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経営改善を実現し、コロナ禍や新築移転を経ても黒字経営を維持。「人助け」を基盤とする病院経営のあり方とは

鹿児島県

鹿児島徳洲会病院

池田 佳広 病院長

九州

地域のニーズに合わせて経営方針を大きく転換させることにより、赤字経営から脱却した鹿児島徳洲会病院。2021年12月1日には谷山地域に新築移転されました。医学生の頃から経営学に深い関心があったという院長の池田 佳広先生に、病院を経営する上で大切にしている考え方、また、今後の展望などをお伺いしました。

●利益を上げ続けなければ、良い医療は継続できない

病院にとって、利益を上げることは目的ではなく、良い医療を提供し続けるために必要な手段です。徳洲会グループには「生命だけは平等だ」という理念があり、医療従事者たちは「どんな人も助けるために、利益などは度外視して患者さんに尽くす」という思考に偏りがちです。それ自体はもちろん、素晴らしい職業精神だと思いますが、利益をないがしろにした結果、もし病院経営が継続できなくなれば、一番困ってしまうのは助けるべき地域の方々、患者さんです。ですから、良い医療を提供し続けるためには、やはり利益を出し続けていくことも追求しなければなりません。
ただ、利益を追求するとはいっても、難しく考える必要はないと思っています。私が院長に就任した当初から変わらず大切にしているのが、「AKB」という考え方。AKBとは、「A:当たり前のことを、K:きちんと、B:馬鹿にせずにやる」という意味です。求める結果が得られるまでAKBをしつこく繰り返していけば、自ずと目標は達成されます。
また、私が病院経営の肝だと思っているのは、「見える化」と「目標管理」です。入院患者数や検査数など、毎日・毎週・毎月とこまかく数字を出して増減の理由をしっかりと分析し、分析結果をもとに目標値を設定します。そこまで細かくデータを分析したり目標を設定したりする病院は少ないようで、こうした目標管理については、他の病院からも高い評価を受けることが多いですね。

●すべての患者さんが平等に、一定の医療サービスを受けられる対応のあり方

どんな患者さんにも親身になって、優しさをもって接するというのは、当院のスタッフの特徴としてあると思います。患者さんのために尽くそうとか、救急を断らないといったマインドはかなり高いですね。一方で、経営者の観点から見ると、すべての患者さんの要望を聞きすぎていると感じる部分もあります。
患者さんのご要望には、患者さんが当然に受けるべきものもあれば、ときとして単なるわがままと言えるものもあります。病院に患者さんは一人だけではありません。サービスの一環として一人の患者さんのわがままに対応し続けた結果、他の患者さんに対応する時間が減ってしまっては、真のサービスとは言えないでしょう。
また、すべての患者さんの要望を聞いていてはスタッフが疲弊し、健全な病院運営の妨げとなってしまいます。ですから、医療従事者として対応すべきところとそうでないところの線引きは、意識してほしいと日頃から伝えています。業務を効率化して無駄を極力省き、余った時間をより患者さんの利益になるようなことに使ってほしいと考えます。

●病院の新築移転にともない、地域のニーズに合わせて経営方針を大胆に転換

当院は2021年12月1日に中央地域である鴨池地区から、谷山地域へ新築移転し、新病院として運営をスタートしました。しかし、私が当院に赴任した当初は赤字経営であり、経営改善しなければ新築移転を進められない状況だったんです。そこでまずは、問題の見える化に取り掛かりました。
私が赴任する以前、当院は急性期病院としての機能を強化しようとしていたんです。ところが、旧病院のあった鴨池地区には、当院よりも大規模かつ高度な急性期病院が点在していました。そこで、当院が求められているのはむしろ、後方支援病院としての機能や、他院にはない当院の強みであるリハビリ分野を強化することだと考え、地域のニーズに合わせて経営方針を転換したんです。就任1年目は患者数を増やすこと、2・3年目は入院単価を上げることに注力するという目標を掲げ、以下のような施策を実施していきました。

・周辺の急性期病院を訪問し、満床の際は入院が長くなった患者さんやリハビリが必要な患者さんを紹介してもらうよう打診する
・高度急性期病院には送りにくい、慢性期の患者や精神疾患を患う患者さんを積極的に受け入れる
・救急外来の患者さんから入院患者さんを増加させる
・ベッドコントロールナースの配置とベッドコントロールミーティング(BCM)により、入院患者数を徹底管理する

こうした施策を続けることで、黒字経営へとシフトしました。
一方で、移転先である谷山地域は、人口16万人に対し救急の受け入れを主におこなっているのが限られた病院のみという状況だったんです。谷山地域ではむしろ、救急医療のニーズの方が大きかったんですね。そこで今度は、当直医を増やして救急に対応できる体制を整えました。新病院効果なのか、今までなかなか新しい医師、特に急性期医療のできる若い医師はほとんど入ってこなかったのですが、2月から5月までで9人の医師を招聘することができました。うち、30代、40代の医師が5人と比較的若い方を中心に。その結果、救急患者の受け入れ件数を大幅に増やしました。
2020年には新型コロナウイルスの流行で、受診抑制により外来患者数は減少傾向になりましたが、地域のニーズに合わせて柔軟に対応し、コロナ肺炎の患者さんをたくさん受け入れ、補助金も獲得できたことで、医業収益(売上)は減ったものの、利益はむしろ増える結果になりました。医業利益 2018年 4億円、2019年 4億円、2020年 5億円。

●谷山地域の急性期医療を担っていける医療提供体制を整えることが急務

前述の通り、旧病院では慢性期やリハビリ中心の医療体制で進めていましたが、新病院では、救急の受け入れにも対応していかなければなりません。しかし、急性期の患者さんがどんどん来院する状況に、まだ十分には対応しきれていないのが現状です。
急性期に上手く対応できていない理由は、大きく2つあります。1つは、旧病院から新病院へ移行する間に、中堅の看護師の多くが辞めてしまったことが挙げられます。経営状況の問題などから、移転の話が出てから実現できるまでに数年かかってしまったんですね。旧病院では慢性期やリハビリの治療が中心でしたので、対応できる症例数が少なく、それが、経験を積みたい意欲のある看護師には物足りなかったようで、移行までの間に中堅の看護師が離れてしまったんです。現在は、看護師採用を大幅に増やして、人材獲得に努めています。
もう1つは、急性期に対応できる能力のある医師や看護師の育成ができていなかったことが挙げられます。人材育成や教育に関しては以前から、急変した患者さんへの対応を学ぶ勉強会や講義などを定期的に実施していたんです。しかし近年はコロナ禍の影響で開催を延期せざるを得ない状況でした。今後はもう少し、実際の症例を見ながらOJTのような形で、医師や看護師、技術職のスタッフたちがより実践的に学べる機会をつくっていきたいと考えています。

●積極的なタスクシフティング・ITツールの導入により、働きやすい環境を

当院では医師の働き方改革の一環として、さまざまなタスクシフト・タスクシェアをおこなっています。まずは、医師の業務負担を軽減するため、医師事務作業補助者の採用数を増やしました。また、診療看護師や特定看護師といった、高い技術を有する看護師の採用にも力を入れています。
日々の業務効率化に関しては、医師事務作業補助者のトップと看護部長に協力してもらい、看護部向けのマニュアルや特定の業務フロー、院内統一指示を作成しました。これにより、看護師から医師への不要な院外コールがおよそ3分の1と、大幅に削減でき、医師はもちろん、看護師の業務負担軽減にもつながっています。
また、ITツールを活用した業務改善も積極的に進めており、例えば徳洲会グループ初のスマホの導入や、患者さんの離床を検知して看護師を呼び出すナースコールシステムの導入などが挙げられます。さらに、薬剤師の調剤業務を一手に担うロボットや、注射薬の排出を自動化するシステムも導入しました。ただ、ツール自体は取り入れたものの、まだ活用しきれていないと感じる部分もあるので、ツールをいかに上手く業務へ取り入れていくかが今後の課題です。
その他、病院の新築移転にあたっては、医師をはじめとした医療スタッフがストレスなく働けるよう、階別の機能的集約や効率的な動線を意識したつくり・配置を実現しました。これらの施策により、当院スタッフの時間外労働は1ヶ月あたり6.8時間(2019年度実績)に収まっています。

●近隣の医療機関へ直接足を運び、紹介してもらえるような信頼関係を構築

地域医療連携に関しては、近隣の医療機関の方々と直接会って信頼関係を構築していくことが大切だと考えています。そのため、コロナ感染者が増加している期間を除き、月ごとに目標訪問件数を定め、院長の私と副院長、事務長、看護部長などが各診療所やクリニック等へ積極的に足を運んでいます。やはり顔が見える関係性を築いていくことが重要で、直接訪問させていただくと、次回から紹介が増えることは多いですね。
訪問時に気をつけているのは、訪問先と競合しないようにすること。患者さんを取り合うのではなく、例えば療養型の病院であれば急性期の患者さんを紹介してもらうといったように、相手が困っているところを当院が引き受けるようにしています。診療所やクリニックの方々から見て、当院に紹介することで得られるメリットをわかりやすく伝えるのがポイントですね。

●救急対応を強化するとともに、僻地・離島医療の強化・推進を担っていきたい

今後推進・強化していきたい最大のポイントは、やはり救急対応です。谷山地域において急性期病院が必要とされていることからも、救急にしっかりと対応できる医療体制を整備することが、喫緊の課題です。また、当院では現在、10床のコロナ病床を確保し、新型コロナウイルス感染症への対応にも力を入れています。終息に向けて今後も地域の方々に貢献できるよう、コロナ対応病院としての役割も引き続き担っていきます。
今後の展望としては、鹿児島県の僻地・離島医療を当院が中心となって担っていきたいという想いをもっています。僻地や離島にある病院には、どうしても人が集まりにくいんです。そのため現状では、鹿児島を始めとした九州や、東京、大阪などから医療スタッフを応援という形で送り出しています。
そういった各地から派遣されてくるスタッフをいずれは当院に集約して、離島医療を学ぶ研修という形で、定期的に離島へスタッフを派遣するようなシステムがつくれればいいな、と考えているんです。そうすれば、当院の医師は離島医療を学ぶ貴重な機会を得られ、僻地や離島ではより安定した医療体制を整えられます。どんな場所にいても安心して医療を受けられるような仕組みを、地域と連携を取りながらつくっていきたいですね。

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