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未曽有のコロナ禍を脱するために行なった施策はクラウドファンディング。ポストコロナを見据えて目指す盤石な医療体制とは

茨城県

医療法人慶友会 守谷慶友病院

今村 明 院長

関東

県より要請された新型コロナウイルスの感染症患者に対する受け入れを、積極的に行ってきた守谷慶友病院様。感染の不安や、感染対策への出費、風評被害などにより病院が疲弊していた頃、状況を好転させるために取られた手段はクラウドファンディングでした。クラウドファンディングを実施した背景や今後の目指す病院の姿について今村 明院長にお話を伺いました。

過去の院内感染の経験を戒めに、徹底する感染対策

新型コロナウィルスが感染拡大した昨年のかなり早い段階から、感染対策における専門職員と議論し、濃厚接触者からの感染リスクを極限までに抑えるために対策を立てました。

現在も継続していますが、一般病棟の職員や外来職員などの患者様と接する職員は、防護服、ゴーグル、マスク、手袋、フェイスシールドの着用を徹底しました。

新型コロナウィルスの陽性であることが判明している患者様には当然感染対策を徹底していますが、一般の来院者からの感染を防ぐためにも、ゴーグルやフェイスシールドによって感染リスクを極めて低い形に抑えるよう努力しました。

当院はかつてインフルエンザにて院内感染が発生したという経緯があり、その反省から今回のような迅速な感染の防止を徹底することができたと考えています。

感染対策に関しての課題は、患者側の感染対策意識の向上です。感染対策を徹底するのであれば、当然患者様にもマスク着用を依頼する必要があるのですが、特に高齢の患者様においては、マスク着用の徹底が難しいことが現状です。

課題を改善するための取り組みとして、当院の感染対策委員会によって定期的にラウンドを行い、きちんと感染対策が行われているかのチェックを行っています。マンパワー的に完全な徹底は難しい部分もありますが、このようなチェック機能を整備し現在でも継続しております。

特別手当の実施と、感染への正確な理解により職員のモチベーション維持を図る

当院では、昨年の4月下旬に新型コロナウイルス感染症を担当していた看護師が1名、院内で感染してしまいました。当院は構造上の問題で換気がしづらいという課題があったのですが、感染経路が明らかであったため、感染対策をさらに徹底することによって感染を食い止めることができました。

追加で行った感染対策としては、まず職員同士の会話による感染の元となりやすい休憩室などの箇所における感染対策の徹底です。職員には休憩中にもマスクやフェイスシールドの着用を徹底させ、大人数での入室を避け、対面での着席を行わないなどのルールを設けました。

また、ルールやガイドラインを設けるだけでなく、職員の感染に対する不安感を取り除くために感染に対する正確な理解の促進に尽力しました。さらに、危険手当といった賞与の支給などを行い、モチベーションの向上を図りました。

本来であれば、医療従事者としての責任や使命感によってモチベーションを高く維持することが理想ですが、当時は感染者を受け入れる当院へのメディア報道による風評被害もあり、責任や使命感だけでは職員のモチベーションを維持することが困難な状況でした。せめて職員へ経済的な余裕を与えることができればと特別手当の実施を行いました。

地域住民からの理解と応援、そして職員の安心感を得ることができたクラウドファンディング

当時は、補助金の支給方針が明確に定まっていない中、設備投資や消耗品の購入など感染症対策への出費が膨れ上がった上に新型コロナウイルスの陽性患者様を受け入れたことにより、外来患者数が激減したことで経営状況が思わしくない状況でした。

そんな中で、実際に感染の可能性がある現場で働く職員へ少しでも手当を与えることができないかと考え、ある医師の提案で出てきたアイデアがクラウドファンディングでした。

当初は『本当に支援金が集まるのか?』と半信半疑でしたが、想像以上に多くの方々に支援をいただき、結果として、希望額を大きく上回る支援金と想いの乗ったコメントをいただくことができました。

支援金は新型コロナウィルスの現場職員に対しての手当の拡充と従業員への臨時手当へ充てました。職員一同、支援者の皆様への感謝を持つと同時に、応援や期待に充分に応えることができるのかという緊張を持ちました。その適切なプレッシャーは支給した手当以上に職員の感染対策に関する意識改革につながったと感じています。

また、クラウドファンディングを行ったことによる副次的な効果として、コロナと闘う医療機関の現状を広く訴えることができ、風評被害に対して多くの方にご理解いただける良い機会となりました。実際にクラウドファンディングを行った後に、心ない言葉を職員が受けてしまうという事態が減少したことは一つの事実として考えております。

感染拡大を防ぐため、院外での診察や処置を徹底

当院は、新型コロナの感染が始まった当初から、重症者に関する受け入れ要請に対応してきました。実際に人工呼吸器を必要とする重症患者が入院したのは去年からで、以降は継続して重症患者様含む、新型コロナ陽性患者の受け入れを行なっています。重症化した患者様の受け入れ数自体は多くて2名、基本的には1名としております。重症患者を受けれる際には中等症の患者数とのバランスを取り調整を行なっておりました。中等症の患者受け入れ可能人数は16名です。

そのような体制の中、外来受診される方からの院内感染を防ぐために、プレハブを4棟設置して発熱外来を開設しました。

4棟設置したプレハブの発熱外来棟はそれぞれの役割を持っています。一つは職員が常駐するためのもの、二つ目は準危険区域として実際に診察を行うためのもの。三つ目は、既に感染が確認された陽性患者様のメディカルチェックや診察を行うためのもので、最後は来院された患者様の待機やバイタルチェックを行うために用意したものです。

このようにプレハブを分けて設置した理由は、とにかく発熱や感染の疑いがある方を他の患者様と交えることを避けるためでした。

来院いただいた患者様は待機用の棟にて採血や唾液の摂取を行い、その後診察棟にて診察を行います。CT検査などが必要な場合は、専用の導線より人と接触することなく院内のCT室へ進み撮影を行いますが、ほとんどは院外での対応が可能となっています。


医療現場の環境整備のためソフトとハード両面からの改善を目指す

発熱外来の運用にあたって困難だった点は、医療現場の環境整備でした。プレハブで設置した外来棟には当然エアコンは設置していたのですが、換気のため窓を開ける必要があります。

しかし業務にあたる職員は、通気性の悪い防護服を着用する必要があるため、暑さ寒さなど非常に辛い思いをさせたかと思います。医療現場での環境整備に関しては職員だけではなく患者様にもご迷惑をおかけしてしまっており、暑さ寒さについてはご要望を直接いただくこともありました。専用の防寒着を配布したり、夏は送風機を設置するなどをしましたが、やはり完全に快適な現場環境を整えることは困難でした。

発熱外来の運営にあたる課題は現場環境の改善だけではありません。長期的に継続して新型コロナウイルスの対策を行う中で、一部の職員のみをコロナ病棟に関わり続けさせるのではなく、半年程度の期間で入れ替えたいと考えています。しかし、マンパワー的にいますぐローテーションを組むことはできていないのが現状です。


そのため、人材配置の流動性や柔軟性をどのように獲得していくかが今後の課題だと思っており、職員全体へアンケートを取得し、各部門長が現場で働く職員ごとに、新型コロナウィルスの感染リスクのある現場で働くことに対しての考えを把握するべく努めております。

現在、新型コロナウィルスの患者数が少ない時には、病棟職員が他の病棟への手伝いにいくなど、病棟内における職員間の業務分担は柔軟に行えております。しかし、患者数が少なく空いた病棟をどのように利活用するのか?など病院全体としての柔軟性は改善の余地があり、今後の課題としていきたいと考えております。

ポストコロナを見据えながら目指す盤石な医療体制

新型コロナウイルスの感染拡大を体験し、病院全体として「当たり前」のレベルが向上したと考えております。特に、大きな課題に対して綿密なコミュニケーションを行い、コンセンサスを得た上でルールを作り遵守していくという体制が定着しつつあることは、大きな収穫でした。

コロナ禍を通じて身をもって感じたことは、いかなる時も病院として地域に胸を張ることのできる水準の医療を提供しなければならないということです。それを達成し続けるためには当たり前のレベルを高く維持し、柔軟性を持った組織を目指していく必要があるかと思います。

新型コロナウィルスの感染拡大のように、想像もしなかったような未曾有の事態が今後起きないとは言い切れません。どのような事態に直面しても、職員が一丸となって高度な医療提供を行うことができる盤石な体制を築いていかなければなりません。

何が起きても動じない組織作りに必要なことは、個々人が自らの組織に対して愛着と揺るがぬ信頼感を持ち、どのようなことにも対応できるという自負を持つことだと思います。そのためには、自分たちにもできるのだという成功体験を積み重ねていくことが非常に重要です。

今回、新型コロナウィルスの院内感染を防ぐことができたように、様々な成功体験を今後も作っていくことができればと思います。職員の生活と心身の健康をしっかり守り、常に最良の方針を示すことができるように努めてまいります。