救急医療の現場で求められる「チーム医療」のカタチ ─ 元 東京消防庁 救急部長 野口英一氏
野口英一
元 東京消防庁 救急部長
昭和50年2月 東京消防庁入庁
平成12年8月 臨港消防署長
平成14年4月 警防部警防課長
平成19年4月 救急部長
平成22年3月 東京消防庁退職
平成22年4月 公益財団法人東京救急協会常務理事
平成25年10月 公益財団法人東京防災救急協会副理事長
平成28年3月 公益財団法人東京防災救急協会退職
平成28年4月 戸田中央医科グループ災害対策特別顧問
兼ねて以下の職務に従事
岩手医科大学医学部非常勤講師(災害医学)
東京医科大学救急・災害医学分野客員教授
一般社団法人日本病院会災害医療対策委員会委員
一般社団法人日本救急医療財団倫理委員会委員
働き方改革を進めながらも地域に根ざし、患者さまに対して門戸を広く開いている医療法人 和会 武蔵台病院さま。患者さまだけでなく働く人々の幸せを願い様々な施策を行う当院の病院経営や今後の目指す姿を河野義彦理事長に伺いました。
「ポストコロナ」の今こそ日頃の準備が大切
これから少子化がますます進み人口は減少を続けると思われますが、ポストコロナという時代を迎えて、人口は一極集中から地方へと散らばり始めました。今後も、IT技術の発達とともに「自分が住みたいところに住んで仕事をする」など人々の生き方や生活スタイルはますます多様化していくことでしょう。
その結果、医療においては、人口の多い場所で医療提供されるのが当たり前だった時代は終わり、サービスを受ける側に、サービスを提供体制が合わせる時代に変わっていきます。
ポストコロナによって注目されるようになったニューノーマルにおいても、医療は生活者にとって便利であるべきだと思います。とは言え、医療は24時間365日完璧ではなく、限界があります。私は救急安心センター事業(♯7119)や救急車など「救急医療」の世界を見てきましたが、軽症であっても救急車は多く呼ばれているのが実情です。救急車を利用された方へのアンケートでも分かりますが、やはり誰でも突然のことには慌ててしまい、不安になってしまうものなのです。
それを防ぐためにも、核家族化が進んでいる現代では特に、日頃から情報を収集しておくことと、しかるべき相談先を準備しておくなど、突然の出来事に備えておくことが大事です。生活者が受診行動を考えたとき、事前に診療時間や周囲の医療体制を確認することが当たり前の世界になるでしょう。
医療の現場はシステム活用で「質」を維持する必要がある
では、医療側での変化はどうでしょうか。
ポストコロナにおいて、都心の就労人口は減少しており、それは今後もますます進むはずです。この状況をふまえて医療を提供する側は、時代のニーズに合わせて「やり方を変えていくこと」が求められています。
たとえば、駅から5分の場所にある医療機関でも、駅から患者さんをマイクロバスで送迎するのが当たり前になる、そのような時代になっています。前述のように、ニューノーマルは当然、「より便利な環境」を提供できなければいけないのです。
救急の現場においては、人口減少などにより、その稼働数が減少する傾向が見え始めています。コロナのみならず、高齢者人口の増加は頭打ちとなっていること、時代の流れとしては就労中の安全確保が進み労災が減少したこと、交通の発達により事故は増加したものの「キャンペーンや技術の進歩」により交通事故件数が減少していることがその理由です。
しかしその一方、救急車の稼働量が減っていく中でもこれからの救急の現場に求められるのが、「質」なのです。救急隊が救助の現場でどれだけのことができるのか――。現在はこの「質」に大きなニーズがあると考えられますが、救急隊にできる対応は限られているのが現状です。
そこで必要なのが、チームとして医師と現場が遠隔的につながること。そうすることで医師の指示のもと救急隊が対応できる範囲を広げることができるでしょう。
ここでさらに重要となるのが、救急を要請した患者個人の情報を、医療従事者が搬送前に見ることができるシステムです。アレルギーの有無や基礎疾患、持病などを把握した上で迅速にチーム医療が展開できるようなシステムがあれば、より質の高い救急医療を提供できるようになるでしょう。実際にシステム化が進んでいる地域では、そのような高度な救急医療を提供し始めています。
生活者と医療現場をつなぐ「チーム医療」の仕組みづくりを
アフターコロナにおいて、「医療」というものに対し、生活者の意識は大きく2つの方向で変わってきています。
①自分のライフスタイルの中で、新しい医療をどこまで活用するか
②現在ある医療の中で、何をどのように活用して、自分のメリットとしていくか
これからの医療の在り方を考えるとき、生活者の根底には、上記2つの両方の考えがあると認識することが重要です。
かつての日本の医療は、医師が自分の時間を犠牲にして献身することが、評価されてきました。しかし、このような生活者の意識の変化という背景もあり、医師からトップダウンですべてが回る医療や、医師が頑張ることが良い医療であるという時代は、終わったのです。
人々の生活スタイルが、時間的・広域的にも多様化し始めている中、生活者のニーズにどれだけ応えていけるのか、医療機関として「生き残る手段」を真剣に考える時期に来ています。一人の医師で地域の医療の面倒を見ることはもはや不可能で、その解決のために医療行為を分業するシステムを構築することが、喫緊の課題といっても良いでしょう。
さらにマンパワーの限界を考えると、AIやITの活用はこれからの医療には不可欠です。
「チーム医療」という観点では、自院の中でのチームなのか、自院以外も含めた地域全体におけるチーム医療なのか、さまざまな形でチーム医療というものをシェアする必要があるのではないでしょうか。大きな戦略は国家が描き、最終的な判断は医師と医療者が行うことに変わりは無いですが、地域医療としてのチームのカタチを作っていくのは、その地域の医師会などが中心となる形もあるでしょう。
また、特に救急医療においては、ひとつの地域の中でもさまざまな方面との協力が必要不可欠です。そのための手段として、患者さんも含めてある程度の診療情報を解放してシェアできる仕組み作りが、これからのチーム医療に求められるのではないでしょうか。