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「患者さんを断らない」の姿勢を貫き、コロナ禍でも救急搬送を積極的に受け入れられるよう対策をおこなった

岐阜県

岐阜市民病院

太田 宗一郎 院長

中部

1941年の開院以来80年の歴史を持つ岐阜市民病院。患者さんを断らないという強い信念で医療にあたり、地域の人々の信頼に答え続けてきました。一方で、大規模病院が密集した地域に立地することから、地域医療連携等の課題もあるようです。病院の理念や目指す姿、今後の取り組みなどについて、院長の太田 宗一郎先生にお話を伺いました。

患者さんに信頼される病院であり続けられるよう「断らない」の姿勢を貫く

当院では「心にひびく医療の実践」を理念に掲げ、地域の方々に信頼される病院を目指しています。当院は、高度急性期の医療を提供できる限られた医療機関ですが、公立病院として、まず目の前の困っている患者さんを救うことが使命だと考えています。そのためコロナ患者を含め、「患者さんを断らない」ことを徹底しています。
実は、ちょうどコロナが始まる前の2020年の1月まで救急車を断る率が非常に高くなってしまったんです。救命センターの救急車の不応需率は平均約5%程度ですが、当時の当院は8~10%程度でした。岐阜市内は当院をはじめ大きな病院が密集した地域ですので、たらい回しなどは起こり得ませんが、だからと言ってそれでいいのか、今のままでは地域の方々の信頼を得られないのではないか、と考えすぐに対策を始めました。医局員を全員呼んで、断る理由を一つひとつ潰していったんです。結果として、2020年1月以前は8~10%ほどだった不応需率は、翌月の2月には3%未満になり、平均の半分ほどまでに減りました。その後のコロナ禍で入院患者や紹介患者は減っていますが、救急搬送だけは去年よりも増えています。

1人でも多くの患者さんを救うため、安定的な黒字経営を目指す

病院経営的な観点から言えば、救急車の不応需率のほか新規入院患者数、患者さんの平均在院日数、診療報酬単価といった数字を重視しています。それらの3つが上手くバランスを取ることで、利益が得られると考えているからです。
中でも一番大事にしている指標は新規入院患者数です。新規入院患者さんの入口は、救急と紹介の2つに分けられます。断らないことを徹底しさえすれば救急患者数は自然と伸びていくので、現在注力しているのは紹介患者を増やすことです。そのためにも、地域連携の強化は今後の大きな課題の一つになってくると思います。
やはり、病院としては安定的な黒字経営を目指したいです。医療機器にはどうしても、それなりの費用がかかります。利益となった分は新しい機器などへ投資し、新たに次の患者さんの診療に役立つ体制を整えるためにも、黒字にこだわっていくべきだと考えています。

受診者数の減少やコスト削減が今後の病院経営の課題に

病院を経営していく中で課題に感じていることは2つありまして、1つは患者さんの受診控えです。どの病院も同じかもしれませんが、コロナ禍以降、入院患者数・来院患者数は減少しています。そして、患者さんの受診控えの傾向は今後もしばらくは戻ることがないでしょう。
加えて、2020年に40万人だった岐阜市内の人口は、10年後には30万人に減ると予測されています。岐阜市内には当院を含め、岐阜大学医学部附属病院、岐阜赤十字病院、岐阜県総合医療センターといった大規模病院が複数あり、東京都と同程度の人口に対する医師数が維持されています。これはもちろん、岐阜市の地域の方々にとっては、手厚い医療が受けられるメリットになります。しかし当院としては、将来的に近隣の病院と患者さんを取り合うような状況を危惧しなければなりません。今後は、数ある病院の中から地域の方々に、当院を選んでいただけるような工夫が必要だと考えます。
また、現状で一番ネックに感じているのは、コストの削減です。公立病院は民間病院に比べてコスト意識に乏しく、医療材料等の値下げを交渉するといった文化やノウハウもありません。コストの削減は利益に直結するものですから、医療スタッフのコスト削減意識を上げていくこと、また、コスト削減に特化した事務方の人員確保も必要になってきそうです。

一つひとつの問題点を専門チームで検討し、医療スタッフの不安を取り除く

コロナ禍においては大変なことばかりですが、コロナを経て、病院を経営する立場として一つ勉強になったことがあります。私は2020年4月1日、コロナがちょうど本格的に始まった頃に病院長に就任しました。私が就任したばかりの頃は、新型コロナなんて見たこともない聞いたこともないという中で、やはりスタッフみんなが不安だったと思います。
対策本部を設置し、各部署に問題点や分からないことなどをすべて本部へ上げてもらうこと。当院には感染を専門とする医師はいませんが、複数のメンバーで専門的なチームを組織して、上がってきた問題点を検討して各部署に下ろすことを繰り返しました。
そして、本部の言うとおりにした結果間違えていたとしても、それは病院としておこなっていることで個人の責任ではないと、きちんと伝えてあげる。そういったプロセスによって、院内がだんだんと、コロナの混乱から落ち着いていった印象がありました。このように、組織を率いていく方法をコロナから学んだように思います。

働き方改革で最も重要なのは医師自身が意識を変えること

当院では、2020年度に働き方改革の一環としてICTツールの導入に力を注ぎ、すでに『AI問診ユビー』も導入しています。AI問診の活用により、従来医師が担っていた業務の一部をクラークにシフトすることで、医師の時間外労働を削減するのが狙いです。
ただ、医師の場合は仕事と自己研鑽がモザイク状につながっており、単純に切り分けられるものではありません。ですから、スパっと切れないものを働き方改革で無理やりに切り分けてしまうと、かえってどこかにひずみが出てきてしまうような気はしています。そこが医師の働き方改革の難しさかな、と感じています。
働き方改革の一環としては、複数主治医制の導入も検討中です。患者さんの多い・少ないは、診療科によってバラつきがあります。そのため、一人の医師が一人の患者を受け持つのでは結局、患者さんの多い、あるいは医師数の少ない診療科の医師は、定時で仕事を終えられません。しかしながら、なかなか従来の考え方ややり方から抜け出せない医師もいます。そのような意味では、医師の働き方改革で一番重要なことは、医師自身の意識改革ではないかという想いもあります。

前方連携やベースとなる内科部門をさらに強化し、黒字経営の土台を築く

今後の目標としてまずは、地域連携の中でも特に前方連携を強化していきたいです。診療報酬単価が平均的に高い紹介患者を増やし、利益を上げることがその目的です。そのために昨年、かつてMRとして地域のクリニックを回っていた方を地域連携のスタッフとして雇いました。元MRさんであれば、各クリニックの特性を理解した営業活動ができるのではないかと考えています。ただ、コロナの影響で直接クリニックを回ることが難しく、思うように動けていないのが現状です。今後はこちらを進めつつ、各クリニックとの連携にリモートを導入すること、地域連携のスタッフとなり得る医師や看護師を育成するためにコンサルを導入することなども検討しています。
また、当院の得意分野である血液内科、婦人科、整形外科をさらに伸ばしつつ、他部間の強化にも力を入れていきたいです。病院の利益を上げたければ、診療報酬単価を上げることが必要です。そして、診療報酬単価上げるのに最良の施策は、手術を増やすことです。
とはいえ、手術を必要とする患者さんがいきなり外科を訪れるとは考えにくく、内科受診を経て手術に至るケースが多いと言えるでしょう。つまり、ベースとなる内科部門をさらに強化することで外来や紹介の患者さんが増えれば、結果として手術が増える可能性が高いということです。診療圏が他の病院とオーバーラップする当地域においては、内科部門の充実が集客のキーになるでしょう。
こうした取り組みを強化することで、安定した黒字経営の土台を築き、1人でも多くの方を救う医療につなげていきたいです。