医師不足が原因で、過去10年ほど医療の提供を安定して行うことができなかった、あま市民病院様。運営方針を大転換し、職員の学びの場として地域との交流の機会を積極的に設けることで信頼の獲得を図っています。地域の求めるニーズを明確にし、決して妥協をしない病院経営を行う事業管理者の梅屋崇先生にお話しをお伺いしました。
地域から求められる役割を全うする。妥協しない病院経営とは
当院では医師の臨床研修制度が導入されたということもあり、大学からの派遣が不安定となった結果、医師数が半分以下まで減少し過去10年ほどは提供することができる医療が不安定となっておりました。
平成22年にあま市は4つの町が合併して生まれたのですが、その際に市長が市民病院としての当院の医療レベル向上に尽力いただいた結果、平成27年に施設を新築し再スタートしました。しかしながら、提供医療の安定化が依然として進まなかったこともあり、令和1年に指定管理者制度という公設民営方式に運営を変えて私が事業責任者として赴任いたしました。
現在当院では、職員が日々学びながら求められている役割を果たしていくことが大切だと考え、病院経営を行なっております。市民からいただいたアンケートなどを元にしながら、総務省の行なっている公立病院改革のなかで平成28年に地域から求められている役割を設定しました。
そこで定めた役割とは、後方病院と連携を綿密に取りながら地域医療の拠点としてコモンディジーズ(日常的に高頻度で遭遇する疾患、有病率の高い疾患)に対応すること。そして、地域包括ケアの拠点として医療と介護をつなぐ役割を果たし、市の健康づくり(ヘルスプロモーション)を進めることです。
私が赴任してからの3年間、市民からご期待いただいている役割と当院が提供する医療の乖離は依然としてありますが、毎年実施している患者満足度調査では入院外来の満足度は上昇しており、ポジティブなフィードバックをいただいております。今後、さらに病院のPRを行い当院の信頼性を高めていきたいと考えております。
新設病院だからこそ、職員が主体的なチーム活動を実施する病院文化
私が事業責任者として最初に着手したことは、職員の確保と育成でした。そこで新病院の開設前に職員ワークショップを3度にわたり実施しました。以前から勤めていた職員、公益社団法人の地域医療振興協会から赴任した職員、そして新しく就職する職員の3つのグループが混ざる場を設け、病院の在り方や理念を議論して決めました。
これまで職員の受け継いできた病院の文化を継承しながら新しい人材が混ざり合うことにより、当院ならではの文化が二つ形成されました。
一つは、職員のチーム活動が非常に活発であることです。当院の運営を始める際にトップダウンでの経営とならないためにPJと呼称しているプロジェクトチームを作成し、職員に病院として必要なことや実施したい施策を募りました。
そのアイデアの中からヘルスプロモーションの実施や、糖尿病のチームの活性化など7つの施策を実施するに至り自発的なチーム活動が発生しました。その後、PJに属していなかった職員もPJに参加するなど、積極的にチーム活動を行う文化が醸成されています。
二つ目は、土地柄もあるかもしれませんが、親しみやすい呼び方を行うなど患者様との距離が近いという特徴があります。距離感が近い一方で中には馴れ馴れしいと感じる方もいるかと思いますが、都市部と比べると距離感が近く医療の提供を行えているかと思います。
財務や業務面だけではなく、職員の教育など多角的な指標で経営を定点観測
当院では、病院経営の管理ツールとしてバランスド・スコアカードを採用しており、20弱の指標を多面的に定点観測しております。財務面においては、公立病院としての価値を可視化するため稼働率を重視しております。業務面においては、急性期病院として救急車の応需と救急患者数をモニタリングし役割を果たせるようにしております。
また、発展の視点として職員の学びを重視しております。将来的に人材の視点がさらに向上できるよう、地域医療介護施設や民間や行政との交流を大切にして行きたいと思っております。
糖尿病のチームにおいては、地域のクリニックとの連携や行政が実施している腎不全予防のプログラムへの参加、地域のスーパーでの糖尿病の講座などを行なっております。また、感染管理のチームにおいては、消防隊に対して一般的なワクチンを打つことができるようにするプログラムを作ったり、コロナが流行した時に地域の施設に感染対策の指導を行なったりなど、地域単位での感染管理の標準化の活動を行なっております。
これらの取り組みが診療報酬に反映されるものではないため財務的な側面では直接繋がるものではありませんが、職員の学びの場であったりプロフェッショナル性を活かすための場をより広げて行くためにも、研修会の回数や当院に来院いただく研修者の数もモニタリングしております。
機能の拡充と交流により進める地域医療連携の信頼回復
職員の学びの場としても重要ですが、財務的な側面においても地域医療連携は非常に重要です。過去10年ほど当院では医療提供が不安定ということもあり、クリニックの後ろ盾としての役割を十分に果たせてきませんでした。
前方連携はもちろんですが、後方連携も地域医療連携に関しては非常に重要だと思っております。純粋な回復期の病院と比べると一般病床があるため、たくさんの疾病を持った患者様をも当院ではお受けすることが可能ですので、重宝いただけるのではないかと思っております。
また、当院は地域医療振興協会としても総合医の教育をミッションに掲げている団体ということもあり、総合診療を基盤に運営を行なっておりました。そのため専門領域に関して層が薄いという面があり、クリニックから特定の症例の患者様の紹介が少ないという状況がありました。これを受け専門医の採用を進め、当院で可能な専門診療の領域を拡充しております。今後はこれらを特徴にして紹介の数を増やして行きたいと考えております。
現状、機能を拡充しながら信頼回復を行なっているという段階ですが、コロナ患者の受け入れなどを通じて信頼が形成されている兆しは感じております。その結果、当院ではこれまでは月に200件ほどの紹介患者様をお受けしておりましたが、徐々に紹介患者数が増加し280件になっており、これらをより強めて行きたいと思っております。
医師獲得のため、進める学びの場としての環境と教育体制
令和1年に当院がスタートした際の常勤の全職員は約150名ほどでした。現在は200人ほどとなっており、職員数はさらに増加しております。当初は担当が一人の職種がいくつかあったのですが、休みが取れなくなるためそのような体制をまずは撤廃しました。
また、当院がスタートした際にあった休棟を回復期リハビリテーション病棟として開棟するべく、リハビリ療法士や介護士の採用に力を入れ人数を倍にすることができました。一方で、大学の医局へのリクルーティング活動など一般的な採用活動を実施しているのですが、医師の獲得はまだ達成できておりません。
医師も学べる職場でないと就職いただけないため、専門研修の協力病院などにするなど学習が可能な体制を築き、短期研修などで医師の獲得には少しずつ成果が出始めておりますが、なかなか常勤医師の採用には至っておりません。
常勤医の採用戦略として学びのある職場を謳っていくためには、環境の整備だけではなく独自のプログラムを持つなどの特徴がないといけないのではないかと思っております。そのため、学術的な学びや診療的な学びだけではなく、患者様との距離や密度や継続性、さらには多職種との協働とするためのカリキュラムを作成し、地方の現場を体験いただく研修を用意しております。本来はこういった多職種との協働は卒業前から学ぶ必要がありますので、研修に来られた学生さんに他の学生さんと交わるようなプログラムを現状、検討しております。
ステップアップを行うために、職員とともに歩む次の3年
理念やビジョンを刷新した後の3年間の病院運用にてファーストステップとしての及第点は取れているのではないかと思います。ただ、理念やビジョンと現状の乖離は当然感じており、次のステップアップをするための方法を検討しております。
リソース以上のことはできないため、現状行なっていることをさらに伸ばしながらも、独自の教育プログラムの確立や、総合診療と専門診療との融合をさらに進めていくことが必要だと思っております。
3年の病院運営は、職員の尽力により実現することができました。次の3年をどこに向かっていくかに関しては、改めて職員と議論を行いながら進んでいきたいと考えております。
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