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中小規模病院ながら県内トップレベルの数のコロナ患者を受け入れ。今後は総合医療に注力し地域に貢献したい

香川県

坂出市立病院

岡田 節雄 病院長

中国・四国

香川県坂出市にて、地域住民の身近な病院として総合的な医療を提供する坂出市立病院。急性期疾患や悪性疾患の治療と並行して、第二種感染症指定医療機関として県内トップレベルの数の新型コロナウィルス患者を受け入れています。職員に浸透させている共通認識や、目指している病院像などについて、岡田 節雄院長にお話を伺いました。

●「経営の安定なくして良質な医療なし」を職員の共通認識に

当院は地方自治体が持っている公立病院なので、地域住民の皆さんに良質な医療を提供することを目的としています。しかし、その目的を達成するためなら経営を無視してよいというのは、もはや時代錯誤です。そのため、経営を安定させることで良質な医療を提供しやすくなるという考えを、職員全員に十分に理解してもらうことを大切にしています。
職員たちにも経営に対する意識を高めてもらうため、今の病院の経営状態や方針を職員に伝える機会を積極的に設けています。具体的には、新入社員が入ってくる四月や、仕事納め、仕事始めの日、その他イベント時などですね。最近は、コロナの影響で院内での定期的な会議や集会を制限していますが、月に数回お昼休みや業務終了後などに、10~15分ほどパワーポイントを使った自由参加の講話をおこなっています。
こうした発信の際に念頭に置いているのが、組織や集団は上位2割・中間6割・下位2割に分かれるという「2:6:2の法則」です。何も言わなくても理解してくれる2割の人、何を言っても背を向ける2割の人を除く、中間の6割の人を主な対象と考え、病院の方針を浸透させていこうとおこなっています。

●経営においては必ず実行に移すことが重要。フットワーク軽く物事に取り組む

経営には、「情報を広く集めてしっかりと理解すること」「課題の対策を十分に練ること」「実行に移すこと」の3つの要素があります。しかし、情報収集と対策はそれぞれ10点満点のレベルだったとしても、実行に移せなければ意味がありません。10+10+0=20点とはならず、10×10×0=0点です。情報を集めて理解し、その情報を基に対策を練ったら、必ずそれを実行まで移すこと。これが私の基本的なスタンスです。
何かを思い立ったら、結論まで完璧な設計図を引くのではなく、まず実行に移してみて、走りながら考える。途中で駄目だと思ったらすぐに諦めて次にステップを変える。そういう舵取りの速さが、新しいことにもフットワーク軽くスピーディーに取り組む風土につながっています。

●逆境をはねのけるために培った職種間の風通しの良さが強みに

当院を特徴づける出来事として、平成3年に旧自治省(現:総務省)から受けた廃院勧告があります。運営資金が枯渇して、銀行からの借入が累積で25億円になってしまったことが原因です。それから職員が一丸となって経営改善をおこない、19年後の平成22年に優良自治体病院として総理大臣表彰を受けました。さらにその4年後の平成26年に、現在地に新築移転しました。
こうした逆境での経験からで培った病院の風土を、当院では今も大切にしています。中でも重要なのは、職種間の風通しを良くすることです。
組織というものは、規模が大きくなればなるほどセクショナリズム(割拠主義・派閥主義)が強くなります。廃院勧告を受けた際も、職員にアンケートを取ると、看護師は「自分たちは一生懸命やっているのに医師や技術職、事務が働かない」と書き、医師は医師で「看護師に十分な能力がないために経営不振に陥っている」などと責任転嫁していて、相手の立場や仕事がまったく見えていないことがわかりました。そのような病院が良質な医療を提供して経営が安定するわけがなかったのです。そこで、職種間の壁を無くし、職員が共通認識を持って一丸となって励むということを浸透させていきました。

●2年間で約700人のコロナ患者を受け入れ。感染症指定医療機関として一丸となり対応

経営方針の職員への浸透が実を結んだ例のひとつが、コロナ対応です。当院は194床で、典型的な地方の中小規模公立病院です。香川県内にはもっと大規模な基幹病院がたくさんあるのですが、県内第1例目のコロナ患者さんは当院が受け入れて治療しました。それから現時点(※2022年3月初旬)まで、約700人の入院患者さんを受け入れています。おそらく全国的にも、この規模でこれだけの患者数を扱った病院は非常に少ないのではないかと思います。
なぜ当院がコロナに迅速に対応できたかというと、当院がある中讃地区には感染症指定医療機関がなかったため、コロナが発生する以前から、新型インフルエンザを念頭に感染症対策をしていたからです。2019年3月に当院が感染症指定医療機関の認定を受け、同年末に中国・武漢でコロナが発生したというタイミングでした。保健所との合同訓練も何度もしていましたし、陰圧感染症個室もありますので、県内第一例目の患者さんが中讃地区で発生した時、すぐに受け入れることができたんです。
ただ、コロナを扱うためには、医師だけでなく看護部、検査部、受付、外来など、さまざまな部門が協力しなければなりません。職種の壁を取っ払ってフットワーク軽く取り組まなければ実現は難しかったと思います。日頃の意識改革が職員に浸透していたからこその成功例ですね。

●働き方改革関連法の労働時間制限を遵守するためには、新しい仕組みが必要

現在の課題としては、働き方改革関連法の労働時間規制への対応が挙げられます。働き方改革と病院の運営・経営の効率の両立は、非常にハードルが高いと考えています。
当院のような地方公立病院は職員数も少なく、個々人の無理な労働によって保たれている面が多いのが実情です。例えば、超過勤務時間の上限を原則年間960時間とするA水準に関しては、当院の多くの医師が超えているでしょう。また、連続勤務時間を28時間までとし、労働のインターバルを9時間取らなければいけないという制限は、当直業務が問題になります。当直の医師は、その日は丸々働いたり、次の日に手術の予定を入れたりしていますが、制限を遵守するのであれば午後からの業務は入れられません。医師の数が満たされていれば問題なく回すことができますが、地域の公立病院では各診療科の医師が少ない場合が多く、対策が難しいのが現状です。
一方で、医師の業務を軽減させるためのタスクシェア・タスクシフティングについては、私はあまり適切ではないと考えています。医師と同等レベルのことを他の医療従事者がこなすことは難しく、本当に単純な作業を医師に課さないようにする程度のことしかできません。また、仕事を振り分けた結果、看護部や事務職の負担が増えてしまうのでは本末転倒です。新たな仕組みを作ることが必要ですが、そのためにはやはり人や物に投資する必要があり、経営の負担になります。こうした諸問題から、非常に難しい課題だと考えています。

●地域の総合病院と協力し、足りない診療科を補い合いながら医療を提供

坂出市には総合病院が当院も含めて3つありますが、3院とも大学病院や県立病院のようなすべての診療科が揃った病院ではありません。当院の場合、脳神経外科がありませんので、受け入れた救急患者さんが脳動脈瘤破裂のような疾患だった場合には、脳神経外科がある他の病院にお願いすることになります。反対に、当院はがん治療に力を入れていたり、血液内科があったりしますので、がんや血液疾患の患者さんが当院に来られることもあります。このように、各医療機関と連携して地域医療に取り組んでいます。
また、当院は年に4回、院内広報「さかいで市立病院だより」を発行し、新しい取り組みや診療内容、新しく導入した医療機器等を地域の皆さんにむけてお知らせしています。この広報誌は、主に当院に通院もしくは入院いただいている患者さん向けですが、他の地域医療機関にも送付しています。その他、地域の医師会にも積極的に参加し、学校健診や地域住民への健診にも協力しています。

●総合診療に力を入れて、地域住民から信頼される病院へ

昨今、医療の分担や集約化が推進されています。しかし、当院のように人口の多くない地方において住民の皆さんが期待しているのは、最も身近にある病院の機能が充実し、遠くの病院に行かなくて済むようになることです。
そこで重要なのが、総合診療です。専門性を高めて、「この病気はA医師に」「この症状ならB病院に行ってください」と細分化していくのではなく、「あれもこれも坂出市立病院で診られます」と言える総合力を付けていくことが重要だと考えます。例えば今、当院では、脳神経外科は常勤医がいなかったり、婦人科医師はいても産科は無かったりします。そうした欠けている診療科をできるだけ減らすことにも、今後取り組んでいきたいです。
「具合の悪い時に頼りになる病院」として、かかりつけ医のように、紹介状のない患者さんもしっかりと診ています。また、当院には急性期医療しかありませんが、退院した患者さんを他の医療機関にお願いするのではなく、できるだけ在宅訪問診療で診るようにしています。これは、医療分担の流れには反しているかもしれませんが、患者さんには非常に喜ばれています。
一人ひとりの医師にも、専門性を伸ばすことと同時に、一定の総合力を付けてもらうことを求めています。そうすれば、夜間や休日の急患対応も充実させることができるからです。「今日の当直は専門の先生ではないけれど、坂出市立病院に行けばとりあえずどうしたらいいか診てもらえる」と地域住民が信頼してくれるような病院づくりを目指しています。

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