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医療エコシステムの構築・医師のシフト制導入・中長期的な医師採用対策など、未来を見据えた施策を実践

岡山県

公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院

山形 専 院長

中国・四国

岡山県西部の中核病院として高度急性期医療を実践し、地域医療を支えている倉敷中央病院。医師の教育の場としても評価が高く、全国各地から研修医が集まっています。また未来の医療を見据え、医師のシフト制の導入、エコシステムの構築、予防・先制医療への取り組みなどをいち早く進められています。病院を経営する上で大切にしていること、今後力を入れていきたいことなど、山形 専院長に詳しくお伺いしました。

●すべての職員が同じ方向を向いて協力し合えるよう、価値観の共有を徹底

当院では、「5つの行動指針」を大事にしています。これは私が当院の院長になった際、スタッフに対し医療者としてどのように行動すべきかを定めたものです。
1つ目は、常に成長すること。職員には去年の自分と今年の自分とを比べたときに、去年よりも成長できているかと常に考えてほしいと思っています。
2つ目は、透明性。金魚鉢のようにどこからでもやっていることが見える、クリアな医療を目指します。
3つ目は、高機能化・効率化。4つ目は、共創性です。職種や組織を越えて職員同士、またメーカーさんなどともコラボレートしながら、共に医療を実践していきます。
そして、5つ目が価値観の共有。院内で価値観が一致していないと、病院というものは一つの方向に進めません。決めるべきことも決まらず、医療の安全性も保てないでしょう。結果として、医療の質の低下につながってしまいます。そのため5つの行動指針の中でも、価値観の共有は特に大切にしている考え方です。
とはいえ1000床以上の大規模病院には珍しく、当院にはもともと、診療科間や職種間に壁がない、年齢や立場に関係なく言いたいことを何でも言い合える風土がありました。権威勾配は緩やかで、お互いに助け合う文化が昔から根付いていたので、価値観の共有に関しても特に苦労なく実現できているように思います。

●採用に関する積極的な取り組みが実を結び、若手医師にとって魅力ある病院へ

5つの行動指針の中でもう一つ、特に大切だと考えているのは、職員一人一人が成長できる組織であることです。当院には若い医師も多いので、彼らにとって成長できる機会をいかに与えられるかは常々考えていますね。レジデントに向けた研修会などは、院内で頻繁に行っています。また、医療技術のスキルや手術数、学会発表、資格取得、事務員や看護師とのコミュニケーションなど、それらがきちんと医師の評価に反映される評価制度も整えています。特に若い医師にとっては、学びと経験を積む機会の多い魅力的な病院だと言えるでしょう。実際に、毎年募集人員に対して2~3倍の応募があり、レジデントが十数人に及ぶ科も少なくありません。数多くの同じ立場の医師たちと切磋琢磨できる環境が整っており、さらに人が集まりやすい相乗効果も生まれています。
当院が医師の集まる病院となっている背景には、長きにわたり医師のリクルートに力を入れてきたことが挙げられます。レジナビなどが主催する合同説明会では、毎回大規模なブースを設置し、当院に勤務する医師やレジデントも積極的に派遣していました。また、全国各地に散らばった当院の卒業生が、後輩に対して当院を紹介してくれることも大きいです。医師の集客はやはり一朝一夕にできることではないので、そういった中長期的な取り組みが将来的に実を結んでいくのではないでしょうか。

●コロナによる危機をチャンスと捉え、課題だった病棟再編に着手

経営上の大きな課題と言えば、やはりコロナの影響は大きかったですね。しかし当院では、コロナの到来をピンチではなくチャンスに変えよう、コロナの今しかできないことをやろうと、長年の課題だった病棟再編に着手しました。
病棟再編を進めるに至った背景として、ICUに属する看護師数が足りないために、既存のICUをそのままコロナの重症病床に変えられなかったという問題がありました。そこで、回転率の悪い診療科や病棟をたくさん持っている診療科の病棟を一部なくして、それらの病棟に勤務していた看護師をコロナの重症病床に割り当てたんです。また、コロナ対応に人員を割くとどうしても人手不足になるため、この機会にICUの病棟再編も実施。これまで、心臓血管外科、脳神経外科、循環器内科、救急科など、各診療科が個別に持っていたICUを一部統合しました。これにより、当直などに割く人員を減らすことが可能になりました。
病棟再編は、コロナに対応するためにやむを得ないことではあったんです。しかし結果として機能向上と効率化が実現でき、病院経営上もプラスに働いています。もちろん大規模な改革ではあったので、職員の理解を得ることは重要です。当院ではその点、価値観の共有ができていましたので、混乱を生まずスムーズに進めることができました。

●一部の診療科で医師のシフト制を導入し、主治医制と当直の廃止を推進

医師の働き方改革に関しては、2~3年前からさまざまな取り組みを進めています。1つは、主治医制の廃止です。担当医性、あるいはグループ制にして、2~3人で1人の患者さまを診るようにシステムを変更し、医師1人にかかる負担を減らしています。また当直をなくすため、徐々にシフト制の導入を進めています。救急はもともとシフト制でしたので、他の診療科にも導入を進め、外科や脳外科ではだいたい確立してきている状況です。
とはいえ、当院が他院に先駆けて主治医制の廃止やシフト制の導入を実現できているのは、やはり医師数が多いことが大きいです。2024年までに医師の働き方改革の実施が決まっていますが、医師不足に悩む病院は非常に多く、問題は山積みです。2024年以降、これまでのような保険医療体制が本当に維持できるのか、非常に心配しています。
当院も、医師数が十分な診療科ばかりではありません。3、40人の医師が在籍している診療科もある一方で、例えば皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科などは医師の数もそれほど多くはありません。そういった科に関しては、いくつかの診療科を集めて合同診療科という形にして、シフト体制を組んでいく必要があるでしょう。当院の風土としてもともと診療科間の壁はかなり低いと思っていますが、診療科ごとにカラーなどもあります。現場の職員にいかに合同診療科の必要性を納得してもらうか、その上で診療科を越えた協力関係をどう築いていくかは、今後の課題の一つと言えそうです。

●地道な努力で信頼を積み重ねてきた結果、医療のエコシステムの構築が可能に

地域医療連携の一環として今まさに当院が取り組んでいるのは、医療のエコシステムの構築です。岡山県西部には、高度急性期病院として当院の他に川崎医科大学付属病院があります。この二院を軸として、200床程度の地域に密着した中規模病院、地域の診療所やクリニック、あるいはリハビリ施設、これらが相互に関連し、それぞれの機能を活かしながら患者さまを診ていくのが医療のエコシステムです。エコシステムにおいて、医療の中心は在宅です。患者さまに何かあればまず、地域のかかりつけ医である診療所などで診ていただきます。診療所で診られないものは、地域密着型の中規模病院へ。そして、中規模病院でも手に負えないものを我々高度急性期の病院が受け持ちます。必要があればリハビリのスタッフや医師などが患者さまのもとへ出向き、可能な限り在宅ですべてを完結させるのがエコシステムの基本的な考え方です。
医療は今後、確実に在宅中心へシフトしていきます。その意味でもエコシステムの構築は必要不可欠ですが、その実現には近隣病院の協力が欠かせません。当院は20年前から、地域の診療所などとの連携に力を入れてきました。例えば、各診療科で開業医の先生方を集めた意見交換会を定期的に開催しています。患者さまの画像を転送してもらい、診断をつけてお返しするといったこともこの20年間続けてきました。ローマは一日にして成らずで、密な地域医療連携にはやはり、地道に信頼を積み重ねていくことが大切なのだと思います。

●未来の医療を見据えて必要な取り組みを実践し、信頼される病院であり続ける

これからの医療に関しては、在宅医療の他に注目していることが2つあります。1つは、プレシジョン・メディシン、いわゆる精密医療です。例えば、がん患者さまの遺伝子情報を詳しく調べ、その患者さま個人に対して本当に効く薬を見つけていくといったものです。より一人一人の患者さまに合った医療を提供できるよう、精密医療に対しては病院としてもっと関わっていきたいと考えています。
もう1つは、予防・先制医療です。今、個人の遺伝子やタンパク質を調べたりバイオマーカーを用いたりすることで、発症前に病気に介入する先制医療の分野が非常に進歩しています。そこで現在企業と提携し、先制医療を取り入れた新しい人間ドックのプランづくりを進めています。まず、遺伝子検査などを用いて、患者さま一人一人にパーソナルメディカルレコードをつくります。その情報に基づき、その人の体質や遺伝的にかかりやすい疾患に合わせて、ドック検査の内容をカスタマイズしていくんです。
当院が力を入れている取り組みを市民の皆さまに知っていただくため、2年前に予防・先制医療のプラザもつくりました。プラザでは、zoomやYouTubeでの配信を企画したり市民講演会を開催したりして、健康増進のPRをおこなっています。これからの医療をしっかりと見据えながら今後もさまざまなことに取り組み、地域の皆さまに信頼される病院であり続けるよう努めたいと思います。