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キーワードは連携。職域を超えたスタッフ同士の連携、他病院や行政との医療連携のためのさまざまな取組みとは

京都府

医療法人財団康生会 武田病院

武田 純 院長

近畿

JR京都駅の目の前に立地し、京都市民はもちろん、隣県や観光の患者なども幅広く診療されている医療法人財団 康生会 武田病院。救急も年間6,000件以上を受け入れ、大学病院をはじめ大規模病院が点在する京都市の中でも、大きな存在感を示されています。「連携」をキーワードとした院の取り組みから、ポストコロナを見据えたお考えまで、武田 純 病院長にお話しいただきました。

●キーワードは「連携」、診療科や職域を越えた連携をシームレスに行いたい

当院は、「Bridge The Gaps(橋をかけよう)」を理念に掲げています。そこに込めているのは、病院と患者さんとの間、病院と地域社会の間、職員同士の間に、思いやりと信頼の架け橋をかけようという思いです。
そのために大切に考えているキーワードが「連携」です。現在は患者さんの高齢化が進んでいますが、ご高齢の患者さんの場合、ほとんどの方が複数の疾病をお持ちで、1つの診療科で治療が終わることはありません。そのため、患者さんにとってより良い治療をするためには、診療科間の連携が非常に重要です。また、ご高齢ですと、栄養面やリハビリテーション、ポリファーマシーなどの問題もあるため、医師・看護師はもちろん、栄養士や理学療法士、薬剤師なども含めた職域を越えた連携が必要になります。さらに退院後のフォローアップまで考えると、地域医師会、介護施設、医療行政との連携も重要になります。
こうした様々な連携をできる限りシームレスにおこなうこと、それが可能なシステムを考えていくこと、それこそが「Bridge The Gaps(橋をかけよう)」の本質だと考え、取り組みを進めています。

●「患者サポートセンター」を設置し、入院から退院後のフォローまで全てパッケージング

様々な連携をシームレスにするための取り組みとして、「患者サポートセンター」を設置しました。同センターには、従来の入退院の窓口業務の他に、ベッドコントロール、診療科や職域を超えた連携マネージメント、地域連携の窓口、地域を巻き込んだ医療研修の企画、地域広報など、数多くの業務を担当してもらっています。言ってしまえば、患者さんの入院から退院、そして退院後のフォローアップまで、全てを地域連携でパッケージングする役割です。センタースタッフは約30人で、看護師が約10人、薬剤師も1名参加しています。
こうしたマルチ機能センターを設ける際にありがちな連絡系統の混線を防ぐため、組織を病院長直轄にしました。さらに、病院長補佐の医師を1人と看護部長、そして事務長という各部のトップを入れて司令塔と位置づけ、すぐに決定事項が末端まで行き届くシステムにしています。
患者サポートセンターができて、医師や看護師の負担も減ったと思います。例えば、患者さんやご家族からのご要望やクレームなど、これまで個々の医師や看護師に直接届きがちだったものを、サポートセンターが整理して受けています。それから、退院後のフォローに関する受け入れ機関のサーチや家族との連絡調整なども、医師の関与を減らし、サポートセンターが主に担うようになりました。ただし、当然ながらサポートセンターを効率的に稼働させるには、入念な事前グループミーティングが必要となります。そのため入院の早い段階で、関与する診療科の医師、看護師、薬剤師、栄養士、事務部が必ず参加する多職種カンファレンスをおこない、診療科連携や薬剤、患者指導、診療報酬などについて細かく議論し、方向性をプランニングしていく形をとっています。

●サポートセンター設置により、診療科間の垣根が低くなり連携がスムーズに

患者サポートセンターを設置し、院内で統一したアウトラインができたことによって、診療科同士で患者さんをパスし合って、スムーズに治療を進められるようになりました。以前だと科によって固有の方針があったり、診療科間で「こんなこと聞いていいんだろうか」といった遠慮の空気があったりしたのですが、そうした垣根が低くなってきましたね。
患者さんにとっては、今かかっている疾患以外の異常も早期発見できるようになり、スムーズに検査や治療が同時進行します。病院としても、コロナ禍の受診控えなどがあり、新規患者さんの受け入れが難しい中で、経営面でプラスになります。
また、今後実施される医師働き方改革を見据えても、医師同士の連携は非常に重要です。当院は私立病院であり、医師派遣は大学に依存するところが少なくありません。非常勤医も多く派遣いただいているのですが、働き方改革が実施されれば、派遣は今より困難になる可能性があります。一方で、常勤医を多く確保することも簡単ではありません。そうなると、今から院内で連携してワークシェアリング、タスクシフティングを高めておくことが、一番の対策になります。

●会議の短縮、ITツールの活用、タスクシフティングで無駄を減らしていく

働き方改革を見据えた取り組みの一つとして、業務の定量的な把握をおこなっています。出退勤のタイムカードレコーダーの他、各医局の出入りもカードで管理し、個々の勤務状況や残業などをモニターしています。具体的な活用はこれからですが、これらの把握によってどこに過重があるか改善点を見極めていきたいです。
次に、会議の単位を30分以内にして、無駄な会議や委員会をどんどん削っています。そうすると喋る人もダラダラ話さず、あらかじめコンパクトに議題をまとめてきますね。それからメディカルアシスタントを増員して、書類業務やデータ入力などは大半お任せするようにしました。
そしてITツールの活用。当院は総合内科医が比較的少ないので、その負担を減らすことを目的として、AI問診ユビーを導入しました。自分がどの科にかかったらいいか分からないという患者さんもおられますし、コロナ禍では発熱者を病院の中に入れていいのかの事前チェックの必要性もあります。そういった段階の交通整理で非常に役立っていますね。他にも決済のハンコを減らすなど、IT化で簡略化できるところはどんどん進め、空いた手をタスクシェアに回すように心がけています。
患者サポートセンターもそうですが、職域を越えてタスクシフトやシェアをしていくには、ある程度フリーハンドでヘルプに行ける人を増やすことも大事です。実際、新型コロナのワクチン接種の時には、秘書課や医事部からも業務応援をいただきました。今後も無駄を減らしながら、新しい局面に柔軟に対応していきたいと考えています。

●課題は常勤医の確保だが、国の制度により難しくなっている面も

ワークシェアリングやタスクシフティングにも限界があるので、今後の課題として、いかに常勤医師を確保していくかがあります。しかしこの課題は、病院側の努力だけでは難しい面もあると感じています。と言うのも、国が主導する専門医制度や医師数のシーリング制度によって、状況が一層厳しくなっているからです。例えば、初期研修医を大事に育てたとしても、シーリング制度のためにその人材を他府県に出さなくてはいけなくなってしまうことが当院でも起こっています。
また、個々の病院の特性や、当該地域にどういう疾患が多いかなど、医療ニーズに合わせた医師の確保が必要なのですが、現在の制度は画一的でそうした地域事情を反映したものではない印象があります。
当院は、急性期疾患の中でも循環器系が強く、脳梗塞などの血管内治療も、京都では上位に位置付けられると自負しています。その分、そうした疾患の救急対応は多くなりますし、関連した疾患の患者さんも多く来られます。今後もこの分野を病院の特色として、集中して人材を強化していきたいと考えています。複数主治医制もようやく端緒に着きました。

●京都駅前の地域性として、地元の方以外や観光客・外国人の患者さんも非常に多い

一般的に地域医療というと、地域のクリニックなどと連携して住民の方々に医療を提供する形ですが、京都はユニバーサルな色合いのある地域ですので、医療事情もやや特殊性を帯びてきます。当院は「地域医療支援病院」の認定を受けているので、まずは当院のある下京区、近隣の南区などの住民に医療を提供することが第一になるのですが、実際に来院される患者さんはこの地域に限りません。
立地が京都駅前ですので、JR、近鉄、地下鉄などの電車やバスを使って市内各区からはもちろん、県外からも患者さんが来られます。例えば、滋賀県にお住まいでも、「滋賀の病院に行くより、JRで京都駅まで来て武田病院に行く方が早い」という方も多くおられます。かく言う私も、岐阜県から新幹線通勤をしています。
さらに、今はコロナで減っていますが、京都は観光客や修学旅行生が非常に多いので、当院は突然の病気や怪我などにも24時間対応をしています。さらに、海外からの旅行者だけでなく、移住者や留学生など外国の方がかなり京都に住んでおられます。そのため、当院は国際医療支援室を設け、通訳を常に3人配置し、外国語の話せる看護師も雇用しています。希少言語に対しては、ITツールのポケトークはじめ、翻訳機も設置し、夜間でも外国人の患者さんに対応できるようにしています。最近、外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP)の認証を更新しました。

●コロナ禍においては従来なかった地域医療連携を経験

まず救急医療ですが、コロナ前では年間約6,000件、コロナ以降でも約5,000件を受け入れてきました。総数自体は減りましたが、逆に重症数は増加し、入院率も上昇しました。コロナ禍による受診控えが影響したのかもしれません。また、コロナ対応で一般救急がとれなかったり、院内発生のために救急が受けられなくなった病院などもあり、普段より離れたところからの要請を受け入れるなど、より広域の連携も経験しました。一方、当院では地域の開業医さんとの連携が特に重要ですので、地域の先生方がお困りの症例は基本的に全部受けるという形は堅持しています。担当医に直結する地域ホットラインも用意しています。
当院は古い病院構造のため、ゾーニングとしてコロナ病床を設けることは困難でした。従って、コロナ患者さんの受け入れは中等症ぐらいに留まりました。そのため、病態が急に重症化すると大学病院や日赤などの上位病院に上り搬送し、逆に、治療を受けて改善された患者さんを下り搬送で受け、さらに回復されたら療養施設へ移送する、というような役割を担いました。大半が京都市内や近郊ではありましたが、従来ではなかった形の分担連携が実践できたと思います。

●コロナによる受診控えの患者さんには電話投薬をおこなった

新型コロナ感染による影響ですが、一番大きかったのは受診控えによる外来患者数の減少です。特に、生活習慣病の患者さんが多かったですが、ただちに悪くなることはなくても、ボディーブローのように後に悪くなるのでは、と心配しました。
そうした患者さんにはできるだけ電話投薬をおこない、「来られなくてもお薬だけは飲んでください」と連絡し、状況が落ち着いたタイミングを見計らい、「次回は来てください」と事務から電話で受診勧奨をおこないました。もちろん、電話投薬と病状確認は医師がおこない、カルテにも何回電話投薬したか、病状の変化の有無、最後にいつ来たかなどは記録しています。
コロナ禍で1つ困ったことは、非常勤の医師の中に、患者さんに少しでも発熱があると救急など全てお断りされる方が何人かおられたことです。不安な気持ちは分かりますが、ちょっと過剰防衛というか、それによってスタッフが不足することが多々あり困りましたね。そのため、迅速にコロナ判定ができるよう、PCR検査も通常機器に加えて、1時間で定量的に判定できるもの、15分程度でプラスマイナスの定性的な結果が分かるもの、それから抗原検査など、多彩な検査を揃えて医師側にも安心感をもってもらえるよう努めました。幸いにも、今のところ院内への感染の持ち込みはゼロです。

●ポストコロナでは、日常生活や地域医療の変化も踏まえて医療の質を上げていきたい

今後についてですが、コロナが収束していっても、ワクチン未接種の方を中心に発症や重症化する方は出てくると思います。ウィズコロナの診療となるでしょう。この未接種リスクをどう管理するかは考えなくてはいけません。ブレイクスルー感染も防がなければなりません。そこで当院では、入院患者カルテに1つ欄を増やして、ワクチン接種の有無や回数を患者サポートセンターや病棟が入力するようにしました。基礎疾患などの入院事由に加え、感染リスクも考慮に入れて重点ケアをしていく形です。
一方、コロナ禍によって生じた良い部分もあると私は思っています。例えば、生活習慣が変わって、普段から手洗いやマスクを心がける人が増えましたね。それはコロナ感染だけでなく、インフルエンザや食中毒などの予防にも効果的です。普段の健康管理にも皆さん注意するようになりました。
それから、地域連携に関しても、これまでリアルでおこなっていた研修会や会合などがウェブ中心になりました。コロナが収まった後も、リアルかウェブか用途によって使い分けられますし、それによって時間の節約や広域連携、今までできなかった形の研修なども企画できます。今後、そういう部分でもリーダーシップをとっていくことが、地域医療支援病院である当院の役割ではないかと考えています。
ポストコロナにおいては、そうやって変化した患者さんの日常生活や地域連携の在り方を考えながら、医療質を上げていくことが大事です。「ピンチをチャンスに変える」という言葉がありますが、コロナ禍で発見した良い部分の芽生えを見逃さず、今後も京都市の皆様の健康に貢献できるよう努めていきたいと考えています。