後腹膜線維症
監修医師秋元 隆宏東京大学大学院医学系研究科 泌尿器外科学 泌尿器科 泌尿器科
- 更新日
- 2026/05/28
- 公開日
- 2020/09/03
後腹膜線維症とは
体の中の後腹膜という場所に生じる「できもの」が大きくなることで、圧迫症状を起こす病気です。原因は多岐に渡ります。免疫の異常が関連しているものが含まれます。
「後腹膜線維症」とはどのような病気ですか?
後腹膜に慢性的な炎症性線維化が生じ、尿管などを圧迫する稀な疾患です。
後腹膜線維症は、後腹膜と呼ばれる体内で背中側に位置する領域に炎症性線維化(炎症が起こった結果、組織が線維成分に置き換わり固くなること)が起こり、尿管や下大静脈など後腹膜にある臓器を巻き込んで圧迫や閉塞を引き起こす稀な疾患です。特発性(原因不明)が全体の約2/3を占め、残りは薬剤(麦角アルカロイド、ドパミン作動薬など)、悪性腫瘍、感染、放射線治療、手術後などが原因とされる続発性(または二次性)と呼ばれます。
腰背部痛、倦怠感、体重減少といった症状がみられ、尿管閉塞が起こると水腎症(尿路の通過障害により尿が逆流し腎臓に尿が溜まること)や腎機能低下をきたすことが多いです。診断はCTやMRIによる画像評価が中心で、治療はステロイド薬による炎症抑制が第一選択となります。適切に治療すれば予後は比較的良好ですが、放置すると腎不全や下肢浮腫など重篤な合併症を招くため、早期診断と治療が重要です。
後腹膜線維症の症状
後腹膜線維症には初期症状はありますか?
初期は腰痛や軽度の全身倦怠感など非特異的な症状が多いです。
後腹膜線維症の初期症状は非特異的であり、病気を特徴づける明確な症状はありません。最も多いのは鈍い腰背部痛や側腹部痛で、持続的かつ動作によって変化しないのが特徴です。さらに、全身の倦怠感、微熱、体重減少、食欲低下、筋肉痛など、炎症性疾患に共通する症状がみられることもあります。
これらは慢性的に進行するため「年齢による腰痛」や「疲れ」と誤解されやすく、診断の遅れにつながる要因となります。病変が進行して尿管を巻き込むと尿量低下や浮腫が出現し、腎不全に至ることもありますが、初期の段階では腎障害がまだ目立たない場合も多いです。
このように初期症状はあいまいですが、「長く続く腰背部痛や全身のだるさ」がある場合には注意が必要で、早期に受診して画像検査を受けることが望ましいです。
後腹膜線維症ではどのような症状がありますか?
後腹膜線維症の主な症状は腰痛、排尿障害・尿量減少、浮腫、発熱などです。
後腹膜線維症では、腰や背中の痛み、尿の出にくさ、足のむくみなどが起こります。最も一般的な症状は鈍い腰背部痛や側腹部痛であり、線維性組織によって腰背部の臓器が圧迫されることにより生じます。尿管(腎臓から膀胱へ至る尿の通り道)が線維性組織に取り込まれて圧迫されると水腎症(逆流した尿が腎臓に溜まる状態)を生じ、進行すれば尿量低下や腎不全を引き起こします。
また、後腹膜にある下大静脈やリンパ管が圧迫されると、下肢の浮腫や深部静脈血栓症(血液の流れが滞ることによって血管内に血栓と呼ばれる血液の塊ができること)が生じます。炎症に伴う全身的な症状としては、倦怠感、体重減少、発熱、食欲不振、筋肉痛などがみられます。
後腹膜線維症の原因
後腹膜線維症の原因は何がありますか?
原因には特発性と続発性があり、薬剤・腫瘍・感染症など多岐にわたります。
後腹膜線維症は、特発性と続発性(二次性)の2つのタイプに大きく分かれます。特発性は原因がはっきりしないタイプで、全体の約3分の2を占めます。これは、体の免疫が自分の組織を攻撃してしまう「自己免疫疾患」の一つと考えられており、遺伝的な要因も関係している可能性があります。また、アスベスト(昔の建材などに使われた有害な物質)に長くさらされることも、リスクを高めるといわれています。
続発性は、何らかの原因があって起こるタイプです。例えば、特定の薬(麦角アルカロイド、ドパミン作動薬、β遮断薬、ヒドララジンなど)、がん(前立腺がん、リンパ腫、肉腫など)、感染症(結核、放線菌症)、放射線治療のあと、腹部の手術やけがのあと、またはまれな病気(Erdheim-Chester病など)が原因になることがあります。つまり後腹膜線維症は、体の免疫の異常や、薬・病気・けがなどのさまざまな要因が関係して起こる病気です。
後腹膜線維症の検査・診断
後腹膜線維症のセルフチェックはできますか?
解説欄のチェック項目をご確認いただくか、症状検索エンジン「ユビー」で質問に答えるだけでセルフチェックもできます。
後腹膜線維症の症状は非特異的ですが、以下のような症状が出ることがあります。
また、症状検索エンジン「ユビー」で質問に沿って回答を進めるだけで、後腹膜線維症の可能性をセルフチェックできます。ぜひご活用ください。
後腹膜線維症はどのように診断されますか?
血液検査とCTやMRI等の画像検査、必要に応じて組織生検で診断します。
後腹膜線維症の診断は、まず臨床症状と血液検査から始まります。血液検査では炎症反応(CRP、赤沈)の上昇や腎機能障害(クレアチニン上昇)がみられることが多く、IgG4関連疾患が疑われる場合は血清IgG4値の測定も有用です。次に、造影CTやMRIで腹部大動脈周囲に線維性の軟部組織塊が存在し、尿管や血管を巻き込んでいる像が典型的です。
画像検査は診断だけでなく、腎盂拡張や尿管閉塞の程度を評価するうえでも重要です。ただし、悪性腫瘍による後腹膜腫瘤との区別が必要なため、診断が不確実な場合には画像ガイド下生検を行い、組織学的に炎症性線維化であること(がん細胞による悪性所見などがないこと)を確認します。診断にあたっては、腫瘍や感染などの二次性原因を除外し、特発性後腹膜線維症と確定することが大切です。
後腹膜線維症の治療・対処法
後腹膜線維症への対処法は?
悪性疾患との鑑別も重要となるため、まずは医療機関を受診してください。
後腹膜線維症の場合、主にどのような治療をしますか?
第一選択はステロイド薬であり、免疫抑制剤を使用することや外科的処置・手術を行うこともあります。
後腹膜線維症の治療は主に薬物療法であり、特発性の場合はまずステロイド薬による治療を行います。ステロイド薬により炎症抑制と線維組織の縮小が期待でき、症状改善や尿管閉塞解除に有効ですが、長期投与が必要となる例もあります。ステロイド薬の効果が乏しい例や再発例では、アザチオプリンやシクロホスファミド、メトトレキサート、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチルなどの免疫抑制薬が有効とされます。
また、タモキシフェンというホルモン剤も有効な例があります。尿管閉塞に対しては一時的に尿管ステント留置(腎臓から膀胱に至る尿の通り道にチューブを留置する処置)や腎瘻造設(背中から腎臓に直接チューブを留置する処置)といった尿を体外に排出させる処置を行い、必要に応じて外科的尿管剥離術が実施されます。ただし、外科的処置だけでは再発率が高いため、薬物療法との併用が推奨されます。続発性の場合は原因に応じて原因薬剤中止、抗菌薬治療、悪性腫瘍の治療など原因を除去・改善することが基本となります。
受診の目安・何科を受診するべきか
後腹膜線維症が疑われる場合、病院を受診する目安はありますか?
腰背部痛や排尿障害・尿量減少、下肢の浮腫などを認める場合は、早期に受診を検討すべきです。
後腹膜線維症によって尿管が圧迫されると、腎機能低下や排尿障害を引き起こす可能性があるため、早期発見と治療開始が重要です。特に原因不明の腰背部痛や下腹部痛が続く場合、排尿困難・頻尿・血尿などの症状が出現する場合、あるいは下肢の浮腫やしびれなど下大静脈圧迫による症状が見られる場合は注意が必要です。
また、健診や他疾患の画像検査で後腹膜の腫瘤様病変や尿管の異常を指摘された場合や、血液検査で腎機能低下(クレアチニン上昇)が見られる場合も、速やかに泌尿器科や腎臓内科などの専門医を受診する目安となります。進行すると腎障害が改善しない危険があるため、症状が軽微であっても放置せず、専門医での評価を早めに受けることが望ましいです。
後腹膜線維症が疑われる場合、何科を受診したらよいですか?
後腹膜線維症が疑われる場合、腎臓内科や泌尿器科を受診してください。
後腹膜線維症において、尿管閉塞による水腎症や腎不全を伴う場合には、尿管ステントや腎瘻造設などの処置が必要になることが多いため、泌尿器科での対応が適切です。同時に、炎症や自己免疫性の病態が基盤にあることから、腎臓内科やリウマチ・膠原病科が関与することも重要です。
特発性の場合は全身性自己免疫疾患の一表現型と考えられるため、ステロイドや免疫抑制薬による治療を内科的に調整する必要があります。したがって、後腹膜線維症が疑われる場合には、腎臓内科などの内科と泌尿器科で連携がとれることが最も望ましい診療体制です。また、続発性が疑われる場合には、腫瘍科、感染症科、放射線科などとの連携が必要になることもあります。
後腹膜線維症の専門医がいる近くの病院はありますか?
後腹膜線維症の専門医がいる病院を見る後腹膜線維症の薬
後腹膜線維症は主にどのような薬で治療しますか?副作用はありますか?
ステロイド薬を中心に、免疫抑制薬等を併用することがあります。薬剤によって様々な副作用が起こりえます。
後腹膜線維症の治療は、まず高用量のステロイド薬が第一選択とされ、炎症や線維化の進行を抑える目的で使用されます。奏効率は高く有効ですが、長期投与により感染リスク増加、骨粗鬆症、糖代謝異常、体重増加、皮膚変化などの副作用が問題となります。そのため漸減が推奨され、再燃時には再投与が必要となることもあります。
ステロイドが無効または使用困難な場合には、アザチオプリンやシクロホスファミド、メトトレキサート、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチルなどの免疫抑制薬や、タモキシフェンというホルモン剤が代替療法として併用されます。免疫抑制薬は感染症や肝障害、血球減少のリスクがあり、タモキシフェンでは血栓症やホルモン関連の副作用が報告されています。したがって、薬剤選択は有効性と副作用リスクを慎重に考慮して行われます。
後腹膜線維症の経過・予後
後腹膜線維症の場合、余命はどのくらいですか?
適切に治療すれば生命予後は良好で、余命は一般人口と大きく変わりません。
後腹膜線維症は進行すると尿路閉塞や腎不全を引き起こしますが、早期に診断されてステロイドや免疫抑制薬で治療され、尿路閉塞が解除されれば、長期的な生命予後は良好であると報告されています。実際、特発性後腹膜線維症患者の生存率は、一般人口と大差がないとされています。ただし、薬物療法に反応しない例や再発を繰り返す例では慢性腎不全に至り、透析が必要になることもあります。
さらに、悪性腫瘍や動脈瘤に伴う二次性(続発性)後腹膜線維症の場合は、基礎疾患の影響を強く受けるため、生命予後はその疾患に依存します。したがって、『後腹膜線維症そのものは直ちに余命を縮める病気ではないものの、腎不全の合併や基礎疾患の性質によって生命予後は左右される』と理解されています。専門医でのフォローアップと適切な治療を継続することで、長期にわたって生活の質を保ちながら過ごせることが期待されます。
対処法・セルフケア
後腹膜線維症の場合、日常生活で気を付けることはありますか?
腎機能悪化を防ぐため水分摂取を心がけ、禁煙・感染予防を行い、定期受診をしましょう。
後腹膜線維症は進行すると尿路閉塞や腎不全を来すため、日常生活では腎機能を守ることが最も重要です。まず、十分な水分摂取を心がけて尿路の通過を助け、脱水を避けることが推奨されます。また、喫煙は後腹膜線維症のリスク因子であり再燃を促す可能性があるため、禁煙が強く勧められます。
ステロイドや免疫抑制薬を内服している場合は、感染予防(うがい・手洗い・人混み回避)を徹底することが必要です。さらに、糖尿病や高血圧などの生活習慣病がある場合は、腎臓への負担を減らすために食生活の改善や適度な運動も有用です。薬の副作用管理や病勢の再評価のために、定期的な血液検査や画像検査、専門医の診察を欠かさないことも大切です。日常生活でのこうした配慮が、再発や腎機能障害の進行を防ぐ鍵となります。
後腹膜線維症で薬が効かない場合、どうしたらよいですか?
薬が効かない場合は尿管ステント留置や外科的手術で尿路閉塞を解除することがあります。
後腹膜線維症で薬物が効かない場合には、外科的治療が検討されます。代表的なものは尿管ステント(腎臓から膀胱へ至る尿の通り道にチューブを留置する処置)や腎瘻(背中から腎臓に直接チューブを留置する処置)によって尿を体外に排出させる方法で、腎機能の悪化を防止することが目的となります。
その後、外科的尿管剥離術と呼ばれる手術を行い、線維化による圧迫を解除します。ただし、手術のみでは再発を防止することは難しいため、通常は薬物療法と組み合わせて行います。続発性の場合は原因の除去(原因薬剤の中止、悪性腫瘍の治療、感染症の治療)を同時に行います。治療方針は腎機能の状態や病態の進行度、合併症により異なるため、泌尿器科での専門的判断を行います。
後腹膜線維症に関連するその他の質問
後腹膜線維症は治る病気ですか?
後腹膜線維症は完治は難しいですが、適切な治療により寛解・長期管理が可能です。
後腹膜線維症は、一度形成された線維化組織を完全に消失させることは困難であり、「根治」という意味での完治は難しい病気です。しかし、ステロイド薬や免疫抑制薬による薬物療法によって炎症を抑え、病状を安定化させることは可能です。適切に治療を行えば、尿路閉塞や腎機能障害といった重篤な合併症を防ぎ、長期寛解(病状が落ち着いた状態)を維持できる例も少なくありません。
また、薬が効かない場合でも尿管ステントや外科的手術によって尿路を確保することで腎不全への進行を防げます。再発率は20~30%程度とされるため、治療中止後も定期的な画像検査・血液検査を続ける必要があります。したがって、後腹膜線維症は「治る」というよりも、再発を予防しながら長期にわたり管理し、生活の質を保つことができる病気であると言えます。
後腹膜線維症は難病指定されていますか?
IgG4関連疾患に伴う後腹膜線維症は「指定難病」に認定されています。
後腹膜線維症はすべてが難病指定されているわけではありません。日本では、IgG4関連疾患に伴う後腹膜線維症のみが指定難病に認定されています。IgG4関連疾患は自己免疫的な線維化を起こす全身性疾患群で、膵炎や胆管炎、涙腺・唾液腺の腫大などを合併することがあります。
その一病態として後腹膜線維症が生じた場合、難病に該当し、医療費助成を受けることができます。一方、「特発性後腹膜線維症」や薬剤、腫瘍、感染に続発する後腹膜線維症は、日本の制度上では難病指定の対象外です。したがって、後腹膜線維症と診断された場合には、IgG4関連疾患の有無を確認することが、治療方針だけでなく医療制度上も重要となります。
後腹膜線維症について、医師からのよくある質問
医師からよくある質問はありますか?
「後腹膜線維症」について医師からよくある質問の例として次のようなものがあります。
- お腹を押したときに激しい痛みを感じますか?
- お腹にガスがたまったり、張った感じがしていますか?
- 吐き気や嘔吐がありますか?
- 食欲がなく、食事量が減っていると感じますか?
- 最近、白目や体の皮ふが黄色くなっていると感じますか?
後腹膜線維症に関連する病気・症状
この記事の監修医師
秋元 隆宏 先生
東京大学大学院医学系研究科 泌尿器外科学 泌尿器科 泌尿器科
【経歴】 東北大学医学部医学科 卒業 三井記念病院 臨床研修 三井記念病院 泌尿器科 東京大学医学部付属病院 泌尿器科・男性科 自治医科大学 腎泌尿器外科学講座 泌尿器科学部門 病院助教 琉球大学医学部システム生理学講座 東京大学大学院医学系研究科 泌尿器外科学
- 更新日
- 2026/05/28
- 公開日
- 2020/09/03