糖尿病網膜症
監修医師山口 知暁東北大学病院 眼科
- 更新日
- 2026/10/27
- 公開日
- 2021/08/12
糖尿病網膜症とは
糖尿病の三大合併症のひとつである糖尿病網膜症は、長い期間、血糖値の高い状態が続くと、網膜にはりめぐらされている細かい血管が傷ついたり、つまったりして起きる病気です。その結果、放置しておくと新しい血管が生え、そこから出血することで、急に視力が低下したり、網膜剥離を起こして失明にいたることがあります。
「糖尿病網膜症」とはどのような病気ですか?
糖尿病が原因で目の網膜という構造の部分に障害が生じ、視力や視野に支障が出る病気です。
糖尿病網膜症とは、糖尿病が原因で毛細血管や網膜・黄斑部と呼ばれる視力に関わる部分に障害が生じる病気です。初期や血糖値の状態が良い場合には、症状が出ないことが多いです。血糖値が高い状態が長期間続くと、毛細血管の構造異常、網膜や黄斑部に障害が生じます。
黄斑部にむくみが出る状態(糖尿病黄斑浮腫)になると、歪みの自覚や焦点が合わない、視力の低下を自覚します。進行すると硝子体出血と呼ばれる目の中の出血や、網膜剥離などの重篤な合併症を引き起こすことがあります。
糖尿病網膜症の症状
糖尿病網膜症には初期症状はありますか?
初期は自覚症状がないことが多いので、糖尿病の場合は定期的に眼科で診察を受けることが推奨されています。
糖尿病網膜症の初期の場合、自覚症状がないことが多いです。初期の段階でも黄斑浮腫が出る場合があり、歪み、焦点が合わない、視力低下などの症状が見られることがあります。進行すると、ゴミのようなものが見える飛蚊症の症状が悪化したり、視力低下が著しくなったりすることがあります。
初期や血糖コントロールが良い場合でも、出血が増えてこないか、血管閉塞が起きていないかなどの定期的な眼底検査はとても重要になります。
糖尿病網膜症ではどのような症状がありますか?
進行すると、視力低下や視野障害、かすみ目、視野の中にゴミが見えるなどの症状が現れます。
糖尿病網膜症は、初期には症状が出ないことがあります。自覚がないまま血糖値が高い状態が続くと、気付かないうちに進行してしまいます。また、黄斑浮腫という歪みや視力低下の原因になるような合併症が出ることがあります。進行すると治療がスムーズに進まないことがあります。
さらに、目の中で出血が起こる(硝子体出血)ことがあり、それに伴い視力低下やゴミが見える(飛蚊症)場合があります。
糖尿病網膜症の原因
糖尿病網膜症の原因は何がありますか?
糖尿病で高血糖状態が続くことで、網膜という構造に障害が生じてしまう病気です。
糖尿病による高血糖状態が長期間続くと、毛細血管や網膜に障害が生じることがあります。糖尿病に加え、高血圧・心疾患・腎機能障害が加わると、網膜出血や血管閉塞などのリスクが増えてしまいます。糖尿病の指摘をされたら、定期的な血糖値測定や内科の先生から処方されるお薬をきちんと内服しましょう。
糖尿病網膜症は、進行するまで視力に影響が出ないことがあります。そのため、内科での血糖コントロールと定期的な眼底検査は非常に重要になります。
糖尿病網膜症の検査・診断
糖尿病網膜症のセルフチェックはできますか?
解説欄のチェック項目をご確認いただくか、症状検索エンジン「ユビー」で質問に答えるだけでセルフチェックもできます。
糖尿病網膜症になりやすい人の特徴に、以下が挙げられます。
糖尿病網膜症の目の検査にはどのようなものがありますか?
眼底検査を基本に、OCT(光干渉断層計)や蛍光眼底造影検査などが用いられます。自覚症状がなくても年1~2回の定期検査が重要とされています。
糖尿病網膜症の基本的な目の検査
糖尿病網膜症の診断では、まず視力検査・眼圧検査・細隙灯顕微鏡検査(さいげきとうけんびきょうけんさ)といった基本的な検査を行います。これらの検査で目の全体的な状態を確認したうえで、散瞳(さんどう:目薬で瞳を広げること)して行う精密眼底検査が中心となります。眼底検査では、網膜(もうまく)の血管の状態や出血の有無を直接観察でき、小さな出血も発見することが可能です(日本眼科医会)。
糖尿病網膜症の精密検査
基本的な眼底検査に加え、病状に応じて、以下の精密検査が行われます。
蛍光眼底造影検査(けいこうがんていぞうえいけんさ)
腕の血管から特殊な造影剤を注射し、網膜の血管の血液の流れを詳しく調べる検査です。血管のつまりや異常な新しい血管(新生血管)の有無を確認できます(糖尿病網膜症診療ガイドライン2020)。
OCT(光干渉断層計)
近赤外線の光を使って、網膜の断面を画像化する検査です。網膜のむくみ(黄斑浮腫)の有無や程度を正確に評価するために用いられます(糖尿病網膜症診療ガイドライン2020)。
糖尿病網膜症の検査でわかること
これらの検査を組み合わせることで、以下のことがわかります。
- 網膜の出血や白斑(はくはん)の有無
- 血管のつまり具合や新生血管の有無
- 黄斑浮腫(おうはんふしゅ:網膜の中心部のむくみ)の有無と程度
- 糖尿病網膜症の進行度
これらの所見をもとに、治療が必要かどうかや治療方針が判断されます(日本眼科学会)。
糖尿病網膜症の定期検査の頻度と重要性
糖尿病網膜症は初期には自覚症状がほとんどないため、定期的な目の検査が早期発見のカギとなります。少なくとも年1~2回は目の定期検査が推奨されており(日本眼科学会)、網膜症の進行度によっては、より頻繁な検査が必要になることがあります(糖尿病情報センター)。見え方に変化がなくても、定期検査を続けることが大切です。気になる症状がある場合は、早めに医療機関への受診をご検討ください。
参考文献
日本糖尿病眼学会診療ガイドライン委員会. 糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版). 日眼会誌. 2020, 124, p.955−981.
日本眼科学会.“糖尿病網膜症”..https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=49,(参照 2026-07-07).
国立健康危機管理研究機構 糖尿病情報センター.“網膜症”..https://dmic.jihs.go.jp/general/about-dm/060/050/01.html,(参照 2026-07-07).
堀 貞夫.“糖尿病で失明しないために”.日本眼科学会.https://www.gankaikai.or.jp/health/35/index.html,(参照 2026-07-07).
糖尿病網膜症の治療・対処法
糖尿病網膜症への対処法は?
糖尿病治療は必須で、それに加えて、病期に応じて薬物療法、レーザー光凝固術、硝子体手術などの治療が必要となります。早期発見早期治療が肝要ですので、血糖値の高い患者さんは、定期的な眼科の医師の検診が必要です。
減量手術のあとに糖尿病網膜症が悪くなることはありますか?
糖尿病網膜症がすでに進行している場合、悪化する可能性があります。
減量手術は糖尿病網膜症を全体としては抑えると報告されていますが、糖尿病の重症度によって異なります。ここではその点を解説します。
減量手術と網膜症の関係
全体としては抑制されると報告されています。3件のメタ解析では、減量・代謝改善手術は標準的な治療と比較して、糖尿病網膜症の発症や進行を有意に抑制することが報告されています(糖尿病診療ガイドライン2024)。
悪化に注意が必要な場合
悪化に注意する必要もあります。すでに糖尿病網膜症が進行している場合、術後1年以内の早期に悪化する例が多いことが指摘されており、注意が必要とされています(糖尿病診療ガイドライン2024)。
ほかの合併症への影響
- 糖尿病性神経障害: メタ解析で発症を抑制することが示されており、症状が術後に有意に改善することも報告されています。
- 糖尿病性腎症: 尿中アルブミンの有意な減少や、微量アルブミン尿の新規発症リスクの低下(オッズ比0.18)が報告されています。
一方で、糸球体濾過量や血清クレアチニン、末期腎臓病のリスクに対する効果については、統計的な有意性が示されていません
手術の前後で必要なこと
減量手術を検討する段階で、糖尿病網膜症がどこまで進んでいるかを確認しておくことが大切です。術後も定期的な目の検査を続ける必要があります。減量手術を検討している場合や、術後に見え方の変化を感じた場合は、医療機関への受診をご検討ください。
参考文献
日本糖尿病学会 編・著『糖尿病診療ガイドライン2024』南江堂, 2024(第13章 13-4「外科療法は高度肥満症を伴う2型糖尿病への治療に有効か?」)
糖尿病網膜症は治療によって視力回復できますか?
進行すると不可逆的な病気となるので、血糖コントロールと定期的な病院の受診が重要です。
糖尿病網膜症による視力障害はさまざまな原因で起こりえます。主に、白内障、緑内障、黄斑浮腫、硝子体出血、網膜剥離などが原因で視力低下を引き起こします。
白内障の場合
手術によって視力回復ができる可能性があります。
緑内障の場合
点眼治療やレーザー治療が必要になることがあり、眼圧が下がると視力が回復する可能性があります。
黄斑浮腫の場合
新生血管の原因となるVEGF(血管内皮増殖因子)を抑制する注射の治療を行い、視力が回復する可能性や進行を抑制できる可能性があります。
硝子体出血の場合
手術によって出血を取り除くと視力が回復する可能性があります。
網膜剥離の場合
視力・視野障害が残ってしまう場合があります。
糖尿病網膜症の場合、主にどのような治療をしますか?
血糖コントロールが主軸となります。進行すると、レーザー治療、手術が行われることもあります。
糖尿病網膜症の主な治療は、血糖コントロールです。内科での経過観察や内服治療・インスリンを用いた治療を行うことで、発症や進行を予防できます。
しかし、血糖コントロールが良くない場合には、糖尿病網膜症を発症してしまうことがあります。
初期の段階や出血が軽度な場合
基本的には経過観察を行います。
中等症から重症の場合
造影剤を用いた眼底検査を行い、網膜・網膜血管障害の状態を確認します。障害が強い場合には、レーザー治療を行い、硝子体出血や網膜剥離が起こっている場合には、手術加療を行う場合もあります。
また、黄斑浮腫に対する治療は、新生血管の原因となるVEGF(血管内皮増殖因子)を抑制する注射を使用します。
受診の目安・何科を受診するべきか
糖尿病網膜症が疑われる場合、何科を受診したらよいですか?
糖尿病網膜症が疑われる場合は眼科を受診してください。
糖尿病網膜症が疑われる場合には、眼科を受診しましょう。
初期の段階では、自覚症状がない場合が多いです。血糖コントロールが良い場合でも、出血が増えてこないか、血管閉塞が起きていないかなどの定期的な眼底検査はとても重要になります。
糖尿病網膜症の専門医がいる近くの病院はありますか?
糖尿病網膜症の専門医がいる病院を見る糖尿病網膜症の薬
糖尿病網膜症は主にどのような薬で治療しますか?副作用はありますか?
血糖治療が基本で、黄斑浮腫がある場合には、抗VEGF薬やステロイド薬が使われます。眼内炎などの副作用が起こることがあります。
糖尿病網膜症は、糖尿病の合併症のひとつで、血糖値が高い状態が続くことで目の網膜(もうまく)の血管が傷つく病気です。ここでは、治療に使われる主な薬と副作用について解説します。
糖尿病網膜症の治療の基本
糖尿病網膜症の治療で最も大切なのは、血糖コントロールです。血糖値が高い状態が長く続くほど網膜症が進みやすくなるため、糖尿病の治療薬(飲み薬やインスリン注射など)で血糖値を適切に管理することが基本とされています(糖尿病網膜症診療ガイドライン)。ただし、急激に血糖値を下げると一時的に網膜症が悪化する可能性が指摘されており、医師の指導のもとで段階的に改善していくことが大切です(国立国際医療研究センター)。
糖尿病網膜症に使われる抗VEGF薬とは
糖尿病網膜症が進行し、糖尿病黄斑浮腫(おうはんふしゅ:網膜の中心部にむくみが生じた状態)がみられる場合には、抗VEGF薬(こうブイイージーエフやく)の硝子体内注射(しょうしたいないちゅうしゃ:目の中に薬を注入する治療)が行われることがあります。VEGF(血管内皮増殖因子)とは血管の異常な成長やむくみを引き起こす物質で、この薬はその働きを抑えます(日本眼科学会)。効果は一時的で、繰り返しの投与が必要になることがあります(国立国際医療研究センター)。
糖尿病網膜症の治療薬の副作用
治療薬に関連する主な副作用には、以下のものが報告されています。
- 抗VEGF薬:結膜下出血や眼圧上昇、眼痛などがあります。また、極めてまれですが、眼内炎(がんないえん:目の中に感染が起こる状態)が報告されており、重い視力低下を引き起こす可能性があります(日本眼科学会)
- ステロイド薬:糖尿病黄斑浮腫に対して使用されることがありますが、緑内障(りょくないしょう:眼圧が上がり視神経が傷つく病気)を発症するリスクが指摘されています(日本眼科医会)
糖尿病網膜症のレーザー治療・手術
薬物治療のほかに、網膜の異常な血管の進行を抑えるレーザー治療(網膜光凝固)や、重症の場合に行われる硝子体手術があります。レーザー治療は糖尿病網膜症による失明を防ぐうえで大きな役割を果たしてきた治療法です(日本眼科医会)。糖尿病と診断された方は、自覚症状がなくても網膜症が進行している場合があるため、定期的な眼科検査について医療機関への受診をご検討ください。
参考文献
日本糖尿病眼学会診療ガイドライン委員会. 糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版). 日眼会誌. 2020;124:955-981.
国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター『網膜症』https://dmic.jihs.go.jp/general/about-dm/060/050/01.html.(参照 2026-10-17).
公益社団法人日本眼科医会『糖尿病網膜症による視力低下―予防と治療―』https://www.gankaikai.or.jp/health/60/index.html.(参照 2026-10-17).
公益財団法人日本眼科学会『抗VEGF治療』https://www.nichigan.or.jp/public/disease/treatment/item03.html.(参照 2026-10-17).
糖尿病網膜症でレーザー治療では、術後の注意点や副作用はありますか?
糖尿病網膜症のレーザー治療(光凝固術)では、術後に視力低下や黄斑浮腫(おうはんふしゅ)、痛みなどの副作用が起こることがあり、治療後の定期的な経過観察が大切です。
糖尿病網膜症のレーザー治療は、網膜光凝固術(もうまくひかりぎょうこじゅつ)と呼ばれ、進行した網膜症の悪化を防ぐために行われます。治療にはいくつかの副作用があり、術後の注意点を知っておくことが大切です。
糖尿病網膜症のレーザー治療(光凝固術)とは
光凝固術は、酸素不足になった網膜にレーザーを照射し、VEGF(血管内皮増殖因子)という物質の産生を抑えることで、異常な血管の発生を防ぐ治療です(日本眼科医会『糖尿病網膜症による視力低下―予防と治療―』)。
網膜症の進行を食い止めることが目的であり、視力を元の状態に戻す治療ではありません(日本眼科学会『糖尿病網膜症』)。
広範囲に照射する汎網膜光凝固術(はんもうまくひかりぎょうこじゅつ)では、何百から何千発ものレーザーを照射することがあります(日本眼科学会『眼科領域のレーザー治療』)。
糖尿病網膜症のレーザー治療の副作用
レーザー治療後には、以下のような副作用が起こることがあります。
- 視力の変化:多くの場合、治療後の視力は不変かむしろ低下するとされています(日本眼科学会『糖尿病網膜症』)
- 黄斑浮腫:光凝固後に黄斑浮腫(網膜の中心部分がむくむ状態)が出現したり、悪化したりする可能性があります。黄斑浮腫のリスクが高い場合は、照射数を減らしたり、浮腫の治療を先に行ったりすることもあります(糖尿病網膜症診療ガイドライン2020)
- 痛み:汎網膜光凝固術では照射数が多いため、治療中に鈍い痛みを感じることがあります(日本眼科学会『眼科領域のレーザー治療』)
糖尿病網膜症のレーザー治療後の注意点
治療の効果は数か月かけて眼底所見で判定されるため、術後も定期的な通院と経過観察が必要です(糖尿病網膜症診療ガイドライン2020)。治療を途中で中断すると失明のリスクが高まるとされており、医師の指示に従って治療を最後まで続けることが重要です(日本眼科医会『糖尿病網膜症による視力低下―予防と治療―』)。
治療後に見え方に変化を感じたときや、症状が気になるときは、早めに医療機関への受診をご検討ください。
参考文献
日本糖尿病眼学会診療ガイドライン委員会. 糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版). 日眼会誌. 2020, 124, p.955−981.
日本眼科学会.“眼科領域のレーザー治療”..https://www.nichigan.or.jp/public/disease/treatment/item06.html,(参照 2026-07-07).
日本眼科学会.“糖尿病網膜症”..https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=49,(参照 2026-07-07).
村田敏規.“糖尿病網膜症による視力低下―予防と治療―”.日本眼科学会.https://www.gankaikai.or.jp/health/60/index.html,(参照 2026-07-07).
対処法・セルフケア
糖尿病網膜症の場合、日常生活で気を付けることはありますか?
糖尿病網膜症の場合は、食生活を気にかけ、適切な運動を心がけましょう。
糖尿病網膜症の方の日常生活では、食生活や規則正しい生活、処方されている内服薬の適切な使用を心がけましょう。特に、甘いものや炭水化物の摂りすぎは、血糖値を上げてしまう可能性があります。清涼飲料水の量にも気をつけましょう。
また、ウォーキングやジョギング程度の適度な運動も行いましょう。
糖尿病網膜症で薬が効かない場合、どうしたらよいですか?
レーザー治療や手術治療を行うことがあります。まずは主治医の先生にご相談ください。
糖尿病網膜症は、発症させない、進行させないことがとても重要になります。
出血が多い場合や網膜の障害が強い場合には、レーザー治療を行うことがあります。黄斑浮腫に対する治療は、新生血管の原因となるVEGF(血管内皮増殖因子)を抑制する注射の治療を行います。重症の場合には、手術を行うこともあります。
糖尿病網膜症に関連するその他の質問
糖尿病網膜症の失明率はどのくらいですか?
糖尿病網膜症の「失明率」を示す明確なデータはありませんが、日本の失明原因の第3位であり、早期発見と治療で失明リスクを下げられるとされています。
糖尿病網膜症の「失明率」が一概に示せない理由
「糖尿病網膜症になったら何%の人が失明する」という単一の失明率は、現在の医学データでは示されていません。実際に失明に至るかどうかは、病気の進行段階や治療の有無、血糖コントロールの状態などによって大きく異なります(糖尿病網膜症診療ガイドライン)。ただし、糖尿病網膜症が日本の失明原因のなかで、大きな割合を占めていることは明らかになっており、問題視されています。
日本の失明原因における糖尿病網膜症の位置づけ
2019年度の全国調査では、新たに目の障害があると認定された方のうち、糖尿病網膜症が原因だった方は約10.2%で、第3位でした(Matoba Rほか, Jpn J Ophthalmol. 2023)。かつては第1位でしたが、レーザー治療の普及などにより順位は下がってきました(日本眼科医会)。それでも、大人になってから目が見えなくなる原因として、依然として主要なもののひとつです。
糖尿病網膜症が進むと失明につながる仕組み
糖尿病網膜症は進行の程度によって3つの段階に分けられます(糖尿病網膜症診療ガイドライン)。初期の「単純糖尿病網膜症」では目の奥にある網膜の細い血管にこぶや小さな出血がみられますが、見え方に変化はほとんどありません。次の「前増殖糖尿病網膜症」では血管の詰まりが広がり、見えにくさを感じ始めることがあります。最も進んだ「増殖糖尿病網膜症」の段階では、血液の不足を補おうと脆弱な新しい血管が異常に伸びてきます。この血管が原因となり、以下のような合併症が起こることがあります(日本眼科学会)。
- 目の中の出血: 脆弱な血管が破れて目の中に血が広がり、急にものが見えにくくなることがあります
- 網膜がはがれる: 新しい血管の周りにできた膜が、ものを見るための膜(網膜)を引っ張ってはがしてしまうことがあります
- 目の圧力が上がる: 新しい血管が目の中の水の流れを妨げ、目の圧力が上がって視神経が傷つくことがあります
- 視力が落ちる: 黄斑とよばれる視力を保つ部分が障害されてしまうことがあります
糖尿病網膜症による失明を防ぐために
糖尿病網膜症は初期には自覚症状がほとんどないため、定期的な眼底検査(目の奥を調べる検査)で早く見つけることが大切です。糖尿病診療ガイドライン2024では、網膜症がなく血糖値が安定している場合でも年1回以上の眼底検査がすすめられています。見え方に変化を感じたときは、早めに医療機関への受診をご検討ください。
参考文献
日本糖尿病眼学会診療ガイドライン委員会. 糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版). 日眼会誌. 2020;124(12):955-981.
日本糖尿病学会 編. 糖尿病診療ガイドライン2024 第8章 糖尿病網膜症. 南江堂, 2024.
Matoba R, Morimoto N, Kawasaki R, et al. A nationwide survey of newly certified visually impaired individuals in Japan for the fiscal year 2019: impact of the revision of criteria for visual impairment certification. Jpn J Ophthalmol. 2023;67:346-352.
日本眼科医会. 糖尿病網膜症による視力低下―予防と治療―. 目についての健康情報. https://www.gankaikai.or.jp/health/60/index.html.(参照 2026-09-17).
日本眼科学会. 糖尿病網膜症. 目の病気. https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=49.(参照 2026-09-17).
糖尿病網膜症について、医師からのよくある質問
医師からよくある質問はありますか?
「糖尿病網膜症」について医師からよくある質問の例として次のようなものがあります。
- これまでに糖尿病(女性の場合は妊娠糖尿病も含みます)を治療したことがありますか?
- 最近目が見えにくくなったと感じますか?
- 前と比べ現在、視界の一部が見えなくなったと感じますか?
糖尿病網膜症に関連する病気・症状
この記事の監修医師
山口 知暁 先生
東北大学病院 眼科
【経歴】 金沢桜丘高校卒業 金沢医科大学卒業 東北大学卒後研修センター 臨床研修 東北大学病院 眼科
- 更新日
- 2026/10/27
- 公開日
- 2021/08/12