
真生会富山病院 耳鼻咽喉科
加齢にともない、皮膚の温度センサーの感度低下、発汗量の減少、のどの渇きを感じにくくなるなどの変化が重なり、暑さに対する体の反応が鈍くなると報告されています。
「高齢者はエアコンをつけたがらない」「暑い部屋にいても平気そうに見える」という話を聞いたことがあるかもしれません。これは性格や好みの問題ではなく、加齢による体の変化が大きく関係しています。ここでは、高齢者が暑さを感じにくくなるメカニズムを解説します。
加齢による温度感覚の変化|皮膚のセンサーが鈍くなる
人の皮膚には温度を感じるセンサー(温度受容体)があり、暑さや寒さの情報を脳に伝えています。加齢にともないこのセンサーの感度が低下し、同じ室温でも若い世代より暑さを感じにくくなることが報告されています[Gerontol Geriatr Med. 2020;6:2333721420932432.]。
研究では、高齢者は室温が30℃を超えていても「快適」と感じるケースがあり、エアコンの必要性を感じないまま危険な室温のなかで過ごしてしまうことが指摘されています。
発汗機能の低下|汗をかきにくくなる
体温が上がると、脳からの指令で汗が分泌され、汗が蒸発するときに体の熱を奪うことで体温が下がります。この「発汗による冷却」は体温調節のもっとも重要な手段です。
加齢にともない、以下のような発汗機能の変化が起こるとされています。
- 汗腺(かんせん=汗を出す組織)の数や機能が低下する
- 汗をかき始めるまでの時間が長くなる(反応の遅れ)
- 1回あたりの発汗量が減少する
- 汗の蒸発効率が下がり、体温が下がりにくくなる
これらの変化により、高齢者は暑い環境でも十分に汗をかけず、体に熱がこもりやすい状態になります。
のどの渇きを感じにくくなる|脱水のリスク
加齢にともない、体内の水分量が減少することに加え、のどの渇きを感じるセンサーの感度も低下します。その結果、体が水分を必要としている状態でも「のどが渇いた」と自覚しにくくなり、水分摂取量が不足しやすくなります。
脱水が進むと血液の量が減り、皮膚の血流が低下することで体から熱を逃がす機能がさらに落ちます。「暑さを感じにくい」→「エアコンを使わない」→「汗をかきにくい」→「のどが渇かない」→「水分を摂らない」→「脱水が進む」という悪循環に陥るリスクがあります[N Engl J Med. 2019;380(25):2449-59.]。
皮膚の血流調整の変化|体の表面から熱を逃がしにくくなる
暑いとき、体は皮膚の血管を広げて血流を増やし、体の表面から熱を逃がします。加齢にともないこの血管を広げる反応が弱まることが報告されており、体の深部にこもった熱を皮膚から放出する効率が下がります。
これらの変化は個人差が大きく、日頃から運動習慣がある方は機能の低下が緩やかである傾向が報告されています。
高齢者の暑さ対策のうえで日常生活の工夫として検討が推奨される点
特に重要とされるのは、「体感に頼らず、数値や時間で管理する仕組みを取り入れること」と考えられています。

ここだけは伝えたいメッセージ
高齢者が暑さを感じにくいのは「我慢強い」からではなく、体のセンサーが加齢によって変化しているためです。「暑く感じない」ことと「暑くない」ことは別であり、室温が高ければ体への負担は確実にかかっています。
温湿度計やエアコンの自動設定、時間を決めた水分補給など「体感に頼らない仕組み」を取り入れることが大切です。ご家族の方は「暑くないの?」ではなく「温度計が28℃超えてるからエアコンつけようね」のように、数値を使った声かけが効果的です。いつもと様子が違うと感じた場合は、速やかに医療機関への受診をご検討ください。
まとめ:高齢者が暑さを感じにくくなるメカニズムと対策
- 温度感覚の低下:皮膚のセンサーの感度が落ち、30℃超でも暑さを感じにくい
- 発汗量の減少:汗腺の機能低下で汗をかきにくく、体に熱がこもりやすい
- 渇きの感じにくさ:脱水が進んでも渇きを自覚しにくく、水分摂取が不足しやすい
- 血流調整の低下:皮膚の血管拡張が弱まり、体の表面から熱を逃がしにくい
- 対策の基本:体感に頼らず、温湿度計・エアコン・時間管理で暑さを管理する
- 家族の役割:数値を使った声かけと、見守りの仕組みづくりが有効
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(参考文献)
Millyard A, Layden JD, Sheridan HF, et al. Gerontol Geriatr Med. 2020;6:2333721420932432.
Epstein Y, Yanovich R. N Engl J Med. 2019;380(25):2449-59.
環境省. 熱中症環境保健マニュアル2022.


