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モットーは「救急を断らない」。コロナ禍の状況でも108床に対して年間1,300台の救急車を受け入れた

長崎県

医療法人徳洲会 長崎北徳洲会病院

鬼塚 正成 院長

九州

108床という病床数ながら「できる限り救急受け入れを断らない」という姿勢で、年間 1,300台もの救急車受け入れを達成している長崎北徳州会病院。2021年5月に新築移転 をおこない、それを機にコロナ患者の受け入れや入院透析の受け入れなども開始され、よ り一層長崎の地域医療に貢献されています。鬼塚 正成院長に、病院として大切にしている 考えや経営上の課題、コロナ禍における取り組みなどを語っていただきました。

●「救急を断らない」がモットー。108床規模に対し年間1,300件の救急を受け入れ

当院の特徴は、24時間365日オープンしていること、救急を断らないことです。救急をできる限り断らないというのは、「性別や国籍、仕事、収入などが違っても命は平等であり、患者さんは平等に扱わなければならない」というのが初代理事長の理念に基づくもので、最も大切にしている考えです。コロナ禍のこの1年でも約1,300台の救急車を受けており、108床という規模に対してかなり多い受け入れ数を実現しています。
経営においては、職員が疲れないように、希望を失わないようにということを大切にしています。当院は今年5月に移転したところで、移転費用の返済もあって職員の給料などは上げにくい状態なのですが、そうした状況でも職員の士気を落とさないようにしよう、と心がけています。そのために具体的に取り組んでいるのが、人手が足りていない部分の人員確保サポート、職員のメンタルケアです。メンタルケアに関しては、常勤の心療内科・精神科の医師による職員向けのカウンセリングや、定期的なうつ病のチェックなどを実施しています。

●医師確保対策として、離島医療の義務年限後の医師にアピールすることを計画中

課題となっているのは医師確保です。今年の5月から透析の外来治療に加え、入院治療を始めたのですが、透析の専門医が確保できていない状態です。また、救急でニーズの高い外科治療に関しても、常勤の整形外科専門医がいないという課題を抱えています。どちらも、できるだけ早く専門医を確保したいです。
医師確保対策として、今後、離島医療の義務年限を終えられた医師に来ていただくことを計画しています。長崎には離島医療で頑張っておられる先生方がいらっしゃるんですが、彼らが義務年限を終えた時に、なかなか就職先が見つからないという問題があるんです。
コロナ禍が落ち着いた後になりますが、そうした医師たちの義務年限後の選択肢として、当院を考えてもらえるようアプローチしたいと考えています。当院は長崎市の郊外にあり生活や子育てもしやすい環境ですので、そのあたりもアピールして、30~40代の医師を中心に来てもらえたらと考えています。

●院内に保育所を設置するなど手厚い福利厚生が魅力

医師を確保するためにもアピールしたいこととして、当院の福利厚生や職員へのサポート体制があります。まず大きな特徴として、院内に保育所があり、職員のお子さんを受け入れています。他にも、ご家庭の事情がある場合は残業をできるだけ無くしたり、出勤時間を遅らせたりといった配慮もしますし、ご家族が入院や外来治療をされる場合はできるだけサポートをしています。
また、役割分担をはっきり決め、出勤時間の負担が偏らないようにもしています。例えば、午前中来られない先生にはお昼からの救急対応をお願いする、子どものお迎えがある職員はその時間帯は外すなど、事情に合わせて体制を組んでいます。冒頭でもお話したように「救急を断らない」という院のモットーがあるため、担当を曖昧にせずに、職員それぞれの時間帯をしっかり区切って、時間を上手く使うようにしています。

●ベッド回転率の課題に取り組み、入院患者の平均在日数を14日から10日まで短縮

経営面で継続的な課題となっているのは、ベッド数の調整と回転率です。当院は108床と小規模な病院なのですが、この数だと効率的にベッドを回転させないと経営が厳しく、そのため入退院の管理が大変になります。高齢者の方ですと2~3日ですぐ退院という訳にはいかず、回復期に入るまで長期入院になることが多いですし、その後施設や療養型の病院に転院するのも、すぐにという訳にはいきません。
その対策として実施しているのが、入院1週間目にソーシャルワーカーや看護師など全員で集まって、「どうやったら退院の道筋ができるのか」を考える入退院支援会議です。また、内科であれば毎日しっかり回診してマンツーマンで「この患者さんは帰せるかどうか」を診ていますし、退院への道筋を立てるのも担当医に任せるだけでなく、医局や院長の私から意見を言うこともあります。そうした取り組みの効果があり、入院患者の平均在日数を14日から10日まで減らすことができました。こちらは今後も継続して取り組んでいきたいです。

●病院がクラスターになった苦い経験が職員の意識を変えた

実は、去年12月に私がコロナ病棟を作ろうと言ったのですが、職員の理解を得られず実現しなかったんです。その直後の年末に院内感染が起こり、当院がクラスターになってしまいました。その後院内感染が収まり、再度話し合った際に「やはりコロナ病棟を作って、頑張っていかないと」という風に職員の意識が変わり、今年5月に新病棟がオープンしたタイミングから、コロナ患者さんの受け入れを始めました。非常に苦い経験でしたが、クラスターになってしまった経験から職員がたくましくなった部分はあると思います。

●抗体カクテル療法をおこない少ないコロナ病床でも上手く回転

当院はコロナ患者さんに使える病床が4床しかないのですが、現在、コロナ患者さんはどんどん増えています。そこで、基礎疾患のある軽症の患者さんも受け入れて、抗体カクテル療法をおこなうという対策を始めました。
東京や大阪では自宅療養をお願いせざるを得ない状況のようですが、長崎など地方はまだベッド数もひっ迫しておらず、患者数もコントロールできる範囲です。まだその状況だからこそ、無理に自宅療養してもらうのではなく、軽症でも来院いただいて抗体カクテル療法をおこない、点滴などで栄養も摂っていただいて、3~4日で退院していただく。そして、また新たな患者さんを受け入れる、という方法をとっています。もちろん保健所の協力が必要なのですが、この方法ならコロナ病床が4床しかなくても、上手く回転させることができます。

●自宅療養患者をフォローするためには、医師会や開業医の協力が不可欠

今回のコロナ第5波では、全国的に医療状況がひっ迫していることから自宅療養が増えています。しかし自宅療養では保健所から連絡は来るものの、回復しているかの判断もできず、味覚障害や嗅覚障害、のどの痛みなどがあって食事を摂れないも少なくありません。
この対策としては、例えばその地域の開業医さんが自宅療養されている患者さんに電話をかけて状態を伺い、それで入院した方が良さそうな状態なら、コロナを受け入れている病院に入院依頼をするのがスムーズだと思うのですが、現時点ではおそらく日本全国どこもそうしたことはできていないと思います。
今日も大学や県・市行政の方たちと、せめて長崎県だけでも今話したような形をとれないか相談していました。そのためには医師会や開業医のみなさんの協力が不可欠なので、どうにかご理解いただいて進めていければと考えています。全国的に今後も自宅療養は増えていくでしょうし、保健所ももう疲弊しているので、この先は開業医さんたちの協力がないと厳しい状況になってきていると思います。

●今後は病院の独自性を打ち出すこととICTの積極的活用に取り組みたい

今後に関しては、ポストコロナに向けてどう取り組むかが重要だと考えています。今後ワクチン接種などが進み、コロナがインフルエンザなどに近い扱いになった時、おそらく全国的に患者さんの受診控えなどもあって外来数は減っていると思います。
その時に、どう病院の独自性を打ち出すのか。現在、当院の特徴的なものとして、頭痛外来、認知症外来(もの忘れ外来)、発達障害外来などがあるのですが、地域のニーズに応えつつ、そのあたりをもっとアピールして患者さんに来ていただかないといけないのではないか、と考えています。
もう1つ、ICTも積極的に活用していきたいです。すでにコロナ病床にはiPadを置き、ビデオ通話でも診察できるようにしています。感染症対策だけでなく、例えば健康診断のデータなどを共有して、紹介状がなくても患者さんの状況がわかるなどのシステムが作れると理想的ではないかと思います。
長与町は健康に前向きな町で、「健康のためにどんどん歩きましょう」という推奨活動をしているのですが、そうした町の施策ともコラボして、毎日どの患者さんがどれくらい歩いているかのデータなどを共有できれば、日々の診察にも非常に役立ちます。もちろん個人情報の問題などはクリアする必要がありますが、データを活用して地域の皆さんにより精度の高い健康管理・予防医学を提供できるよう、そうした取り組みも今後進めていきたいです。