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「経営指標ではなく医療の質を重視」と語る院長が患者とダイレクトにつながるため続けてきた活動と将来のビジョンのアイキャッチ画像

「経営指標ではなく医療の質を重視」と語る院長が患者とダイレクトにつながるため続けてきた活動と将来のビジョン

鹿児島県

米盛病院

米盛 公治 院長

九州

「一秒を救う。一生につなぐ。」というコンセプトのもと「命と人生に向き合う専門病院」を目指して挑戦を続ける米盛病院。鹿児島県鹿児島市の米盛病院では、南北約600kmという広い鹿児島県で救急科と整形外科という2つの専門科を高度に統合し、さらには脳神経外科、循環器内科、心臓血管外科などを開設し、診療科を拡充しています。米盛公治院長に病院のポリシーや同院が注力している病院のホスピタリティ、人材教育、将来のビジョンなどについて伺いました。

命と人生に向き合う専門病院が目指す医療



当院には「一秒を救う。一生をつなぐ。」というコンセプトがございます。「一秒を救う。」は、命の危機に直面している患者さんをいかに救うかという医療で、「一生をつなぐ。」は、命を救うだけでなく、その人なりのADLをできる限り回復させ元の生活に戻れるようにサポートする医療を意味しています。

当院の特色は、これら一見両極端な2つの医療を融合させて追求し、当院が掲げる「命と人生に向き合う専門病院」の役割を実践していることです。19の診療科を標榜する当院は、一般的には総合病院と思われることが多いですが、総合病院でなく専門病院であるという意識を持っています。
この「命と人生に向き合う専門病院」の役割を果たすために、経営指標にとらわれるのではなく医療の質を重視しています。良い医療を実践するために、まずは利益を上げる必要があるというロジックではなく、救命に携わる部分について着実にかつ数多く対応し、その人のADLをどれだけ回復させられるかを追求することが重要と考えています。その結果として経営上の指標がついてくると考えています。そのため、私は経営指標の改善を優先して経営判断をしたことは1度もありません。

地域との連携を重視した医療体制の構築で病院と在宅医療のダイレクトなつながりを

私は常々地域との連携が大事だと考えていて、特に病院と在宅医療の連携を重視しています。通常であれば、容態が急変した在宅患者さんは多くの場合救急車で病院に運ばれてきます。しかし、こちらが普段から患者さんの状態を把握できていれば、当院から救急救命士などの医療スタッフを派遣し、患者さんを当院へ搬送することも可能です。当院では実際に地域の介護施設との間で、医療スタッフによる施設間搬送を行っています。こうした患者さんと病院がダイレクトにつながれる体制の構築は、病院にとってこれからますます重要になるテーマではないかと考えています。

また、2014年の病院移転・拡充以来、「24時間救急相談ダイヤル」を運用しています。総務省が救急安心センター事業「#7199」の全国展開をすすめていますが、鹿児島県では導入されていません。そこで、当院では「24時間365日、当院の救急救命士がご相談に応じます」という方針でこのダイヤルの運用を始めました。その結果、「#7099」という「24時間救急相談ダイヤル」の番号の認知度も鹿児島県内で年々向上していると思います。



具合が悪くなられた方の中には、本当に急を要していて救急車を呼ばないと命に関わる方がいますが、救急車を利用すべきかどうかを判断するのは難しいことです。また、鹿児島の県民性なのか、救急車を呼ぶことを遠慮して、がまんされる方も多いようです。そのため、不安に感じる症状や病院に行った方が良いか判断に迷う時など、お困り・お悩みの際の相談から在宅医療を受けられている方の体調の悪化やケガへの対処など、本当に苦しんでいる方と病院がダイレクトにつながれる医療を強く意識して取り組んでいます。

コンシェルジュサービスによるタスクシフティングでホスピタリティの向上を目指す

当院では物理的な連携だけではなく、コミュニケーションによる連携も重視しています。当院のコンシェルジュサービスは、私が約20年前に宿泊したリッツカールトンホテルのサービスがヒントになっています。リッツカールトンホテルでは、「エレベーターホールはこちらです」といった案内表示をつける代わりに人を置いています。そうすると必ずそこにコミュニケーションが発生します。自分でサインを探すのと比べると、コンシェルジュから案内を受ける、人を介したコミュニケーションの方がインプレッシブで記憶に残りやすく、感動体験が生まれると考えています。
サービス業で最も重要なのは「ホスピタリティ」ですが、その語源は病院(ホスピタル)です。リッツカールトンホテルのサービスを体験して、病院こそホスピタリティを追求する必要があるのではないかと思いました。

そこで当院でも、あえて人を介するホスピタリティとしてコンシェルジュサービスをはじめました。例えば、当院では病院内外を移動する際の案内や一部の問診などを、メディカルコンシェルジュやメディカルクラーク、メディカルアシスタントなどが担当しています。現在は医師事務作業補助者として制度ができ、診療報酬がつくようになりましたが、制度どころか概念もない頃からスタッフを投入して医師のタスクシフティングを実践してきた経緯があります。



メディカルコンシェルジュなどがドクターのタスクを一部代行することで、ドクターの負担が軽減された結果、ドクターは患者さんや手術に向き合うなど本来の業務に割ける時間が確実に増えました。そのため、一般的な病院で勤務されていた先生が当院に来られると、非常に感動されますし感謝もされます。患者さんとのコミュニケーションに注力する当院の方針は、外部調査の結果からも好ましい受け止め方をされています。

「患者さんのためにこういう治療がしたい」というスタッフの希望が叶う病院




当院は鹿児島にあるため、鹿児島県出身の医師やスタッフが一番多いのですが、当院に興味をもってくれた県外出身者も働いています。九州以外の人も少なくなく、北海道から来てくれた人もいます。フライトナース先鋭的な取り組みを担う職種の募集に魅力を感じる人もいますし、慢性的な疾患をもった方のリハビリなどを通して患者さんがその人らしい人生を送るために尽力したいという人もいます。

当院のラーニングセンターは、スタッフの学びたいという希望をかなえる取り組みの1つです。先輩から後輩に対する教育も重要ですが、自分を高めようという自主性が必要であり、その姿勢は教育ではなく「学習」にあると捉えています。例えば、BLSという一次救命処置や、ACLSという二次救命処置には医療従事者向けの教育メソッドがあります。しかし、これは決められたコースですから本当に学びたいことが学べないケースもあるでしょう。

また、自分たちでやりたいことを実践していくためには場所や空間、設備といった環境が大切です。だからこそ、当院のラーニングセンターでは、スタッフ達が「こういった技術を学びたい」と考えたときに、それに合わせたコースを作れるように環境と人材を揃えています。ラーニングセンターは、自発的に学びたい人向けの塾に近い意味合いですね。

私は当院を目指してきたドクターに「患者さんのためにこういう治療がしたい」という要望をかなえるために病院があると話しています。日本人自体が多文化になりつつある昨今では、多様性にどこまで対応できるかが課題だと考えています。

新型コロナのクラスター発生後、1週間で新規感染者をゼロに

私は鹿児島県の新型コロナウイルス感染症対策に携わっており、県内の医療機関で発生したクラスターの鎮静化に関与してきました。当院でも新型コロナのクラスターが発生しましたが、その経験があったこともあり、比較的早く対応できました。
クラスターを鎮静化するためには、徹底してゾーニング・コホーティングを行うことと、確実にPCR検査をすすめることが重要です。しかし、前提としてこれらの取り組みを実践できる組織体制が整備されている必要があります。
当院ではCOVID-19用のBCPを作成していたおかげで、通常の診療体制から感染症対応ができる組織体制に1日で変更できました。その体制にのっとり、スタッフもみんな動いてくれましたし、患者さんにもご協力いただけました。

入院患者さんや外来患者さんにはご迷惑をおかけしましたが、結果的にクラスター発生から1週間で新規感染者をゼロにできました。おそらく、日本で一番早くコロナのクラスターを鎮静化できた病院のひとつではないかなと自負しています。
当院は災害拠点病院です。そのため、災害用にBCPを何種類も作っていて、BCPを作成することに抵抗がありませんでした。その上、新型コロナウイルス感染症の感染流行から1年半ほど経過した頃で、対策を考える時間がありました。さらに私が県内のクラスター事例に携わり、知見を持っていたことも、比較的早く対策できた要因でしょう。

地域医療に貢献するため2050年までのビジョンはイメージできている

医療はどうしても人口動態に影響を受けるものです。そういった意味では、将来予測がしやすい業種であるとも言えます。また、病院は30年前後で建て替えをする場合が多く、当院は2040年から2050年ぐらいの間に建て替えをすることになるでしょう。その際に、どのような建て替えが必要かというビジョンをある程度持っておかないと安定した病院経営はできません。
まず、少子高齢化により一部の大都市や沖縄を除いて、一般的に医療のマーケットは縮小傾向にあると考えられます。そのため、縮小していくマーケットに対して、病院が病床を増やしていく時代はおそらく終わりを迎えたと思います。

この情勢下で当院が提供していくべき医療については、2050年ぐらいまでのアウトラインは完成しています。当院では患者さんお一人おひとりに対してより細やかな対応ができるように、患者さんとつながっていく医療を目指している状況です。2022年4月1日に開院する与次郎米盛クリニックでは、いかに患者さんとダイレクトにつながっていけるかという点により注力したいと考えています。今後5年間は、医療機関との連携強化はもちろん、それに加えて、患者さんと直接向き合える機会を増やしていきたいと考えています。

社会医療法人緑泉会 米盛病院 HPリンク:https://www.yonemorihp.jp