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「苦しんでいる方を救うこと」が使命。地域の救急病院として、できる限り救急を受け入れられるように取り組む

長崎県

日本赤十字社長崎原爆病院

谷口 英樹 院長

九州

地域の救急病院として救急受け入れ強化の取り組みに力を入れるとともに、医師や看護師の勤労環境向上のためにペイシェントハラスメント対策などもおこなっている日本赤十字社長崎原爆病院さま。日赤病院・原爆病院としての役割から、健全な病院経営のための施策まで、谷口 英樹院長にお話を伺いました。

苦しんでいる方を救うことが使命。患者さんやご家族に寄り添うことを第一に

当院は日赤病院なので、苦しんでいる方を救うことが根本的な使命としてあります。そのため、患者さんやそのご家族に寄り添うことを心がけるよう全職員に伝えています。
ただ、病院がつぶれてしまってはそうした想いも実現できませんし、健全な医療は健全な経営がないと実行できないとも思います。私は院長になってまだ1年と少しですが、これまでに9年間、経営担当副院長として院内組織の見直しなどを手掛けてきました。その経験も活かし、院長として健全な経営にも積極的に取り組んでいきたいと考えています。

原爆病院として被爆者に寄り添い、日赤病院として災害救護の役割を果たす

日本赤十字長崎原爆病院という名前の通り、日赤病院であることと、原爆病院であることの2つが当院の大きな特徴です。

元々被爆者の方のために建てられた病院であり、現在も入院患者さんの23%は被爆手帳をお持ちです。被爆者の方々は平均年齢80歳を超え、少なくはなられたのですが、それでもやはり自分たちの病院だという思いを持っていただけていると思います。現在はコロナ禍でやや数が減っておりますが、被爆者の方の健康診断を無料で受け持つ原爆検診もおこなっています。

また、日赤病院として最も特徴的なのは、災害救護の役割です。当院にはDMAT2班と救護班6班があり、これはもし大きな災害が起きた場合でも、その日にすぐ派遣可能です。訓練も年4回ほどあり、実際にコロナでクラスターが起きた病院にDMATを派遣した実績も複数回あります。

また、日赤病院は全国に91病院あり、日赤社員は約6万5千人います。こうしたスケールメリットを活かし、全国の病院と連携した医療ができることも大きな強みだと思います。

運営効率化委員会を発足させ、経営目標・対策を協議

経営面の取り組みですが、健全な病院経営のために「運営効率化委員会」という組織を作り、月1回会議を開いて、経営に関する目標を短期のものから長期のものまで決めています。具体的には、新入院患者数増加のための施策や、費用の削減に関する対策などです。

対策例を挙げると、加算の取り漏れをなくすソフトの導入があります。加算は国が認めた制度なので他の病院とは競合せず、着実にできる経営施策です。ソフト導入後、加算の取得率は向上しているので、こちらは数値で見える成果が得られたと思います。

また、2ヶ月に1回、7~8人の職員と院長室で食事会をして、ざっくばらんに意見をもらっています。委員会のような場では言いにくいこと発言してくれたり、若手がここぞとばかりに意見してくれたりすることで、私自身、新たな視点に気付かせてもらっています。

ペイシェントハラスメントに対する具体的な取り組み

その他の取組として、、ペイシェントハラスメント(患者さんから医師・スタッフへのハラスメント)への対策があります。

難しい問題ですが、「お金を払っているから自分たちが上だ」という考えのもと無理難題を仰られたり、ハラスメント行為をされたりする患者さんやご家族もごくまれにいらっしゃいます。それに対し個人が矢面に立つと、離職に至ることや精神を病むこともあるため、病院全体で対処するために「相談支援室」という組織でクレームなどはすべて受けるようにしました。加えて、喫煙や性的嫌がらせなどへの注意喚起の放送を毎日おこなう、ポスターでの啓発などを実施しており、その効果もあってかなりハラスメントは減ってきたと思います。

また、当院だけでなく多くの病院が同様の問題に直面しているため、長崎の4病院でペイシェントハラスメント協議会をつくり、お互いの事例を持ち寄って検討や対策もおこなっています。

看護師不足の課題は、看護アシスタントや医療クラークの雇用で体制強化

働く医師やスタッフの環境に関しては、2024年度より実施される医師働き方改革も大きく影響してきます。働き方改革で、年間の時間外労働の上限が960時間以下となりますが、当院は現段階でも問題がない状態なので、そこに関しては非常にうまくいっていると思います。人材採用に関しても、長崎大学病院との連携もあり、現状不足して困ることは起きていません。

難しいのは看護師の不足です。やはり女性が多いため、産休・育休があり、人材の確保が読めない部分があります。とは言え、多めに雇用する余裕はないので、足りなくなってきてから募集をかけるというのが現状です。

看護師の不足については、当院では看護アシスタントや医師の事務作業を補助する医療クラークの雇用を増やすことで対応しています。看護師1名が入院患者7名を受け持つ「7対1看護」を保持できるよう、看護師は外来より病棟を中心に勤務してもらい、その分外来では看護アシスタントや医療クラークに入ってもらうことで、限られた人数でもしっかりと医療がおこなえるような体制をつくっています。

できる限り救急を受け入れられるよう2つの施策を実施

地域の救急病院として役割を果たすことも重要な使命だと思っています。救急病院として当院は年間2,100~2,200件の救急車を受け入れており、できる限りこのラインをキープしたいと考えています。救急の受け入れ強化のために、「救急隊のホットラインのPHSを研修医に持たせる」「上級医には当番制を敷く」という施策をおこないました。

PHSを上級医が持つと「ちょっと今手が離せない」などの理由で断られることがあるのですが、研修医は救急を経験して勉強したいので積極的に受け入れてくれます。そして研修医がPHSでホットラインを受けたら、当番の上級医に「受けました」と言って一緒に診るようにお願いしています。例えば、本当に満床で受け入れできないなど、やむを得ない場合は仕方ないのですが、そうした理由がないのに断るのは役割の放棄になるので、医師にはもちろん、地域連携を担当している看護部の方にも「必ず救急は受けるように」と伝えています。

地域の病院同士で連携し、協力して長崎の医療を支えていきたい

地域医療の連携も非常に大切です。長崎地域では、当院と長崎大学病院、長崎みなとメディカルセンター、済生会長崎病院がコロナ対応病院になるのですが、実はみなとメディカルセンターさん、済生会さん、当院は院長同士が長崎大学の同期で気軽に連絡が取りあえる仲です。それもあってお互いに相談し合ったり、合同でプレスリリースを出したりなど非常に連携が取れていると思います。

例えば、大学病院やみなとメディカルセンターでコロナ対応のために病床削減をやむなくされた時期、当院で肺がんなどの一般診療の患者さんを引き受けるなど、そうした役割分担が地域の病院全体でスムーズにできています。コロナ対応の4病院の結束が強いところが、長崎地域の良いところだと思います。また、地域の開業医の方々とも、月に1回地域連携の会を開催し、研究などに関する講演や質疑応答をおこなっています。

今後も、当院だけでなく長崎地域全体で協力し、患者さんやご家族を助け寄り添っていく医療が実現できればと思います。