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医療法人社団 欣助会 吉祥寺病院(東京都)

東京都

医療法人社団 欣助会 吉祥寺病院

塚本 一 院長

関東

 何が起こるか分からない将来のために職員の人材教育と組織力の強化に力を入れる。経営する病院のポジションを見極め、強い組織を作っていく吉祥寺病院さま。経営環境の厳しい都内での競争に勝ち残るために必要な医療経営の本質を塚本 一院長にお聞きしました。

我々はどのような病院か?これまでの歴史を見つめ直すことからはじめた医療経営

私が院長に就任してから20年ほどですが、当院は1954年から続く精神科病院です。もともと父が設立した病院ですが、その頃から患者さんだけではなく患者さんのご家族をもサポートすることを大きな特色としていました。

具体的には月に一度の頻度でご家族同士が同じ悩みを共有し支え合うための院内家族会を開催しています。地区の家族会というものはよくあるのですが、院内に家族会を設立している病院は多くはありません。患者さんには様々なステージの方がいますが、家族会があることによって、症状はどのように進行するのかどのように回復に向かうのかを生の経験としてご家族の方は聞くことができます。

私が院長になった時、家族会の幹事の方にお呼び頂き、その際に患者さんだけではなく、患者さんをもつ家族へのサポートがいかに病院として大切にするべきなのかを、私自身その方の生の経験を通してお話しいただきました。当院の近くで育ったため病院のことは知っていたつもりでしたが、その時に当院がどれほど患者さんだけでなくご家族の方にも向き合ってきた病院なのかということを知り、その方針は今後も貫いていかなければと気持ちを強くしたことを覚えています。

よりよい病院となるために。掲げた3つの目標

院長になった時、私は3つの目標を立てました。一つは医局を強化しようということ、そして職員の質を上げていこうということ。最後の一つはハードの質を上げていこうというものです。父の代では非常勤の医師が多く、常勤医を雇うことに非常に慎重な経営でしたが、やる気のある常勤医を増やしていくことに必要性を感じた私はどんどん医師を採用していくことを決めました。

医局および職員の質を高めるためには、第三者機関からの評価が必要だと感じ、教育とともに第三者からの評価を取り入れることにしました。世の中が激しく変化していく中、病院の体制も変化していくことが必要だと考えていたのですが、当時新任の院長であった私が主観のみで改革を進めることに対して反発が生まれることが想定されました。

しかし、質の高い病院であるかどうかを図るための物差しが必須だと、一人一人の職員に説明をし、第三者機関である日本医療機能評価取得を目標にしました。最初は反発していた職員もいましたが、なんとか理解してもらうことができ、一丸となって日本医療機能評価取得という目標に向かい達成することができました。結果としてこれが当院にとって非常にいい経験となりました。

 


『医療経営にホームランは無い。』先輩の言葉

医療経営はとても地道で愚直に少しずつ改善していくことが必要だと私は考えています。その考えに至ったのは、医療経営者の集まりでよくしていただいている先輩経営者の方に言われた言葉からです。

『君が院長になったからといって誰もホームランを打つなんて思ってはいないよ。ただ小さいヒットをコツコツ打ち続けることが大切なんだ。職員はみんなその背中を見ている。その姿を見せ続けることができたら、ついて行きたいと思ってもらえる。』

その言葉に従い、院長になった際に掲げた3つの目標を達成するための努力を愚直に続けてきました。医局の強化、そして第三者機関評価と教育によるソフト面の向上、さらにハード面の設備を向上するために建て替えも行いました。

病院のポジションを改めて見直し、はじめた目標達成のための組織づくり

ある程度の成果がついてきたところで、今後の方向性を決めるため地域にある34の精神科病院の実情を調べました。その結果、周りの病院は統合失調症の方から高齢者を中心とした病院経営へ移っていこうとしているということを知りました。

当院では、昔からずっと統合失調症という病気に取り組んできたという経緯もあり、サポート体制などでも実績があります。多くの病院が尻込みしている中で、統合失調症を中心に取り扱うことで、統合失調症で日本一の精神科病院になっていこうと考えました。また、医療従事者とは職員全員が資格を持って働いているので、より自分にプライドとやりがいを持ってもらいたいと考え、新たな経営目標を3つたて、5年計画を作成しました。

経営的な3つの目標とは、常に病床の利用率を95%以上にすること。患者さんを長期的に入院させるのではなく、どんどん治療して社会復帰をさせる病院であるからこそ、新しく入ってくる患者さんの数を800人以上とすること。そして最後の目標は統合失調症で日本一の病院となるために、入院患者さんの8割を統合失調症の患者さんとすることでした。

新たな目標をたて、走り始めたのですが、目標達成のためには職員の協力が必要不可欠なため、幹部職員からなるリーダー会議を開き、『やりがいプロジェクト』という大目標の達成のために動くプロジェクトを作成しました。

『やりがいプロジェクト』では3つのチームを作り、それぞれ進捗を進めました。Aチームは広報活動や紹介患者の増加をテーマに活動し、Bチームは入院の窓口を拡大し、患者さんを増やすために目的別入院プログラムなどを作成するチーム。そしてCチームはプロジェクトの方向性を病院全体に共有と環境づくりを目標とするチームです。

これらの取り組みは職員アンケートから始め、職員の声を聞き皆に必要性を理解してもらうことで主体的に取り組んでもらえるようになりました。2013年に『やりがいプロジェクト』の5年間は終了しましたが、その意思を継承した「企画運営会議」という正式な会議体を発足し、ひき続き掲げた目的のための活動をしています。

変わりゆく時代で必要なことは人材と組織力の強化

現在もっとも力を入れているのは人材育成です。今まではそれぞれの職員の専門教育を第一に考え院内・院外研修などを行なっておりましたが、職員のレベルが高まるにつれて、組織人としての考え方などの研修の必要性を感じ管理者研修も始めました。

組織に主体的に貢献し、組織的な視点で自分の価値を最も発揮するためにできることは何かを考え続ける人材が、激動する今の世の中では必要です。当院ではできるだけ現場に判断を求める方針を取っています。治療方針などは主治医を中心に多職種で考えていますし、「企画運営会議」の運営もメンバーに委ねています。

東京のほとんどの病院は経営的に厳しいと言われています。それは地方に比べて人件費をはじめとする支出が多い一方で、診療報酬は全国一律であることが原因の一つにあります。しかし、そういった外部環境の変化は容易に変えることができません。

私は堅実な病院経営、さらに職員の能力の向上とそれに伴う組織力の向上が今後の競争を勝ち抜いていくには必須だと考えています。だからこそ、できる限り現場の職員には自らの判断で動き、組織へ貢献していくことを求めています。一枚岩で病院を経営していくには院長として上に立つ私自身が裏表なく一貫した考え方を持つことが大切だと思っていますので、できるだけ職員には腹を割って話をすることにしております。その甲斐もあってか、いい意味でも悪い意味でも院長はイエス・ノーが明確であると職員から評価されています。

先日、ある職員が『この病院は、患者にこうすればいいのではないかと言ったら、全ての人が動いてくれるところが面白いですよね。』と言っていました。父の代から引き継ぐ当院の強みをさらに磨き、そこで働く職員と組織の質を高め続けることより、日本一統合失調症に強い病院として、そして職員にとって働きがいのある病院をこれからも愚直に目指していきます。