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親しみやすい地域のかかりつけ医であると同時に、大病院に負けない高度な外科治療も提供していることが特徴

岡山県

医療法人天和会 松田病院

松田 忠和 院長

中国・四国

1955年、先代院長が倉敷市内に開業して以降、70年近くもの間、「地元のお医者さん」として近隣の地域医療を支え続けてきた松田病院。135床(一般病床97床 / 医療療養病床38床)の中小病院でありながら、外科手術を主体としたハイレベルな医療を提供する、高度急性期の病院でもあります。病院の独自の取り組みや病院経営において大事にされていることなど、松田 忠和院長にお伺いしました。

大病院にはない家庭的な親しみやすい雰囲気で、急性期医療も実現

当院は、地域の皆様のかかりつけ医でありながら、かつ急性期のハイレベルな治療ができる救急病院としての医療提供体制も整えています。また、外科手術を主体として病院経営をおこなっているのも大きな特徴です。当院のような中小規模の病院では、全国的にも珍しい経営方針と言えるかもしれません。

特に、癌の治療をはじめとした消化器外科医療に関しては、大規模病院にも負けない高度な専門性があると自負しています。消化器外科手術の中でも非常に難易度の高いとされているのが、肝胆膵外科手術です。日本肝胆膵外科学会より、肝胆膵外科手術における高度技能専門医修練施設の認定を受けていることは、当院の強みと言えるでしょう。

医療提供体制の整備ももちろんですが、当院がまず大事にしていることは、親しみやすく家庭的であたたかな、病院の雰囲気づくりです。当院は県の中核都市である倉敷市内にありますが、当院を訪れるのは市内の方たちだけではありません。県北部の新見市や高梁市、また、北木島をはじめとする瀬戸内海の島々からも、たくさんの患者さんがいらっしゃいます。そういった都市部から離れた地域の方々とも、密にコミュニケーションを取っていくことが当院の役割だと考えます。

患者さんとの密な距離感を維持するため、看護師教育に力を入れる

親しみやすい雰囲気をつくるために常々大切だと思っているのは、できるだけ患者さんとの距離感が近い状態を保つこと。これは、地域医療にとっても欠かせないポイントです。

例えば、当院では消化器外科の癌治療を専門におこなっており、週に一度は私が専門医として、パラメディカルと一緒にすべての入院患者さんの部屋を回ります。患者さんの目の前で、看護師や診療放射線技師たちと一緒にディスカッションをするんです。そして、疑問に思ったことがあれば質問をしてもらい、患者さんも巻き込みながら今後の治療方針などについて話し合います。それが、患者さんに対しては「あなたのことをこれだけ心配して、手助けしてくれる人がたくさんいるんだよ」というメッセージにつながると考えています。

また、患者さんの満足度を高めるために特に力を入れているのが、看護師の教育です。患者さんと一番接触する時間が長いのは、主治医ではなく看護師です。そして、医師には言えないけれども、看護師と膝を詰めて話していると、患者さんの口からぽろりと本音が出てくるなんていうことは、得てしてあるものです。そのような意味で、患者さんの心のひだに分け入っていくようなコミュニケーションは、看護師だからこそできるものだと感じています。

ですから、看護師自身がプライドを持って仕事ができる環境を整えることも重視していますね。感染症や緩和専門の認定などは、積極的に取らせています。今後も認定看護師のような専門性の高い人材はどんどん増やして、患者さんの満足度向上につなげていきたいです。

近隣病院との地域医療連携を密にし、患者さんへ常に最善の医療を提供

当院の診療科は限られていますが、近隣には日本トップクラスの大規模病院である倉敷中央病院があります。倉敷中央病院をはじめとした近隣の病院とはしっかりと地域医療連携を図り、常に患者さんの利益を最大化する医療の提供に努めています。

当院の主な専門領域に消化器外科がありますが、例えば、検査や治療の過程で患者さんが心臓を悪くされているとわかったとします。その場合は倉敷中央病院の循環器内科にお願いすれば、「今日カテーテルをやりましょう」「明後日手術をしましょう」と、急を要する状態でも柔軟に対応していただけるようになっています。

当院の専門ではない分野に関しても、「どの病院に専門性の高い信頼できる医者がいるか」を常に把握しておくよう心がけているんです。ですから、たとえ当院の専門分野ではない疾患が見つかったとしても、きちんと専門性の高い病院や医師のもとへ、患者さんをスピーディかつ丁寧にパスできます。当院に訪れる患者さんにとって、これは非常に大きなメリットだと思いますね。

医療スタッフとの強い結束力でコロナ禍を乗り切る

コロナに関して言えば、当院はそれほど大きな影響を受けていません。家族が濃厚接触者に該当したことで、医療スタッフに2週間出勤を停止してもらったことはありました。とはいえ、影響と言えばそれくらいでしょうか。

コロナ対策としては、基本的なことをきっちりこまかくやっていくしかないと思っているので、医療スタッフに対しては、会食を控える、県外には出ないといったことは、厳しくやってもらっていますね。みんなしっかりと守ってくれているようで、病院の一体感の賜物かな、と感謝しています。

倉敷市医師会が実施しているコロナワクチン集団接種に際しては、私自身も会場に出向いてワクチン接種を担当しました。こういったことを決めるとき、他の病院では内部の調整ができずに協力を断念することもあると聞きます。当院では私がやろうと言えば「じゃあやりましょう」とどの医療スタッフも言ってくれて、協力的ですね。

そういった結束の強さが実現できているのは、普段からこまめに、経営者側が医療スタッフの不平不満を吸い上げる体制を整えているためです。より具体的には、仕事を改革するための委員会を立ち上げ、そこで上がってきた不満に対し、きちんと答えを出すことを徹底しています。声に出せばきちんと解決してもらえる実感を持つことが、医療スタッフの信頼を得るには一番大きいですからね。

医療スタッフから課題が上がってきたことで、例えば「コロナに感染したときや濃厚接触者に該当したときは、欠勤ではなく有給扱いにする」といった解決策も提示できました。それからやはり、普段からお互いにイライラが溜まらないよう、パラメディカルに関しては、医療スタッフ一人ひとりの勤務に余裕を持たせられるような採用努力もおこなっています。

高い専門性を持った医師の人材確保は今後の大きな課題

病院を経営する上で課題と感じているのは、やはり医師の人材確保ですね。現状では、経営陣である私や息子が積極的に手術や治療に関わり、不足を補っている状態です。私自身73歳という年齢でもありますから、いつまで現状のように手術などを続けられるかという問題もあります。加えて、2024年4月までに働き方改革の実施が必要なことを考えると、医師の人材確保は当面の間、大きな課題になっていきそうです。

ちなみに当院は、パラメディカルの人材は充足しているんです。特に看護部に関しては、ここ2年くらいで看護学生の病院実習の受け入れを2倍程度に増やしました。これにより、実習生の中から優秀な人材を効率的にリクルートする体制が整えられています。

とはいえ病院の集客力に一番大きく関わってくるのは、やはり医師です。今後はさまざまな分野において、専門性の高い医師をどれだけ新規採用していけるかが、病院経営的な面でもカギとなりそうです。

アフターコロナや専門性の高い医師の登用を考慮し、ハード面の強化を

今後の取り組みとしては、建物自体が少々老朽化してきていますので、そう遠くない将来にハード面の更新をおこなう必要があると考えています。ただ、病院を建て替えると言っても、医療を取り巻く社会的環境が将来どうなっているのか、今はまったく予想がつかない時代ですよね。また歴史的に見ても、コロナのような感染症が繰り返し起こることは、前提として考えておく必要があります。再び感染症が蔓延した際、積極的に患者さんを見られるような病院構造や医療機器等の導入について、今から熟考を重ねていかなければなりません。

加えて、より専門性の高い医療を提供するためには、ITツールやロボットの導入なども検討の必要があります。こういったハード面の充実が、結果的には医師の新規採用にもつながるはずです。ハード面の強化をいつどのように進めていくのか、その判断が今後の一番大きなポイントだと思います。