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コストコントロールで経営体質改善。数値化による病院経営で不確実性の時代に対応する

愛知県

社会医療法人 大真会 大隈病院

真砂 敦夫 理事長・病院長

中部

民間病院として、いち早く脳神経外科を開設した歴史のある大隈病院。急性期・地域包括ケアを基盤としたケアミックス病院として、地域に密着した病院経営をされています。今回は経営管理本部の設置や、数字の裏付けをもった経営といった独自の取組みを中心に、真砂敦夫理事長・病院長にお話を伺いました。

●確実なコストコントロールと説得力のある施策は、数値化によってもたらされる

病院運営にあたっては、数字の裏付けを持つことと、確実性の高い施策を打つことを重視しています。当院は民間病院ですので、シビアに利益を出していかなければなりません。過去と比べても病院経営は非常に厳しい状況下におかれています。だからこそ、さまざまな情報を可能な限り数値化して、数字の裏付けをもってディスカッションしたいと考えています。
数年前、従来通りの経営をおこなっていても赤字になってしまう時期がありました。そのとき、原因を突き詰めて施策を打つための材料として、ダッシュボードの重要性を実感しました。さまざまな数値データを集めて、「ここに費用がかかっている」「このセグメントだけ下がっている」など検証を繰り返したことが今につながっています。
収益を上げるというのは非常に不確実性が高いことですが、この状況下でも確実性が高いのはコストコントロールです。コストの見直しを数年前から開始したことで、ようやく少し利益が出やすい体質になりました。

●事務長職を廃止し、合議制の「経営管理本部」を設置

当院の特色は、実務の意思決定をする経営管理本部を設置していることです。理事会と病院の間という位置づけで、一般的な病院では事務長が担う機能です。個人病院では特に、収益もコストも人事も、スーパーマンのような事務長が一手に抱えていることが多いのではないでしょうか。しかし当院は、後継者の育成や次世代への継続が難しいと判断し、事務長職を廃止しました。

そのため、経営管理本部は事務長の業務を分解した組織になっています。(ヒューマンリソース、ロジスティクス、内部統制、ICT、マーケティングからなる)5つの合議制で、取締役会議のような機能を持っています。各部長には、元々病院の職員だったメンバーを配置しています。理学療法士、ME、薬剤師、臨床検査技師、看護師など、職種関係なく能力に応じて抜擢し、活躍してもらっています。一般企業で言えば執行役員のような役割です。ここでディスカッションをして方針を決めるのは当院ならではの手法ではないでしょうか。

●内部での固定費削減、元看護師のPFM (Patient Flow Manager) によるベッドコントロールで経営改善

経営改善の施策としては、内部でのすべてのコスト削減とPFMによるベッドコントロールに取り組んでいます。
まずすべてのコスト見直しと削減です。コスト削減は専門の業者に外部委託すれば手軽ですが、当然費用がかかりますし、何よりコスト削減のノウハウが我々に蓄積されません。業者まかせでは職員にコスト意識が芽生えません。そのため全て経営管理本部のメンバーで対応し、人件費、委託費、水道光熱費、電話、清掃、ユニフォームのレンタル、消耗品、医療材料、薬品や保守料金、各種保険料の類を例外なく全て見直しました。業者との交渉は経営管理本部のメンバーが行いました。
メンバーの負担は大きかったと思いますが、年間数千万円の削減効果が得られました。自分たちでおこなったことで、コスト削減により赤字体質からの脱却できたことをメンバーに実感していただけました。これは、大きな成功体験であり、経営管理本部メンバーの自信に繋がりました。
次に、PFMによるベッドコントロールです。当院は4病棟のうち、現在2病棟が地域包括ケアで、2病棟が一般急性期病床です。大切なのは、患者さんを一般病棟からどのようにスムーズに地域包括ケア病棟に移すかなのですが、その役割をPFMが担ってくれています。
ケアミックス病院はどこも同様だと思いますが、患者さんの在院日数と病状を見て、DPC係数を考慮し、単価が最も高いところに患者さんを収容します。この手法に協力的でない医師もいるのですが、当院のPFMはそうした医師とも比較的うまくコミュニケーションをとってくれています。元々看護師として病棟で勤めた経験があり、患者さんの病態把握や医師との連携に長けているため、医師の治療計画に沿って、可能と判断できるタイミングで転棟を打診してくれています。

●医師専任チーム「DMT(Doctor Management Team)」を設置し、医師のパフォーマンス向上を図る

病院の収益の中心は医師の業務にあり、収益を上げるには医師のパフォーマンス向上が必要です。そう考え、医師のパフォーマンスを上げるために、DMTという専任チームを作りました。医師との関係構築が得意な人材を立て、MA(Medical Assistant)と協力しながら医師にできるだけ寄り添ってもらっています。
医師への働きかけだけではなく、医師に不平不満はないか、勤務態度はどうかといった点をウォッチする役割も担ってもらっています。中には働きすぎてしまう医師もいますが、医師の働き方改革もありますので、時間外の確認など勤怠管理も重要なチェック項目です。

●医業収益と360度評価の2軸で、多角的に医師のパフォーマンスを評価

医師の評価は、医業収益と360度評価という2つの軸でおこなっています。まず医業収益に関しては、医師別の医業収益をはじめ紹介件数、手術実績など様々な情報をバックデータとして持っています。医師によって数字が数倍違うこともあるため、給料に見合ったパフォーマンスをしているかの確認が目的です。医師面談では、病院全体の予算達成のためには、医師1人当たりどれだけ数字が必要かまで落とし込んで提示しています。
3年前から医師に対する360度評価を始めました。患者さん、職員、同僚医師たちから多面的に評価をしてもらい、5段階の点数に表します。医業収益に加え、チーム医療貢献、患者満足度、院外活動・自己研鑽などを数値化して、レーダーチャートにしています。これによって面談の場でも「この項目を伸ばしてほしい」「看護師さんから厳しい評価が出ている」など、データに基づいた話ができるようになりました。医師のハラスメント対策にも役に立つことがあります。資料作成には経営管理本部のメンバーやDMTが尽力してくれています。
これらのデータをもとに、雇用契約の内容を協議することになります。

●職員が自ら目標を設定し、現場主導での改善していくQC活動

職員のQC(クオリティ・コントロール)活動も、5〜6年前からスタートしています。毎年当院のテーマとして掲げた内容から、日常の小さな行動レベルに落とし込んだ目標を職員に設定してもらっています。具体的には、患者さんの待ち時間削減や、職員の残業を減らすといった内容です。取り組みが進むにつれて職員の視点も徐々に変化していて、仕事を効率化したいという目標設定も出てきています。

QC活動もコスト削減や業務の効率化、働き方改革につながると期待していますので、今後も取組みを推進していきたいですね。

●メンター制導入、クロス面談によって看護師の離職率改善を進める

当院の課題は、入職3年目までの看護師の離職率が高いことでした。しかしメンター制の導入により改善のきざしが見られています。2020年は特に看護師の離職率が高く、それに対処するためにメンター制が必要だと考え、メンター講習の受講、規約作りなどの準備を進めて、2021年度の新入職員から運用開始しました。クロス面談が最適と判断して、メンターにはなるべく別の職種の人を選んでいます。幸い今のところ評判が良く、離職率は少し下がっています。
今後の課題は、採用のミスマッチをいかに減らすかです。一回の採用面接では不十分ですし、採用の質を上げないと離職率が下がりきりません。小論文やSPI実施だけでなく、今後は、リファレンスチェック、推薦状の導入を検討中です。

また当院では、人事考課制度の一環として目標管理(MBO)を導入しています。必ず年に3〜4回の個人面談がありますので、そこで確実にヒアリングを行うことが重要です。同時に、管理職サイドに定期的に講習をして、面談の質を上げる必要もあると考えています。

●不確実性の時代において、まず取り組むべきは確実なコストコントロール

不確実性の時代にどのように対応していくかという点については、院内でもさまざまなディスカッションをしています。大前提として、今までの病院経営の手法では、成長や持続性を得るのは難しいのではないでしょうか。外部環境を見れば、近隣では高齢化が進み、人口が確実に減少していきます。新たな収益源として、健診部門や、介護や訪問看護といった多角化の推進も検討されています。不確実なときに、積極的な設備投資にも一抹の不安があるというのが正直なところです。

このような時代でも確実なのはコストコントロールですので、無理・無駄を省いて、労働生産性を上げることに引き続き注力していきたいです。これに関しては、ITやDXを導入するなどさまざまな手法があると考えています。次なるステップに進む前に筋肉質な財務体質を確立したいと考えています。