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職員の働きやすい環境づくりのため、院のマネジメントを改革。地域への貢献・広報のための社団法人も立ち上げ

広島県

医療法人社団おると会 浜脇整形外科病院

浜脇 澄伊 理事長

中国・四国

高い専門性を有する整形外科の単科病院として、同分野において長らく広島の医療を牽引されてきた浜脇整形外科病院。病院とは別に、社会貢献活動や広報活動をおこなう一般社団法人「からだの音」を設立するなど、さまざまな取り組みを進められています。浜脇 澄伊理事長に、病院を経営される上で大切にされている思いや、病院独自の取り組みなどをお話いただきました。

●患者さんに信頼される医療の実現には、職員が健康で働きやすい環境が欠かせない

当院は理念として、「和をもって地域医療に従事します。忠恕の心(真心と思いやり)をもって患者さんに接し、信頼される質の高い医療を目指します。職員は職場に夢と誇りをもちます」を掲げています。
特に理事長という立場では、職員を第一に考えることを大切にしています。1978年に父が広島で開業した当初は、24時間365日、医師は患者さんのために身を粉にして働くという価値観が当たり前でした。そうした父の努力があったからこそ、「広島の整形外科と言えば浜脇」と言っていただけるような基盤ができ、脊椎の手術数全国一の病院になったこともあったのですが、自分を犠牲にして働き続けた結果父は体を壊し、医師として働けない時期もあったんです。
そうした姿を見てきたこともあり、「自分の体や家族を大事にできないほど仕事に追われている状態で、医師が患者さんに対し、本当に最良の医療を提供できるのだろうか」という疑問が私にはあります。ワークライフバランスという言葉の通り、プライベートも充実させることができてはじめて、仕事で高いパフォーマンスを発揮することができるのではないでしょうか。だからこそ、患者さんに信頼される医療を実現するために、まずは職員が健康で働きやすい環境を整えることを非常に大事にしています。


●トップや幹部に対しても、思いや要望を伝え合える風土が根付く

当院の強みは、職員間の風通しが良いことです。私が赴任した当初は、医師でも医療従事者でもない私が病院経営に携わることに、反感をもっていた職員も少なからずいたと思います。しかし、赴任後まずは職員の働く環境を整えようと、職員に記名式でアンケートをお願いした際、一人ひとりがしっかりと自分の思いを書いてくれたんですね。私の赴任以前から、トップや幹部に対しても、言いたいことや言うべきことはきちんと言う文化が培われていたのだと思います。
そうした環境もあり、赴任直後から理事長職に就いた現在まで、職員と信頼関係を築くことは強く意識しています。医師でない私が理事長になるのであれば、求められるものは行動力と決断力がすべてですから、正しい情報を集めるためにいかに行動するかが重要です。例えば当院に電子カルテを導入する際は、北海道から九州まで何十病院と足を運び、自分の目で見て情報収集に努めました。また、コロナ禍以前はランチ会など、職員と積極的に交流する機会もつくっていました。そうした成果もあり、現在は不満や要望を直接言ってもらえる関係性ができています。
職員も、医療の質を高めるためであればやりたいことは全力でバックアップするという病院の姿勢を理解してくれています。コロナ禍においても、「ピラティス導入のために資格を取りたい」「エコーの勉強をしたいから機器を購入したい」といった要望があったんです。病院の経済状況も先が見えない時期でしたので不安はありましたが、それが患者さんのためになるのであれば、やりたいことをやりたいタイミングでやらせてあげたい、と考え承諾しました。結果として、医療の質向上や、職員のモチベーションアップなどにつながり非常に良かったです。

●目標管理システムの導入、病院機能評価やISOの認定取得など改革を進める

赴任後は、病院のマネジメント改革に取り組みました。とにかく、お金も人やモノの流れに無駄が多かったんです。まず着手したのは、職員の働く環境や待遇の改善です。その第一歩として、目標管理システムを導入しました。病院としての毎年目標を掲げ、その達成に向けて一緒に進んでいく形にしたんですね。みんなで同じ目標に向かっていく中で、病院としてやるべきことや変えていかなければならない部分が整理されていくのでは、との考えからでした。
最初の年に目標として掲げたのは、病院機能評価の認定を取得すること。第三者からの評価を得ることで、病院のあり方を客観的に見つめる機会としました。また同時並行で、会計事務所に依頼して会計監査を実施し、院内のお金の流れを整理していきました。
病院機能評価を取得し、次に目指したのは、医療安全や患者満足度の向上につながるISOの取得です。さらに、IT化を促進するため2003年には電子カルテの導入を完了させました。その後も、病床数の増床や外来棟・デイケアセンターの開設、病院の新築移転など、さまざまな改革を進めています。
加えて、DPC(包括医療)に関連した疾病別原価計算なども早い段階で取り入れ、コスト管理も徹底してきました。その甲斐あって、私が理事長に就任してから最初の3年間は右肩上がりの収益で、就任3年目となる2019年には過去最高の売上を記録しました。就任4年目・5年目はコロナ禍の影響を受けましたが、2年とも黒字経営を実現しています。

●人事考課の仕組みを構築し、やる気のある職員こそやりがいのある職場に

目標管理システムは、人事考課に落とし込み、職員の報酬にも反映させています。当院では病院としての中長期計画や年度ごとの目標を定めており、それをもとに部署ごとの目標も定めてもらっています。そして、部署ごとに立てた目標を達成するために、個々人が何をすべきか、その人の能力やレベルに合わせて目標設定をしているんです。目標の達成度は、客観的に評価できるようにBSC(バランス・スコアカード)を用いて数値化します。人事考課では目標達成度を加味してS~Dの5段階で評価し、その評価が賞与などに反映される仕組みです。
人事考課の仕組みで気をつけたのは、目標の達成度だけでなく、賃金テーブルや階級などさまざまな項目を考慮することです。また、少なくとも年に4回は私自身が各部署長と面談をおこない、各部署が設定した目標と病院全体の方向性にズレがないかの確認もしています。
また、仕組みをつくったら終わりではなく、適宜改善をしていくことも重要です。人事考課をつくった当初は、1~2年目の職員もすべて人事考課の対象としていました。しかし、「この時期は勉強に集中してもらったほうが良いのでは」との意見があり、数年前から1~2年目の職員は人事考課の対象外としました。また、1年目なら赤、2年目なら黄といったように、若手の職員には3年以上からつける病院のストラップとは別のものをつけてもらっています。経験年数を可視化することで、経験の少ない職員を先輩が育てていこうという意識が自然と育っていると思います。
コロナ禍においては、病院としての目標管理を1年間やめた時期もあったのですが、評価されなくても職員たちは自然にその年も目標管理をやっていましたね。これこそがまさに組織の「風土」と言われるものだと思います。そういった風土ができるほどに当院が成長したんだな、と実感した瞬間でした。

●職員が安心して休める体制を整え、もっとやりがいをもって働ける環境へ

前述の通り、職員の働く環境を改善することがマネジメント上の課題でした。そのため、働き方改革が叫ばれるずっと以前から、労働環境の改善には着手してきたんです。例えば、かなり早い段階から4週8休を導入し、看護師は三交代制から二交代制に切り替えました。開業当初は毎日取っていた輪番日(救急対応日)も少しずつ減らし、現在は週2日のみ時間外の救急に対応しています。
こうした改革により、「24時間365日対応できる整形外科を」という父の想いには反する形となってしまったかもしれません。しかし、医師を含め全職員が心身ともに健康で、休みを取りやすい環境はやはり大切だと思います。そうした環境があってこそ、常に元気で気持ちよく、やりがいをもって働けるのではないでしょうか。患者さんに信頼していただけるよう医療のクオリティを向上するためにも、職員の労働環境の維持はトップである自身の務めだと考えています。

●医療安全室を医師と看護部の橋渡し役として活用し、職員間のコミュニケーションを改善

もう1つ、働きやすい環境づくりのための取り組みとして、医局内での医療安全室の配置があります。医療安全室はどの病院にもありますが、当院はそれを医局内に配置し、院内のリスクを回避する意味合いで、医師と看護部の橋渡し役として活用しています。
医師と看護部の衝突は他の病院様でもよく耳にしますが、当院でもそういった意見の食い違いが起こることがありました。全職員が連携していくには、診療面でトップとして指示を出す医師と、院内で最も職員数が多い看護部とが手を取り合う必要があります。そこで、医師と看護部の間を取り持つ役割として、副看護部長・手術室の元師長・薬局の元科長の3名の医療安全室メンバーに、医局に入ってもらったんです。配置当初は、医局の医師たちからの反発を危惧していたのですが、杞憂に終わりましたね。むしろ、看護部とのコミュニケーションが非常に取りやすくなったと、医師たちからも高評価でした。

●一般社団法人「からだの音」を立ち上げ、子どもたちの体を守るための冊子を発行

地域の皆様に向け、病院の広報活動にも注力してきました。特に大きな取り組みは、年4回発行していた病院広報誌を廃止し、当院とは別で立ち上げた一般社団法人「からだの音」から年1回冊子を発行するようにしたことです。5万5,000部を刷り、幼稚園や保育園、小学校など広島市内100以上の施設に当院スタッフが足を運んで無料配布しています。
もともと、「インターネットが進化した時代に、ありきたりな病院広報誌での発信に意味はあるのだろうか?」という疑問があったんです。一方で、現代は情報が多すぎて、正しい情報がわかりづらい時代にもなっています。そこで、子どもたちの体を守るために本当に正しい情報を発信していこうと、「からだの音」の立ち上げと冊子発行に至りました。
最近は、握手をしたら手首が折れる、顔からしかこけられないなど、子どもたちの怪我が変わってきているんですね。そうした事実や正しい体づくりについて、お子さんやお孫さんがいらっしゃる地域の皆様に知ってもらうことを目的としています。多くの方に手に取っていただけるようクオリティにこだわり、大地真央さんや中村獅童さん、世界的に有名なダウン症の書道家である金澤翔子さんなど、著名人のインタビュー記事も掲載しています。また、裏表紙から読むと絵本仕立てになっているなど、お子さんと一緒に読んでいただけるような工夫もしています。

●外回りの広報担当者を配置し、地域との密な関係構築をおこなう

地域医連携においては、急性期を担う単科病院としては珍しく、当院では2012年頃から外回りの広報担当者を配置しています。コロナ禍以前は県内外問わず、患者さんを紹介してくださるクリニックへ訪問してもらっていました。不安や悩みがないかヒアリングしたり、新しくできるようになった手術についてアピールしたりすることで、地域の先生方との関係性を築いてきたんです。
また、これもコロナ禍以前になりますが、理学療法士にも、広報担当者と一緒に「からだの音」の冊子を持って近隣病院や小学校などを回ってもらっていました。そこから体操教室や講演会のお話をいただくことも多かったですね。
「からだの音」を立ち上げるまでは、お年寄りのための体操教室、講習会・講演会をおこなう形で、地域の皆様と関わることが主でした。ただ、そういった年配の方向けの取り組みは近隣の病院でもおこなっています。そこで現在は、当院だからこそできることとして、子どもたちを中心にご家族の体づくりをサポートする三世代プロジェクト、という形で取り組みをおこなっていくようにシフトしています。

●地域や社会に必要とされる病院として残り続けるよう、行動力をもって正しい決断を

私が常々考えているのは、「いつでも正しい決断をするために、自分自身がどう動くべきか」ということです。当院は新型コロナウイルスの直接的な影響は少なかったものの、前代未聞の感染症流行を経て、私たちが病院としてどうありたいかよりも、当院が地域や社会に必要とされる病院であるかが今後は重要になってくると感じました。今後5年間は、当院を取り巻く環境を冷静に見極めながら、病院のあり方を問うていく時期になると考えています。
コロナ禍を経て病院も淘汰されていくだろうという話は、医療業界内でもよく耳にします。もし淘汰されていくとすれば、例えば、その中で当院も規模を160床から縮小していく必要があるかもしれません。そして、そうした必要が出てきた場合は、執着せずに削らなければいけないものを削ることも大事な判断です。病院経営のトップとして、正しい決断を下し正しい方向性に導いていく力が、これからより一層求められるのではないかと考えます。

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