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地域の中核となる病院として、居宅事業部や地域の医療機関と協力体制を築き、「切れ目のない医療」を実現

福井県

医療法人林病院

服部 泰章 病院長

中部

公的・公立病院の存在しない福井県越前市において、100年以上にわたり地域医療の中核として幅広い役割を果たしてきた林病院。医師不足の中にありながら、昨今の医療情勢の変化へ柔軟に対応し、質の高い医療を提供し続けることで地域のニーズに応えています。服部 泰章病院長に、病院を経営する上で大切にしていることや目指すべき病院の姿について伺いました。

●地域の中核的な病院として幅広い役割を果たし、入院から在宅復帰までシームレスにサポート

当院は大正時代、1913年に創設されました。越前市には公立・公的病院がないため、創設以来110年近くにわたり、中核的な病院として地域の医療を守ってきました。ときには地域のかかりつけ医として、ときには救急を担う急性期病院として、さらには大規模病院の後方病院としてなど、幅広く対応しています。
当院の特徴として、単一の病院でありながら、経営面を担う理事長と診療面を担う病院長が分かれている点が挙げられます。理事長と病院長を1人で兼任するほうが、意思決定が早く能率も良いかもしれません。しかし、お互いの考えを尊重して意思疎通をしっかりとおこなっていれば、病院運営に支障が出ることはありません。むしろ、それぞれが経営と医療に集中できる体制だからこそ、病院が存続するための利益を維持しつつ、地域に根ざした病院としての使命を全うできると考えます。
また、当院は医療法人で病院は単一ですが、同法人の中に居宅事業部という組織があります。居宅事業部では訪問看護や訪問介護、在宅でのリハビリなど居宅支援全般の業務などをおこなっています。居宅事業部があることにより、当院では退院後も患者様の経過を観察し、在宅復帰に向けた支援を継続的におこなっていくことが可能です。地域の先生方と密に連携を取り、入院から手術・治療、退院後のアフターケアまでをシームレスにサポートしています。居宅事業部の存在も、当院ならではの特徴のひとつですね。

●新築移転と新型コロナウイルスの影響により、2年連続の赤字経営に

当院は2019年7月に旧病院から新築移転しました。耐震基準を満たせなくなったことが大きな理由でしたが、結果的にはCTやMRI、手術室などが整理され、まとまりよく機能的になり、診療上のメリットも大きくなりました。一方で、多額の負債を抱えてしまったことが、病院経営上大きな課題となりました。
移転当初は患者様も多くご来院いただき、2019年度の業績は順調に伸びていました。借入金返済のため一時的に赤字になるとしても、このままいけばなんとかやっていけそうな状態だったんです。ところが、2020年に新型コロナウイルスが発生し、2020年度の第一四半期はかなり業績が落ち込んでしまいました。どこの病院も同じかもしれませんが、その後も受診控えの流れは変わらず、2020年度は前年度に引き続き赤字に。さらに2021年前半も第4波・第5波の到来によりコロナ対応に追われ収支改善策まで手が回らなかったため、3年連続の赤字となるのでは、と危惧しているところです。
また、コロナ対応との兼ね合いもあり、ベッドコントロールや救急の受け入れにも大変苦労しましたね。状況的に難しい場合があることは重々承知しつつも、救急の受け入れは原則断らないように周知しています。救急搬送を拒否した場合は、必ず担当の先生自身に理由を提出してもらうよう徹底しているんです。私の方でその判断を検討し、フィードバックもおこなっています。地域に根ざした医療の実現もさることながら、救急から新規入院患者数を増やしていく、救急管理加算を積極的に取っていくという経営上の意味でも、救急搬送の応需率を上げることは重要な課題です。

●陽性患者受け入れのため、1つの一般病棟をコロナ病棟へ転換

新型コロナウイルスによる影響は、当院も非常に大きかったです。当初は必要に応じて新型コロナの検査・診断をおこなうものの、陽性患者様は受け入れない方針で進めていました。いわゆる擬似症の患者様に関してのみ確定診断がつくまで受け入れ、その後の入院・治療は指定医療機関にゆだねる形にしていたんです。
しかし、2021年4月頃に第4波が到来。福井県独自の緊急事態宣言が出たことで、当院も陽性患者様の受け入れを考えざるを得ない状況になりました。私は2021年4月に病院長に就任しましたので、院内に陽性患者様の受け入れを宣言し、準備に取り掛かることが病院長として最初の仕事となりました。同年6月下旬に第5波が到来し、県から正式に受け入れ要請があったのが8月です。それまでに体制を整えていましたので、8月10日から最大8床まで受け入れ可能な新型コロナ病棟を開設しました。
コロナ対策で最も大きな課題となったのは、一般病棟のベッド数が199床から162床に減ってしまったことです。病院を新築した都合上、ゾーニングにより1つの病棟内で陽性患者様と一般の患者様を分けて管理することが困難だったため、37床ある1病棟を潰す形で新型コロナ病棟を準備するしかなかったんです。そうすると、162床で一般病棟が満床の状態になります。病床稼働率は常に90%台で、ベッドコントロールには非常に苦労しましたね。
10月頃からは陽性患者数も落ち着いてきましたので、その後病棟を消毒し、コロナ病棟用の設備を撤去。最終的に58日間でのべ270人の陽性患者様を受け入れ、10月の半ばからは通常の運営に戻っていった形です。ただ、162床で満床の状態が約2か月間続いたため、通常通り199床の運営に戻っても、患者数がなかなか回復しない状況が続きました。

●新規患者数を増やす施策とコスト削減の徹底により、収支改善を図る

病院の新築移転や新型コロナウイルスの影響による赤字の状況を改善するには、大きく2つの方法があると考えています。

1つは新規患者数を確保することです。外来患者数を増やすには、やはり来ていただいた患者様に当院で診てもらって良かったと感じていただけるような、丁寧かつきちんとした診療を地道におこなっていくしかないと思います。そのために、職員全員に対して改めて接遇の研修を実施しています。新規の入院患者数を増やす施策としては、地域の先生方から患者様の紹介があった際の迅速な対応を徹底しています。加えて2021年の1月より、206床から199床に減らして運用しています。ベッド数を減らすことで地域包括ケア病棟の入院料を確保することが第一の理由でして、この施策により多少収益が上がっています。

もう1つは、いかに経費を削減していくかです。特に診療材料費に関しては、現在専任の担当を立てて対応してもらっています。償還対象の診療材料とそうでないものを整理したり、薬剤や備品等に関して実際の購入価格と数量を集計し各科にフィードバックしてもらったりして、支出の明瞭化を図っています。また、人件費について部署ごとの適正な人員数を把握したり、非常勤医師の費用対効果も検討しています。 

●常勤医師数を確保しつつ、職員の意識改革と今ある人材の教育を目指す

赤字経営の改善に加え今後注力したいのが、常勤医師数の確保です。当院には現在、常勤医師が15名しかいません。当院の規模から考えると非常に少ない人数であり、医師の負担が大きくなっている最大の原因でもあります。現状、機会があるたび大学の医局に医師の派遣をお願いしていますが、大学病院も人材が潤沢にあるわけではありません。非常勤医師の派遣はある程度お願いできているものの、常勤医師の確保となると難しい状況です。今後は人材派遣会社も活用するなどして、何とか採用につなげたいところです。
また、常勤医師の確保に加えて、今いる人材を教育することも重要な課題です。以前から常々思っていることとして、病院経営における事務職員の役割は非常に大きいということがあります。医師が理想とする医療を実現するには、安定した病院経営が必要です。しかし、医師は医療のプロであって経営のプロではありません。そのため、病院経営の面では、事務職員にはむしろ医療者、特に医師をリードしていく存在であってほしい、そして医療従事者の1人であるというプライドを持って、業務にあたってほしいという想いがあります。
そのためには前提として、医師が上、事務方が下、といった力関係をなくす必要があるでしょう。医師が事務職員の意見を聞き入れない、医師という立場で事務職員を押さえつけてしまうような状況は改善していかなければなりません。病院経営に関しては、事務方に任せられる方が医師たちも楽になるはずです。診療面に対して責任を負う病院長として、医師を始めとした職員の意識をリードしていくことが重要だと感じています。

●2022年度より職員の完全週休二日制を決定。さらなる医師の負担軽減に

働き方改革に関する施策としては、現在2022年度から完全週休二日制を導入することが決定しています。週休二日制の導入は私の赴任以前から議論されており、2020年度にはそのステップとして、従来の月〜土曜・8時半〜17時半の診療から、土曜午後を休診にする形としました。しかし、土曜午後を休診にすると、かえって通勤費や人件費などのコストがかかる、時間外業務が増える、手術室を稼働できる日が偏る、などの問題が浮き彫りに。また、この地域で他に週休二日制を導入している病院はなく、患者サービスの低下や患者数の減少によって今より収支が悪化する懸念もありました。
そうした問題をすべて解決できたわけではありませんが、問題解決を待っていてはいつまで経っても実現できないということで、2021年9月末に、土曜診療をなくす形で2022年度から完全週休二日制を導入することが決定しました。実際に運用が開始されるまでの間に、医師を派遣してもらっている大学病院、地域の各医療機関、患者様のご理解を得て、準備を整えていきます。
また、医師の負担を減らす施策として、2021年4月から時間外選定療養費の算定をはじめました。いわゆるコンビニ受診を抑制して少しでも医師の負担を軽減しようという意図があったのですが、導入以前は患者様が減ってしまう懸念がありました。しかし、除外規定を幅広く設けたことにより大きな混乱を生むことはなく、適切な受診についての抑制はなかったと考えています。結果としては医師の負担軽減よりもむしろ、当院の基本方針として重症患者様・入院患者様の診療に力を入れたいということをアピールできる良い機会になりました。

●担うべき範囲をしっかりと定め、一病院としての専門性を高めて機能分化を

現在、当院は急性期のDPC病棟が1つ、地域包括ケア病棟が3つ、回復期リハビリ病棟が1つという構成になっています。ただ、当院の特徴として整形外科の患者様が大変多く、回復期リハビリ病棟の収益がなかなか伸びないという大きな課題があります。そこで、回復期リハビリ病棟を地域包括ケア病棟に転換しようという議論も行いました。しかし、越前市において回復期リハビリ病棟を持っているのは当院だけなんですね。当地域の特色として1人暮らし・夫婦2人暮らしの高齢者が大変多く、そういった方が一旦入院してしまうと、在宅復帰がなかなか難しいという問題もあります。
急性期から地域包括ケアと回復期のリハビリまで揃っているのは、当院の強みではあります。その特徴はなるべく活かしていきたい想いもありつつ、一病院だけでできることには限りがあるため、今後は当院の守備範囲をしっかり設定していきたいと考えています。近隣の大病院、また地域の医療機関や開業医の先生方と連携を深め役割を分担し、地域の中核病院として当院の使命を果たしていく体制を整えていきます。