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消化器の専門病院としてだけでなく、地域のかかりつけ医としてあり続けることも病院の使命

山口県

防府消化器病センター

三浦 修 理事長・病院長

中国・四国

山口県の防府消化器病センターは消化器の専門病院としての特徴をもちつつ、「地域のかかりつけ医」としての一面をもつユニークな病院です。今回のインタビューでは三浦修病院長に、同院の特徴やポリシー、行っている地域貢献などについて伺いました。

消化器の専門病院と地域におけるかかりつけ医という2つの役割を大切に

当院は、消化器疾患に特化した急性期病院として設立され、昨年12月で55年が経過しました。創立以来、急性の消化器疾患の専門的治療のみならず、かかりつけ医としても地域医療に貢献して参りました。当院は千葉医科大学(現千葉大学医学部)と九州大学出身の外科のドクター3人の共同経営ではじまった病院で、自分達で診断・手術から術後のフォローアップまで一貫して担っていました。がんの末期や再発された患者さん方も、最期の看取りまで主治医が切れ目なく携わっていたのです。

しかしながら、時代は変わり、医療の進歩も著しく、診断から内科的治療、内視鏡的治療、外科の手術さらに術後のフォローアップ、更には抗がん剤治療までの全てを1人の医師が担うのが、最善とは言えなくなりました。現在では、それぞれの医師の専門性を生かしながら、内科と外科とがうまく調和・協働しつつ、チームとして医療を提供しています。これからも地域の患者の皆様には、引き続き、一人の医師が担当する如くにシームレスな全人的医療をチームで提供していきたいと考えています。

当院は消化器に特化した単科病院であるため、チーム医療という観点では、内科と外科の協働体制の構築や、患者さんのフォローアップという面でアプローチしやすく、協力的でよいチームが構成できていると感じています。消化器に特化した単科の病院というのも全国的にも少ないので、そういった点は当院の特徴と言えると思います。

現在、私どもの病院において力を注いでいることは、今できる高度で最新の医療をなるべくたくさんの方々に提供することです。ここ防府市は11万人強の中小都市ですが、2次医療圏を含め、当院には消化器疾患に関わる最新最善の医療を提供する役割があります。当院では医療の質を担保しながら、先進的な治療についても対応できるよう、出来る限り努力しています。並行して、市民あるいは県民に親しまれる病院、そして職員にとっても働きやすい病院、そして働き甲斐のある病院になるというのが一番大事かなと考えています。

「かかりつけ医」としての役割を果たすのが中小病院の使命

病院の経営上は、大病院のように急性期の治療が終わったら、紹介医の先生に戻してというのが効率は良いでしょうし、その方が、単価も上がることが多いですね。とはいえ、地域医療の中では10年~20年も通ってくださっていて、医者の顔をみれば安心するという患者さんが当院には多くいらっしゃるのも事実です。中小病院である当院では、ことあるごとに相談役としての立場を続けるというのもこの地域における当院の務めのひとつかなと考えています。

こうした方針や考えからか、一度当院で手術をされた患者さんは、その後もずっと通ってくださるケースが多いですね。そういった患者さんたちに何かあればすぐにご相談いただき、当院の専門外の診療内容であれば、速やかに別の専門医へつなげるということも継続してやってきました。

また遠方から来られた方は、当院での治療終了後に紹介元の先生にお返しすることも多いのですが、その後も定期的に当院を受診されています。このように、患者さんとの信頼関係を長い間かけて構築してきましたし、これからもかかりつけ医としての機能を大切にしたいと考えています。

患者さんが頼ってきてくださったら、こちらとしても非常にありがたいですし、感謝することだと思っています。病院としてもわたし自身としても、そうした患者さんに応えていくことを大切にしたいです。

経営的なことを言えば、本当はもう少し間口を狭くした方がよいのかもしれません。しかしながら、こういった背景から、かかりつけ医として頼ってくださるのも歓迎しておりますし、大病院は急性期の紹介患者さんを中心に診療せざるを得ないので、この役割は当院のような中小病院の使命だと思っています。地域包括ケア病棟も活用しながら役割を果たしていきたいと考えています。

コロナ禍でもサブアキュート・ポストアキュートの患者さんを受け入れ続ける

新型コロナへの対応としては、当院でも入院協力医療機関として患者さんを多数受け入れています。中等症までとはいえ、院内でのゾーニングやマスク・手洗いといった基本的な感染対応ができていましたし、コロナ以外の患者さんへの対応もスムーズでしたね。

新型コロナに限らず、今後も感染症対策は続けていく必要があるでしょう。そうした中で手術や通常の検査も、バランスをうまくとりながら対応していかないといけません。そのため、職員も今までより厳密に、感染のリスクに対する意識改革をしていく必要があります。

最初にお話ししたように、当院は消化器の専門病院です。コロナ禍でも一番の特徴は活かしていく、あるいは目指していかないといけないと考えています。それを中心にいろんな感染症を含め、サブアキュートあるいはポストアキュートの患者さんに充分対応できるような院内体制を作っていきたいと考えています。

「健康公開講座」を中心に、法人として地域に貢献

コロナが流行する前までは、2ヵ月に1度、県民・市民の方を対象とした「健康公開講座」を開催していました。主に消化器系の演題を取り上げるのですが、院内のドクターだけでなく大学の先生などをお招きして講演していただくこともありました。

これらの講座を一種の啓発活動とし、多彩な情報を地域の皆様に提供してきました。講座には患者さんをはじめとして、またホームページや広報誌をみてこられる一般の方もいらっしゃいましたね。中には何度もご参加いただける方もいらっしゃいます。参加いただく方に楽しんでいただくために、時には歌いながら説法する「歌説法」のお坊さん、美術館・記念館の館長さんといった他分野の方をお呼びすることもありました。一般財団法人の立場として、地域貢献の一環でこういった活動を行ってきましたし、これからも続けて参りたいと思っています。

また、健診事業も重要な柱として行っていますが、当院は消化器が専門ですから、大腸がんや胃がんなどの検診活動にはかなり力を入れて参りました。数年前からは、乳がん検診も行っています。

健診への取り組みを広げていきたい気持ちはあるものの、健診専門のドクターの確保はなかなか難しい状況と言えます。将来的には、ますます需要が高まる健診保健事業の拡張に向け、人員の確保と設備面も併せて、しっかりとした将来像を描いて行きたいと考えています。

自ら出掛けて行ってドクターを確保

マンパワー不足状態では、消化器の専門病院と地域のかかりつけ医としての二つの役割を充分に果たすことはできません。積極的に何かをやろうとすると、必ずそこに従事者が必要です。

これまではいくつかの大学医局から、若いドクターの派遣を受けていました。しかし今は外科の医局からドクターをコンスタントに派遣してもらうのは、入局者自体の数が少ないため非常に難しい状況となっています。そのため、私どもの病院としても理念を違うことのない多方面に情報発信し、また直接訪問を繰り返して医師派遣をお願いして参りました。

こうした取り組みが実を結び、最近では役割を果たすために必要な診療体制を維持できるようになりました。わたし自身、少し前まではほとんどの手術に入りっぱなしだったのですが、現在ではほとんどの手術を若手含めて他の外科医に任せることができるようになりました。
今では、病院長としての役割や急性期の診療以外にも、在宅診療や緩和治療といった、幅の広い動きができるようになりました。

急性期を過ぎたポストアキュートの段階やサブアキュート、さらに緩和ケアなど様々な病状の患者さんに対応するためにも、ドクターは充実している方がいいのは言うまでもありません。これからも、専門性を生かしたドクターの確保について積極的に取り組んで参ります。

子育て中の女性医師が働きやすい環境に

当院の消化器内科には、小学生2人の子育て中である消化器内視鏡専門の女性医師がいます。子育てをしながらの医療従事というのは様々なハンディもあるかと思いますので、医師本人の考えを尊重し、なるべくフレキシブルに診療や検査の時間を取ってもらうようにしています。
100%要望に応えられるとは言い難いのですが、ライフスタイルにあまり影響がないよう、診療内容や検査を組んでもらっています。

それぞれのライフスタイルを考慮した、柔軟な働き方を提供するのは簡単ではありません。たとえば当院には救急のシフトに入れるドクターと入れないドクターがいますが、できる限り不公平感が出ないよう、さまざまなサポート制度を利用しつつ、相互に理解してもらうよう努力しています。
2024年も迫る中、医師の働き方改革を進めていかないといけないことを考えると、他にも改善が必要な面はまだあります。院内の体制を検討しながら、医師個人個人に極端な負担のない体制でやっていければと考えています。

多職種間で情報共有できるデータベースを構築

昨年、院内の多職種間で情報共有をする一元化されたデータベースを構築しました。従来は、病棟や外来、医師や看護師、その他の職種などで個々に患者情報を収集していました。これを1つのデータベースに統合することにより、すでに保存している情報をリアルタイムで修正し、また同時にリアルタイムで新しい情報を全職種が共有できるようになりました。その一元化されたデータベースを見れば必要な情報が全部わかるし、修正した履歴も、修正した職員も記録されます。当然効率化、省力化が進みました。すでに運用を開始しています。

患者さんにお渡しする問診票も、現在当院が保持しているデータベースの情報が印字されますので、患者さんが再度いらした際も変更された項目だけ記入すればよく、情報が変わっていれば、そのアップデートもできます。また患者さんに繰り返し同じことを聞く必要もなくなったので、患者さんの負担も減らせました。

また、情報だけでなく実際の連携についても重要です。当院はがんの化学療法・免疫療法の症例が多くありますが、抗がん剤による治療に関しては薬剤師の役割が大きなウェイトを占めています。ドクターがオーダーを出しますが、その後、薬剤師が検査データや処方オーダー内容をチェックしてアドバイスをくれます。たとえば患者さんの状態を把握した上で、副作用のコントロールやレジメンの変更などの提案をしてくれます。日常診療の場では、薬剤師だけでなく、多職種を基盤としたチーム医療ですので、こういったかたちで常に職域を超えた連携を取るようにしています。

これからの病院運営を考える上で、中小病院において不足しがちなマンパワーを如何に補完するかが重要であり、患者さんにとって良質で安全な医療を提供するために、コストパフォーマンスの高いDX(デジタルトランスフォーメーション)を如何に取り込んで行くかが大きな課題と思います。現在、UbieのAIシステムの導入をはじめ、センター内の種々のデジタル化を進めており、タイムラグのない多職種間の情報共有システムが、患者さんにとっても私どもにとっても大きな力になってくれるものと確信しています。