

監修者富士在宅診療所 一般内科
腸内細菌は体温調節にかかわる自律神経や免疫の働きに影響し、腸内環境を整えることが夏バテ予防につながる可能性があります。
腸内細菌と体温調節の関係|夏バテしにくい体の仕組み
夏バテとは、高温多湿の環境が長く続くことで起こる慢性的な体調不良のことです。だるさや食欲の低下、疲れやすさなどが代表的な症状として知られています。なお、意識障害や極端な高体温をともなう熱中症・熱射病とは異なる状態であり、この記事では夏バテの予防・セルフケアに焦点を当てています。
夏バテを防ぐうえで注目されているのが、腸内環境と体温調節の関係です。腸内細菌は、食物繊維などを発酵させるときに熱を生み出します。さらに、免疫や食欲の調節を通じて体温調節に関与していることが示唆されています[mSystems. 2021;6(5):e00707-21.]。この研究では、腸内環境と体温調節は一方向ではなく双方向に影響し合うことが報告されており、腸内環境を良好に保つことが、暑さに対する体の適応力を支える土台になる可能性があります。
腸脳相関と自律神経|腸と脳のつながりが体温調節を支える理由
私たちの腸と脳は、神経やホルモン、免疫の経路を通じて情報をやり取りしていると考えられています。この双方向のつながりは「腸脳相関(ちょうのうそうかん)」と呼ばれています[J Neurosci. 2014;34(46):15490-6.]。
夏バテの主な原因のひとつは、暑さによる自律神経の乱れです。自律神経とは、体温調節や消化、発汗などを自動的にコントロールする神経のことで、交感神経と副交感神経のバランスで成り立っています。腸脳相関を介して腸内環境が脳に影響を与えることから、腸の状態が自律神経のバランスにも作用する可能性が指摘されています[J Neurosci. 2014;34(46):15490-6.]。こうした知見は、腸内環境を整えることが自律神経の安定を助け、夏バテしにくい体づくりにつながる可能性を示しています。
短鎖脂肪酸の働き|腸内細菌がつくる物質と自律神経の関係
腸内細菌が食物繊維などを分解するときに生み出す「短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)」という物質が、自律神経の働きに影響を及ぼすことが報告されています。短鎖脂肪酸は、迷走神経(めいそうしんけい=脳と内臓をつなぐ神経)や血液を介して、交感神経と副交感神経の両方の活動を調節している可能性があります[Neurosci Bull. 2020;36(1):91-95.]。
夏バテ予防の観点では、短鎖脂肪酸を介して自律神経のバランスが保たれることで、体温調節や発汗がスムーズに行われやすくなると期待されます。短鎖脂肪酸は、野菜や果物、豆類、海藻類などに含まれる食物繊維を腸内細菌が分解することで産生されます。そのため、日々の食事で食物繊維を十分にとることが腸内環境を整えるうえで大切です。
腸のバリア機能と夏バテ予防|プロバイオティクスで腸を守る
夏の暑さは体にとってストレスのひとつです。腸内細菌はストレスに対する体の反応にも影響を及ぼすことが報告されています[腸内細菌学雑誌. 2017;31(1):23-32.]。この知見は、暑さというストレスに対しても腸内環境が体の適応力に関与している可能性を示しています。
さらに、腸の内側を覆う粘膜のバリア機能を保つことも重要です。複数の研究を統合した分析では、プロバイオティクス(体に有益な微生物を含む食品やサプリメント)が腸のバリア機能を改善し、炎症の指標を低下させたと報告されています[Front Immunol. 2023;14:1143548.]。腸のバリア機能が保たれることで体全体の免疫バランスが安定し、夏場の体調維持にもよい影響が期待されます。
こうしたことから、食物繊維を含む食品で短鎖脂肪酸の産生を促しつつ、プロバイオティクスを含む食品で腸のバリア機能を支えるという両面からのアプローチが、腸内環境を整え、夏バテを予防するうえで有効と考えられます。
腸内環境を整えるうえで日常生活の工夫として検討が推奨される点

特に重要とされるのは、食物繊維とプロバイオティクスの両方を毎日の食事に無理なく取り入れ、継続することと考えられています。
ここだけは伝えたいメッセージ
腸内環境を整えることは、体温調節や自律神経のバランスを支え、夏バテしにくい体づくりにつながる可能性があります。毎日の食事で食物繊維や発酵食品を意識して取り入れることが、暑い季節を快適に過ごすための第一歩です。
ただし、だるさや食欲不振が長く続く場合や、日常生活に支障が出るほどの体調不良がある場合は、医療機関への相談をご検討ください。ヨーグルトや乳酸菌飲料などのプロバイオティクスを含む食品は医薬品ではないため、効果を保証するものではなく、効果には個人差があります。
まとめ:腸内環境と夏バテ予防のポイント
- 腸内環境と体温調節の関係: 腸内細菌は発酵による産熱や免疫・食欲の調節を通じて体温調節に関与しており、腸内環境と体温調節は双方向に影響し合っている
- 腸脳相関の役割: 腸と脳は神経やホルモン、免疫の経路でつながっており、腸内環境が自律神経のバランスに影響する可能性がある
- 短鎖脂肪酸の働き: 腸内細菌が食物繊維から産生する短鎖脂肪酸は、迷走神経や血液を介して自律神経の調節に関与している可能性がある
- ストレスへの適応: 腸内細菌はストレスに対する体の反応に影響し、暑さに対する適応力にも関与する可能性がある
- 腸のバリア機能: プロバイオティクスは腸のバリア機能を改善し、体全体の免疫バランスの安定に寄与することが報告されている
- 食事での対策: 食物繊維を含む食品とプロバイオティクスを含む食品を組み合わせて日常的に取り入れることが、腸内環境を整え夏バテ予防につながると考えられる
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(参考文献)
Huus KE, Ley RE. Blowing Hot and Cold: Body Temperature and the Microbiome. mSystems. 2021;6(5):e00707-21.
Mayer EA, Knight R, Mazmanian SK, Cryan JF, Tillisch K. Gut microbes and the brain: paradigm shift in neuroscience. J Neurosci. 2014;34(46):15490-6.
Bruning J, Chapp A, Kaurala GA, Wang R, Techtmann S, Chen QH. Gut Microbiota and Short Chain Fatty Acids: Influence on the Autonomic Nervous System. Neurosci Bull. 2020;36(1):91-95.
Zheng Y, Zhang Z, Tang P, et al. Probiotics fortify intestinal barrier function: a systematic review and meta-analysis of randomized trials. Front Immunol. 2023;14:1143548.
須藤信行. 脳機能と腸内細菌叢. 腸内細菌学雑誌. 2017;31(1):23-32.
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