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総合診療医の充実で100%近い救急受け入れを実現。地域診療所と連携し、訪問診療・訪問看護にも注力

長野県

市立大町総合病院

藤本 圭作 院長

中部

広大な大北地域において、その医療の大部分を担っている市立大町総合病院。この地域で主に救急をおこなっている中核病院として、救急に関してはほぼ100%の受け入れを実現しています。また、総合診療科に関しては優秀な人材を豊富にそろえ、医師の教育・指導にも力を入れています。藤本 圭作院長に、病院の理念や経営における課題、今後力を入れていきたいところなどを伺いました。

紙媒体を上手く活用し、病院の特徴や取り組みなどを積極的にアピール

当院の理念は、「地域に密着した温かく誠実な医療の実践」です。当院のある地域では、人口はどんどん減ってきていますし、高齢化も進んでいます。また、地域の医療を担う医師の数も減少しています。そのような中で、地域に密着した医療を実践していくことは、最も理にかなったことであると考えています。
また、当院は市立病院ですので、大町市の皆さまの命を守ることが使命です。そのためコロナ禍においては、率先してコロナ患者さんを受け入れ、治療してきました。同時に、当院に来院される他の患者さんがコロナに感染されることのないよう、絶対に院内感染を起こさない心づもりで万全を尽くしています。
どこの病院も同じでしょうが、当院でもコロナを機に受診控えがあり、外来患者・入院患者共に非常に減ってはいます。病院経営的に厳しい状況下において当院が存続し続けるためには、地域の皆さまの理解を得ること、当院の特徴を知ってもらうことが重要です。そこで、当院の目指している医療や当院に所属する医師、当院だからこそ提供できる医療などについて、積極的にアピールしています。どうしてもご高齢の方が多い地域ですので、HPを充実させるだけでなく当院の広報誌や地域新聞など紙媒体を有効に活用し、情報発信をおこなっています。

総合診療科を担う優秀なプライマリ・ケア医が充実。100%の救急受け入れを実現

当院の特徴としてはまず、救急を積極的に受け入れていることで、ほぼ100%救急受け入れをおこなっています。僻地でありながら1日平均5台ほどの救急搬送があり、昼夜を問わず救急患者の受け入れがある状態です。
また、「総合診療科」を掲げており、当院ではコロナ感染者や発熱外来の患者さんを含め、すべての外来患者さんをまず総合診療科で診ます。呼吸器、消化器、心臓内科など、特定の分野を専門として診る医師が専門医であるのに対し、どんな病気や病状も総合的に診られるのが総合診療医(プライマリ・ケア医)です。総合診療医が充実しているからこそ「専門外だから診られない」といったことが起こらず、ほぼ100%に近い救急受け入れを保つこともできています。
当院の総合診療科にはアメリカに留学してプライマリ・ケアを学んだドクターを含め、10人以上もの優秀なプライマリ・ケア医が在籍しています。長野県内で他にこのような病院はありません。そのため、信州大学を中心に全国の大学から医学生をはじめ、研修医や専攻医が総合診療科のプログラムを学びに訪れます。研修生の方々に学びの機会としていただけるよう、カンファレンスは毎日、朝・昼・夜の3回実施。次世代の教育・指導に力を入れている点、さらに総合診療医から専門医へ繋ぐシステムも、当院が自慢できることの一つです。

訪問診療・訪問看護にも力を入れ、各診療所と連携しながら地域包括ケアの構築を

地域医療に関しては、大町以北から新潟との県境にある白馬や小谷村辺り、大北医療圏と言われるかなり広範囲の地域において、その大半を大町病院が担っています。当院以北には病院がなく、当院はいわば北の砦です。大町以北、白馬などはスキー・スノーボードのメッカで、要するに雪が多いんです。そのため、雪が深くなると、当院へ診察を受けに来られない問題があります。解決策としては、診療所を充実させること。小谷村診療所、白馬診療所、美麻診療所、八坂診療所などがあるので、こういった各診療所といかに連携を取っていくかが課題です。同時にこういった僻地では、患者さんに来てもらうのではなく、医師や看護師が出かけていく訪問診療・訪問看護の充実も重要でしょう。当院にも訪問看護ステーションがあるので上手く活用しながら、地域包括ケアを構築していく必要があると思っています。
ただ、大町市より北に病院はありませんが、当院から車で15分のところにあづみ病院という大きな総合病院があるんです。そちらのほうが当院に比べて医師数も充実していることから、患者さんの多くがあづみ病院に紹介・受診される現状もあります。
そこでまず実施したこととしては、当院のHPの改善です。従来HP上で「内科」としか表示されていなかったところを、内科は内科でも「呼吸器内科」や「循環器内科」といったように専門性がわかるように変更しました。また、いびき・居眠り外来、咳・息切れ外来および認知症の物忘れ外来など、専門外来も増やしまして、それらに関してもHP上でわかりやすく公開しています。その結果、紹介患者さんだけでなく、外来患者さんの増加にもつながりました。

高齢の方も使いやすいITツールを導入し、遠隔医療やオンライン診療を実現したい

前述の通り、地域医療連携の課題としては、大町以北の各診療所と密に連携を取っていくこと。これにはやはり、IoTの活用が欠かせないと考えます。IoTを活用して各診療所の先生方と連携し、オンライン診療や遠隔医療を実現できれば、病院に来られない冬の間も、患者さんが安心して医療を受けられる体制が整うでしょう。
そこでオンライン診療は導入してみていますが、まだ、1回しか使われていないんです。お年寄りが多いので、パソコンや電子機器等になじみがないことが大きな壁になっています。加えて大北地域や北アルプス医療圏は山の中にあるので、電波が届かないという環境的な問題もあります。使いやすく、どこでもつながるような例えばスマホ等を使って、上手く遠隔診療やオンライン診療などができればいいですよね。

過去に経営危機に直面した経験から、市立病院として生き残るためのさまざまな取り組みを実施

実は、当院は2017年に著しく経営状況が悪化しました。経営健全化のために病院経営の専門家、会計士なども交えて方針を策定しまして、現在4年目です。経営健全化の具体的な取り組みとしてはまず、病床数を199床まで減らしました。次に職員の給与カットです。あとは、診療報酬の点数が高い病院運営の仕方をしていく。そのための取り組みとしては、総合診療内科をはじめ専門的に力を入れる分野をつくる、救急の受け入れを増やす、といったことが挙げられます。
病院もかなり古くなってきていて建て替えを検討したいのですが、病院の建て替えにしても遠隔医療やオンライン診療の導入にしても、とにかくお金がかかる。そこで財源の確保としては、国の地方創生に関わるものなど、補助金がもらえる事業に積極的に応募しています。
数字的なことでいうと、病院経営において一番大事にしているのは、やはり病床稼働率ですね。病床稼働率を上げるために、医師や看護師の獲得にも力を入れています。あとは、外来患者や紹介患者の数、1ヶ月あたりの収益としてどこの科が増えてどこの科が減っているか、どういった割合で収入は上がっているのか、それが昨年度に比べてどうなのか。そういった経営にかかわる数字はこまかくチェックしています。

クラークや特定看護師・診療看護師数を増やし、多職種協働による医師のタスクシフト・シェアをおこなう

現在力を入れている医師の獲得は、経営改善のためだけでなく、働き改革の一環でもあります。内科の医師に関しては、少ない時は3名だった医師数が現在は10人以上。そのうち5名は専攻医ですので、数も質もかなり充実しました。
医師の獲得と同時に進めているのが、クラークと特定看護師・診療看護師数を増やすことです。特定看護師とは専門の研修を受けた看護師のことで、これまで医師しか携われなかった医行為について、医師の指示の下であれば診療の補助としておこなえるというものです。診療看護師になると院の修士課程を修了する必要があり、資格を取れば医師の指示の下に医師と共に診療行為をおこなえます。人手不足の部署や診療科では特に、診療看護師の果たす役割は大きいです。そういった医師の業務の一部を担えるクラークや専門的な技術を持つ看護師さんを多く雇用し、タスクシフトはどんどん進めています。医師の負担軽減につながるだけでなく提供できる医療のレベルも上がるわけですから、今後も積極的に進めていきたい部分ではあります。

産科の立ち上げや戦略的な人員配置により、病院の経営改善につなげたい

今後の大きな目標として現在進めているのが、産科の立ち上げです。2020年11月に産科医が退職して以降、当院では産科の運営ができなくなっていました。当院の一番大きな課題は、安心して出産・子育てのできる医療体制の構築と病院経営の改善ですので、専門科を増やし収益の増加につなげ、地域医療を充実させるため、産科の再開に向けて医師や助産師の登用などを徐々に進めているところです。
病院経営のコストの面でいうと、人件費が非常に大きい。しかし、コストを削減するためにスタッフを減らすのは逆効果で、人材が少なくなればどんどん経営が悪化するというのが私の考えです。10人もいらないから2人辞めてもらおうではなく、余った2人で何か収益につながる新しいことができないか。当院のスタッフ一人一人には、そういった経営的な目線を持ってもらいたいですね。医師や看護師の意識改革も含め、地域の皆さまのニーズに合わせつつ病院の収益にもつながるような人員配置をおこなっていきます。