医療アウトカムを適切に設定し、地域全体で医療を提供できる社会へ ─ 海老名総合病院 病院長 服部智任氏

2021/12/15
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服部 智任(はっとり ともたか)

海老名総合病院 病院長

1985年、滋賀医科大学卒業。日本医科大学付属病院にて初期研修後、同大学泌尿器科学講座助手。1992年より米国ブリガム・アンド・ウィメンズ病院留学。

帰国後に北村山公立病院泌尿器科医長、日本医科大学泌尿器科学講座講師を経て、2000年より仁愛会(現・社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス)。2008年より海老名メディカルプラザ院長、2012年に海老名総合病院副院長、2015年より現職。日本泌尿器科学会泌尿器科専門医。医学博士。

COVID-19をきっかけに、生活者も医療者も、考え方や行動が変わってきました。生活者が医療について考え、自らの意志で行動していくために、何が求められているのか。これからの「選ばれる医療」の基準は、適切なアウトカムにあるのではないでしょうか。


COVID-19 は医療者にも生活者にもさまざまな影響を与えた


COVID-19により生活者に起こった変化は、大きく2つあると思います。


1つは、いわゆる「受診抑制」がかかったことです。データ上では、実際には各診療科にまんべんなく、患者さんは受診されていたように見えます。しかし実際には、プライマリ・ケアを必要とする患者さんが減ったように思います。


その結果、適切なタイミングで受診することが難しくなったという一面もあります。こうした「受診抑制」が患者さんや生活者の方にどのような影響を及ぼすのか、その答えが出るのはまだ先です。


また、COVID-19をきっかけとして、患者さんや生活者の方が「医療」そのものを考えるという機運も生まれました。COVID-19のワクチンについてもそうです。デマ情報もありましたし、若い人たちも含めて「ワクチン接種」の選択についてみなが考え、自分の行動を自分で決める必要性がありました。


一方、医療者側の変化、これも2つあると思います。


1つは、いざという時の患者さんに寄り添った「意思決定」をサポートする難しさが露呈したことです。人はそれぞれの考え方がありますから、平時でもご夫婦で意見が違うことはよくあります。COVID-19により面会制限となっている間は、なおさらです。私たち医療者は、何を基準に、どちらの意志を尊重するのか。もしかするとこれは永遠のテーマかもしれませんが、やはり平時のときから、ご家族の間で「もしもの時はどうするか」を話し合っていただきたいと強く感じました。


そしてもう1つは、今までとは違う視点での「評価」が必要になったのではないか、ということです。今までの医療は、「実施すること」やその「プロセス」を評価してきました。健診受診率がどうか、どのような医療を提供してきたか、という点で評価されてきたように思います。しかし本来ならば「自分たちが提供した医療で、患者さんの健康にどのような影響を与えたか」というアウトカムを評価するべきです。


COVID-19の患者さんをどれだけ受け入れたか、もちろんそれも大事な指標ではありますが、ではその間停止してしまった平時の医療はどうだったのか。生活者の方や患者さんに対するアウトカムは、遅れてきます。もしかすると数年後には「あの時はコロナで受診できなかったから見つからなかった」というがん患者さんが、増えてくる可能性もあります。


これからの医療は医学的アウトカムのみならず社会的アウトカムも重視すべし


COVID-19により、医療への考え方は変わりつつあります。


今後はこれまで以上に、アウトカムを重要視していく必要があるでしょう。問題は、アウトカムの設定と見える化です。例えば健康診断を受けた方のメリットは何か、受けることでどれだけの人が健康になったのか、こうした視点でのアウトカム、医学的のみならず社会的なアウトカムが今後は必要です。


国としてはACPを整えることでアウトカムのゴールを設定しようとしていますが、本当にそれで良いのか、ここをしっかりと議論していく必要があると思います。


※ACPとは
Advance Care Planningの略。将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、本人を主体に、そのご家族や近しい人、医療・ ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援するプロセスのこと


患者さん(生活者の方)の立場でみると、苦しい思いをして治療することが本当にその人の幸せになるのか、という議論も生まれるかもしれません。終末期のみならず、働いている人でも、治療期間に家族や仕事においてどちらの負担をどの程度重くするか、家族の中で「意見の食い違い」は無いのか。あるいは、提供する医療が「医師個人の自己満足」になっていないか、これも持続可能な医療を提供できているかという1つの指標にはなるでしょう。


一方で、医学的エビデンスなどに基づいて設定されている診療報酬で医療は成り立っていますから、これに対するアウトカムも、今後は議論の対象になるのではないでしょうか。


生活者にとっての医療を、もっと身近なものに


現在、患者さんや生活者の方と医療との間にはやはり、見えない壁があると感じます。国や医師会はこれまでも「かかりつけ医」に関する啓発を行ってきましたが、やはりまだまだすべての国民には届いてはいないのかもしれません。


医療はどうしても高齢者がメインとなりますが、COVID-19の状況を鑑みると、もっと若い世代の人たちも医療リテラシーを高めていく必要性があると感じています


例えば、生活者の医療のリテラシーを高めるために、興味のある医療コンテンツを届けること、これも医療の役割だと考えます。生活者として何を誰に相談し、患者としていつどこを受診すれば良いのか。こうした「今、何をどうすれば良いのか」という岐路に立たされた人たちにとっては、医療を受けた際のアウトカムが、医療を選択する基準となっていくでしょう。


私自身、本来の医療は社会の一部分であると考えています。これからの医療は、人が生活する地域全体をひとつの医療の場とみたてて連携していく、全ての機能を1医療機関で持つのではなく、協力して集約させる必要があると考えています。


私の現在の目標は、他地域のお手本となれるような、医療を提供する仕組みをつくっていくことです。当地域での「連携」を強め、人と人、組織と組織、医療機関と医療機関、情報と情報を連携して、地域社会の「つながり」を強めていきたいと考えています。


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