況です。
専門職では、特に医師事務作業補助者と病院調理師が不足しています。不足している職種の採用を増やす施策としては、2020年頃にHP上のリクルートページをリニューアルし、採用情報がよりわかりやすくなるよう工夫しました。
一方で、離職率の低さも影響し、看護師に関しては必要な数を確保できています。看護師離職率の全国平均は10%以上ですが、当館はコロナ以前から5%前後でした。当館の看護師数は現在500名を超えており、そのうち産休・育休中の看護師が約70名、つまり産休・育休中の看護師数が約1割強という状況です。これは看護師に限ったことではありませんが、産休・育休や年次有給休暇の取得も積極的に進めており、2020年度より義務化された年5日の年次有給休暇の取得率は、医師・看護師を含めた全職員で100%を達成しました。看護部門は女性が多くを占めていますが、ライフスタイルが大きく変化しても彼女たちがフレキシブルに長く働ける環境を整えるよう努めています。

●他分野においてタスクシフトやITツールを積極的に取り入れ、業務効率化を図る

新たに人材を確保するだけでなく、幅広い領域でタスクシフトも積極的に進めています。まず、看護部門で看護師の特定行為研修を始めました。現在3期生が研修中であり、専門的な知識と高度な技術を持ち、より幅広い業務を担える看護師の育成に努めています。医師部門では、ホスピタリストが在籍するメディカルリンクオフィスを立ち上げました。当館でのホスピタリストとは、言わば病棟における“かかりつけ医”のような存在です。整形外科など、日中の病棟が医師不在となりがちな診療科にホスピタリストを配置することで、患者さんの安心につながると同時に、医師やコメディカルが働きやすい職場環境の実現を目指しています。2022年4月からは、臨床工学技士の業務範囲が拡大できるよう、厚生労働大臣指定の研修受講を開始し、救急部門のタスクシフトとして救急救命士3名の雇用も予定しています。
また、ITツールの導入にも積極的に取り組んでいます。業務効率化で特に大きな成果が出たのは、勤怠管理の電子化でした。これまでは、時間外業務の申請は紙媒体で行い、集計等の管理もアナログで対応していました。当館には全職員で1100名以上が在籍していますが、その全員に対して毎月膨大な量の時間外業務のチェックが発生しており、これが事務職員にとって大きな負担となっていました。そこで、2021年の4月より勤怠管理にも電子化を導入し、時間外業務や年次有給休暇の入力がそれぞれのスマートフォンからもできるようにしました。入力が楽になったのはもちろん、何より時間外業務の把握や集計といった事務作業が非常にスムーズになり、事務負担を軽減できました。
その他、ユビーAI問診も採用していますし、2020年からは内視鏡AIによる診断システムも導入しました。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)も検討を進めているところです。AI問診やRPAの実践的な活用はまだまだこれからですが、当館に合った運用方法が見つかれば、まだまだ業務効率化を図ることができると考えています。

●現状の働き方改革のままでは、医療の質の低下や患者さんのリスク増加は避けられない

タスクシフトやITツールの導入は積極的に進めているものの、それぞれの取り組みがそこまで時間外業務の削減にはつながっていないのが現状です。医師は、通常の業務に加えて自己研鑽があります。患者さんにより良い医療提供を行うため、日々知識や技術の習得に励む、この自己研鑽を行わない医師はいません。この業務と自己研鑽の区別も微妙です。これまでのタスクシフトやITツールの導入などである程度の負担軽減は実現しており、業務時間の削減が幾分は可能となってきています。しかし、これには限界があります。業務と自己研鑽の区別が曖昧な中、更なる削減のためには自己研鑽を削るという誤解も生じかねません。そうなれば医療の質が低下していき、患者さんに対するリスクが高くなっていくことは免れないでしょう。
現状当館では、患者さんに接している時間は業務の時間、それ以外の例えば勉強時間などは自己研鑽、といった一定の線引きをした上で、各自の判断で時間外業務の申請をするように指導しています。ただ、時間外労働が年960時間を超えることを恐れて、実際の業務時間より少なく申請する医師が少なくないんです。患者さんのために行った時間外業務の申請を抑制するつもりはありませんし、必要な時間外業務は正しく申請してもらい、まずは本当の時間外業務がどのくらいなのかを把握することが急務です。そこから2024年に向けての時間外短縮計画を進めていくことが重要だと思っています。

●機能的集約によって医師の偏在を解消し、より効率的で精度の高い医療の実現を

今後の展望としては、働き方改革の一環として機能的集約を軸とした地域医療構想の実現が望ましいと思っています。医師の偏在は全国的にも度々問題視されており、佐賀県も同様の課題を抱えています。佐賀県全体、特に当館のある中部医療圏で見ると、医師の数は非常に多いほうなんです。しかし、すべての診療科で医師が充足しているわけではなくて、やはり偏りがあるんですね。医師たちが、激務になりがちな科を避ける傾向にあることも原因の一つでしょう。
例えば、産婦人科や心臓血管外科は、手術や夜勤も多く明らかに医師数が不足しています。これらの診療科は、タスクシフトなどの対策だけではなかなか負担軽減や時間外業務の短縮には至りませんので、地域における機能的集約が最も有効だと思っています。少ない医師を集約し、効率よく余裕をもって診療にあたることを目指すべきだと思います。当医療圏における今後の地域医療構想の調整にも注目しつつ、働き方改革を進めていきたいと考えています。