「腰椎椎間板ヘルニア」の解説
概要
脊柱を構成する椎体と椎体の間に椎間板は存在しており、腰を曲げたり、伸ばしたり、背骨を動かす時のクッションとしての役割を持っています。
(引用:稲毛一秀, 整形看護 2021)
この椎間板は線維輪という入れ物と髄核という中身(軟骨)でできています。 「ヘルニア」とは本来あるべき部位から組織が「脱出・突出」した状態のことです。 「椎間板ヘルニア」とは線維輪という殻を破って中身(髄核)が外にでた状態のことを言います。(なお、以下では椎間板ヘルニアのことをヘルニアと略します。)
(引用:稲毛一秀, 整形看護 2021 )
特徴
- 約1%の人がヘルニアになる
- 20−40歳が多い
- 男性が多く、女性の2−3倍
- 第4-5腰椎(50%)、第5腰椎-仙骨(40%)が多い(腰の骨は5つあるので腰の下の方がなりやすい)
原因
椎間板への過度なストレスがかかると椎間板は傷みます。 傷んだ椎間板はヘルニアの原因となります。 椎間板にストレスがかかる下記の行為は避けましょう。
- 重たいものを持つ
- 無理な体勢を続ける
(引用:中山栄純ら,Nursing college2007)
同様に体が硬い人は椎間板へのストレスが高くなり、ヘルニアの可能性が高くなります。 生活習慣では「喫煙」は椎間板ヘルニアのリスクとなります。これはタバコの中のニコチンのせいで椎間板が傷んでしまうためです。
症状
主な症状は下記の3つです。
- 腰痛
- 神経痛・坐骨神経痛
- 足の痺れ
線維輪には神経がいっぱいいるのでヘルニアが出ようとするとき、「腰痛」がでます。 そしてヘルニアが神経に当たると「神経痛(下肢痛)」が出現します。
(引用:野川茂, 診断と治療 2018 )
主に上図の斜線部に痛みが出ることが多く、「坐骨神経痛」とも言われます。 また神経の障害がひどい場合は足の力が入りにくくなったり、感覚が鈍くなることがあります。さらにヘルニアが大きい場合は便が漏れたり、おしっこが出にくくなることもあります。
検査・診断
簡単にできる検査はSLRテストと呼ばれるものです。
(引用:久野木順一, Journal of clinical rehabilitation 2020)
膝を伸ばした状態で持ち上げます。正常であれば痛みは出ませんが、ヘルニアの時は持ち上げている途中で持ち上げている側のお尻や足に痛みが出ます。 しっかり検査する場合はMRIを撮影します。 MRIは体の中の柔らかいものを見るのに適しており、椎間板ヘルニアはMRIでよく見えます。
たまにCTやレントゲンではダメですか?と聞かれますが、CTやレントゲンは「骨」を見るのには有用ですが、ヘルニアは見えません。 レントゲン・CTに映る造影剤という薬を神経の通り道に入れるとヘルニアが見れます。造影剤を入れるためには腰に注射をする必要があるため、普通はMRIで診断します。
治療
腰椎椎間板ヘルニアの治療の基本方針は「手術しない」です。 ヘルニアは自分の体が吸収して小さくします。目安として3ヶ月で吸収されます。 この期間を薬や注射でやり過ごし、ヘルニアが小さくなるのを待つというのが主な治療です。 しかし、残念ながら手術が必要な人もいます。 ヘルニアの治療で手術を必要とする場合は約10~30%の人です。 手術となる原因は下記の3つです。
- 痛みが強く、吸収するまでの3ヶ月を待てない
- 足の力が入らない
- おしっこがでない
- 便が漏れる
神経は一度傷むとなかなか治りません。 足の力が入らなかったり、排尿・排便に問題が出た場合、早くヘルニアを取らないと神経がドンドン傷んでしまい、ヘルニアが消えても症状が残ります。 そのため、このような人は「絶対」手術をする方がいいです。 手術では背中側からヘルニアをとる方法が主に行われます。 この時、神経を傷めないよう顕微鏡や内視鏡を使用して手術を行います。
(引用:稲毛一秀, 整形看護 2021)
「最新の治療方法」
最近では椎間板内に注射を行い、ヘルニアを「溶かす」治療があります。 「ヘルニコア」(コンドリアーゼ)という特殊な薬を使う治療方法です。 この薬は椎間板の髄核、ヘルニアを少し溶かすことでヘルニアを小さくします。 実際にヘルニアの方に使用し、効果的です。 が、注意点があります。 それは「一生に一度しか使えない」ことです。 使い所はかかりつけのお医者さんと相談してください。
(引用:平井高志, MB orthop. 2020)
予防
予防としてはやはりストレッチです。 股関節が硬い人、太ももの筋肉が硬い人はヘルニアになりやすいのでジャックナイフ体操と言われる体操がオススメです。さらに背骨の関節を動かすヨガの「猫のポーズ」も予防には効果的です。 また生活習慣ではタバコはやめましょう。喫煙はヘルニアだけでなく、他の病気のリスクも高まるので辞めるべきでしょう。 また「ヘルニアの原因」のところで図示したように重たい荷物を持つ時の姿勢や車の運転時の姿勢は腰に負担がかからないように気をつけましょう。 どうしても長時間同じ姿勢になる、重たいものを持つ場合は腰椎ベルト(簡易コルセット)を着用しましょう。(市販のもので十分です)
※参考文献
- 腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン2021
- 野川茂, 診断と治療 2018
- 久野木順一, Journal of clinical rehabilitation 2020
- 稲毛一秀, 整形看護 2021
- 平井高志, MB orthop. 2020