地域病院同士の連携を密におこない、「地域全体で患者さんを良くしていく」という姿勢で、長崎県北部の医療に貢献する長崎労災病院。特に、整形外科をはじめとした外科系医療は地域をリードしており、各病院から多くの紹介患者さんが治療にやってきます。病院として大切にされているモットー、労災病院ゆえの課題、経営面での取り組みなど、小西 宏昭院長に詳しくお話しいただきました。
労災病院として社会的使命のもと運営。整形外科は地域でも高いシェアを誇る
労災病院というのは文字通り、労働者のための病院という観点が歴史的にあり、元々は炭鉱や工業地帯などにあって労災事故を担う病院として設立されてきました。そのため、外傷や脊椎に関する疾患、脳疾患の外傷などに元々強いという背景があります。
労災病院は基本的に社会的使命のもと運営しているため、単純に収益を上げればいいというものではありません。とはいえ、赤字を出すことはよろしくないのも事実です。そのため、少なくとも職員の給与がしっかり払えて、戦略的に機器などを揃えることができ、その上で少しの利益が上がる状態がベストだと考え経営しております。
治療面での特徴ですが、整形外科が強く地域でも大きなシェアを占めています。特に私の専門領域でもある脊椎外科は、地域医療圏において90%以上が当院に集約されています。そのため、ご紹介いただく患者さんの数や、患者さんが当院での治療を希望される件数、さらに当院で学びたいというドクターの数など、整形外科においてはいずれも高い水準となっています。
労災病院のため機器整備費や給与体系に関し制約があることが課題
経営面での課題は、新しい機器、特に高額機器の導入に際して、できるだけ自前の資金でやらざるを得ないということです。通常の民間病院であれば、借入などをして購入し、それを数年かけて償却していくことができますが、労災病院は機器等の整備に関し、前年度の収支に見合った金額を本部から指示されます。つまり、銀行から借入するなどの手段がとれないため、機器導入にかなり足枷がある状態です。
そのため、例えば手術室の無影灯を新しくしたいなどのベーシックな整備が、どうしても後手に回ってしまいます。昨年は病院独自に寄付の依頼を多くの方にお願いし、OBの方などを中心にご協力いただくことで、そうしたベーシックな整備をすることができました。
もう1つの課題は、公務員的な年棒制の給与体系であるため、頑張ってくれているドクターにインセンティブが与えにくいことです。公的病院であるため、独自の給与体系をつくることが難しいのです。
この点に関しては、診療に影響を与えない限りは当病院外での活動を許可することでバランスをとっています。当院はさまざまなスキルを持っているドクターが多いため、他病院から診療依頼や手術応援依頼が多く来るのですが、そうした病院外での収入をある程度まで許可しています。これがドクターのインセンティブのような形になれば、と思いますし、またそうした活動でさらにスキルアップしていただければ、中長期的に当院にもプラスになると考えています。
手術数を増やすこと、回転率を上げることが経営面で重要
当院のような急性期病院は基本的に入院収入が大きく、特に手術は最も効率的な収入です。そのため経営面の取り組みとしては、手術数を減らさず、できれば増やしていくことが大事だと考えています。冒頭でお話した通り、当院は整形外科や脳外科など比較的手術の多い診療科が主体となっており、経営面でもそこが強みとなっています。そのため各科にも手術数を落とさないようお願いしています。
もう1つ当院の特徴として、外来の患者さんは紹介患者さんが多く、多くの場合入院の治療計画を立てて予定入院という形で来られることが挙げられます。それに加えて、救急の患者さんがいらっしゃいますので、外来は待機的な予定入院で来られる方が6~7割、救急で来られる方が3~4割となっています。そして入院されて手術、術後の治療が終わったら逆紹介という形で紹介元にお戻しし、あまり外来の数は増やさないような工夫もおこなっています。
経営を考えると、今後も現在の強みである整形外科を中心に手術数を増やしていくことが重要になるのですが、そのためには回転率を上げることが必要です。現在、整形外科などの場合は、常に100人以上入院待機の患者さんがいて、3ヶ月以上待たないと入院できない状況です。もう少し早く回転できれば、患者さんもお待たせせず、病院としても収益が上がってくるので、現在進行形で取り組みを進めています。具体的には、整形外科・脳外科・一般外科の体制強化、麻酔科の充実、入院前の手続きなどがよりスムーズになるよう整備、それからベッドの回転と手術室の稼働スケジュールの問題。これらを進めていくことで、より回転率を上げていければと考えています。
「連携パス」を密におこない地域全体で患者さんを治療していく
地域医療連携については、連携室のチーフやドクター、看護師、事務といったスタッフが病院回りをしっかりおこなって関係維持に努めてくれています。治療の実績報告や毎月の紹介患者さんの数・分析の報告など、きめ細かい連絡を心がけてくれていますね。
長崎県北地域には当院含め総合病院が4病院あり、それぞれに得意分野も異なっています。例えば、整形外科などは前述の通り当院が強いので、他病院からの紹介を積極的に受け入れています。逆に、トル例えば糖尿病などの専門外来が当院にはないため、糖尿病で入院が必要という患者さんは糖尿病治療に優れた病院に紹介しています。そうした連携をスムーズにおこなえるよう取り組んでいるのが「連携パス」です。
もちろん早急に専門治療や手術が必要な場合は、その分野に適した病院で治療をおこないますが、必ずしもそうでない場合もあります。例えば、疾患の内容が当院の得意分野であっても、先々に手術になる可能性があるという患者さんまで一貫して当院で診ることは困難と言えます。そのため、そうした患者さんは比較的ベッドに余裕のある病院で、まず経過観察をお願いすることがあります。また、その患者さんが内科的合併症をお持ちの場合は、先に別の病院でそちらを治療していただき、その後再び当院に患者さんを送っていただき外科治療をおこなうというケースもあります。
このように患者さんのケースに合わせ、病院間で情報を共有してスムーズに治療していくのが「連携パス」です。この連携を密にすれば、各病院のベッド回転率も良くなります。1つの病院で完結するのではなく、地域全体で患者さんを良くしていけますので、各病院と協力して取り組んでいます。
働き方改革に対応するにはメディカルクラークの増員と細かいタスクシフトが必要
今後、働き方改革でドクターの時間外勤務を減らさなくてはなりませんが、手術やそれに関連する時間はなかなか削ることができません。また、当院では当直業務はすべて時間外という扱いなので、当直業務をどうするのかという課題もあります。他にも今後は学会や、先ほど言った他病院への診療応援なども労働時間にカウントされることになりますので、様々な工夫が必要と考えています。
働き方改革に対応していくには、タスクシフトの取り組みが極めて重要です。特に、従来ドクターがやっていた書類業務などを減らすために、メディカルクラークをさらに充実させることが必要だと考えています。
他にタスクシフトの取り組みとしては、タスクシフトの委員会をつくり、定期的により業務量を減らす工夫をおこなっています。例えば、手術後にさまざまな説明をして同意書を取るなどの業務があるのですが、当院は予定手術が多いため、これを入院前に済ましておく施策を進めています。それから細かい点では、薬剤を誰が運ぶかといったことなどもできるだけ統一して、それぞれの業務を減らせるよう努めています。
今後も地域連携医療を充実させるとともに、労災病院としての役割も果たしていきたい
これからの当院ですが、まずは従来と変わらず、医療安全がしっかりと保障されていること、収支バランスが良いこと、職員が働きやすいことという3点を基本とし運営していくことが重要だと考えています。また、院長というのは病院の収支・機能・安全性すべてにおける最高責任者ですので、しっかりその大方針を打ち立て、それが職員全体に浸透するようさまざまなメッセージを発信していきたいと思っています。
また、地域医療連携のところでもお話しましたが、現在は地域の医療機関が相互に情報共有し、お互いに補完することなくして病院運営は成り立たないと思いますので、引き続き連携を密にして地域を支えていきたいと考えます。
また、労災病院として働く方に向けての支援も重要な役割のひとつです。社会復帰に向けての支援や、職業と関連した健康診断なども責任をもってやっていく必要があります。
今後もそうした役割をまっとうし、地域と働く方々の医療を皆様にご提供できるように努めてまいります。