

監修者おだかクリニック 循環器内科 副院長
夏は体を冷やすために血液が皮膚に多く送られ、心臓がより速く拍動する必要があるためです。暑熱順化を進めると心拍数の上昇は抑えられます。
夏に心拍数が高くなる理由|心血管ドリフトの仕組み
暑い環境で運動すると、体は深部の熱を皮膚から逃がすために、皮膚への血流を増やします。その結果、心臓に戻る血液の量が減り、1回の拍動で送り出せる血液の量(一回拍出量)が低下します。体は必要な酸素を届けるために心拍数を上げて補おうとするため、同じペースで走っていても心拍数が高くなるのです[Compr Physiol. 2011;1(4):1883-1928.]。
この現象は「心血管ドリフト」と呼ばれます。35度の暑熱環境で中程度の強度の自転車運動を行った研究では、運動開始15分から45分にかけて心拍数が約12%上昇し、一回拍出量が約16%低下したことが報告されています。さらに、この心血管ドリフトの程度に応じてVO2max(最大酸素摂取量=体が取り込める酸素の上限値)も約19%低下していました[Med Sci Sports Exerc. 2005;37(2):248-255.]。つまり、夏の暑い環境では同じ運動でも体への負担が大きくなり、持久力が落ちやすくなるといえます。
暑熱順化とは|体を暑さに慣らす仕組み
暑熱順化(しょねつじゅんか)とは、暑い環境に繰り返し体をさらすことで、体温調節の働きが改善する適応のことです。8日から12日ほど暑い環境で運動を続けると、心拍数の低下、血液中の水分量(循環血漿量)の増加、発汗能力の向上といった変化が起こることが報告されています[Int J Sports Med. 1998;19(Suppl 2):S154-156.]。
暑熱順化が進むと、心血管系にも大きな変化が生じます。血液中の水分量が増えることで心臓に戻る血液が十分に確保され、一回拍出量が維持されやすくなります。その結果、同じ運動をしたときの心拍数の上昇が抑えられるのです。また、発汗の開始が早まり汗の量も増えるため、体温の上昇そのものも抑えられるようになります[Auton Neurosci. 2016;196:52-62.]。こうした適応により、暑い環境でも体への負担が軽減されると考えられています。
暑熱順化がVO2maxに与える影響
暑熱順化によって得られる心血管系の適応は、暑い環境での有酸素運動のパフォーマンス向上にもつながります。体温調節が改善されることで、皮膚への血流に割かれる負担が減り、筋肉に送られる酸素の量が保たれやすくなります。その結果、暑い環境でのVO2maxの低下が軽減されることが示されています[Scand J Med Sci Sports. 2015;25(Suppl 1):20-38.]。
一方で、暑熱環境下では皮膚の温度上昇が有酸素能力を低下させ、体が感じる運動のきつさ(主観的運動強度)を増大させることも報告されています。暑熱順化はこの影響を和らげる適応として機能し、暑い環境でも涼しいときに近いパフォーマンスを発揮しやすくなると考えられています[Compr Physiol. 2011;1(4):1883-1928.]。
暑熱順化を安全に進めるための実践ポイント
暑熱順化を進めるには、暑い環境で運動を繰り返す必要がありますが、無理は禁物です。最初は軽い運動から始め、徐々に運動時間や強度を上げていくことが大切です。順化に必要な期間は8日から12日程度とされていますが、この適応は体温が繰り返し上昇することで引き起こされるため、毎日少しずつ暑さにさらすことがポイントです[Int J Sports Med. 1998;19(Suppl 2):S154-156.]。
暑熱順化の過程では、発汗による水分の喪失が増えます。順化の効果を安全に得るためには、運動前後や運動中の水分補給をこまめに行い、体調に異変を感じたらすぐに運動を中止することが重要です。
暑熱順化を安全に進めるうえで日常生活の工夫として検討が推奨される点

ここだけは伝えたいメッセージ
夏に同じ運動でも心拍数が高くなるのは、体が暑さに対応するための自然な反応です。暑熱順化を少しずつ進めれば、体は暑さに適応し、心拍数の上昇も抑えられるようになります。あせらず段階的に取り組むことが大切です。
ただし、めまいや強い疲労感など体調の異変を感じた場合は無理をせず、運動を中止して涼しい場所で休みましょう。体調に不安がある場合は、医療機関への相談をご検討ください。
まとめ:夏の心拍数上昇と暑熱順化の関係
- 心血管ドリフト: 暑い環境では皮膚への血流が増え、一回拍出量が低下するため心拍数が上昇する
- VO2maxへの影響: 心血管ドリフトに伴い、暑熱環境ではVO2max(体が取り込める酸素の上限値)が低下しやすくなる
- 暑熱順化の効果: 8〜12日ほど暑い環境で運動を続けると、血液量の増加や発汗機能の改善により心拍数の上昇が抑えられる
- 実践のポイント: 短時間・低強度から段階的に始め、こまめな水分補給と体調管理を心がける
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(参考文献)
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Périard JD, Racinais S, Sawka MN. Adaptations and mechanisms of human heat acclimation: Applications for competitive athletes and sports. Scand J Med Sci Sports. 2015;25(Suppl 1):20-38.
Périard JD, Travers GJS, Racinais S, Sawka MN. Cardiovascular adaptations supporting human exercise-heat acclimation. Auton Neurosci. 2016;196:52-62.
Nielsen B. Heat acclimation--mechanisms of adaptation to exercise in the heat. Int J Sports Med. 1998;19(Suppl 2):S154-156.
Sawka MN, Leon LR, Montain SJ, Sonna LA. Integrated physiological mechanisms of exercise performance, adaptation, and maladaptation to heat stress. Compr Physiol. 2011;1(4):1883-1928.








